19 ハチミツ水いるか?

「収穫はあったか?」と戻ってくるなりふたりに訊くミュトス。デュカスが答えた。


「簡単にはいかないさ。どこ行ってたの?」


「賢者の集いに。こっちはいくらか収穫……、と言っていいかは微妙だが得られた話がある。……どうも潜伏場所が森の中というのは可能性として低いそうだ。どちらかと言えば亜空間の方が高いという意見が多くを占める」


「亜空間?」とリヒト。


「別の空間を設ける魔法があるんだ。かなり高度な魔法だ。一歩間違えると出てこれなくなる」

そう解説するデュカス。


「ストラトスには?」


「会った。一緒に飯食って来た。そこにジェナルドが来たから変な食事会になった」


ミュトスは驚きの表情を見せる。


「……え? そうなのか……、何か言いに来たのか?」


「お前を実験台とは思ってないと」


「わざわざそれを?」


「あと期待してるとか何とか」


「あの人がねえ……」


「ま、俺の法力を見に来たんだと思うよ。店近くの丘にラックスもいた。彼らなりの出迎えだったんじゃないかな」


「ドラゴンたちは協力してくれるって?」


「そっちはだめだった。その時にならないとわからんて」


「そうか」


「まあでもいい雰囲気での話だから、わるくはない」


「人間界の危機だからな」


「その集いにネオストラーニは?」


「いや、来るわけがない。あの人は城にこもったままだ。私も月に一、二回、目にするだけでな」


「ミュトスは城には行かないの?」


「一回行ったがもうとにかくタバコ臭くて二度と行きたくないね」


「ほえー」


「もしかして相談しに行くのか?」


「意見は訊いとかないとまずいって面もある。王族と担当賢者の関係上」


「しかし代表がフェリル入りを禁じているのなら無理に行かなくても……」


「一応、ラックスにはネオのところに相談に行くって電話は入れとくさ。でもジェナルドの考えは王宮はだめって意味だと思うよ。助言を乞うためって大義名分があればいいんじゃないかと」


「だといいが」


「俺も行きたくて行くわけじゃない。無視するみたくなるのはまずいという判断」


反論はなく、ミュトスはひとまずは納得したようだった。彼は別の話に切り替えた。


「……訊きにくいことを訊くんだが、お前とネオとの関係はどうなっとるんだ。人によって話が違う……何やらデリケートな案件のようだし」


「……長い付き合いだからいろいろあるさ。山あり谷ありで。いまは谷」


「のようだな。暴走が原因……?」


「知らん。あの日以降フェリルに戻ってないからね。寝てる間に拘束されて、気づいたら牢屋の中だった」


「ああ……、そういうことか」


「一面として、賢者会から管理責任を問われたりしたんじゃないかな? 査定にマイナスなのは明白だ」


「正確なことを知らんので私の口からは何とも言えん」


「ジェナルドに聞いときゃよかったかな」


「いや話さんだろ……内ないの話だから」


リヒトは不思議に思いミュトスに尋ねた。

「同じフェリルの担当賢者なのに、めったに会うことがないんですか?」


口ぶりからすると会話さえないようではないか。


「あの人の本職は魔法の研究。私が着任してから本人の希望でモロゾフ王がそう決めたんだ。賢者会との連絡や戦闘系のカウンセリングは私に一任され、いまもそのままになっている…… 変更するとしたらその決定権はデュカスにある」


「忘れてた。そういうことがあったなそういや」


「私は現状で何も問題はない」


いやそうじゃないでしょう。リヒトは少々苛立った様子で私見を述べた。

「デュカス王子」


初めて王子を付けた。へ?という顔をするデュカス。


「あなたいい加減すぎます」


デュカスは一瞬無表情になり、リヒトに向け中指で何かを弾く動作をし、ふん!と言って自分の精神集中の作業に戻る。


ドアをノックする音が響いてリクサスが部屋に入ってくると、彼はリヒトを見つけ、歩きながら彼に声をかけた。


「リヒト、フェリルのハチミツ水いるか? いるなら頼んどくが」


フェリルのハチミツはシュエルでそれなりに評判のよい地産品である。


「いまはいいですクマ。頭にきてるクマ」


「どうした?」


「あなたのところのクソ王子が呪いをかけたんですよクマ。絶対許さないクマ。違法なのにミュトスも黙ってるクマ」


「おいおい知るかよ」とミュトス。


「なぜ叱らないクマ?」


「お前がわるい」


「事実を言っただけクマ」


「わかったわかった、どうせ十分くらいなもんだろそういうのは。黙ってればいいさ」とリクサス。


「いいえ黙らないクマ。言論の自由を力のかぎり行使するクマ」


リクサスは怒るエルフを放っておいてデュカスに歩み寄っていき、彼もまた同じことを尋ねた。


「ドラゴンの返事はどうだった?」と。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る