第19話 悪女たちの午後 其の一
「……あいつら何してんの?」
「できてんじゃない? オカマっぽいし」
山道の木陰で見つめ合う二少年を、藪の向こうから観察する三つの人影。
「なんでもいいわ。それより忠太の奴、やっぱり富嶽に取り込まれたわね」
吐き捨てるように言ったのは逃げたはずの
本家の使者として東熊山へ赴いた伊良忠太の後を着け、護衛の武庫五一を不意打ちで拘束、さらに忠太が大里逗芽留手ずから持たせた〝お土産〟を独断で谷底へ投棄したのを目撃するや、いたぶるに格好の口実を得たとばかり三人がかりで責め立てていたところへ突如苦無が飛来、転がるように逃げたのが一時間ほど前のこと。
ただ逃げ帰るのも口惜しく、木々に潜むがごとく待ち伏せていたのだ。
「どうする姫、あいつらやっちゃう?」
「本家への裏切りを働いたんだし大義名分は立つよ」
親分の性格を反映して、取り巻き二名もなかなかに底意地悪い。
「あの五一って小僧と合流したんじゃやりづらいわね。まあまあ強いし。今日のところは見逃してやりなさい。今は富嶽に対抗する策を練るのが先決よ」
もっともらしく言ってはみたものの、山中で彼らに手を出せば、すぐにも富嶽が飛んできそうな気がして、怖くてたまらなかったのだ。
「一応、勝算はあるんでしょ姫?」
「あの化け物に山姫の称号や中道剣は勿体ないもんね?」
カヲル、イサヲに聞かれて栄姫は眉をひそめた。
「ま……まずは妻城とぶつかることになっているから様子見ね」
「妻城さんがあいつを倒したら手柄持っていかれちゃうわ」
二人の取り巻きは地元出身、栄姫とは小学生時代からの関係(つきあい)だ。
性根の曲がった底意地悪い連中が惹かれるべくして惹かれ合った仲とはいえども、姫と呼んで仰いできたリーダーに悪遮羅流の宝剣を受け継いでほしいと願う気持ちは本物であった。
「あんたたち奇襲かけて軽くヒネられたの忘れたの? 気絶したから見てなかったろうけどね、あいつの金剛身は本物よ。妻城で躓くことは絶対ないわ。次の桜井も置塩も抜くかもしれない。でも、富嶽だって消耗するはず。晶美たちも四山の意地を賭けて食い下がるだろうしね」
「そこを襲う漁夫の利作戦と……四山一の小者らしい下衆の知恵だ」
「そうよ伊達に小者やってるわけじゃ……なんだって⁉」
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