第一ターン

「先攻は輝紗羅魏選手、フィールドカードに『VRMMORPG』、続いて付与エンチャントカードとして『コマンドウィンドウ』に重ねて『ログアウトできない!』を出してきました」


「輝紗羅魏選手はお得意の「ゲームの中」デッキのようですね。汎用性の高いデッキですが、他との差別化を狙って独自性を出そうとすると事故りやすいので、うまく使いこなすにはテクニックが必要です」


「今時「もしかしてここは…ゲームの中?」とか言ってるくせにオリジナリティを出そうとするとか片腹痛いということですね?」


「そこまでは言ってません」


「さらに伏せカバーカードを一枚出して、輝紗羅魏選手はここでターンエンドを宣言です。一手さん、ここからの展開はどう見ますか?」


「このタイプのデッキ、正式名称は「気がついたらプレイしていたネットゲームの中に入ってしまっていた」と言うんですが、現在は「廃人プレイヤー無双」戦術が主流となっています。しかし、かつて一大ブームを巻き起こした「ログアウトできないデスゲーム」戦術への展開もありえますね。輝紗羅魏選手はどちらも得意としていますので」


「なるほど、ゲームでは自キャラにキ○トって名前付けてそうな顔してますもんね」


「顔関係なくないです? 確かにそういう人いっぱいいましたけど。右を見ても左を見てもキ○トとア○ナと血○騎士団ばっかりだった頃ありましたけど」


「さあ後攻、アブラ選手は……おーっと、フィールドカードの代わりに導入イントロダクションカード、『トラックにはねられた!』を出してきた!!」


「これは驚きました。以前はプレイヤーのほぼ全員が使っていたと言っても過言ではないほどの定番カードでしたが、今では逆に陳腐化してしまってほとんど使われなくなったんですよ。公式戦で見るのは私も久しぶりです」


「しかし役に立たないカードというわけではないんですよね?」


「はい。「他の選択肢が増えた」「あまりにみんな使うので逆に使いづらくなった」というのが急速に廃れた理由なので、かつて主流であったポテンシャルは失っていません。むしろ、ここからあらゆる展開に繋げられる汎用性もありますし、最近ではギャグデッキに流れる新戦術も編み出されています」


「なるほど。そこから続けてフィールドに『異世界転生』、そこから『前世の記憶を持っている』カードを出しました。なんと言いますか、ベタな王道展開ですね」


「ええ。ベタにはベタなりの強みがありますが、以前流行ったということは対策も進んでいるわけです。果たしてそれにどう対応するのか注目したいところです」


「続けて『変わり者』カードを付与エンチャントで出して、アブラ選手ターン終了しました。一手さん、ここまで見てどうでしょう?」


「一ターン目はお互い、場の構築に費やしましたね。両者とも汎用性に優れたデッキのようなので、準備が整うまではもう少しかかるのではないでしょうか」


「準備が完了するのはどちらが先か、そこが勝負の分かれ目になりそうです」

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