第3話 氷の魔女
初日の授業が終わると、ボクは数人の男子から呼びだしを受けた。
日本にいた時は、親の職業からか、こんなこと無かったんだけどね。
しかし、シローさんは凄い。前もって、こういうことがあるはずだからとアドバイスしてくれてたんだ。さすが、ボクのヒーローだ。
呼びだされた場所は、実技棟の裏だった。
地球と違って部活動が無いせいか、そこまで行く途中、運動場には誰もいなかった。
ヒゲの男性と、その後ろに同級生の男子が三人いた。全員ボクより年上のようだ。
ヒゲの人が、さっそく話しかけてきた。
「おい、おめえ、ショータってったか。生意気なんだよ」
頭二つ分くらい大きな彼が、ボクを見おろす。
でも、ボクは全く怖くなかったよ。地球にいたとき、もっと怖い思いをしたことがあるからね。
それに、こんなヤツには負けるられない理由があるんだ。
「あなた誰ですか?」
「なんだとっ! 知らねえのか? ペータさんだぞ!」
取りまきの一人が声を荒げたけど、ボクは思わず吹きだしそうになった。
だって、ヒゲの人の名前が、昔のアニメに出てくる、「ヤギの大将」に似てたから。
その上、この人のヒゲもいわゆるヤギヒゲだし。
ヒゲは怖がらないボクが気に入らなかったのか、太い腕でボクの胸を突こうとした。
それに合わせて、こちらは風魔術を発動する。
普通の人は詠唱しないと魔術が使えないみたいだけど、ボクには関係ないみたい。
一瞬で、ボクの周りに緑のマナ、風のマナが集まってくる。
ボクを突きとばそうとする男の腕とボクの間に、見えない風の壁ができた。
ヒゲが突きだした腕が、横にそれる。
「な、なんだ?」
ヒゲの人は、自分が突きだした手が意外な方向へそれて戸惑っている。
彼は、もう一度ボクを押そうとした。また、手がそれる。
「ど、どうなってんだ!?」
ボクは、自分の前に立っている四人のクラスメートの足元を、風の塊で軽く薙ぎはらった。
「痛いっ!」
「ぐっ!」
「がっ!」
全員の足が宙に浮き、見事に転んだ。
背中から地面に落ちた人もいた。うわっ、痛そう。
「お話が無いならもう帰りますね」
地面に這いつくばっている四人をほうっておいて、ボクは家路についた。
◇
次の日、ルイと一緒に学院に行くと、校門の所に昨日の四人が立っていた。
なぜか、四人とも、体のあちこちに包帯を巻いている。
あれ? おかしいな。昨日の風魔術で、そこまでひどいけがをしたはずないんだけどなあ。
「「「ショータ様、
四人が、腰を直角に曲げてお辞儀をしてる。なんなんだろう、これは?
「ルイさん、この人たち、どうしちゃったの?」
「さあ、いったいどうしたのかしら」
ルイは、四人がまるでそこにいないかのように、さっさと校舎に向かう。
気に掛かったけど、ボクもその後を追った。
ルイは、昨日のように教室の入口までついて来た。
ボクがドアを開けると、教室の中にいたポニーテールのジーナ、眼鏡のドロシー、お姉さんキャラのララーナさんが、ビクッとこちらを見た。
ルイさんを見ると、ボクの後ろで微笑んでいる。どこかで見たような笑顔だね。
ああ、そうか。お姉ちゃんが怒ったときにする笑顔に似てるんだ。
昨日、ボクにやたら話しかけてきた三人は、なぜか座ったままで俯いている。
「ショータ様、ではまたお帰りの時に」
ルイさんは、さっきまでとは違う、優しい笑顔を見せると教室から出ていった。
ボクの隣に座っている男の子が話しかけてくる。
「ショータ、君って凄いね」
「どうして?」
「ルイさんは、『氷の魔女』って呼ばれていて、下級生はもちろん上級生でも気安く近寄れないんだよ」
「なんで?」
「彼女は、水魔術が得意なんだ。特に氷を使った攻撃魔術がね」
「ふうん、そうなの?」
ボクは、そのうちルイから水魔術の温度変化について習おうかな、なんて考えていた。
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