第五ターン

「お互いに全く手を出さないまま四ターンが終了、これから五ターン目に入ります。一手さん、この展開はどうでしょう?」


「スローペースになりそうだとは思っていましたが、ここまで動きがないとは思いませんでした」


「両者のデッキについてはいかがですか?」


「輝紗羅魏選手は『ログアウトできない!』『世界で十指のトッププレイヤー』『かつての仲間は伝説の英雄』『正体隠匿』と、「ゲームの中に入った廃人プレイヤーが一般人のふりをして無双」デッキとしては準備がほぼ整っています。かたやアブラ選手は『革新的な発想』『未知の新技術』から『王族とのコネ』を発動させ、こちらも「ファンタジー系異世界で現代技術を再現して好き勝手」デッキがほぼできあがっていると言えるでしょう」


「となると、そろそろ次の展開があってもおかしくはない、と?」


「そう思います」


「注目の五ターン目がスタートします。ここで輝紗羅魏選手が遂に動いた! 攻撃アタックカード『何の変哲もない普通の魔法』で攻撃、さらに伏せカバーカードを開きます」


「やはりあれは『最弱魔法なのにこの威力!?』でしたね。文字通り弱い効果の魔法を強くするこのカードは、チート無双系デッキの定番です」


「王道コンボでアブラ選手にダメージを与えました。ここで『正体隠匿』の成功判定ですが…どうやら失敗したようです」


「おそらくもう一枚の伏せカバーカードで対応するはずですよ」


「本当ですね。『たまたまですよ、たまたま』で一回だけ失敗をなかったことにしました」


「『正体隠匿』に失敗すると『実は伝説の○○』が強制発動します。一定ランク以下の攻撃を『やれやれ、この程度か』で無効化できるなどのメリットもあるのですが、『英雄殺し』系の特効ダメージ対象にもなってしまうデメリットもあります。『あれはまさか伝説の…』とのコンボで自ら『正体隠匿』を破棄するとボーナスがつくので、任意のタイミングで正体を明かすのが現在の主流となっています」


「ここで輝紗羅魏選手はターンエンドを宣言です。ようやく動いた割にはあっさりしてませんか?」


「相手の動きを見るための、ボクシングで言うジャブみたいなものでしょう。そこそこのダメージであるにも関わらず、特に防御をしなかったアブラ選手を警戒して深追いをやめたのだと思います」


「なるほど。それを受けて、後攻のアブラ選手はどう動くのか? おっとこちらも攻撃アタックカード、なんと『複数人での詠唱が必要な大魔法』だ! これを出すには『儀式』などの付与エンチャントカードと複数ターンが必要なのでは?」


伏せカバーカードでコンボを使えば即時発動可能です。いくつかやり方はありますが…」


「一手さんの言うとおり、伏せカバーカードが開かれました。あれは『プログラマー』『魔術適正』『魔術式の書き換え』ですか?」


「そうですね。特に『~書き換え』は非常に汎用性が高く、今回のような発動条件の軽減以外にも、単純な威力強化や効果拡大などに使えます」


「先ほどの『最弱魔法なのに~』のようなことですか?」


「あれはその名の通り最低ランクの攻撃を強化するだけですが、『~書き換え』は他のカードとの多重コンボであらゆる場面に使えます。今回は『プログラマー』『魔術適正』と組み合わせることで、高ランク魔法を低コストで発動させたわけです」


「輝紗羅魏選手、この攻撃を『最難度レイドボスが落とす★10レアアイテム』で防ぎました。またもや『正体隠匿』判定ですが、今回は成功です。いやー、それにしてもアブラ選手は一気に勝負に出ましたね」


「そうですね。ジャブで牽制した輝紗羅魏選手に対し、アブラ選手は一発KOを狙った大技を繰り出してきました。これは次のターンどうなるか」


「いえ、アブラ選手はまだターンエンドを宣言していません。もう1枚攻撃アタックカードを出しましたが…あーっと! ここでまさかの更なる大技、『失われし神代の魔法』を出してきた!! 一手さん、これは可能なんですか?」


「本来これは『転生賢者』『転生魔王』などから『俺が生きていた時代では中級程度の魔法だぞ?』に繋げて発動させるのが定石です。残り1枚の伏せカバーカードが一体何なのか…」


「アブラ選手、一体どのような手で来るのでしょう」


付与エンチャントカードの『革新的な発想』『未知の新技術』で発動条件を軽減させるのは間違いないと思いますが、それだけでは難しいでしょう。『王族のコネ』は役に立たないし、あとは『変わり者』しか……まさか!?」


「おっと、アブラ選手、その『変わり者』を破棄しました。破棄することで伏せカバーカードを発動させましたが、あれは?」


「『あれれ、もしかして俺、また何かやっちゃいました?』です。地方戦とはいえ公式試合のレベルでこのコンボを成功させるとは!」


「輝紗羅魏選手、これはさすがに防げない。 一撃でオーバーキルです。初出場のアブラ選手、輝紗羅魏選手を破る大物食いを果たしました!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る