第9話 凶夢の痕

 かつてこの地に降りたる獄炎の拷問者

 湖水を朱に染め、悲怨の嘆きを刻みつけん

 そが暴念の呪文を永きに渡り残して

 今や神の加護、仏の慈愛に恐怖は取り除かれ

 平安と新たな生命の息吹が湖国を潤したり

 (明治40年頃、一柳庄を訪れた詩人が湖畔の石碑に記した詩)


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 他愛もない──鬼女は哄笑した。

 趣味を兼ねて略奪と蹂躙を生業とする宇宙の蛮族どもに雇われて早数千年。星々を荒らす生活に堕ちた果てに、とうとう辿り着いた星が我らが地球。


 どれ程のものか探りを入れるべく、まずは一人で地上に降り立ったが、湖畔の村落には木と藁を重ねて作った貧弱な家があるばかりだ。

 雄叫びをあげて、挨拶代わりに一軒踏み倒す。

 飛び出してきて仰天する住民たちも憐れなまでに粗末な恰好で、過去に襲撃した星と比べても文明レベルは低いほうと見えた。


 逃げ惑う村人らを蹴った土砂で生き埋めにする。

 巨岩を握りしめて礫を作る。ちょうど虫けらの頭ほどの大きさで、どうにか土砂をかわした者たちへ投げつけて一匹ずつ頭蓋を砕いた。

 子供の手を引いて逃げる夫婦に痰を吐きかけてやると、仲良く溶解して血と骨の混じる肉糊となった。


 程なくして、馬に乗った武者が三十騎ばかり駆けつけ、火矢を射かけてきた。

 片腹痛さに笑いがこぼれる。とても戦闘欲を満足させてはくれそうにない。

 あの〝い者〟がいるなら話は別だが、せいぜい趣向を凝らした殺し方で楽しませてもらうとするか。

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