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4月7日
高校の入学式だった。
僕は浅葱
菜々人とは保育園の頃から一緒で、家も近く、一般的には幼なじみと言われるような関係だった。
しかし、小学校六年生の卒業式、菜々人は学校には来なかった。
引っ越した、と聞いた。両親が離婚したらしい。原因は父親のDV。
僕になにも言わずにいなくなったことがショックだった。約二日間部屋に引きこもるくらいには。
僕は菜々人の事が好きだった。
中学に入学してからは僕は友達を作ろうとは思わなくなった。と言っても、今まで社交的な菜々人がずっと隣にいてくれたおかげで友達ができてたようなものだから、僕だけだと友達なんてできない。
高校でもそんな1人での生活を過ごすものだと思ってた。
両親には入学式には来ないでいいと伝えていたので、周りが家族と登校している中、1人で通学路を歩いていた。
その中で、僕と同じく1人で歩いている女子を見つけた。珍しい。…え?
………菜々人…?
女子も僕の視線に気づいた。
…やっぱり菜々人だ…!?なんで…?
「…
菜々人は僕に抱きついて来た。
「灯!!会いたかった!!
久しぶり!身長大きくなったね!私より小さかったのに!!なんかすごい大人っぽくなった!!3年経つと
「ちょ、ちょっとまって…
菜々人…だよな?」
「え、うん!浅葱 菜々人だよ!…え?忘れてる…?え…?」
「いや、覚えてるよ、久しぶり。
でも、なんでここにいて、その制服を着てるのかがわからない。」
「…なんか灯、冷静すぎない?久しぶりに会えて私はこんなに嬉しいのに、なんかムカつくなあ。
中学卒業して、こっちに戻ってくるってなったから、この高校を受験したんだよ!
これでいい?」
「…わかった。
僕もちゃんと会えて嬉しい。
これから、またよろしくね。菜々人。」
「…へへへ、なんか本当に大人っぽくなったね、私も灯の成長を見てたかったなあ〜!
結構この街も変わっちゃったみたいだし、…あ!そうだ!入学式終わったら街案内してよ!ね!!」
「わかったわかった、
…こっちの道のが人少ないから、こっちから行こう」
同じ中学出身の人間も周りにはいたので、裏道から行くことにした。
「………でねー、連絡とってたから
…やばい、にやけそう、思ってたよりも嬉しすぎる。隣に菜々人がいることが…嬉しい。
「あ!やばい赤に変わるよ!早く!灯!!」
「え?あ、ちょっと菜々人!?」
横断歩道が赤に変わろうとしてる。菜々人が走って渡ろうとする。
それに続いて僕も走ろうとする。
でもーーーーーーー。
気づいたら、菜々人は倒れてて。
血だらけで。
腕が変な方向に曲がってて。
大きなタイヤが落ちてて。
横断歩道が真っ赤で。
真っ赤で。
真っ赤で。
な、な…なと……?
菜々人!!!!?
僕は菜々人に駆け寄った。
菜々人は、うっすら目を開けてー
「あ…かり…?いる…?」
「菜々人!?聞こえる!?わかるのか!?」
「わた…し……
あかり…のこ…と………
ずっ……と……………」
「菜々人!喋るな!!喋らないでいいから!!!」
「だ…い………
きらいだった…………。」
……え………?
菜々人は笑顔で目を閉じた。
「ちょ…え?な、菜々人…?え?起きろよ…!目を、開けろよ…?
菜々人?菜々人!!!」
意味がわからなかった。
嫌いって言われたことじゃない。
なんで菜々人がこんなことになってるのか。
思考が追いつかなかった。
ただ、生き返らせなきゃ、と思った。
何があっても。何をしても。
…神様……
なんで菜々人なんですか。
僕でいいだろ。
なんで僕じゃないんだ。なんでなんでなんでなんでなんで!!!!
いますぐ菜々人を元に戻せ。
もし戻さないのなら僕は…人類を全て殺す。
全部、全部、全部壊すーーー。
いまこうやって思い出してみると失笑だ。
神様を信じているわけでもなかったし、人類を全て殺せるわけでもない。
でもこの時は、本気でそう思った。
僕自身を、世界すべてを、恨んだ。
問題はここからだ。
神様なんているわけがない。
菜々人は死んだーーー
そして僕は人類すべてを殺すーーー
はずだった。
カシャンッ
周りの音なんか何にも聞こえなかったのに、その音だけはやけに耳に響いた。
ふと顔を上げると近くに古臭いケータイが落ちてる。
プルルルルルルルル プルルルルルルルル
そのケータイが着信音を鳴らしている。
周りの音はいまだに何も聞こえない、世界が僕だけになったみたいだ。
でもその着信音だけはやけに響いてくる。
僕はそのケータイを手に取った。
非通知からの着信。そんなことしてる場合じゃないってわかってるけど、取らなきゃいけない気持ちに駆られた。
……はい。
『こんにちは。神様です。』
「………」
『あれ?反応なし?さみしいな?神様さみしいんですけど!!?』
「…………聞こえてます。」
『なんだよ、反応してよ!変なテンションになり損じゃん!!』
「…誰ですか、あなた。」
『だから神様だって言ってるじゃん。』
「…どういうことですか。」
『まあ〜、詳しく話すと長いんだけど、
要するに君の想いは私に選ばれたってことなんだよね!』
「…」
『いや、無理だとわかってはいることだけどさ、人類すべてを殺されたらこちらとしても困ってしまうので。』
「…!」
『わかってくれた?だから救済措置を取ってあげようと思って連絡しました〜。』
「…救済措置?」
『ん?そうそう。救済措置。
今君が陥ってる状況から救ってあげようってこと。』
「…」
『具体的には〜、君に菜々人ちゃんを救ってあげるチャンスをあげます。』
「…は、」
『ただしやり直しは一回だけ、再度失敗した時はもう元には戻らないし、この制度を知った君も即座に死ぬので。
気をつけてね!!』
「……意味がわかりません。」
『えええ?説明したじゃん、理解能力低いなあ。それじゃ菜々人ちゃんから嫌われるよ??
これから君は今日の朝に戻ります。
そして今その状況と全く同じことが起こります。
菜々人ちゃんを救ってあげなさい。』
「…そんなこと、でき…るの…か…??」
『神様だからね!!すごいだろ!!
あ、あと運命を捻じ曲げてるので副作用があるから!』
「…副作用!?」
『死ぬはずだったのに死ななかった人は運命によって修正されてくから、死に呼ばれやすい。
だから今日みたいなことがこれからずっと起こるよ。』
「……そんな…」
『たーだ!救済措置って言ったよね。
死に呼ばれやすくなった菜々人ちゃんは死ぬ度に時間が巻き戻ります!
君はその記憶を持って巻き戻れるから、菜々人ちゃんを救うのが仕事になります!!!』
「…」
『だから、各一回きりのやり直しで菜々人ちゃんを生かし続けなさい。』
「…それは、一生?」
『いや、そうだね〜とりあえず3年間。
高校卒業の日にその救済措置にピリオドが打たれる、そこで晴れて菜々人ちゃんは運命の修正機能から外れて死は離れてくよ。
それまで君は菜々人ちゃんが死ぬたびに救い続けなければいけない。』
「…………」
『どうする?やる?まあやらなかったら今ここで2人とも死んで終わりなんだけど。』
「…やる。
やるに決まってる。」
『お、いいねえ。じゃあ朝に戻るよ、やり直しは一回しかできないから。
有意義な3年間を過ごせるように祈ってるよ、って私は祈られる方か。ははは!』
その瞬間。僕は気を失っ
目を開けた。開けた目が捉えてるのは毎日見てる自分の部屋の明かりだった。
…どういうことだ???
夢…?
でもあの映像を鮮明に覚えてる。忘れられるわけがない。
菜々人の顔。笑顔。泣き顔。そして…
あの感触だって忘れられるわけがない。
血生臭さ。生暖かい赤い液体。重い身体。
…まさか本当に……?
あの時と同じように1人で家を出る。
1人で高校への道を歩く。
その時ふと見つけた、1人で歩く女の子…
菜々人だ。
無意識に涙が出てた。
声が出ない。体が動かない。今すぐ走って抱きしめたい。でも、頭が思考することをやめている。
その時、
「…灯!!!」
菜々人は僕に抱きついて来た。
「灯!!会いたかった!!
久しぶり!身長大きくなったね!私より小さかったのに!!なんかすごい大人っぽくなった!!3年経つと、って、え??
どうしたの?
なんで泣いてるの?
灯?私だよ?覚えててくれてる…よね?」
「………菜々人。」
「っっっよかったああ〜!!
忘れられてたらどうしようかと思ったよ、いきなり抱きついちゃったし変人じゃん!やばいやつだと思われた!って焦った〜!
っていうか、え、どうしたの?入学式だよ?なんで泣いてるの?どっか痛い?…あ!それとも……
私に会えて嬉しい??」
菜々人は冗談ぽくニヤニヤしながらそう言った。
「うん。嬉しい。」
僕は答える。
「っえ、や、あの、じょ、冗談だよ!?突っ込んでよ!恥ずかしいじゃん!!」
菜々人は赤面する、僕は涙を拭う。
「…菜々人。久しぶり。元気だった?」
訂正しよう。神様はいたんだ。
そして僕は神様から試された。
いいだろう。乗ってやる。
3年間、何が何でも菜々人を救ってみせる。
たとえ何回菜々人が死んでも。
やり直しで救ってみせる。
…こうして僕の3年間の戦いが始まった。
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