第8話 サンタさん、プレゼント下さい

 俺たちはソリをもらうためにクリスマス島の近くまで来ていた。

クリスマス島はサンタさん達がプレゼントを製造している島です。

「あっ、見えましたよ」

クリスマス島の上空まで来るとサンタさん達の愚痴が聞こえて来た。

「はあ、つくづく理不尽な仕事をしているよな我々は」

「全くだ。子供たちは我々から送られたプレゼントを喜んで開けるが我々は夜中に帰るからその笑顔を見ることができない。かと言ってメリークリスマスなどと叫べば夜中だから子供か近所かどちらかの迷惑になる。黒子にも程があるぞ」

ただ働きのようなものだ、と怒こるサンタさん達。

サンタさんも大変だね。

「いや~、大変ですね」

「そうなんだよ。本当に大変な仕事で・・」

そこまで言って振り向いたサンタさんの顔は一気に青ざめた。

「どうした?お、お前たちは!!」

もう一人のサンタさんも青ざめる。

「お久しぶりですね」

「また来たのか!!」

カナが俺たちとサンタさんを見比べる

「どういう関係なの?」

「それはね・・」

「頼むから帰ってくれ」

サンタさん達がここまで動揺するのにはある出来事が関係している。

それは通称『白旗のイブ』と呼ばれる俺たちにとっては思い出、サンタさん達にとっては悪夢のような出来事。

 魔王討伐の最中、ふとクリスマスがもうすぐであることを思い出した俺たちは急にプレゼントが欲しくなった。そこでクリスマス島を訪れた。

「すみませ~ん」

「何だお前たちは」

「俺たち、プレゼントが欲しいんですけど」

あからさまに嫌そうな顔をするサンタさん。

「お前たちは子供には見えんな。何歳だ?」

「俺が22で魔法使いが20、僧侶が21で戦士が23」

「大人じゃないか!」

「そうなんです。さあ、プレゼントを」

「やらん。プレゼントをもらえるのは子供だけだ」

「良いじゃないですか~」

「やらんと言ったらやらん」

交渉は三日三晩続き、イブの朝にサンタさん達が白旗を上げた。

「わ、分かった。やる、やるから。勘弁してくれ。何が欲しい?」

こうして俺達はそれぞれが欲しい物を手に入れた。

 「お前達、何をしに来た」

「俺たちは・・」

「ああ、言わんでいいぞその先は。また何か欲しいんだろう?」

おお、分かっているね。

「やらん。ねだっている暇があるなら魔王を倒せ」

「もう、倒しました」

「そうか、なら仕方ない。だが、プレゼントは無い」

もう一人のサンタさんが耳打ちした。

「なあ、こういうのはどうだ?」

「・・・なるほど。それは名案だ」

耳打ちされたサンタさんはちょっと待っていろ、と席を外してダッシュで島の中に入って行った。そしてすぐにチラシを持って戻って来た。

「これを見てくれ」

それはクリスマスイベントのお知らせだった。トナカイがひくソリに乗ったサンタさんが空へ駆けてゆく様子が描かれている。

「イケメンですよ?」

「違う!トナカイだ」

そうは言ってもどこにもおかしな点はない。

「実はこの島では今、2つの問題が起きている・・」

サンタさんの話はこうだった。クリスマスで描かれるトナカイは角が生えていることがイメージとして世間に定着している。しかし、実際にはオスのトナカイは喧嘩によって角を失う時期がある。さてここで問題発生。角が無い間のトナカイの給料をどうするかが問題なのだ。角が無い状態でソリをひかせると、世間のイメージと矛盾する。だから、角が無い間は休ませなければいけないのだ。サンタさんも仕事ができない。

「これらの問題を解決してくれたら欲しい物をあげよう」

「本当に?」

「サンタは嘘をつかない」

「では、問題を解決しましょう。ミル~」

「お任せください。ほんじゃかぽん!!」

サンタさんが持っているチラシが光に包まれる。

「はい、できました」

「何をした?」

「チラシを見て下さい」

「チラシを?こ、これは・・⁉」

チラシのトナカイの角が消えていた。

「単純な話ですよ。角が無いイラストが描かれているチラシを配ればいい」

これで仕事が無くならず、給料も払えますねと笑う俺達。

サンタさんはチラシをじっと見つめた。

「・・正論なようで何か違うような」

その時、一人のサンタさんが慌てて駆けって来た

「た、助けてくれ。あいつら、また占領した。もう、手に負えない」

俺たちは首を傾げる。

「あいつら?」

「ダメか・・分かった。すぐに行く」

駆け出すサンタさんについていく

「この子たちは」

 そこにいたのはペンギン達だった。氷に座った三味線をもつペンギンがボスなのか、囲むように10匹ほどのペンギンがいる。このペンギンはモンスターだ。三味線を持っていることが特徴で種族は三味線ペンギン。誰に対しても横柄おうへいな態度をとるため皆から嫌われている。氷を使った攻撃が得意。

「いい加減、退いてくれ。工場を占領するな」

怒るサンタさんを軽く受け流すボスペンギン。

「俺たちの願いをかなえてくれたらすぐ退くよ」

「それは無理だと言っている」

「一体、何が起きているの?」

「それが・・」

 これが2つ目の問題。つい最近、ペンギンたちが自分達にサンタのそりを引かせろと抗議するようになったらしい。それ以来、こうして時々工場を訪れては占領して騒いでいるらしい。以下、ペンギンたちの言い分です。

トナカイもペンギンも空を飛べないことに変わりが無いのになぜ鳥類である我々にソリをひかせないのだ?鳥がひいた方が自然だろう?我々もアニマル系のアイドル的な地位では負けていない!!

だそうです。まあ、この子たちに限って言えば野心が強すぎるからだろうね。

「それはそうと」

「うん」

ボスペンギンは先ほどから三味線をペンペンと弾いている。種族の特性とは言えペンギンがペンペン弾く・・

ミルのツッコミまで、3、2、1、

「おやじギャグ、寒いです」

ミルの言葉にピクリと反応するボスペンギン

「寒いだと!!」

ボスペンギンが怒ったせいで周りの氷が溶け始める。溶けた氷がもう一度固まっていくつもの小さなペンギンの形をしたオブジェが出来る。ファンシーな世界、ここに爆誕。

必死になだめるペンギン達

「ボス、オブジェはいりません!」

「むっ・・」

どうにか怒りは収まった。さて、この問題をどうするか。

「簡単なことよ」

「レナ、名案が」

「ええ。トナカイの角が無い時期にペンギンがソリをひけばいいのよ」

「なるほど」

サンタさんやペンギンたちもそれで納得してくれた。

「これで問題解決だね」

「いや、まだだ」

「えっ?」と目を丸くするサンタさんとペンギン達。さっきまで喧嘩していたのに仲いいね。

「約束のプレゼントを!」

「そうだった~!約束だからな、何が欲しい」

「欲しいのはソリです」

「商売道具じゃないか!仕方ないな」

こうして俺たちはソリを手に入れることが出来たのだった。

 次の目的地を目指して飛びながら俺たちはこんな話をした。

「あれ、見たか」

「見ました」

実は、サンタさんがまだ袋に詰めていないプレゼントの一つに盗賊団が食べていた例のグラタンがあったのだ。

「どうしてあれが?」

「分からない。でも、サンタさんたちまで息がかかっているとすると思っている以上に大ごとかもね」

「確かに」

俺たちは気持ちを新たに次の目的地、グラタンの原材料を提供している農家さんのところへ向かう。




















 








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