第7話 ミスター・チーズ

 レナが退屈そうにあくびをした

「後どのくらいだっけ?」

「もうしばらくしたら着くよ」

 俺たちはソリを手に入れるためにとある場所を目指してペガサスに乗って飛んでいた。ペガサスなら移動速度は速いがそれでもやはり退屈な時間はある。

「眠くなってきたよ。しりとりしよう」

リクが呆れる

「のんびりすぎでしょ」

「良いよ、やろう!」

「おっ、さすがミル!じゃあ、ペガサスのペ」

「ペン」

「・・・」

かくしてしりとりは幕を閉じた。

「もういいや、寝よう」

レナが寝ようとしたその時。

”パンッ”という大きな破裂音がした

「敵襲⁉」

「大丈夫、敵はいな・・うわっ」

破裂音に驚いたペガサスたちがパニックを起こした。

「落ち着けって、無理か」

「仕方ない、一旦降りよう」

 そんなわけで俺たちは近くの道に着陸した。

カナが困った顔をした。

「この道はまずい」

「カナ、何か知っているの」

「この近くにガンマンが暮らす街があるの」

「ガンマン?この世界に銃は無いよ」

モンスターが人と暮らすようになってから銃は不要となり完全に廃棄された。

「そうなのよね。私も噂でしか知らないけれど破裂音と馬の足音が聞こえるからガンマンがいるんじゃないのかって」

「奇妙な話だね」

「誰か来る」

足音がこちらに近づいてくる。

一斉に身構えるが現れたのはモンスターではなくおじさんだった。

 「俺を呼んだからにはチーズを用意してあるんだろうなあお前達」

キャラ濃い人来た―!!

何が特異って格好だよ。馬に乗ってハットを被って黒いサングラスにタバコを咥えている。そこまでは普通。長袖にチョッキ、長ズボンも普通。だが、その腰につけているしぼんだ風船は何だ!しかも左右5個ずつ。

「チーズは無いですよ。後、呼んでいません」

「無い、だと⁉そんなことがあっていいはずが・・お前たちは俺の話をしていただろ」

ああ、やっぱりこの人はガンマンなんだ。

「さてはお前達、チーズの素晴らしさを知らないな」

「え?」

「よーし、分かった。俺についてこい。チーズを食べさせてやろう」

いきなり来て何なのこの人!

「俺たちは」

いらないです、と言う寸前で魔王が口をはさんだ。

「チーズ食べたい」

「寝てろ」

いや、俺たちもチーズが嫌いなわけでは無いですよ。むしろ好きです。でも、でもね?ガンマンの格好をして腰に風船をつけた初対面のおじさんについていけると思います?しかもこの人、一方的にチーズ薦めてくるし。

「おお、話が分かる奴がいるじゃないか。よし、ついてこい」

「はぁ・・・」

俺たちは仕方なくおじさんについていくことにした。

 「着いたぞ、ここだ」

「ここは」

着いた場所は飲食店。店の名前はガシャン食堂。皿を割るき満々。

この店ではトロルがオーナーらしい。トロルは百万馬力のパワーと2メートルを超える身長を持つ巨人だ。ふと席に目をやって俺たちは唖然とした。

「何で、やつらが」

盗賊団が数人で悠々とグラタンを食べていた。

おじさんはカウンター席で何食わぬ顔。

「あいつら、懲らしめてやる」

盗賊団に近づこうとする俺をリクが止めた

「待て」

「何で」

「こっちの心中を察してか、トロルが腕に力を込めている。トロルが本気を出せば手を叩いただけで鼓膜を破られる。そのうえで数十メートル先まで投げ飛ばされるぞ。今は騒ぎを起こさない方が良い」

「―分かった」

俺たちはひとまずカウンター席に座る。

数分が経ってもあんまり気乗りしない俺たちの横では魔王がうれしそうにチーズを食べている。

「おじさんはチーズが好きなんですか?」

ミルの質問におじさんが笑顔になる。

「そりゃあ、もうねえ。チーズは素晴らしいからねえ。味もおいしくてほっぺた落ちちゃうからねえ。食べる?」

「いらないです」

「このっ・・・俺が苦労させて発酵させたんだぞ!!」

まさかの自家製。

「もう、許さないから」

おじさんは外へ飛び出した。

リクが叫ぶ

「何かする気だ。嫌な予感がする」

「行こう」

俺たちも店を飛び出す。

 「何をして・・」

おじさんは腰につけていた風船の一つに空気ポンプで空気を入れている。

「遅かったな。風船はもうある程度膨らんだ!」

「しまった」

「このまま破裂させてやる」

さも自分が入れたかのように言っているが入れているのはおじさんが乗っている馬。この世界にはモンスターではない動物もいます。なのでこの馬は普通の馬です。

「う~ん。やっぱりこのまま破裂させるのはつまらない。お前たちの中の誰かとチキンレースで決闘しようではないか」

いや、チキンレースは度胸試しだから。こちらが勝負を受けたところで結局風船は破裂するから。

「その挑戦、受けてやる」

「リク、本気?」

「もちろん」

そんなわけでリクとおじさんは勝負することになった。

 二人とも指で耳をふさぐ。

風船がどんどん膨らんでいく。

「・・・」

「・・・」

とっさにリクが耳を抜いて後方に駆け出した。

「逃げるのか」

風船が”パンッ”という音と共に破裂した。

「俺の勝ちだな」

音に驚いた馬がパニックを起こして暴走する。

「ん?うっ、うわ~」

馬は店に向かって駆け出す。

「アディオス!!」

馬はそのまま店の外壁を突き破って突っ込んだ。皿の割れる音がする。

駆け寄ってみるとおじさんと馬がのびていた。

「レナ」

「は~い。うん、大丈夫。どちらも気絶しているだけ。怪我もないわ」

「それなら良い。行こう」

俺たちは店を後にした。

 これで一件落着のように思えるが。

「妙じゃないか」

「うん、確かに」

ミルが首を傾げる

「何がですか?」

「あの店で盗賊団が食べていたグラタンだよ。あれ、既製品だぜ」

「ああ、確かにそれは妙ですね」

この世界のネコ系モンスターは猫舌だから熱い食べ物が食べられない。グラタンも無理。対策としてこの世界では生まれつき誰もが温度を調節する呪文を使うことが出来るため呪文を唱えて冷まして食べる。しかし、あのグラタンは既製品だ。カウンターの後ろに積んであるパッケージに『最初から冷えているグラタン』と印字されていたから間違いない。上記の理由から猫系モンスターのために特別に製品を開発する可能性は非常に低い。するとしても世界が復興した後だろう。

「そうなると考えられることは」

「誰かが猫系モンスターのために開発して媚びを売っている」

「だね。おそらく媚びを売っている相手は盗賊団限定だろうな。そうでなければありがたみが無い」

「でも、何で?」

「分からない。でも、あのグラタンの製造元へ行けば何か分かるかも」

「よし、今後の旅の目的は決まったな。仲間を集めながら盗賊団の秘密をあばく」

「おー!」と盛り上がる一同。

「その前にソリをもらいに行きましょう」


























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