混乱と決意

 地震が収まったジャクルトゥ本部は混乱の極みにあった。

司令室で椅子に腰掛け、涼しげな顔の堕天博士が大首領に代わり指示を出す。


「各部署に通達、被害状況と攻撃対象についての情報を収集せよ! 報告は作戦司令室の大首領に!」

「じー様、びびってねぇけど……腰でも抜けたのか?」


同じく冷静に椅子に座るトレバーが笑って堕天博士を弄る。


「いや、常に死ぬ覚悟は出来ておる。あれが攻撃なら即死だろうさ、お前も私もな……」


弄るトレバーに返して博士はニヤリと笑う。


「やだねぇ……毎日、決死の覚悟のご老体と同じ現場とは……今度、合同生前葬でもやる?」


トレバーも笑って茶化す。

同じ様に日々死と隣り合わせの世界である。

死ぬ覚悟がなければ大幹部などやってはいない。


 そこにもう一人、豪傑が立ちあがる。


「どれ、ひとつ、外の様子を配下連れて見てこよう。獲物が居るかもしれん」


大僧正バクシアンはガウンのようなローブを纏う。

そのまま、ゆっくりと通路へ向かい歩いて出て行く。


 入れ替わりに各部署の戦闘員、作業員達より報告が入る。

虚空に映し出された映像を幹部達は見入った。


「AブロックからZまで異常破損箇所は一切ありませんでした。ですが……」

「ですが、なんだ?!」


口ごもる作業員に対し堕天が詰問する。

対して作業員は意を決したように報告を始めた。


「外部へ通信を取ろうとした所、全ルート不通になっております。もちろん衛星もロストしております」


 報告を聞いたトレバーがいきなりしゃがみ込んで怒鳴る。


「おい、メソッド!  お前、本部のメインフレームまでポンコツにしやがったのか?!」


そこで椅子の下に頭を隠して怯えるメソッドが居た。

地震が収まった事に気が付き、メソッドがスクッと立ち上がった。


「そ、そんなことするか!? 大首領の御指導と偉大な技術のもとに製作された我が組織、至高の芸術的能力スペックは常に完璧だ!」


目の色を変えてトレバーに怒り出す。

先ほどまでのヘタレっぷりが嘘のようだ。


「今、私も確認した。どうやら現在位置や外部状況まで一変しているようだ。諸君、至急戦闘態勢に移行し、動ける者で本部周囲を偵察して来るのだ。場合によっては戦闘も許可する」


 沈黙していた大首領が緊急指令を出す。

それを受けて堕天が立ち上がる。


「畏まりました、私も外に参ります。クリムゾン、貴方はヘリで周囲を廻ってくれませんか?」

「はいよ、ドクター博士、報告は首領にだろ?」


博士は手に取った最高級品らしい黒壇の杖を粋にくるっと回す。

察していたクリムゾンはヘルメットを持つと先に席を立ちドアに向かう。


「それでは俺も……」


 トレバーはよっこらせと立ち上がろうとする。

堕天は手を挙げて立ちどまり、トレバーを制止した。


「大佐は至急ラボに行き調整槽に入って貰おう。お前が万全なら我々は大概の相手に勝てる、と共に休息を取れ」

「「ジジイ、コレを勝手に嫁認定すんな!」」


トレバーとクリムゾンが同時に怒鳴る。


「コレとは何様のつもりだ‼︎ ポンコツ三等兵がッ!」


呼応するようにキルケーが鉄扇でハリセンの如くトレバーの頭をバシィとはたく。


「つっ?!  何さらす! この露出狂痴女!」


怒れる包帯姿のキルケーに向かい、満身創痍のトレバーが突っかかる。

クリムゾンに至っては腰のナイフに手を伸ばす。


 騒がしくなった広間に大首領の雷が落ちた。


「いい加減にしろ! 両名、部下と共に治療を受けてから活動したまえ!  堕天!」

「は、大首領、調整槽と共に治療ブースも準備しております。直ちに馬鹿ップルを叩き込んでおきます。クリムゾン、行きますよ」


 ヤレヤレとした表情で堕天は指を鳴らす。

ドアの外で控えていた白衣を着た研究員が複数現れた。

わらわらと集まり、トレバーとキルケーを取り押さえる。

どさくさにナイフを抜いたクリムゾンもついでに連れ出して行った。


「うむ、メソッド!!  大至急、解析と反応炉を使えるようにしておけ!  場合によっては切り札の爆弾として使うかもしれん」


騒動のタネどもが消えた事に満足するとボケッとしていたメソッドの尻を叩く。


「は! 畏まりました!」


メソッドは返事をすると慌てて研究セクションに戻って行った。


「では、大首領、行って参ります」

「うむ、任せたぞ」


大首領の声を背中に受けて堕天は杖をつきながら立ち去って行った。


 数時間後、幹部や偵察隊から数々の報告がもたらされた。

基地を取り巻く情報は大首領をも驚愕とさせる。

まず、第一報は大僧正バクシアンの部隊から送られた。

日本の山岳地帯にあった本部は、標高の高いどこかの岩山地帯に移動されていた。

それもかなり高い標高で少なくとも日本の山岳部ではない。

基地の近場に湖を上に頂いた滝を発見。

水量も豊富な為、水力発電や水の確保が出来そうであった。

周辺に既存の動物ではない生物の発見等、様々な報告が多数もたらされた。


 第二報はクリムゾンから映像通信で送られる。


「格納庫も岩に閉ざされています。岩盤爆破して解放した第三格納庫しか使えません。ここの山々はヨーロッパのアルプスみたいな岩山になっていて所々に積雪さえあります」


周囲偵察察ヘリで回りながらクリムゾンは偵察して行く。

周辺は誘導ビーコンもなく視野も悪い。

だが、卓越した技量で補って遂行する。


「それと基地からそう遠くない所に小さな寒村を発見。灯りと煙が見えたから人は居る筈です。大僧正のチームの報告にあった見たことの無い鳥類や山岳地帯の生物を視認しました。それでは帰投します」


 最終報告は堕天博士より直接あった。

これが一番の吉報であった。


「まず、クリムゾン隊の協力により、基地周囲の山々の岩石には多数の資源が含まれておりました。銅鉱石どうこうせき軟マンガン鉱なんまんがんこう珪石けいせき蛇紋石じゃもんせき閃亜鉛鉱せんあえんこう紅砒こうひニッケル鉱、そしてチタンのイルメナイトの鉱脈が確認されました。追加調査、採掘許可を頂ければメソッド技研から採掘マシンを調達し、直ちに採掘に着手できます」


堕天博士はタブレットのデータを興奮気味に報告する。

その姿は未知の物を探求する学者そのものであった。

大首領は調査結果の詳細データを送られると精査しながら尋ねた。


「ほう? 大概の鉱脈か……どの程度の規模かね?」

「推定で世界規模級重工業メーカーの生産資源を五,六年は十二分に賄える規模と思われます。周辺にはレアアースの反応もございます」

「おおっ、ここは宝の山か……」


 堕天博士の興奮や大首領の驚きも無理も無い。

地球防衛組織キットや各国政府機関が資源や物資の流れを細かく調査している。

ジャクルトゥの動きや基地の位置をつかむためだ。

怪ロボットや戦闘マシンを作るにはそれ相当の資源が要る。

資源物流の流れを追えば自然に位置や何を作っているか特定できる。

そのために物資供給がままならない。


 その為、メソッド技研が秘密裏に世界各地の鉱脈からの盗掘を始め出した。

それに加えて破壊されたメカや放置されたスクラップを拾う。

前線部隊に今回の様に物品の強奪を頼むなどやりくりしていた。

だが、如何せんそれも限度があり、資源の再生や使いまわしが多過ぎて性能が劣化してしまう。

それゆえにトレバー達、最前線で立つ幹部達からこぞって不評や苦情が押し寄せて来る。

彼らにポンコツ、ガラクタと呼ばれる所以ゆえんだ。


 博士の興奮はまだ終わらない。目を輝かせて次の報告を始めた。


「続いては生物です、我々が知る生物や動物の類とは似ていますが、別の生命体と思われます。大僧正の部隊と共に数種類を捕獲しており、解剖、遺伝子解析、生態の観察を速やかに調査中で御座います」

「ふむ、改造や食料の為の調査、増産は直ちに許可する。着手を頼む」


堕天博士はその結果で新たなる怪人や新成分の開発に繋がることを狙っていた。

大首領は意図をふまえて同意した。


「畏まっております。報告のありました寒村ですが、調査員として蜘蛛型、蝙蝠型の怪人二名を隠密調査に向かわせました。母国の時代劇のような風景で苦笑しましたがね……」


 元々堕天博士はコードネームである。

本名はヴァレリー・ハインツと名乗っていた。

出身で、某大国の秘密研究所で研究に励んでいた。

敵国スパイにより研究所と研究内容生体改造がマスコミに発覚する。

そこで自死を偽装し、勧誘があったジャクルトゥに移籍してきたのだ。

その後は作戦や研究員のスカウトも兼ねて世界を巡回していた。


「ああ、確かに欧州中世時代の風景だな」


虚空に映し出されたされた映像データを見ながら、大首領も肯定する。


「送り込んだ調査員の結果で判明します。これは私の愚考ですが、我々は何者かの手により、異世界、別世界に転移したものと思われます」


堕天博士はタブレットを閉じて赤く光る大首領のレリーフを見つめた。


「やはりそうなるか……」

「大首領もお気づきで?」


 堕天博士の推論に大首領もうすうすは感づいていた。


「ああ、我々に対して攻撃の意志ではなく、何かの目的があってここに連れて来たとしか考えられん」


紅く点滅する光と声だけが大首領の感情を推し量る事が出来た。

明らかに不愉快な感情がその言葉にはあった。


「私もそう推論いたします」

「ならば、我々らしくこの世界を制覇してやろうではないか? なぁ? 堕天よ」


堕天に呼びかける大首領の不愉快そうな言動はそのままだった。

だが、厳しくなっていた組織活動が立て直しどころか増強される。

相手の意図に乗ってやるのも手だと大首領は考えた。


「御意で御座います」


 大首領の宣言に恭しく堕天が同意を示す。


「兎も角だ、この現状で本部を完全稼働状態にする。手始めに近場の湖を水源にする為に水質調査せよ! メソッドに掘削マシンで格納庫に通気口、水道パイプを敷設しろ」


本気になった大首領の指示が飛ぶ。

堕天が適切な部署へ命令していく。


「畏まりました」

「なお、通気、水道口は機密性が高い設計を施し、途中に科学調査設備と監視室を設けよ。仮に敵が存在するのであればそこから攻め込まれる、もしくは毒物、放射能性物質を送り込まれる可能性がある」

「御意」


次々と大首領からの指示が飛ぶ。本部は瞬く間に十全な機能と戦力を確保しはじめた。


 しばらくして、メソッドが報告に大広間に現れた。


「大首領、反応炉の解析が終わりました。いつでも稼働や複製も可能です」

「ほう、それでは反応炉を動力室に運びこめ! メイン動力になるように敷設せよ」


その命令にメソッドは湧き出る汗を拭いて諫言する。


「えっ、恐れながら……反応炉を起動させると熱量と特殊な電波波動で敵に本部を特定されますが?」

「後で説明する。敷設が終わり次第、旧式でも構わないから通信経由機能がついたスパイ衛星を複数個打ち上げろ。それに伴い全格納庫、滑走路を復旧しろ」


有無を言わさず大首領の指示が下された。

しかし、メソッドは情報を知らないため指示に抵抗を見せる。


「はぁ、人員が厳しいのと……それも発見される事に……」

「人員は大僧正とトレバー、キルケーの部下を使え、私の指令と言えば応援に来る筈だ。敵の索敵については多分問題ない。治療中のトレバーに強化服を用意しろ。高出力対応型奴のお気に入りではなく安定防衛型を持たせろ」

「畏まりました。直ちに」


山積みになった任務をメソッドはイモムシのような指でタブレットを巧みに操作し始める。

大首領の注文を的確に部下達に伝えた。

その後、異世界に転移したらしい事を伝え、資源採掘への注力を命じた。


「ははぁ、畏まりました! 採掘マシンをフル稼働させて取り組みます!」


 注文が終わり、汗をかきながらメソッドが広間を出る。

入れ違いで二人組が入って来る。

後ろに金髪を束ね、服装をラフな白いTシャツにデニムを履いたトレバーだった。

後ろには白地に黒い菊をあしらった浴衣を着たキルケーが付いて来た。


「大首領、鬼神及び戦魔女両名、戦列に復帰しました」


大首領の前でキルケーは恭しく頭を下げ報告する。


「待ちかねたぞ、さて、両名の任務だが……その前に現状把握して貰おう」

「ああ、大首領それには及ばんよ。治療カプセルの中でじー様博士から話は聞いているぜ」

「コラッ」


早速、本来の伝法な口調で応対してキルケーに小声で注意される。

だが全く気にしては居ない。

大首領もらしくない横着な態度でそれに答える。


「おお、ならば話が早い。貴様らにはスパイ活動を担って貰う」

「おいおい、俺は一応傭兵だが……キルに到っては元環境テロリストだぜ? スパイなんざ商売にしていないぜ」


トレバーの意見に対し大首領は楽し気に反論する。


「では君に聞く、堕天や大僧正、クリムゾンに任務が務まると思うか?」

「…………無理だな、それで俺らか……」


大首領の答えに一瞬言葉を詰まらせたトレバーは苦笑して納得する。


 堕天博士なら好奇心旺盛過ぎてそのまま調査に没頭してしまい。

バクシアンやクリムゾンでは調査やサバイバルには不向きだ。


「納得してくれたようだな」

「しゃーねぇな、目標は寒村かい?」


頭を掻きながらトレバーは了承し、打ち合わせに入った。


「ああ、そこ経由でそれなりの規模の街か人口密集地に行ってもらう。情報や隠れ蓑を作り、遊撃任務も兼ねてもらう」

「そりゃ構わんけど移動手段が無いぜ?」


トレバーは困惑しながらも指摘する。


「とりあえず、調査対象の文明レベルと文化次第で用意する。そのための調査だ」


取り付く島もなく大首領が強引に押し切った。


 そこに堕天が二人の男を連れて広間に入ってきた。

一人は首から三角巾で腕を保護し、もう一人の衣服は一部焼焦げている。

二人は後ろに片膝で傅いて待機して、その前で堕天が報告する。


「大首領、例の寒村からの先行偵察が戻りました」

「ほう、どうだった?」

「まさに異世界でした。言語が地球上のどの言語とも該当しない、文明レベルは中世……ですが、大きく違う点が一つ」


困惑の表情ありありと堕天博士が報告する。

その言い回しに大首領が聞き返す。


「何だ? その一つとは?」

「……魔法の存在です」


一瞬逡巡した堕天博士が真顔で報告した。


 微妙な空気が流れる中、トレバーが大笑いで突っ込む。


「おい、じー様よ、この展開でテンション上がりすぎてラリっていると思うけど……流石にやばかねぇか? 魔法って」


研究対象が多すぎて浮かれすぎと思ったのだ。

笑って博士も答えた。


「おい、大佐小僧よ、流石の私でも魔法は守備範囲外だ。大僧正なら何かわかるかもしれんがな……お前、今すぐ降りてって黒焦げになってこい。お前の身体でデータを獲る」


トレバーと堕天、お互いが顔を見合わせながら苦笑する。


 報告によれば十分な言語データと生活・技術映像を採取に成功。

村から撤退する所で怪人と思われる一団に遭遇した。

その際、何か訳のわからぬ言葉と共に火の玉を杖から放ってきた……らしい。


「映像は?」


トレバーが尋ねると解析が終ったらしく、虚空に映像が映し出される。


 映像では森の中を流れる川縁で怪しい頭からローブを着た男の一団が騒いでいた。

此方を向き、なにやら叫んでいる。

一団の中にいたのは犬がそのまま二足歩行し、シミターを持った姿の生物だった。

それを見たトレバーや堕天が顔を見合わす。

組織の怪人系統に存在しないからだ。

童話から出てきた小剣と盾を持った小鬼ゴブリンのような存在が脇から走って来た。

此方に向かい武器を振りかざしながら斬りかかって来た。

するとカメラの下から糸が噴出され、走り込んできた二匹を絡め取る。

しかし小鬼に盾を投げられて肩に当ったらしくカメラがあさっての方向を向く!

画面にいきなり、両手にポールを伸ばし、身体側面に沿って皮膜をつけた男が移る。

ヘルメットに集音マイクをつけた姿はどことなく蝙蝠を連想させた。


 彼は組織の改造人間、強行偵察仕様の蝙蝠男であった。

蝙蝠が手を差し伸べて腕を掴むと空に急に舞い上がる。

本来蝙蝠タイプは滑空能力しかない。

今回のみ脱出用として超圧縮空気排出機を背中や足に装備してあった。

常に敵の存在を念頭に置くのは組織の基本行動だった。


 再度、襲ってきた一団を見るとローブを着た男がなにやら呟いている。

手に持った杖にボール程度の大きさで火が灯る。

それが丸く回転した球状になった。

杖を振るとその火球がこちらに向けて発射され蝙蝠の背中の圧縮機に当り落下する。

地面が近づく瞬間に再びカメラの下の糸が噴射される。

糸が樹の上に引っかかり辛くも墜落は免れた。

そのままスイングしながら逃走に入ったところで映像は終っていた。


「これは……怪人か?」


 大首領が率直な疑問を口にする。敵方に見た事のないタイプを見れば困惑もする。


「我が方の戦闘怪人では御座いませんな。これらの生物タイプはこちらには存在しません。勿論、国際防衛組織キットが生物兵器を採用した情報もありません。異世界ですなぁ」

「では、そういった組織が他に?」


大首領に博士が語り掛ける。自分達と同じ属性の悪の秘密組織の存在を意識したのだ。


「ここに存在している可能性が御座います」

「ふむ、至急、資源採掘と戦力増強が急務か……」


 広間に大僧正バクシアンが慌てて入って来た。


「何? 魔法使いが現れただと?」


魔法使う輩が現れたと聞いて飛んで来たのだ。

椅子に座ると提供された映像を見はじめた。


「我が主、邪神の眷属神が使う言語に似ている。我が呪術に詠唱が近いな……」


バクシアンは頭を撫でながら画面を見据えブツブツと呟く。

専門家らしく指で作る印や現象の際に起こる全てを分析する。

何かわかりそうな期待を込めて堕天が話し掛ける。


「では大僧正、ここの住人達の言語を聴いて貰って意見を言って貰おうか?  翻訳のヒントになるやもしれん」

「あいわかった。及ばずながら協力致そう。その前に我が主に祈りを捧げて教えを請いたいのだ」


 バクシアンが快諾し、祈りの準備に取り掛かるべく自室に戻ろうとした。


「おー、オッサンの神さんは此処でも力になってくれるのか?」


異世界でも神通力は在るのだろうか? 

トレバーの疑問が口に出る。


「我が主は偉大だ。故に此処の世界にも顕現される筈……若しくは我が神の座す世界かもしれん」


バクシアンの瞳には狂気満ちた歓喜の輝きが有った。

それを察したトレバーはざっくりと頼みごとをした。


「わかったよ。とりあえず神さんの縄張りなら俺らを敵認定しないように……自由に活動出来るよう取り計らってくれよ」


勧誘や説法をされては敵わない。やんわりと持ち上げて送り出す。


「あい、わかった! 任せてくれい」


そう言い残してヤル気みなぎるバクシアンはサッサと帰って行った。


 すると今度はメソッドから連絡が入った。


「大首領! 格納庫、滑走路を覆う岩にイルメナイトが大量に含まれておりまして、出来れば精製工場セクションを増築したいのですが……」

「構わん! やりたまえ、最優先で石油を発見せねばなるまい。偵察調査ドローンを出して近隣をくまなく精査しろ! 見つけ次第採掘せよ!」


大首領の激にメソッドがははっ! と返事して画面から消える。


「採掘地点のあてはあるのかい? 大首領?」


 トレバーの尊敬のかけらもない口調にイラついたキルケーがとうとう怒り出す。


「トレバー!  いい加減に大首領にその口の利き方はお辞めなさい! 大首領のお心遣いで処罰されずに済んでいるのに!」


ところがトレバーは気にもせずに言葉を返す。


「あのな、大首領と専属契約の条項に口調はタメ口でやりとりするのが契約条件の一つなの!  俺がですます調の敬語でやり取りしたら調子が狂うだろう?」

「アンタ、そんな契約してんの?」


呆れ返ったキルケーが金髪の無精髭の男をじっと見る。

当の本人は悪びれもせずに傭兵時代にあった勧誘の交渉の一部を話し出した。


「身体を強化改造はOKした。だが脳改造と口調はノータッチも条件だった。俺、末期ガンだったから身体は改造されないと死んでたしな……。脳改造されると戦術や戦略の発想の固定化につながるからNGを出して理解して貰った。だよな? 大首領」

「そうだ。私が承認した」


 大首領の言葉にキルケーの瞳が驚きで大きく開く。

仕方なくトレバーは説明を始めた。

脳改造で忠誠を固定化することが可能である。

だが、勝利する為、柔軟で想定外の発想にはたどり着けない。

例えば大首領立案の作戦への厳しい諫言が出来なくなる。

増援依頼や土壇場で作戦の変更も困難になる。

名うての傭兵だったトレバーは交渉の際にそれを指摘した。


「流石に当初は私でも困惑した。だが、その指摘は理にかなっている。戦果も伴っているしな。まぁタメ口は特権だな……」


大首領信奉者の筆頭である堕天もそう認めた。

ドヤ顔でトレバーがキルケーを見る。


「なるほどねぇ、けど、もう少し配慮してくれない? 事情を知らない幹部や配下から暗殺されても知らないよ」


 感心してキルケーは納得した。

ただ、苦言はきっちりする。


「畏まりました。大幹部様」


トレバーはふざけて返した。

ムッとしたキルケーを置いてそのまま大首領に向き合う。


「で、大首領これから行って来るぜ。土産は何が欲しい?」


笑みを浮かべながらトレバーは未知の世界に心が躍っていた。













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