第41話 2月6日 都知事選、着床前診断、鐘留の母親

 翌2月6日の日曜午前6時、鮎美は議員宿舎で起床した。前の晩に東京駅で買っておいた味噌ヒレカツ弁当を朝食として電子レンジで温めてから一人で食べる。

「できればトイレも済ませておきたいねんけど……」

 今日丸一日、都知事選の応援なので、大便は済ませておきたい。田舎と違い、都内のコンビニには駐車場がないことが多い。途中でトイレに行きたくなるとSPを連れて歩く鮎美は目立つので、今のうちに室内のトイレに入った。

「……やった。出た」

 思い通りに一人で済ませることができる幸せを噛みしめつつ、身支度を調える。制服を着て髪をとき、普段より少し濃い目にメイクした。

「2月とはいえ、丸一日外やと紫外線けっこう浴びるやろなぁ…」

 淋しいので一人言を漏らしながら準備を終えた頃、鷹姫が来てくれたので二人で廊下に出た。いつも通りSPがついてくれる。

「やっぱり日曜の議員宿舎って静かやなぁ」

「そうですね。多くの先生方は地元へ帰っておられるのでしょう」

 人気の少ない議員宿舎を発ち、畑母神の出陣式に参加するため、中野区にある選挙事務所まで車で移動した。選挙事務所は畑母神の支持者で高齢のために会社を閉めた男性の社屋跡が安価で提供されていた。

「さすが都内、狭いなぁ」

「土地の価格が違いますから」

「新宿とか札束を踏んで歩いてるようなもんかもしれんね」

「選挙資金の上限を考えれば、これでも広い方なのかもしれません」

 社屋跡は古いビルと倉庫があり、駐車スペースは2台分しかない。車で来た支持者はそれぞれに別の場所にあるコインパーキングなどを利用していたし、応援弁士である鮎美にさえ駐車場所の提供はない。鮎美たちの地元では市議レベルの選挙でさえ30台ほど駐車スペースのある廃コンビニ跡などを使うのとは、かなり差があった。それでも、社屋前に駐められている選挙カーは立派で、レンタルされている中では最上グレードの大きさをした屋根の上にステージがあるタイプのもので、鮎美も県知事選で登壇したことがある。

「あれに登るとき、気をつけんとパンチラになるんよなぁ」

「お守りします」

「おおきに。けど、今回はええよ。もし撮影して出版するようなアホが、まだおるんやったら、しっかり訴えるし」

 鮎美と鷹姫は事務所に近づくと、多くの支持者や応援弁士の中に朝槍(あさやり)と詩織を見つけた。出陣式は集まる人数が多い方が勢いを見せられるので可能な限り動員されているし、都議である朝槍の存在は大きい。

「朝槍先生、詩織はん、おはようございます」

「「おはようございます」」

 朝槍も詩織も選挙応援に相応しい華美すぎないスーツとヒールの低いパンプス姿で、白と赤で彩られた安っぽいジャンパーを着ている。周りには白と赤の旗が無数に立っているので、それが畑母神の選挙カラーなのだとわかる。

「畑母神先生らしい日の丸と同じ色やね。うちらも着た方がええ?」

「鮎美先生と宮本さんは制服のままの方が可愛いですよ」

「そういう問題やなくて」

「応援という意味でも、芹沢鮎美が畑母神先生を応援しているのは、もう宣伝しなくていいほど広まった事実ですから。それに制服のままの方が目立ちますし宣伝になりますから、そのままにしてください」

「やっぱりそうやんね。地元でも、そうやったわ」

「鮎美先生、コート無しで寒さ対策は大丈夫ですか?」

「ばっちりよ」

 鮎美は制服の内側を見せた。しっかりと張るカイロが何個も装備されていて、スカートの内側にまで貼ってあるので寒くない。ショーツも厚手を2枚重ねて着ているし、万が一トイレに行くタイミングを得られず演説中に失禁などしたら恥ずかしいので大きなナプキンをあててもいる。靴の中にも小さな靴用カイロを貼っているので大声で演説すれば汗ばむくらいだった。

「東京は、うちらの地元より、ちょっと温かいね」

「そうで…」

 朝槍の言葉は途中で声をかけてきた水田に遮られる。

「おはようございます。今日は畑母神の応援に来ていただき、ありがとうございます」

「あ、水田先生、どうも、おはようございます」

 鮎美が挨拶し、朝槍たちも挨拶したけれど、水田は鮎美と朝槍を見比べて言う。

「やっぱりコスプレと本物では違いますね。フフ」

「っ…」

 朝槍が恥ずかしそうに顔を伏せた。鮎美は疑問に思っていたことを問う。

「朝槍先生が、うちのコスプレしてはるってホンマですか?」

「……は……はい……ごめんなさい…」

「別に謝ってくれんでもええですよ。なんか流行ってるみたいやし」

「実はナユが第一号だったりするかもしれませんよ」

「っ…シオリン、やめて」

「うちの真似は、うちが当選した直後から学園では流行ってたよ。まあ、同じ制服やから髪型が流行っただけやけど」

 くだらないことを女性たちが話していると、百色(ひゃくしき)が声をかけてきた。

「おはようございやす、芹沢組長」

「……。えっと、どこかで顔を…」

 鮎美が記憶を巡らせていると、鷹姫が教える。

「百色正春さんです。海上保安官だった」

「あ、ああ、あの。どうも、おはようございます」

 鮎美が右手を出すと、熊のように大きな手が包んできた。それを機に遠慮していた男性たちが鮎美へ握手を求めてくる。支持者には元自衛官が多く、在任中は禁止されていた選挙活動への参加が堂々とできるので嬉しそうだった。鮎美との握手と記念撮影が一巡した頃、石永が駅から走ってきた。

「ハァ…ハァ…間に合ったか」

 鮎美と違い、遅刻しても大きな問題はないので始発で地元から駆けつけている。そして、ちょうど立候補の届出が終わり、畑母神の選挙ポスターを貼る位置が決まったと連絡が入り、選挙対策委員長が発表する。

「一番です! 一番!!」

「「「「「おおおっ!」」」」」

 別にポスターの位置が1番になったからといって当選したわけではないのに、とりあえず場が盛り上がった。

「いいぞ!」

「勝利まちがいなし!」

「見敵必殺!」

「閣下万歳!」

「……。えいえいおー!」

 関西と関東で文化が違うかもしれないと一瞬迷ったけれど、鮎美が叫ぶと、鷹姫ものる。

「会会、応!!」

 女子高生2人の意外にも勇ましい掛け声に周囲ものった。

「「「「「えいえいおお!!」」」」」

 元自衛官が多く、元海上保安官や警察OBもいるので野太い声が朝の東京に響き渡った。すぐに届出を済ませた畑母神が戻ってきて演説を始める。あまり長い演説ではなく短く簡潔なものだったので、鮎美の応援演説も考えていた3分の1に絞り、続いた最年長議員である村井の応援演説も短い。

「畑母神先生の勝利へ、みな一丸となって戦おう。戦闘開始」

 元海軍の潜水艦艦長が90代とは思えない気迫のある声で告げると、畑母神は大先輩へ敬礼して、すぐに選挙カーで出発する。ウグイス嬢が連呼を始め、他の運動員や支持者たちはポスターをもって都内の掲示板に貼って回る。

「関西と関東で、そんなに変わらんですね。選挙戦の雰囲気」

「そうなのかね。私は関西の選挙を、さほど知らないから」

「うちは関東の選挙、初めてです」

 選挙カーの中から手を振る合間に、少し畑母神と会話した。けれど、会話している時間は少なく、ほとんどは街路にいる都民へ手を振っていた。鮎美が選挙カーに乗っていると気づいた都民は地元での反応と同じに喜んで写真を撮っていてくれたりする。

「鮎美ちゃーん! こっち向いてぇ!!」

 できるだけ要望に応えるようにしながら笑顔を振りまいていく。

「はぁ……田舎と違って人が多いですね。休憩が少ないわ…」

 歩道に人がいないということは、ほぼ無い都内と、市街地と市街地の間は田んぼという地元では選挙カーの中で気を抜けるタイミングの量に差があり疲れる。トラックとトラックに挟まれて信号待ちするといった状況くらいしか、休憩が無かった。

「芹沢さんが参戦してくれたおかげもあって都民の反応は上々だよ」

「お役に立ててればええですけど」

「十分だよ。総選挙のときとは雲泥の差だ。君の人気はすごい!」

「……。それが票につながればええですね」

 鮎美は県知事選を応援したときのことを思い出した。人気はあった。女子高生議員ということで、かなり反応は良かった。けれど、結局は御蘇松は夏子に負けた。女性、男性ということより、何の経験もない18歳が応援する高齢男性と、女性であっても知識と経験を蓄えた30代の差という気がする。

「うちは…」

 鮎美は言いかけたことをやめた。今は負けた場合のことや、負けるかもしれない可能性についての思考はしたくないし、口にするのも避けたい。鮎美はウグイス嬢の肩を叩いてマイクのスイッチを切り替えた。

「おはようございます! 畑母神です! 東京都知事には畑母神を、よろしくお願いします! 日本を守る、それができる男です!」

「……ありがとう、芹沢先生……」

 畑母神も窓から身を乗り出して街路へ手を振った。それから予定した各所での演説を終え14時になって昼食休憩となる。選挙事務所に戻ると、鮎美とウグイス嬢はまっすぐにトイレへ入った。便座に腰かけ、ずっと我慢していた尿意を解放すると吐息が漏れた。

「「はぁ……」」

 なるべく水分を摂らないようにしつつも、喉を潤す必要もありチビチビとお茶を飲んでいたし寒かったので大量に出た。古いビルのトイレは男女共用で扉が薄い。外にいる男性SPに音を聴かれているかと思うと恥ずかしかったけれど諦めた。トイレを出て30分間の昼食時間を15分で食べて、10分だけでも仮眠したかったけれど、事務所には多くの支持者が集まっていて彼らとの握手や記念撮影があり、ろくに食べることもできなかった。鷹姫が心配してくる。

「芹沢先生、お食事を十分に摂ってください」

「大丈夫よ、どうせ時間ない思て、朝から味噌ヒレカツ食べてきたし」

 鮎美が駅弁を買うのは鷹姫もいっしょだったので知っている。鷹姫も同じ物を買ったけれど、昨夜のうちにビジネスホテルで食べていたし、朝食はビジネスホテルの食べ放題だった。議員宿舎は食事が出るわけではないので朝食会が無い場合などは、ビジネスホテルに泊まる鷹姫の方が待遇が良くて申し訳なく思っている。

「鷹姫は、お昼、ちゃんと食べた?」

「はい、すいません。12時に、ここでいただきました」

 申し訳なさそうにする鷹姫の頭を撫でた。

「ほな、うちは、もう行くわ。うちが食べ残したお弁当、悪いけど、もったいないし食べておいて」

「はい。せめて、これをお持ちください」

 鷹姫は栄養ゼリーとオニギリを持たせてくれた。鮎美は礼を言って選挙カーに向かったけれど途中で踵を返し、トイレに入っておく。ほんの30分前に済ませたけれど、念のために行くと、それなりに出た。

「よしっ、午後からもガンバロー」

 選挙カーに乗ると、畑母神が申し訳なさそうに言ってくる。

「丸一日使って手弁当で、すまない」

「いえ、お弁当なら、いただきましたよ。うちも鷹姫も」

 鮎美は意味がわかっていて冗談を言い、笑った。選挙の応援をすればクジ引き議員は5万円が党から支給されるというのは、所属政党からだけで、畑母神が代表をしている日本一心党には鮎美は所属していないし、現在は国会に占める議席がゼロなので政党要件も満たさず、鮎美へ一日5万円を渡すと公選法違反になる可能性が高かった。一日なら5万円でも一週間となれば35万円になり、それなりの大金になる。明日からも国会が終わって17時から応援する予定だったけれど、鮎美には1円の実入りもない。それを詫びる畑母神へ、鮎美は冗談で返していた。

「…ははは…、では、せいぜい、美味い弁当を取ることにするよ」

「それより、やっぱり畑母神先生と、そのまんま南…もとい、南国原(みなみこくばる)先生の一騎打ちになりそうですね」

「ああ、そうだな」

 都知事選には15人が立候補しているけれど、有力候補は2人だけだった。鮎美はポスターが貼られた掲示板を見る。午前中のうちに都内すべての掲示板に貼ることができたのは畑母神と南国原、そして供産党の候補と自眠党の候補だけだった。

「自眠は今回も愛知県での選挙みたいに分裂やし」

「うむ」

 もともと自眠党は都知事選に現職の続投で望む姿勢だったものの、本人が高齢のために辞意を示し、慌てて柔道オリンピックメダリストで国会議員経験があるも落選中だった女性議員を擁立しようとしていたけれど、本人が直前に辞退し、急遽、栃木県知事選に落選した直後の元財務省職員を出しているものの、まるで人気が無く、とうの自眠党の都議でさえ3分の1が畑母神の出陣式に来てくれている。眠主党は南国原を公認候補として応援していた。

「南国原先生も、総理大臣にしてくれるなら眠主党に入る、とか言うたてマスコミに書かれて人気を落とさはったし、うちも気をつけよ」

 眠主党との水面下での交渉中に、宮崎県知事にすぎない立場で総理大臣ならと言ったと不正確な報道をされ人気を落としているものの、最近では鮎美を総理大臣にというテレビ番組での話題もあり、そのダメージは消えつつあった。

「にしても、ミック赤崎とか、明智光秀、ミスター独松って、なんなんやろ……唯一神かつおイエス・キリストとか意味不明なんやけど……これ、キリスト教やから、ギリで殺されへんけど、アラーとか、ムハンマドの生まれ変わり言い出したら、殺されるで。……でも、学歴すごい人もいるなぁ…」

 鮎美は泡沫候補のポスターを見た。すべての掲示板には貼りきれていない候補が多い。

「明智光秀の公約が、当選3日で辞任するから三日天下とか、選挙制度で遊んでるとしか、思えんわ」

「どんな時代にも、たわけはいるのだろう」

 そう言った畑母神が沿道に向かって手を振るので、鮎美も選挙活動を再開した。そうして最初の日曜日の夕方を迎えると、早くもライバルである南国原の選挙カーと秋葉原のスクランブル交差点で遭遇した。もともと東京都は広くない上、日曜日に人が集まる場所というのは限られていて、街頭演説をする時間がかぶることは、よくあった。すでに南国原は演説を終えつつあり、畑母神に場所をゆずってもよいタイミングだったけれど、押されて逃げるようにも見えるので、舌戦を挑んで来た。

「今ね、美味しそうな霜降り牛肉みたいな旗が、いっぱい押し寄せてきましたね」

 畑母神のカラーは赤と白で日の丸をイメージしているけれど、国旗をそのまま使うわけにはいかないので向かって左半分が赤、右半分が白という二色長方形で構成されている。横縞模様にすると米国旗を連想させるので縦にしていた。その色合いが林立すると、霜降り牛肉に見えなくもないことを南国原が言ってくると、畑母神はムッとした。

「無礼なことを…」

 選挙カーの天井に登っている畑母神が何か言い返そうとしたけれど、やや不穏当なことを言いそうだったので鮎美が先にマイクを取った。

「美味しそうなんは、そっちのオレンジやと思いますよ」

「お、芹沢さん、いや、芹沢先生か。うん、そうだね。霜降りといえば、宮崎牛。柑橘類も宮崎が美味しいよ。ステーキにヘベスポン酢を絞れば最高だ。少々、柑橘類の味が肉に勝ってしまうけどね」

 南国原は自陣のオレンジ色の選挙カラーについて鮎美がいじってくると、うまく切り返してきた。鮎美も負けない。

「宮崎牛なんてあるんですか、知りませんでした。勉強になりましたわ。うちは琵琶牛くらいしか知らんし。まだまだ不勉強で、せいぜい日本三大和牛の松阪、神戸、琵琶牛くらいしか覚えておりませんので」

「…。宮崎牛も美味しいよ、ぜひ、こっちに来て食べて」

 暗に鮎美がブランド牛としては地元が優位だと言うと、南国原も暗に鮎美を眠主党へ勧誘してきた。鮎美が言い返す。

「こっちの水は甘いよ、もええけど、ここは東京やし、そんなに宮崎県に未練が残ってはるなら、帰ってニワトリの世話でもしはったら、どうです。あっちは、まだ鳥インフルエンザで大変らしいですやん」

「言うね。さすがだね。けど、女の子の影に隠れてる幕僚長殿ってのは、どうかな?」

「女を引きよせるんも、男の甲斐性やん。同性愛者のうちでも畑母神先生には惚れ惚れするような尊敬を感じますわ。男を好きになれるんやったら、三人目の奥さんにして欲しいほど。悔しかったら、うちより可愛い子、連れてきてみ」

 そう言いながら鮎美は畑母神と腕をからめ、マイクを渡した。

「ゴホン…」

 畑母神は咳払いした。鮎美はゆっくりと腕をからめるのをやめる。

「口達者な二人の後にマイクを握ると、正直、何を言うべきかと考えてしまうが、私は冗談などより、東京都の現状、そして日本の現状を有権者のみなさまに再認識していただきたい。歌舞伎町で起こる外国人犯罪、小笠原諸島での外国漁船による珊瑚礁の乱獲、そして東京都ではないが尖閣諸島での事件も、みなさまの記憶に新しいことだと…」

 鮎美と南国原の調子の軽い舌戦を聴いているうちにムッとしていた畑母神は冷静になっていて、持論を述べる演説を始めた。おかげで南国原は対抗する糸口が見つからず、もう演説を終えていたこともあり、移動していく。単純な交代劇ではあったけれど、見ていた聴衆には畑母神陣営が勝ったような印象が残った。それから日が暮れてからも夜20時の拡声器使用が可能な時間いっぱいまで交差点や駅前を巡り、拡声器が使えなくなると、鮎美はその場に集まっていた聴衆との握手を始めたけれど、途中でかなり後悔した。

「おおきに、ありがとうございます! 畑母神をよろしくお願いします!」

 なんちゅー人数が多いねん……まだ、いるやん……何千人? もしかして万とかいるんやろか、と鮎美は握手を求めてくる人の多さに戸惑っていた。地元でも選挙カーの周りに集まってくれた人と握手を交わすことは多かったけれど、せいぜい数百人、多くても千人程度だったのに、東京の人の多さは想像以上だった。しかも朝に装着した貼るカイロの効力が落ちてきて寒い。さらに、弱小政党でしかない日本一心党のスタッフは大規模選挙に慣れておらず、握手を求めてくる人の行列を締め切る、といった対応をしてくれないので延々と2時間近くも寒空の下で握手を繰り返した。ようやく選挙カーに戻れた鮎美は、ぐったりと座席にもたれた。

「……静江はんらの影でのサポートあってのことやったんや……」

 選挙に慣れた静江たち自眠党スタッフの助力が無いことは、細々としたところで大きな差が出てくる。せめて、そばに鷹姫を置きたいのにSPを乗せる都合や、畑母神の側近の都合もあり、また長い車列を組むと渋滞しやすい都内で不評を買うので同行させられない。ずっと鷹姫は選挙事務所で来訪者の接遇をしている。

「お疲れ様、どうぞ」

 畑母神の秘書がお茶のペットボトルをくれるけれど、一口だけ飲んで置いた。結局、お昼休憩から一度もトイレに行けていない。夕食も摂れていない。空腹と尿意を耐えながら選挙事務所に戻った鮎美は、まっすぐにトイレへ向かったけれど、残酷にも二つある個室が二つとも先客で塞がっていて、横にある男子用小便器で用を足している男たちが恨めしかった。

「……ぅ~……すんません、まだですか?」

 つらすぎて鮎美は個室をノックした。個室の中から返事がある。

「その声は芹沢先生ですか?」

「あ、鷹姫なん?」

「はい。すぐ出ます、お待ちください」

 鷹姫が着衣を直している衣擦れの音がする。

「…ハァ……もう限界やわ…」

「お待たせしました。っ?!」

 鷹姫は戸を開けて鮎美と交代しようとしたけれど、開けた瞬間に鮎美は切迫した顔で個室へ押し入り、鷹姫を押し戻す形で戸を閉めた。

「…ハァ……ハァ!」

「っ……また、そうやって人が変わったように……私へ性的なことはしないと…」

 鷹姫は両肩を握って押し戻され、個室内で二人きりにされたので何かされるのだと勘違いした。鮎美についているSPは男性だったので個室前で待機していて何も言ってこない。鷹姫の両肩を握っている鮎美は息を荒げていて、目はうつろだった。

「……嫌です……私へ何をする気ですか?」

「…ハァ………ハァ…ぅ~……」

「………」

 シュゥゥ…パシャパシャ…

「…鮎美……まさか、漏らして……」

 鷹姫は足元から昇ってきた湯気と匂いで鮎美が漏らしてしまったことに気づいた。お昼から寒い中、ずっと我慢した小水は今までにないくらい大量でナプキンをあてていたことが逆にわざわいして防波堤のように流れを塞いでしまい、真下へ漏らせば下着は濡らしてもスカートは濡れなかったのに、立ったまま失禁してもナプキンの中にダムのように溜まり、溜まりきって股間の前後左右から勢いよく溢れてしまい、スカートの前後まで濡れていく。靴や靴下も濡れた。

「………ハァ………また、漏らして……しもた……」

「っ…も…申し訳ありません……私のせいで……私が、もたもたして…」

 謝る鷹姫は涙を流した。

「…私のせいで……なのに、疑ったりして……」

 自分のせいで鮎美が間に合わなかっただけでなく、変に疑ったことが申し訳なくて、この場に土下座したいほどだった。

「……う~寒っ……冷えてくると、余計寒いわ」

 鮎美は後ろ手で個室の鍵を閉め、下着をおろす。ナプキンが薄黄色に染まり膨らんでいた。

「すいません、申し訳ありません、ぅぅっ…」

「なんで鷹姫が泣いてんのよ?」

「だって……私のせいで……。鮎美は泣かないのですか?」

「幼稚園児やあるまし、おもらしの度に泣いてられんよ」

「…ぐすっ…傷の具合は、まだ悪いのですか? 隠していたのですか?」

「ううん。傷は治ってるよ。っていうか、昼の2時から、ずっと我慢させられたら、そら漏らすよ。今までの選挙では静江はんらが、それとなくタイミングをつくってくれたし、コンビニにも広い駐車場があったのに、東京ってホンマにトイレ一つ不自由するから、驚くわ」

「……すいません……役立たずのうえに、邪魔までしてしまい…ぅぅっ…」

「そういう意味で言うたんちゃうよ。けど、濡らしてしもた服、どうしよ。このままでは外に出られんし……」

「………。私の服をお使いください」

 意を決して、鷹姫はスカートと下着を脱ぐ。

「え……そやけど……鷹姫は、どうするん?」

「濡れた物を貸してください」

「………鷹姫が漏らしたみたいに見えるよ? ええの?」

「鮎美は常に周囲から注目されています。私は影に隠れていれば、そう目立ちませんし、もうビジネスホテルへ帰るだけです。ここから走って帰ります」

「………距離的には5キロくらい………風邪ひかん?」

「走れば身体も温まりますし、途中で乾くと思います」

「……………う~ん………けど、鷹姫、こういうの人一倍、恥ずかしがるやん。ホンマに大丈夫?」

「…私の責任ですから」

「…………どうしよ…」

「寒いです。早く交換してください」

 下半身裸の鷹姫が自分のスカートと下着を押しつけてくれる。

「……おおきに、ありがとうな」

 鮎美も濡れたスカートと下着を脱ぎ、鷹姫へ渡す前にナプキンを剥がして汚物入れに捨てた。

「パンツは2枚重ねて穿けば、濡れてても透けへんと思うし」

「はい」

 もともと2枚穿きしていた鮎美の下着を鷹姫も2枚重ねて穿いた。寒いトイレの中で濡れた下着を身につけると、かなり冷たかったけれど、それは表情に出さない。鷹姫が濡れたスカートも穿くと、鮎美は軽い興奮を覚えた。鷹姫は制服を一切改造していないのでスカート丈も長い。鮎美は少し改造したので短くなっている。普段、見慣れた鷹姫の制服姿でも少しスカートが短くなると、より魅力的だった。

「そんなにジッと見ないでください。恥ずかしいです」

 鷹姫が濡れているスカートの股間を両手で隠した。その表情が可愛らしくて余計に興奮が強くなる。

「ごめん」

 これ以上見ていると、また衝動に支配されそうなので鮎美は背中を向けて鷹姫の下着とスカートを穿いた。

「このままやとスカート交換したの丸わかりやし、うちの方は巻くわ」

 スカート丈を合わせるために、鮎美はウエストの部分で2回ほど巻いた。それでスカート丈は同じになる。

「鷹姫の方は、どうしょうもないね。ダッシュで帰る?」

「はい」

「ごめんな。濡れ衣を着せて」

「いえ、私のせいですから。もう行きます」

 二人で個室を出ると男性SPが黙ってついてくる。おそらく会話は聴かれていたと思うけれど、守秘義務に期待して選挙事務所内を平静をよそおって二人で通り過ぎる。畑母神や選挙対策委員長、その他のスタッフたちも疲れていて、何も言ってこない。鷹姫を先に行かせて鮎美は事務所の出入口で振り返った。

「ほな、うちは帰ります。また、明日。夕方5時に国会前で」

「ああ、よろしく頼む。よく休んでくれ」

「はい、畑母神先生も、しっかり休んでください」

 うまく気づかれずに事務所から議員宿舎に帰った。鷹姫からもメールで無事にビジネスホテルへ戻ったとの連絡が入り、安心して風呂に入ってからテレビを見た。ニュースキャスターが今日の知事選開始を報道している。

「本日スタートした東京都知事選は…」

 報道のされ方に大きな問題はなく、平等な扱いだと感じた。

「続きまして、さきほど結果が出ました愛知県知事選挙と名古屋市市長選の結果をお伝えします」

「どうなったんやろ……自眠公認候補と自眠を飛び出した議員さん……」

「愛知県知事選挙では大村秀彰氏が100万票を超える得票にて当選されました。名古屋市市長選挙では河村たかじ氏が再選されました」

「あのオっちゃんら、勝ったんや………名古屋から総理を狙う男、とか自分で言うてる。……市長選は再選が妥当かもしれんけど、県知事選、よう頑張ったなぁ、大村さん、自眠党の公認候補選びが迷走してるからって自分が出る言うて河村さんと組んだけど、自眠党からは、めちゃ止められたのに、それでも圧勝や………っていうか、与党のはずの眠主党が推す御園真二郎さんが3位止まりって、愛知県って眠主王国やって久野先生が言うてたのに、……政党の影響が落ちてるんかな………けど、選挙は組織で戦わんと、兵糧の巡りも悪いし、段取り悪いと、トイレも行けへんし……。眠主と自眠の二大政党で交代って流れやなくて、応仁の乱で細川と山名の二陣営がメタメタになって混乱期に入ったみたいに、これから戦国時代になるんかなぁ……」

 鮎美はベッドに寝転がって考え事をするけれど、入浴前に脱いだ鷹姫のショーツに目がいった。

「……鷹姫の……」

 手を伸ばしてショーツを取り、見つめる。

「……………鷹姫………匂いを、嗅いでもいい?」

 ここにいないのに、一応は問い、拒否が返ってこなかったという政治家らしい思考をしてから、鷹姫のショーツを顔に近づけた。

「………ハァ…」

 鷹姫の匂いがする。鷹姫の腋より強い匂いで、鬼々島(おきしま)で造られている鮒寿司と似たところもあるような匂いなのに、何度も嗅いでしまう。

「…ハァ…」

 もっと嗅ぎたくてショーツを広げ、鷹姫の股間にあっていたところを見つめた。朝から一日、鷹姫の股間にあっていた布には白っぽいオリモノが着いていて、そこを嗅ぐと一番匂いが強い。

「ハァ……」

 自分の唾液をつけると匂いが変わってしまうことはわかっていても、つい舐めてしまう。何度か舐めて、それから口に入れた。

「…ハァ……ハァ……」

 そのまま右手を自分の股間へ滑り込ませると、もう濡れていて、つい自慰を始めた。

「…ハァ…ハァ…ハァ…っ…」

 だんだん快感が強くなってくる。

「ハァ…ハァ! ハァ…鷹姫…ハァ…ああ、鷹姫、好きよ…ハァ…」

 声に出すと余計に興奮するし、どうせ誰もいない一人だけの部屋なので大きな声で言ってみる。

「好きよ! 鷹姫! 大好きよ!! 鷹姫!! ああ! 鷹姫ぃ!」

 ずっと想ってきたし、今も想っている。そして、この一年近く演説で鍛えた喉は一日の選挙戦の後でも大きな声で恋を響かせた。絶頂し、その余韻に浸っていると、玄関のチャイムが鳴った。

「っ…誰やろ」

 慌てて服を着ていると、激しくドアを叩かれる。

「何かあったっすか?!」

 ドアの向こうから知念の声が響いてくる。一人でいるはずの鮎美が何度も大声を出したことを不審に思っているようだった。

「っ…なっ、なんでも無いですわ!!」

「そうですか。けど、規則なんで一度開けてくださいっす!」

「なんでも無い言うてるやん!」

 鮎美が拒否的な声になると、余計に知念も警戒してきた。

「すいません! 規則なんで! 何でもないと言わされている可能性もあるんで! 開けてもらえないなら、こちらのカードキーで開けますよ!」

「ちょっ、ちょい待ち!」

 鮎美は振り返って室内を見る。鷹姫のショーツがベッドの上にある。途中で使った電マも転がっている。恥ずかしすぎる状況だった。せめて、それらは隠したかったのに知念と男性SP3名が突入してきた。

「大丈夫っすか?!」

 突入してきた知念は拳銃を抜いていたし、遠慮無く鮎美を抱き庇い、他の3名は室内やバスルームを拳銃をもったままチェックしていく。

「……ぅ~……レディーの部屋をぉ……」

 脱いだ靴下やブラジャーなど見られたくないものは多いし、あまり男性に対して羞恥心は覚えないといっても自慰していたことに気づかれるのは人として恥ずかしすぎる。怒りたかったけれどSPたちの真剣な表情を見ていると、守ってくれているのだと感謝も湧いて諦めたし、男性たちは鮎美のベッドに女物のショーツがあることは当然としか感じなかったようで、かなり怪しく枕元に裏返しになって置いてある鷹姫のショーツについては何も問われなかった。電マについても触れずにいてくれる。肩コリがひどいと言っておきたいけれど、鷹姫と違って素直に信じてくれず、むしろ言うと逆に言い訳だと気づかれそうで黙るしかない。

「おおきに……何でもなかったんです……すんません」

「どうして、あんな大声を出してたっすか?」

「それは………、内容まで聴こえてました?」

「いえ、さすがに内容までは聞き取れなかったすけど、叫んでる感じだったから、誰かが室内に潜んで待ち伏せたりしていて、危ない目に遭ってるのかと思ったっす」

「……うう…お騒がせして、すんません…」

 鮎美は言いたく無さそうに目線をそらせ、そして嘘をつく。

「演説の練習をしてました。なるべく大きな声を出せるよう」

「そうっすか。それは、お騒がせして、申し訳ないっす」

「いえ、守ってくれてはるって感じます。おおきに」

 知念たちが出ていき、鮎美はタメ息をついたのに、すぐにチャイムが鳴った。

「なんやの、まだなんか、あんの……っ、鷹姫」

「連絡もなく急に訪ねて、すみません」

 玄関を開けると知念ではなく鷹姫がいて驚いた。知念たちはSPらしくドアの左右に整列している。

「ど、どないしたん?」

「お弁当を買ってきました。夕食をきちんと召し上がっておられなかったので。あと、朝食も買ってきました。連絡すると遠慮されると思い勝手ながら無断で……遅い時間に、すみませんでした。すぐ帰ります」

 玄関を開けながら文句を言われていたので鷹姫は、すぐにも帰りそうな申し訳ない顔をしている。鮎美は慌てて引き止めつつ、さらに慌てる。

「ごめん、おおきに。ちょっと待って! 部屋の中を片付けるし」

「お手伝いします」

「ええから、そこで待って!」

 急いで鷹姫のショーツや自分の洗濯物を洗濯機へ入れて証拠隠滅すると、鷹姫を中に迎えた。鷹姫は5つの弁当をテーブルに並べた。

「どれでもお好きな物をどうぞ」

「おおきに。ほな、これを今食べて、これは朝食用にするわ」

 鮎美は夕食としてタヌキソバを、朝食としてカルビ弁当を選んだ。あとの3つは鷹姫の夕食になるのだと、長い付き合いになってきているのでわかる。

「お金は精算しといて、うちの私費で」

「いえ、たまには私から、おごらせてください。いつも、ごちそうになっていますから」

「そんなん気にせんでええのに。でも、おおきに、嬉しいわ」

 二人でコンビニ弁当での夕食を初め、ニュースや選挙戦、時事問題のことを話し合っていく。そうして食べ終えた後に鷹姫がお茶を淹れながら言ってくる。

「ライフイージスの三島代表より連絡があったのですが、芹沢先生と芹沢先生のSP以外には秘密にしてほしいという話です」

「あの人から……うちとSPに………ほな、とりあえず知念はんにも同席してもらうわ」

 鮎美は知念を入室させ、鷹姫は礼儀の上でお茶を勧めたけれど、知念は断った。

「ほんで、三島はんの話っていうのは?」

「はい、刺客に襲われたそうです」

「「っ…」」

 鮎美と知念は驚いたけれど、連絡してくるあたり三島は無事なのだろうとも考える。

「三島はん、怪我は?!」

「無傷だそうです。曰く、陸自で錬磨した我にナイフ一本では何もできぬ、と」

「さすが……クーデター起こそうとしただけのことはあるわ。けど、なんで秘密にすんの? ニュースになってもええやろに」

「三島さんは刺客を哀れに思ったそうです。襲った動機は私たちが障碍者も住みよい多様な社会をつくるということに反対し、とくに出生前診断や着床前診断をむしろ推進して、障碍をもって産まれる者を減らすべきだ、という思想の持ち主だったそうです」

「……」

 一瞬、鮎美は鐘留の顔が思い浮かんだけれど、鐘留にそんな度胸はないし、やるとすればインターネットを介してのイタズラか、嫌がらせくらいだと感じる。少なくとも鐘留がナイフ一本で三島に襲いかかるなど、ありえないと思えた。

「そんな思想の持ち主に、なんで三島はんは同情したん?」

「襲ってきたのは30代くらいの男性で1型糖尿病を患った者だそうです」

「……糖尿病って食べ過ぎでなるやつ?」

「私も三島さんから聴いた受け売りですが、食生活から発症する生活習慣病としての糖尿病は2型だそうです。1型は自己免疫疾患と考えられ、遺伝的要因もあるようです。そして、インスリンの自己注射をすれば普通に社会生活を送れるのですが、生涯、自己管理と自己注射に悩まされ、思うように働くことはできない病気のようです」

「……気の毒な話やね……」

「はい」

「けど、そんな人なら、むしろ、うちらの主張に賛同してくれてもええんちゃうの?」

「はい、私もそう思うのですが、逆に強い嫌悪感を覚えたようです。その者が言うには、不幸な遺伝子をもって産まれることそのものを無くすべきだ、自分は産まれたくなかった、自分の妻も網膜芽細胞種という病気の因子をもっている、これは二分の一の確率で子に遺伝し、死にはしないが目に癌を発症し失明する。もし、研究が進んで1型糖尿病や網膜芽細胞種の遺伝因子を着床前診断で取り除くことができるようになるなら、自分たちも子供をもつという希望をもてるのに、お前たちは本当の意味で障碍者のことがわかっていない。いくら、財源を増やしたところで無限にはならない、わずかに働ける1型糖尿病の者は障害年金も減らされ、不安定雇用だ、こういう生活はできるが底辺の障碍者に手厚くすべきで、動けない障碍者や心さえあるのか無いのかわからないような障碍者は殺すべきだ、と」

「「………」」

「そして、その刺客は、介護士として障碍者施設で働いていたのですが、重度の障碍者は殺すべきという主張を公言していたので解雇され、解雇された施設の障碍者を忍び込んで殺そうと計画していたのですが、テレビで芹沢先生らの発表を見て、三島さんを殺そうと思ったそうです。重度の障碍者を生かすには、月に60万円もかかるのに、自分たちの障害年金は削られ、働いても月に13万円しかもらえない、もっと働く者が報われる社会になるべきだ、と」

「…………それで、三島はんは、どうしはったん?」

「話を聴くうちに、警察へ通報する気になれず、逃がしたそうです。とくに、三島さんの亡くなった子供はダウン症で千に一つ程度の確率で産まれてくる疾患だったのですが、網膜芽細胞種は2分の1、その確率で子供が失明するとわかっていて、誰もが産む気になるのか、まして夫も1型糖尿病で遺伝の可能性がある、そういうことを考えているうちに、捕まえる気持ちを保てなかったそうです」

「「………」」

「ですが、犯行を諦めるならよし、再び繰り返すなら、三島さんへ再度襲撃するか、芹沢先生を狙うか、それゆえ、芹沢先生とSPには伝えておいてほしいとのことです」

「………」

「警護に、これまで以上の緊張感をもつっす。安心してください」

「おおきに………」

 鮎美の顔が深く沈むので知念は重ねて言う。

「大丈夫っす。どうか、安心してください」

「うん、おおきに……、知念はんらは信頼してるよ。そっちの心配やなくて、………問題の根深さが………、どう思う? 鷹姫、たしかに財源は連合インフレ税で増えるけど、無限やない。重度の障碍者に多額の支出をあてるより、いっそ軽度の障碍者に手厚くするっていう思想を……」

「…………私の考えは………述べた方がよいですか?」

「うん、鷹姫の考え方を聴かせて」

「はい。では……貧富の差を無くすというのは、すばらしいことです。そして健常者が弱者を助けようと心がけることもよいです。けれど、弱者が弱さを盾に権利だと言って何か要求するというのは、分を弁えぬ愚かな行為です。恥を知るべきです。人は自ら研鑽し、己を高めるべきであり、三島さんのように弱者を助けようと訴えることは立派ですが、弱者が弱さを強調して、より高配を受けようなどと思案するのは、もはや盗人猛々しいという感さえあります。働かざる者食うべからずとある中、働けぬのに三食まかなってもらえるなら、その慈悲に感謝して生きるべきです。当たり前の権利などと考えること自体、勘違いも甚だしい愚者の驕りといえます。………そういう面では矛盾してしまいますが、今回の刺客のように働けることで障害年金を減らされるのは気の毒であり、まったく働けぬ者は……………産まれてこぬ方がよかった、もしくは潔く自害すべきだと私は考えます」

「……そう……ほな、鷹姫は同性愛者を、どう思う? 無理して異性と結ばれるべき? それとも死んでしまう方がええ? 産まれてこん方がええ?」

「っ…芹沢先生は立派な方です! 社会で必要とされる役割をもった素晴らしい人間です。……同性愛は……個性のようなものではないでしょうか? それに自ら、おっしゃられたように解明されていないだけで進化論的な意味合いもあるかもしれません。同性愛者は自分で立ち、自分で食べ、自分で生きます。他者の同情にすがる障碍者とは違います。どうか、お気になさらず」

「けど、前に鷹姫は、同性愛なんて人の道に外れたこと、外道やって言うたやん? 覚えてる?」

「はい、覚えております。あれは私が不勉強で未熟だったのです。申し訳ありません。無知ゆえの失言です。理解が足りなかったのです。お許しください」

「怒ってへんよ。嬉しいよ。理解してくれて。ほな、他の障碍者のことも、理解していけば、生きる意味があるって考えるかもしれんやん?」

「はい、そういう論法はわかります」

「けど、とうの障碍者自身が産まれたくなかった、どうせ産まれるなら、健康な方がよかった、障碍がある分、もっと手厚くしてくれ、重い障碍者を切り捨ててでも、と言うてきたら、現代の政治家は、どうするのがええと思う? たしかに、重い障碍者に月60万円も使うより、軽い障碍者6人へ月10万円支給してあげる方が、幸福の総量は増えるはずやし」

「……………すみません。わかりません」

「うん………うちも、わからんわ………社会にとって、ちょっと迷惑な障碍者は、みんなで優しく助けて……迷惑すぎる障碍者は消してしまお………でないと財源と人手が、なんぼあっても足りんし……周りも本人も不幸やしてか……。うちも、もし自分が異性愛者で、自分の産む子供が二分の一のロシアンルーレットで失明するとしたら、そんな遺伝要因は取り除いてから着床させたいわ。………けど、ほな、自分の子供が同性愛者になるかもしれんって科学的に判明してる状態で、産むか、産まんか、選択せよ、って言われたら………はは……どうするやろね……」

 鮎美は目を押さえて天井を見上げ、しばらくして言った。

「………アーメン」

「……芹沢先生………」

「そんな心配そうな声を出さんでも、うちは無神論者よ。けど、アーメンって、なんか便利やね。一種の思考停止というか、とりあえず、それを言うて、問題放置ってできる上に、放置やのに道徳的な雰囲気だけ出せて。実際は何一つせんのにね。心の自慰なんかも」

「「………」」

「……。こういうとき、南無阿弥陀仏って言うと、なんか障碍者に死ね、って言うてる感じやけど、アーメンやと、まあ問題を放置できて便利やわ」

「「……………」」

「障碍の当事者って、めちゃめちゃつらいやろな……うちは、ほんのしばらくだけトイレに不自由して24時間、桧田川先生のお世話になったけど、それでも苦痛やったし、あれだけ優しい先生やったから良かったけど、薄給でやる気のない介護士に世話されるんやったら、地獄やったかも。それに、桧田川先生を怒らせて、脅しで下半身不随の障碍者になるって言われたときの、目の前が真っ暗になるような絶望感………毎月100万円もらえるとしても、自分で立ってトイレに行ける方がええわ。愛別離苦……生老病死か……詩織はんが、ときどき仏教のこと教えてくれはるけど、たしかに、うちらには、こっちの方がしっくりくるかも。………障碍者には金銭を支給するより、仏の教えの方がええんちゃうやろか」

「………」

「芹沢議員、自分はそろそろ廊下に戻ってよろしいですか? あと、三島氏が襲われた件は介式警部に報告をあげますが、それでいいっすか?」

「うん、そうして。お願いします」

「はっ、失礼します」

 知念が敬礼して退室し、鮎美と鷹姫が黙って考え込んでいると、詩織からメールが入った。

「…………」

 また二人で電話オナニーしよとか、そういう話かな、今はそんな気分ちゃうけど2回連続フルのも悪いし、と鮎美は気持ちが大きく変わり、鷹姫には絶対に見られない角度でスマートフォンを操作したけれど、思ったより真面目な話でワシントンから流れた発表放送を動画ファイルで送るので、すぐに見て欲しいというメールだった。鮎美は椅子に座ってパソコンを開いた。受け取ったファイルを再生すると、そこにドミニクと夏子が映る。背景にはIMFのロゴがある。放送は英語だったけれど、鮎美も鷹姫も理解できる。

「IMFは検討を繰り返した結果、日本のアユミセリザワとナツコカガタ経済学博士が提唱した主要通貨の足並みをそろえた緩やかなインフレ政策による、いわゆる連合インフレ税を主要各国が採用することを強く勧めることとした」

 ドミニクに続き、夏子が発言する。英語テロップで夏子の学位と日本の県知事である旨が表示される。夏子は自信をもって話し始めた。

「このためにIMF8条国に適応できる時限条項を追加し、参加国は他の参加国との間で為替相場を半固定化させます。完全な固定ではなく、一週間に一度、水曜日のみ1%を最大上限幅として変動させ、大きな変動や投機的な資金の動きによる変動を強く抑制しつつ、完全な固定化による弊害をも防ぎます」

「……加賀田はん……今、ワシントンに……県知事やのに………放送が夜11時過ぎやから……すぐ帰れば、そんなに遅刻にならんかな……というか録画放送なら、もう飛行機の中かも………。現地時間は……朝9時過ぎ………この時間にしたんは、日本市場が開くまで時間があるし、ニュージーランドでも、まだ週末休暇中や………ええタイミングで発表してくれたんや……新聞も間に合う。愛知県知事選投開票で印刷を遅らせてるとこ、編集現場はパニックになるやろけど、ギリギリ間に合う。一面は、どっちになるかな……」

 鮎美がつぶやきながら思考を巡らせているうちに夏子の説明が続き、ドミニクがしめる。

「このプランによる体制をアユミ・ナツコ体制と呼ぶ。IMFは主要各国からの参加表明を心待ちにしている」

「……………フフ…………フフフ………やった、……IMFを動かした……。ここまで……ここまで来た」

「はい、ついに、ここまで」

 鷹姫も嬉しそうに頷き、鮎美は椅子から立ち上がった。

「ヤッタぁ!!!!!」

 大声で喜び叫んだ。

 

 

 

 翌2月7日月曜の朝、鮎美は新聞とスマートフォンを鷹姫と見ていた。

「思ったより反応薄いなぁ……一面にIMF発表を載せたんは日計新聞だけやん」

「そうですね……掲載していない新聞もあります……愛知県知事選と名古屋市長選のインパクトが大きかったのでしょうが……」

「八百長問題で大相撲春場所中止とか、そんなん、どうでもええやん」

「人々の関心の方向性が違うのでしょう」

 二人とも残念そうにしている。

「為替相場も、動いてないなぁ……動かん方がええんやけど…」

「ニュージーランドは規模が小さいですから、日本市場が動き出せば変化はあるかもしれません。おっしゃるとおり変動は無い方が良いのですが………こうも無反応とは……」

「けど、金地金だけは着実に上昇してるなぁ……これ、24時間以内に5000円を超えそうやん」

「はい」

「まあ、ええ、ここは一つ様子見しておこ。……様子見……市場も様子見なんかな…」

 気を取り直した鮎美は議員宿舎から国会へ向かう。途中で3人の記者が駆けよってきた。

「芹沢議員! アユミ・ナツコ体制の真意は?!」

 ぶら下がり取材に対して鮎美が足を止めたので鷹姫とSPたちも止まった。鮎美は落ち着いて答える。

「すでに述べておりますように、連合インフレ税の実施による世界の富の不均衡を正すためです」

「タックスヘブンを空爆せよ、という言葉がアメリカで拡がっていますが、どうお考えですか?!」

「私の真意ではありませんが、そう考えるアメリカ市民は格差社会に苦しんでいるのだと考えます。私の真意は武力的なことではなく制度的な改革です」

「芹沢議員は同性愛者とのことですが、加賀田夏子県知事とは、どういった関係ですか? お二人とも未婚ですよね?」

「………」

 鮎美は質問を無視して歩きだそうとしたけれど、夏子に迷惑がかからないよう再び足を止めて答える。

「政治的な方向性が一致する部分もある賛同者というだけです。世界経済レベルでは、ほぼ完全に一致して、いっしょに考えていますが、地域経済ともなれば新幹線新駅の問題など、一致しない部分もあります。何より、私が感じるところ、加賀田知事は、おそらくはノンケ…、失礼、いわゆるノーマル、多数派であるところの異性愛者だと感じます。同性愛者が異性愛者にアプローチするほど無駄なことはありませんから。……。失礼します」

 自分で言いながら、胸に痛みを覚えたけれど、それも表情に出さず、鷹姫と登院した。鷹姫は鮎美が審議に出席してしまうと、お昼休みまでの時間を別行動にする。鮎美に頼まれた買い物をするため、連泊しているビジネスホテルに戻ると制服を脱いで私服に着替えた。

「芹沢先生の名誉のため、絶対にマスコミに見つからないよう行動しなければなりません。肝に銘じなさい、宮本鷹姫」

 バスルームの鏡に向かって自分へ言い聞かせると変装する。いつもはポニーテールなのをおろして三つ編みに結い。コンビニで買ってきたメイク道具で濃いアイメイクをして後悔する。

「……これではパンダ……」

 目の回りを黒く塗りすぎてしまい、変な顔になった。

「いえ、隠密行動らしくてよいかも……」

 さらにマスクをして口元を隠すと、伊達眼鏡もした。

「これで芹沢鮎美の秘書とはバレないはずです」

 準備ができたのでビジネスホテルを出ると、電車に乗り千代田区から離れて荒川区まで行き、尾行者がいないことを確認してからドラッグストアに入った。

「………………」

 店内を歩き回り、目的の商品を探す。

「………………」

「何かお探しですか?」

 20代後半くらいの女性店員が声をかけてきた。

「え……いえ………別に……」

「ご用のときはお声がけください」

 女性店員は鷹姫の変装と口調で知られたくない物を買うのだと察して、離れていく。鷹姫は店内を一巡して目的の商品を見つけたけれど、戸惑った。

「こんなに種類がたくさん……どれを買えば……」

 一つの商品棚が埋まるほど種類と量があり、どれを買うべきか迷う。ずっと迷っていると怪しまれるので一旦離れたりしながら、何度も近づいて品定めしてると、さきほどの女性店員が見かねて声をかけてきた。

「大人用オムツをお買い求めですか?」

「っ……ぃ……いえ、違います………。いえ……その……少し説明をしていただけると、ありがたいかも……しれません。勉強のために……た、たとえば、身体障碍者の苦労を知るなど……いろいろと……ハァ…」

 緊張のあまり汗が噴き出して伊達眼鏡が曇り、マスクをした口元の息が荒くなったので女性店員は色々と察した。

「お使いになるのは、お客様ですか?」

「っ…、ち……違います!」

「では、どういった方がお使いですか。男性、女性?」

「………女性です……」

「身長や体格は?」

「……………………こ……個人情報ですから、言えません。ハァ…ハァ…」

「………。サイズがありましてフィットしないと窮屈だったり、ずり落ちてしまったりしますよ。ご使用になる人と、お客様の体格は、どのくらい違いますか?」

「ハァ………ハァ………少し私より小柄です……ハァ……」

「私くらいですか?」

 女性店員の体格は鮎美に近かった。

「はい、そうです。ハァ…」

「ではSサイズか、Mサイズですね。身体に何か障碍があってお使いですか? おしっこの量は多いですか? 少ないですか?」

「…ハァ……ハァ……」

 鷹姫は昨夜、古いビルのトイレで失禁してしまった鮎美の量と、国会議事堂で車イスに座ったまま漏らしてしまった量を思い出す。

「……お……多いときもあれば……少ないときもあります……障碍は治りました」

「障碍が治った……のに、お使いなのですか?」

「…ハァ……い……いろいろと事情がありまして……ハァ…ハァ…」

 この場から逃げ出したそうな鷹姫の態度を見て女性店員は心配する。

「あの……もし、彼氏とかに強制されて買いに来てるなら、そんなSMを強要するような彼氏とは別れた方がいいですよ。ホント」

「い、いえ! 彼氏はいません! 許嫁はいます! SMはしません!」

 動揺した鷹姫が大きな声で答えたので、他の客がこちらを見てくる。一目見て不審な客だと思われていくし、だいたいの大人用オムツを買う世代は親が寝たきりになった50代60代か、逆に子供に大きな障碍がある40代50代なので鷹姫のような健康そうな若い女子が買いに来ると、かなり目立っていた。そして障碍のために買うのではなく、特殊な趣味嗜好のために買うのだと思われやすい。

「…ハァ……ハァ……早く、売ってください…ハァ…」

「わ、わかりました。えっと…Sサイズで、多めに吸収できる商品は、こちらと、こちらになりますが、どうされますか?」

「……ど……どちらが動きやすく目立ちませんか?」

「こちらのパンツ型が目立ちにくいかと思いますよ」

「………絶対に着けていることはバレませんか?」

「…………。スカートで、ご使用ですか? ズボンで?」

「スカートです」

「どんなスカートですか?」

「………このくらいの丈の……ヒダのある……」

「女子高生の制服のようなスカートですか?」

「っ…い、いえ! 女子高生のような女子高生でないです!」

「…………。スカートで見えてもバレたくないなら、上から短いスパッツを穿くといいですよ。ご案内しましょうか?」

「ぉ、お願いします! ハァハァ」

 極度に緊張しながら鷹姫はSサイズの大人用オムツと丈の短い黒スパッツを買った。あまりに可哀想なので女性店員は持ち歩いても見えないように濃い色のビニール袋を二重にしてオムツとスパッツを包んで渡してくれた。汗でアイメイクを溶かしながら鷹姫はビジネスホテルに戻ると、今夜の選挙戦で必要になりそうな2枚だけを30枚入りの袋から取りだして、スパッツと風呂敷に包むとカバンに入れた。

「あとは、お昼休みにお渡しするのみ……」

 準備を整え、メイクを落としてポニーテールを結い、制服に着替えて待つ間、相場を調べた。

「やはり為替も株式も、ほぼ無反応…………けれど、金だけは4400円を超え、もう4500円に迫りそうな勢い……」

 少し気分が落ち着いた鷹姫は早めに国会議事堂へ向かおうとしたけれど、携帯電話が鳴った。

「はい、芹沢鮎美の秘書、宮本です」

「…。石永静江です」

「ご用件をどうぞ」

「芹沢先生は、まだ審議中?」

「はい。おそらく」

「昼休みに入ったら一番に私へ電話してもらって。周りに人がいない環境で」

「わかりました。お伝えします。悪い知らせですか?」

「ええ」

「わかりました。慎重に伝えます」

 再び鷹姫は緊張したけれど、さきほどとは質の違う緊張だった。国会議事堂に出向き、委員会が終わって出てくる鮎美へ耳打ちする。

「石永さんから、すぐに電話がほしいとのことです。周りに人のいない環境でかけてほしいと。残念ながら悪い知らせのようです。また、例の物は買いつけております。こちらを、どうぞ」

「おおきに」

 鮎美は風呂敷包みを受け取ると、国会の前庭へ出た。ここなら自分が大声を出さなければ聞き取られることはない。静江に電話をかける。

「静江です」

「悪い知らせって何?」

「緑野さんのお母様が、さきほど支部へ来られました」

「っ…、それで?」

「娘さんと芹沢先生の関係について、お話ししたいことがあるため、今日中にお会いしたいとのことです」

「今日て……」

 本日は17時まで国会で、その後は畑母神の応援に出るので23時くらいまでは予定に空きはない。まして地元に帰ることは不可能だった。

「ご無理なのはわかっていますから、丁寧にお断りしたのですが、なんとしてもとのことで、また芹沢先生のお父様も同席しておられ、深刻な雰囲気でしたので、午前0時過ぎであれば、議員宿舎にて面談可能かもしれないと、お答えしました。受けられますか?」

「夜中なら空いてるけど………それって、どういう話なん?」

「芹沢先生と緑野さんの性的な関係について、だと思います」

「…………」

 わかっていたけれど、問わずにはいられなかった鮎美へ最悪の答えが返ってくる。背筋がザワつき、腋の下に汗が湧いた。静江が落ち着いて言ってくる。

「私も同席します。時間が時間ですし目立たない方がよいですし終わり次第、お帰り願うと思いますからクルマで向かいます。宮本さんや牧田さんにも伝えない方がよいでしょう。こちらでも情報はできるだけ秘匿します」

「……うん………おおきに……」

「顔に出ないよう気をつけてください。今、日本で一番、注目されているのですから」

「…おおきに…」

 電話を終えた鮎美は沈んだ顔になりそうなのを取り繕う。そして気持ちも切り替える。

「考えんとこ……相場は、どやろ」

 スマートフォンで情報を見て、議員食堂に向かった。先に食べているよう言っておいた鷹姫が音羽や翔子たちと昼食を摂っている。

「「…」」

 一瞬、目が合い、鮎美は微笑をつくった。

「ご飯、何を食べよぉ。考えるの面倒やし、カレーにでもしよかな」

「国会のカレー、美味しいですよね。任期中に何回、食べることになるのかなぁ」

 翔子が言い、周りの議員たちも考える。やはり任期中、かなりの回数、この食堂で食べるので、思えば感慨深い。

「ここが日本の頭脳の胃袋なんやねぇ」

「アメリカとかイギリス、仲国の政治家なんかは、何を食べてるんだろうね」

 音羽が軽く言った。

「どうやろね。とりあえずカレーにしとこ」

 やや食欲が無いので飲み込みやすいものを選んで食べ、昼休みが終わる前にトイレで用を足した後、鷹姫が買ってくれた大人用オムツを着けた。

「見栄はってパンツで漏らすより、オムツを濡らす方がマシやし」

 入院中も何度か嫌々受け入れたオムツだったけれど、真冬の東京での選挙を考えると、いっそベストな選択に思える。

「もしかして、従来の選挙で女性議員が少ないのって、こういうことも影響してんのかなぁ」

 短いスパッツも穿いてオムツを隠すと制服を整え、午後の審議に出席し、夕方からは選挙カーに乗った。わずか3時間しか拡声器での応援演説ができないので一度の休憩もなく応援弁士を勤め、さらに集まっていた聴衆との握手もした。日曜日に比べると、やや少ないものの、それでも田舎とは比べものにならない人々がいて、大学生や高校生も握手や撮影を求めてくるので丁寧に応じていると、終わったのは昨日と同じくらいの時間だった。事務所へ戻る選挙カーの中で畑母神が言ってくる。

「やはり芹沢先生の人気は圧倒的だ。戦列に加わってくれた5時から、聴衆の反応がまるで違う」

「女の子やし、それが珍しいって部分が大きいですよ」

「いやいや、同じ女性でも水田くんに演説してもらっているときと比べても格段の差がある」

「……。それ、本人に聴こえるとこで、絶対言わんようにしてください。女は怖いですよ」

「…そうか。……わかった、気をつけるよ」

 そう言った畑母神は明日のスケジュールを自分の秘書と確かめ始めたので、鮎美は座り直して尿意に耐えるけれど、限界が近い。

「………」

 あかんわ、事務所まで我慢できそうにない、そのためのオムツなんやし、してしまお、と鮎美は諦めて力を抜いた。股間が生温かくなり、切ない吐息が漏れる。

「…はぁぁ…」

「………」

 隣りに座っていた介式が鮎美を見てくる。

「芹沢議員、どうかしたか?」

「………。……なんとなく、わかりません?」

 音は立てないようにしたけれど、どうしても隣席にいる介式には伝わったかもしれないし、オムツのおかげで匂いも昇らないものの、鮎美自身かすかに感じたので介式も感じたかもしれない。

「小便をしたのか?」

「……。事実やったとしても、そうハッキリ言うのは、セクハラ発言ギリギリやと思てください」

「宮本くんに着替えをもってきてもらうか?」

「いえ、大丈夫です。吸収してくれるようにしてるんで」

「そうか」

「そういえば介式はん、見事に任務中はトイレに行きませんね。オムツでも着けてるんですか?」

「いや」

「それで漏らしたことないんですか? 任務終わってギリギリ駆け込みで漏らしたりしません?」

「………。そういったことには答えられない」

「……」

 あるんや、と鮎美が黙って介式の顔を見ていると睨まれたので目をそらした。事務所に到着しトイレで濡れたオムツを脱いで、普通のショーツを穿いた。個室を出ると鷹姫が心配してくれる。

「芹沢先生、大丈夫でしたか?」

「うん、おおきに、おかげさまで」

 心配をかけないよう笑顔で応え、議員宿舎に帰って鷹姫と遅い夕食を摂った後、鷹姫にはビジネスホテルへ帰ってもらう。鷹姫が見えなくなると、鮎美は介式を振り返った。いつも通り部屋前にいてくれる。

「介式はん、そろそろ交代の時間ですよね?」

「ああ」

「悪いんですけど、これから女性の来客があって難しい話になるかもしれんのです。男性SPに同席してもらうのは、ちょっと困るような話かもしれんので。任務を延長してもらえません?」

「わかった」

「トイレ、よかったら使ってください」

「必要ない」

「……。あ、知念はん」

 交代要員だった知念と男性SPが近づいてくる。お互いに敬礼して交代を確認するのが通例だったけれど、介式は残った。

「今少し私も警護する」

「介式警部が?」

「女性の来客があるそうだ」

「そっすか……。お疲れ様っす」

「介式はん、来客があるまで休憩してください」

「必要ない」

「……話が長くなるかもしれませんし」

「問題ない」

「…………休憩せんと、注意力落ちますよ? せっかく知念はんらも来てくれはったんやし」

「そうっすよ。休憩してください」

「了解した」

「ほな、部屋の中へ、どうぞ」

 鮎美は室内へ介式を招き入れ、トイレを勧める。

「どうぞ、トイレも使てください。今まで気がつかんで、すんません」

「……お借りする」

 やはり我慢していたようで介式はトイレに入った。鮎美は紅茶と洋菓子を用意し、トイレから出て来た介式に勧める。

「お腹も空いてはるでしょう。どうぞ」

「………。私を口説くつもりなら無駄だと言っておく。そして、不快だ」

「そういうつもりやないんですけど………ただ、たんに、うちの都合で延長させたし悪いなぁ、と」

「…………」

「ご不快なら、仕方ないですね……すんません」

 鮎美は2杯の紅茶を一人で飲み、洋菓子はそのままテーブルに置いておく。しばらくしてチャイムが鳴った。訪ねてきたのは鐘留と母親、そして静江、玄次郎だった。鐘留は子供のように静江の腕にすがっている。そして、母親は敵意丸出しで鮎美を睨んできた。いつも穏やかで会うと、にこやかに微笑んでくれるのに今は敵意しか感じない。そんな様子を見て介式は鮎美のそばに立った。

「どうぞ、中へ」

 鮎美は室内のソファを勧めて、紅茶を淹れようとしたけれど、鐘留の母親が怒鳴ってくる。

「二度と鐘留に近づかないで!!」

「……。お話の本題は、それですか?」

 鮎美は相手の興奮を冷まそうと、穏やかに問うてみたけれど、無駄だった。

「他人様の娘をヘンタイ趣味に巻き込んでおいて、その態度は何ですかっ?!」

「………」

「芹沢先生、私から状況を説明します。奥様もよろしいですか?」

「「……」」

 沈黙で肯定があり、静江が語る。

「今朝方、支部の方に緑野さんとお母様の鐘美(かねみ)さんが、お二人で訪ねてくださいました。大変に重要なお話で芹沢先生御本人へ訴えたいとのことでしたが、なにぶん東京におりますことを、奥様にもご理解いただき、私の判断で芹沢先生のお父さんをお仕事中でしたが、お呼び立てさせていただきました。それから奥様のお話を長い時間おうかがいいたしております。その要点は、芹沢先生が緑野さんへの接触を断つこと、緑野さんが秘書補佐を辞すること、これらをすべて秘密にすることです。どうしても今すぐに芹沢先生へ訴えたいとのことでしたので、芹沢先生のお父さんにクルマを出していただき、駆けつけておりますが、このこと自体、妊娠中の芹沢先生のお母さんにも、緑野さんのお父様にも知らせていません。お父さんは急な出張、緑野さんと奥様は気まぐれに温泉旅行に出かけたということになっています」

 簡潔に語る静江の顔には疲労の色が濃い、そして玄次郎も長距離運転で疲れている顔だった。

「…アタシ……辞めたくないし…」

 静江の腕にすがったままの鐘留は怯えた声でつぶやいた。鐘美が怒鳴る。

「鐘留は黙ってなさい!!」

「っ…ぅっ…」

 鐘留が泣き出した。親子ゲンカの段階で済むうちは鐘留が優位でも、母親が本気で怒ると太刀打ちできない様子で、怯えて泣いている。

「カネちゃん……」

「二度と娘に近づかないで!! 二度と! 二度と!! 二度と!!! その顔を見せないで!! まともに育った鐘留を、よくも!! よくも!!」

「……少し落ち着いてください」

 鮎美がなだめようとすると、鐘美はテーブルにあった洋菓子を投げつけてくる。投げられた洋菓子は鮎美の顔面へ直撃するコースだったけれど、介式の腕が守ってくれた。

「大事な娘をよくも!!」

 洋菓子を投げつけただけでは飽き足らなかったようで、鮎美の髪をつかもうとしてきたけれど、介式が手首を捕まえて捻る。

「ううっ?! 痛い!! 何するの?! 警察を呼ぶわ!!」

「私が警察だ。芹沢議員への暴行はやめろ!」

「っ…」

 介式の迫力ある声で警告されると、鐘美は悔しそうに引き下がる。

「よくも……被害者は、こっちなのに…」

「どうか落ち着いてください。うちとカネちゃんで話をさせてください」

「娘には二度と触れさせない!! ひああああああああ!! きいいいいいい!!」

 金切り声をあげて鐘美が頭をブンブンと振る。鐘留に似て美人なのに、形相が怖くて般若のように見える。たった一人の娘を同性愛に引き込もうとする敵を見る目で鮎美を睨んでくるので、もう個人の自由だとか、本人の選択、それぞれの人権、多様性といった話をする余地もない。

「鐘留はね! 鐘留は大切な娘なのよ!! うちの跡取りになるの!! 400年続く、かねやの大事な大事な跡取りを産む身体なの!!! うみひいいい!」

「「………」」

 あまりにヒステリーを起こしていて、静江と鮎美が引き、見かねた玄次郎がなだめる。

「奥さん、どうか、落ち着いて、奥さん」

「鐘留は失敗作じゃない! まともな子だったの! それを、よくも!!」

「落ち着いてください、奥さん」

「同性愛者なんてデキソコナイのキチガイにしないで!! たった一人の娘なのよ!!」

「奥さん! 落ち着いて!」

「ひあああ! 私はもう産めないのよ!! だから、たった一人なの!! 芹沢家だって、娘がデキソコナイの失敗作だから、二人目を産むんでしょ?! 私に子宮はもう無いのにィィギィィ!!」

「………」

 鮎美は失敗作と言われても聞き流した。気持ち悪い、ヘンタイ、キモい、色々と言われ慣れていたので聞き流したけれど、玄次郎が怒鳴る。

「黙れ!!! 鮎美は失敗作ではない!! 最高傑作だ!!!」

「っ……父さん…」

 鮎美は胸が熱くなって涙を零したし、鐘美は怒鳴られて急に勢いを無くして怯える。まるで虎に吠えられた子猫のように身震いして小さくなり、その怯え方は娘に似ていて、言葉の選び方も、精神的な脆さも親子なのだと感じさせる。

「…っ……私は……被害者……なのに…」

「失礼した。女性相手に大声を出して、すまない」

 玄次郎が形だけ詫び、母親が勢いを無くしたので鐘留が口を開く。

「……アタシ……秘書補佐、辞めたくない……アユミンといたい…」

「カネちゃん……」

「鐘留……こんなヘンタイに……ヘンタイの仲間になるの?」

「アユミンは……アユミンはヘンタイだけど、友達だもん! 気持ち悪いけど、慣れてきたし!」

「っ……ああ……鐘留……鐘留が……鐘留が、失敗………ぅうっ…、よくも……あなたのせい、……あなたのせいだから…」

 怯えながらも鐘美が恨みがましく妖怪猫のような目で鮎美を睨んでくる。

「あなたのせいよ……あなたのヘンタイが伝染した……うちの大事な子に……あなたのせいで……そうよ、あなたのせいなんだから、あなたの子宮を貸して…」

「…え?」

「あなたの子宮を貸してよ。どうせ、同性愛者なんだから、子供を産まないってテレビで言ってた。だったら、子宮を貸して、私の子を産んで。まともな子が生まれてきたら、鐘留は捨てるから、あなたにあげる」

「なっ…なんちゅー……思考を…」

「ヤダ! アタシを捨てないで! ママ! 捨てちゃヤダ!」

「貸してよ、子宮、私のまともな子を産んで」

「……………」

 鮎美が黙ると、鐘美は玄次郎にすがる。どうしても欲しいものをえようと子供がねだるように、鐘美はすがりついて言う。

「貸してください。うちの娘を盗ったんだから、あなたの娘を貸して」

「…ぉ…奥さん……どうか、落ち着いて」

 玄次郎も狂気じみた顔ですがってくる鐘美に、青ざめて引いた。

「貸して、貸して、子宮を貸してよ」

 すがりつく鐘美は玄次郎の身体に身を寄せている。二人とも既婚者だということを考えれば、不貞なほどだった。鐘留が静江にすがるように、とにかく何かにすがっていないと生きていけないような顔をしている。

「ヤダヤダ! ママ、アタシを捨てちゃヤダ!」

 鐘留が静江から離れて、母親にすがった。それで鐘美も娘にすがる。すがり合って二人とも泣きじゃくるので鮎美は言わざるをえず、告げる。

「もう二度と娘さんと性的な関係をもつことはいたしません。誓っていたしませんので、どうか、友人として接すること、秘書補佐の仕事をしていただくことをお許しください。娘さんと二人きりになることも、いたしません。身体を接したりもしません。どうか、どうか信じてください。お願いします」

 鮎美が礼儀正しく頭をさげた。

「「「…………」」」

 玄次郎も静江も介式も見ていて、どちらが大人なのかと思うほど鮎美は落ち着いていたし、鐘美と鐘留は子供だった。鮎美の誓いが効いて、泣きじゃくっていた親子は落ち着き、玄次郎は鮎美を心配しつつも、これ以上、鐘美と鐘留が娘のそばにいるのは望ましくないと考え、二人を立たせた。

「奥さんと娘さんを送ります。石永さん、残って鮎美をお願いします」

「はい、わかりました。運転、お気をつけください。くれぐれも、無理の無いように」

「ああ、ありがとう」

 玄次郎は鐘留と鐘美の背中を押しながら、鮎美を振り返った。

「鮎美、………お前は、お前のままでいいぞ」

「父さん……うん、おおきに。……うち、父さんの子で良かった」

 玄次郎たちが退室し、しばらく黙っていた鮎美は介式に頭をさげた。

「勤務を延長していただき、ありがとうございました。おかげで助かりました。どうぞ、お休みください」

「……。了解した」

 介式は退室しようとして、少し振り返った。

「同性愛者というのは不憫なものだな。……落ち込むな」

「……。うちは、うちのままでいいそうですから」

「そうか。よく休め」

 介式が退室すると、静江はカモミールティを淹れて、鮎美の前に置いた。

「どうぞ」

「おおきに」

 鮎美は礼を言って少し飲み、ソファに身体をもたげて目を閉じている。静江は音を立てないように自分のスマートフォンで長文のメールを打ち始めた。打ち終わって送信した頃、鮎美が目を開けて気づいた。

「石永先生に報告ですか?」

「いえ、お兄ちゃんにも、この件は秘匿しています」

「すんません。家族にまで」

「知る人間が少ないほど、秘密は守れるものです」

「……さすが、自眠党経験が長いだけありますね……日本一心党は、にわかで組織が弱いわ……。あ、でも、ほな、誰にメールを?」

「芹沢玄次郎さんにです」

「父さんに? 運転を気をつけいて繰り返して?」

「それもありますけれど、嫌な予感というか、ありがちな懸念があって、さっき緑野さんのお母様が変に玄次郎さんへ身をよせていたのを見ていますか?」

「うん……一瞬、どういうつもりなんって思うほどやった…」

「ああいうタイプの女性は危険です。あれで美人だから余計にタチが悪いし、しかも妊娠できない。そうなると安心して不倫できる」

「……父さんと?」

「しっかりした男性ですから大丈夫とは思いますけど、女の誘惑が巧ければ、男も一夜限りとフラつくかもしれない。とくに妻が妊娠中というのは男性は変な気を起こしやすいものなのです。なのに、あんな風に抱きつかれると危ない。もし、今の状況で万一にも不倫ということが起こったら、この後、どうなると思います?」

「……何もかもグチャグチャのドロドロやん……」

「そうメールで警告しておいたのです。それで万一の可能性も消しておける。娘さんも同じクルマで移動するのですから、ほとんど無い可能性ですけど、嫌な感じだったので一応」

「一応か……」

「女がその気になれば、一夜だけお願いとネダって関係し、その後、男を脅すこともできます。あの夜のことを奥さんに言われたくなければ、娘の子宮を差し出せ、どうせ、同性愛者で産まない気でいるなら、貸し出してもいいでしょう、娘がその気持ちになるよう促せ、でないと私との不倫を言いふらす、という脅迫も可能性の一つではあります」

「………女と男か………危ないもんなんや……」

「女と女でも、トラブルを起こしてくれますね?」

「うっ、すんません。静江はんも遅くまで、うちの不始末のために、ありがとうございます」

「どういたしまして。議員の下半身の世話ができてこそ、一人前の秘書なんて言われることもありますから。これからは芹沢先生を男性なみに危険だと思っておきます」

「………」

「あ、言っておきますけど、私、同性愛はぜんぜんダメですよ」

「はい、知ってます」

「なら、いいですけど、今、二人きりなので変な気を起こされても困るなぁって。うっかり下半身の世話と言いましたけど、手配はしても自ら奉仕はしませんから。あと手配も女と女は、ちょっと勉強不足です。今夜は一人で寝てください」

「…そこまで見境無いわけやないつもりなんですけど……」

 鮎美はカモミールティーを飲み、この際、想っていたことを静江に問うてみる。

「詩織はんがバイなん知ってはる?」

「はい」

「あの人、……うちのこと好きやって言ってくれてはるねんけど……」

「けど?」

「こんなこと言うたら失礼やし、あの人、仕事も頑張ってくれるし、すごい優秀で人脈をつくるんもピカイチやと想うけど………どことなく……どことなく、やけど……嫌な感じがするんよ」

「………はい、それは私も感じます」

 静江が真顔で頷き言う。

「牧田さんが秘書として有能なことは確かです。いえ、秘書というより執行役として優秀といっていいレベルです。けれど、私も接する機会は少ないものの、どことなく、なんとなく、すごく嫌な感じがします」

「……静江はんも感じてるんや…」

「はい、さきほどの緑野さん親子が、親子そろって人を人とも思わぬ嫌な感じの人であるレベルを超えて、なにか、もっと、より本当に人を駒や消耗品、悪ければオモチャやゴミとしか思っていないのではないかと……もしくは、この世のすべてを一つのゲームとし、自分はプレイヤーとして遊んでいるだけ、そんな風に生きているのではないかと………そう感じるだけなんですけど、感じてしまいます。具体的なことがなくて、すみません」

「………うち、あの人と………深い仲になるの、怖いんよ」

「その勘には従った方がよいと思います」

「…………。結局、……一人か…」

 鮎美がつぶやくと、静江は微笑んだ。

「私も一人ですよ、この歳まで」

「…ははは…そやね……焦らんとこ…」

「もうベッドでお休みください。私は隣室で休ませてもらいますけど、夜這いに来ないでくださいよ」

「はい。いろいろ、おおきに」

 鮎美は眠る前に相場を見た。金だけが上昇し1グラム5000円を超えていた。

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る