村へ
トレバーとキルケーは麓に近い搬入口から降り、森に入る。
その途端、異形の生物達が絶え間なく襲い掛かって来た。
それらをことごとく粉砕して進む。
トレバーは大首領の指示で用意された黒のバトルスーツに身を包む。
腰には一応、特殊合金製のマチェットをぶら下げていた。
全て手打ちの右ジャブのみで迎撃する。
最初は身構えたものの雑魚とわかれば武器は必要ない。
始末し終えた途端、藪から剣を振り被った犬の様な戦士が飛び出して来る。
犬の頭部を吹っ飛ばしてボヤく。
「たく、何だ? このヘボい怪人擬きはよっ……」
「ホント、雑魚いわ……」
ボヤキに隣のキルケーも同意した。
そして扇のレーザーカッターでローブの男に駆け寄って切り裂く。
なるべく世界に合わせる為、服装も頑張ったらしい。
フェイクファーのコートにボンテージ調のワンピースを身につけていた。
腰には束ねた鞭、手に持った愛用の鉄扇で飛来した火球を弾き飛ばす。
再び出て来た敵を一蹴しては道を急ぐ。
夕暮れまでに村に着きたいが、しばらく歩くと次の一団が現れる。
そういった具合で中々森から出られない。
衛星からの情報ではあと数キロで森を抜けるとの情報だった。
そこで村が見える予定とは違い過ぎた。
「やれやれ、ウォリアーとまでは言わんが、キットクルンジャーくらいの実力の持ち主なら退屈しなくて済むのに」
トレバーはあまりの弱さに退屈しはじめた。
集団で襲ってくる様子にあの組織を思い出す。
敵対組織、秘密地球防衛組織の
だが、集団戦時の多彩なコンビネーションと爆発力でたいがいは逆転されている。
「あんたバカなの? 連中とかち合ったら夕暮れどころか夜通し戦闘じゃないの! パス!」
愚痴にキルケーは呆れて、最短距離を行こうとして茂みを抜ける。
そこは開けた場所になっており、連山が良く見える。
中央には巨大な古木があった。
古木の上に即席の物見櫓らしき木造のツリーハウスが作ってあった。
「なんじゃ? こりゃ? ガキの秘密基地かよ」
ツリーハウスに居た皮鎧を着た男がトレバーを指差す。
メイスらしき鈍器を片手に何か怒鳴っていた。
トレバーはその態度と言葉に侮辱の臭いを嗅ぎ取った。
後ろに居たキルケーに下がっていろと伝え、古木に向かい全力で走り出す。
「人様を指差すんじゃねぇ‼ クソバカヤロウ!」
怒号と共に古木の幹に飛び蹴りを見舞う。
ツリーハウスが震動で崩壊し、上から数人が瓦礫ごと落ちてきた。
墜落のダメージで動けない犬男や小鬼、メイスの男を拘束する。
そして手首のスマートウォッチを起動させる。
「本部? 鬼神だ。捕虜を数匹確保した。基地に連れてって情報を吐かせろ。どこぞの集団が森に展開して偵察用の櫓を立てている。見つけ次第潰せ!」
「了解でさぁ! 大佐、キルケー様、ご武運を!」
腕の万能スマートウォッチから本部の管制室へ指示を出す。
多分、クリムゾンの配下だろうガラは悪いが気分よく返答する。
連絡を済ましたトレバーがキルケーに振り向き近づく。
「おし、キル、急ぐぞ」
「アンタが雑魚と遊ぶから遅くなるんでしょ?」
突っ込みを入れつつ、ニコニコと近づく雰囲気に一抹の不安がよぎる。
「それは済まんな……それでは我が女王陛下、失礼」
そう言うが早いか、キルケーをお姫様抱っこにして抱きかかえる。
そのまま古木を駆け上がり、一気に高く飛ぶ!
「ちょ、ちょっとーっ!」
そのキルケーは久し振りのお姫様抱っこに慌てる。
どこからか
全く気にするどころか渾身のドヤデレ顔で挑発する。
「よーい、しょぉぁ!」
トレバーは瞬時に手頃な高さの木を踏みつけてはバネ代わりにする。
そしてより高く飛び、ものの数分で街道に着地した。
着地後、キルケーを優しく降ろすと芝居がかった恭しさで森に手を向ける。
「ふぅ、さて、女王陛下の出番で御座います」
「はぁ? アンタ、やっぱり目立つように飛んだわね?」
デレた顔から瞬時に冷静になったキルケーが構えながら森を見る。
奥からかなりの数の異形が此方に向かい殺到して来た。
「何卒、まとめてお願い致します」
「お願いしなくてもやるわよ!!」
扇を構え、両方の鉄扇のモードを最大出力に変えて圧縮燃料を加える!
『ダボゥ・フレイム・トルネェェド!!』
二つの扇を大きく振りかざす。
途端に火炎と共に旋風が二つの巨大な火柱のような竜巻に変わる。
森から出てきた全ての異形達を巻き込み、高温で焼いて灰に変えて行った。
前回のウォリアー戦では出来なかった分すっきりした。
「これで後から来る
「楽しようとしてんじゃないわよ! しかも全部燃えちゃったじゃない!」
悪びれもせずに笑うトレバーを一喝する。
キルケーはイラつきつつ扇をパシッと畳み、夕暮れ前の村の入り口に向かい歩き出した。
村は太い丸太で作られた壁に囲まれて明らかに何かの脅威に備えていた。
「物々しいけど、丸太の壁って……チョロくない?」
「本来なら石垣とかだけど手っ取り早く丸太なんだろ……そこら中に切り株がある」
周りを見るとそこら中に切り株があり、元々ここらも森だった事がわかる。
「きゃぁぁぁぁ!」
突如、子供……女の子の叫び声が聞こえた!
塀の近く、街道より少し離れた所に木の実を籠に入れた女の子が立ち竦む!
歳は一〇歳前後だろうか?
ツインテールのお団子頭に青いエプロンドレスを身に着けておびえていた。
おやつか食料を集めに行った帰りだろうか? 木の実や果実がその場に転がる。
現場にトレバー達がゆっくりと近づく。
場合によってはどさくさに紛れて侵入するつもりだった。
その視線の先には巨大な怪物が居る。
全長五メートル程、金色の目をしたカメレオンのような爬虫類だった。
舌なめずりをしながら少女に襲いかかろうしている。
塀の上から槍を持った茶色いタンクトップとエプロン姿の青年が飛び降りた。
少女の前に立つと槍を突き出し必死に護ろうとする。
中々鍛え上げられた身体から突き出される槍は力強かった。
しかしそのへっぴり腰な構えは何の武術も修めていないのがまるわかりだった。
必死さに攻めあぐねたオオトカゲは金色の目の瞳孔を縦に閉じる。
金色の瞳が怪しく発光しはじめる。
光を浴びた青年が青ざめ、徐々に足先から石に変わっていく!
それを見た少女が恐怖で泣き叫ぶ……。
オオトカゲが少女に向き直り、脚をのそりと一歩踏み出した。
笑顔のトレバーがキルケーに尋ねる。
「おい、キル、ウォリアーごっこしたくね?」
「あら?
組織の大幹部とは思えない発言でトレバーの眉間に皺が寄る。
村に入り込む為の切っ掛けとして申し分が無いシチュエーションとみた。
トレバーは村人のしょっぱい素人攻撃如きに
"戦士たるものいつでも
それをモットーにする二人には十分な理由だった。
忍び寄る
それさえ動かなくなるとオオトカゲを必死に睨みつけた!
槍の抵抗が無くなり一気に少女に向かう。
「こぉの、ド珍獣がぁ!」
オオトカゲの横っ腹にトレバーの
いきなりの
泣き叫ぶ少女と石化しかかった青年が驚愕の表情を見せる。
塀の上では村人らしき歓声が聞こえた。
「ちっ、騒ぐ位ならテメェらが戦えっての……」
歓声を上げる村人にキルケーが愚痴りながら扇を持つ逆の手で鞭を持つ。
トカゲの瞼辺りをピシャっと横薙ぎ一閃し、視界を潰して光線を封じる。
「さて……簡易SMショーの始まりってかぁ?」
鼻歌混じりでトレバーは背負ったザックから拘束バンドの束を取り出す。
暴れるトカゲの両脚の関節をバンドでテキパキと拘束していく。
トカゲが苦し紛れで反撃に転じて口から舌を伸ばし、トレバーの右腕を捕らえた。
「ふん、カメレオン怪人みてー……唾液がきたねェなぁぁぁぁ!」
ブチ切れながらトレバーは唾液がしたたる舌をギチッと音を立てて握る。
そしてコードかロープを片付けるように腕にクルクルと巻き取り始めた。
容赦ない攻撃で苦しむトカゲにトレバーが近寄っていく。
口元まで来ると舌も拘束バンドでガッチリと束ねる。
「ぐ、ぐぎゃ」
舌を拘束され苦しそうなオオトカゲの口を今度は三重に拘束する。
最後は移動用ワイヤーで目隠しをする様にトカゲの目を完全に封じた。
石化が進む青年に少女が泣きながら何か言っている。
しかし、言語が違うためトレバー達にはサッパリわからない。
いきなりイヤフォンから呼び出し音が鳴り、堕天が話し掛ける。
「おい、大佐、言語翻訳ツールを試験的に作った。とりあえず使え」
堕天の指示通りにスマートウォッチを叩いて操作する。
「おう! じー様、ありがとよ」
礼を言うと二人は耳のイヤフォンに耳を傾けた。
『あんにゃ‼ おらを置いで逝がねでけろ!』
イヤフォンから
流石のトレバー、キルケーもそう来たかとスコーンと膝から脱力した。
「ミア、いい子で居るんだぞ? 誰が判んねんだげんと、そこの方、どうがこの子をお願いすます……」
迫る死に抗いながら青年は少女にそう言った。
その後、トレバー達に懸命に頼み込みながら石になっていった……。
『あんにゃぁぁぁ! うわぁぁぁん!』
石になった青年にしがみ付きミアと呼ばれた少女が号泣する。
どうやら二人は兄妹の関係らしい。
その横のトレバーが困った顔でスマートウォッチに問いかける。
「おい、じいじ」
「段々、ぞんざいな呼び方に成って行くな?……なんだ小坊主?」
笑いを堪えた堕天の声がスマートウォッチから返答する。
「此方の音声は出せて向こうの言語に変わるのか?」
「一応な」
ぞんざいなのはどっちだと言わんばかりにトレバーが質問を返す。
「今度は何処の方言だ?」
「くっ……さてな」
トレバーの文句に堕天は含み笑いを混ぜて返答した。
「もういい、しっかりデータ取ってまともなのに仕上げてくれ。今度しくじったら格下げだぜ?」
いい終えると咳払いして声を出す。
「ゴホン、えー、お嬢ちゃん? 俺、トレバー、こいつはキルって言うっちゃけど、こん村ん名前は?」
(じいじ……クソ爺に格下げ)
聞こえる方言にぼやきつつ優しい笑顔で尋ねた。
「ゲ、ゲシル村」
泣きじゃくりながらミアは一言呟いた。
「兄ちゃんな残念やったな、とりあえず村まで運ぼう。一緒に行ってくるかい?」
石像になった青年を運ぼうと手を伸ばす。そこにミアの制止が入った。
「だめ! 壊れだらあんにゃ死んですまう!」
「あ、え? これ戻るんか?! ゴメンな、おいだん、余所から来たけん判らんけん」
慌ててトレバーは手を引っ込めた。
(うはー、スゲーカオス……)
後ろのキルケーはやり取りを聴きながら困惑していた。
そして意図的に黙っていた。口を開けば何が出てくるかわからない……。
「あんバケモンどげんする? 要る?」
オオトカゲはがんじがらめに縛り上げられてゴロゴロと苦悶する。
トレバーは悶えるソレを指差して尋ねた。
「
涙と共にミアが叫ぶ!
「じゃ、おいだんが始末しとくばーい」
スマートウォッチにオオトカゲの特性を伝え、素材として回収を依頼した。
当然、
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