2

 あのあと。

 1回目に通った道は使わなかった。人通りの多い道をそのまま歩いていたら、背後で大きなトラックーー1回目の時に菜々人を引いたトラックだーーが猛スピードで道路を通り過ぎていった。

 …なんとか、1回目の光景を再び見ることなく済んだのか。


 菜々人の話も、ましてや入学式の内容なんて全く頭に入ってこなかった。

 今日の朝起こった出来事を思い出して整理するだけで半日経っていた。


 帰り。

 まだ信じられない。

 菜々人が隣にいる。俺と一緒に歩いてる。


「3年いなかっただけで随分変わっちゃったんだねえ、お店とか、知らないところだいぶ増えてる。」

 隣で菜々人はキョロキョロしている。

 俺はあれから神様に言われたことを何度も反芻して少しずつ頭の中の整理をしていた。


 実際、不安しかない。

 菜々人が死ぬタイミングなんて予想できないし俺が一緒にいるタイミングじゃないと死んだ理由がわからないまま朝に戻ることになる、それはだいぶ…きつい。

 救うことができる確率がだいぶ下がるだろう。

 あとはどのくらいの頻度なのか。毎日死に直面するとしたら精神的にもきついものがある、し、毎日どころか1日に数回ある可能性だってないとは限らない。

 しかもこのことを菜々人に伝えようとしたら頭痛がする上に声が出なかった。つまりはそういう仕様だ。

 本人は無自覚のまま過ぎていく。


 頼れる人なんていないらしい。


 …いっそ告白とかして付き合ってしまおうか、そうすれば四六時中一緒にいるのに理由はいらなくなる……


 でも、もし断られたら?逆に一緒にいることができなくなるしそうすると救える確率なんて格段に下がる。

 とりあえずは様子見か…


 …そういえばさっき、だいきらいって…言われた…?

 きらい…きらい!!?

 っぶない。告白なんかしてたら断られるところだった、それは自分の精神的にも救う確率からも遠慮したい。

『一番仲のいい幼馴染』の関係性でいくしかないか…


「…り、灯!また話聞いてくれてない!」


「え、あ、ああ、ごめん、考え事してた。」


「…なんか、さっきは久しぶりに会えて嬉しくて泣いてたはずなのにな…それからの感想が薄いな…」


「ほんとに、ちょっと考え事してただけだから、ごめんって。」


「…まあいいけど。

 あ、あのさ、少し聞いておきたくて。」


「ん?」


「…灯はさ、か、か、彼女とかって、いるの…?」


「え、いや、いないけど…」


「!!!!そっか!そっかー!!」


「…なんだよ、その顔。」


「えー?いや?彼女いないんだーって思いまして、」


 菜々人はニヤニヤしながらこっちをみてくる。こんなおちょくられてる場合じゃないんだけどな…


「そういう菜々人はどうなんだよ。彼氏、いるの?」


「え、い、いないよ!!いるわけないじゃん!!」


「…なんでそんなムキになってるんだよ。」


「な、なってないもん!べつに!!」


 ふーん。彼氏、いないのか。そっか。少し安心した。


「灯、そしたらさ、朝とか一緒に学校行かない?

 なんていうかこっち久しぶりだし灯とはずっと家近いし、その、私朝弱いし…」


「最後の朝弱いが一番の理由だろ。」


「ば、ばれた!!」


「まあいいけど。そっちの方が都合がいいし。」


「…都合がいいって…?」


「あ、なんでもない。」


 とりあえず朝は一緒にいることができそうだ、それにクラスは一緒だった、問題は帰りと休みの日だな…


 菜々人は隣でずっとニヤニヤしている。


「…そんなに僕に彼女がいないことが嬉しい?朝起こしてくれる人間がいることが。」


「へ!!?あ、そういうわけじゃないよ?」


「じゃあなんでそんなニヤついてるんだよ。」


「……ひ、久しぶりに会えたから、かな?」


 …そんなこと言われたら俺までにやけそうになる…でも、


「僕のこときらいなくせに…」


 口に出ていた。


「え!なにそれ!なんで!!?…っ!

 …たしかに…灯のこと、その…き、きらいだけど…」


 …本人の口から直接言われるって、きつい。


「!あ、でも、そういう悪い意味じゃなくて…その、なんていうか…その…」


「……別に、大丈夫だよ、菜々人になに言われても。」


「え、あ、えっと…ごめんなさい。」


 なにこの微妙な空気。気まず。


「あ、私こっちだから、ここでバイバイだね。」


「あ、ああ、そっか。」


「…じゃあ、また明日ね。灯。」


「ん。また明日。」


 ここで今日はお別れだ。このあと何にもなければいいけど…


「灯!」

「私、今日灯に会えてよかった!!

 …その、ずっと不安だったんだ、3年ぶりだし、急にいなくなっちゃったから、灯怒ってるんじゃないかなって。それに、すごい変わっちゃってて、私のこと忘れてて彼女とかいたらどうしよう、って。私と一緒にいたくないって言われたらどうしよう、って。

 でも!灯は灯だったし。優しいところも変わってなかった、久しぶりに会えてすごい嬉しそうにしてくれた。

 それがすごい嬉しかった!また一緒にいれることが嬉しい!ありがとう!!」


 こいつ、大声で…

 すっっっごい恥ずかしいな…


「それだけ言いたかった!じゃあまた明日ね!!」


 …やっぱり、何が何でも菜々人を救わなくちゃ。

 そして。無事3年が経ったら…その時は。


 僕から、告白、しよう。

 だいきらいなんて言わせない。

 大好きって言ってもらえるように、3年間、頑張らないと。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る