4章
勘違い──赤井葵
11月になり、すっかり肌寒い季節となっていた。
シャーペンをカチカチしながら、わたしは教室から外をぼんやり眺めていた。木々は裸になり、アスファルトの地面には木の葉が沢山落ちている。
「おい、赤井。外なんか見てないで、授業に集中しろ」
藤村先生に軽く怒られる。
「ごめんなさい」
軽く謝り、わたしはシャーペンを持ち直す。
最近こんなのばっかりだ。授業に集中出来なくて、ぼんやりと外を眺めることが多くなった。多分原因は、わたしの楽しみが無くなったから……。
この1ヶ月間。席替えがあり、近かったわたしと細川君の距離は教室の端から端へと変わってしまった。わたしが窓側の後ろの席で、細川君が廊下側の前の席。見事に真逆だった。
これで、授業中に話すことはもう無くなった。
そればかりか、休み時間や放課後。細川君に話しかけようとする度に他の人に話しかけたり、どこかに逃げてしまったり、机にうつ伏せたり……わたしはあからさまに避けられていた。
原因は多分わたしにある。あの時、わたしが来ないでって言ったから……。
あの後、家に帰って細川君に謝ろうって思ったけど連絡先は消されていた。嫌でも細川君に拒絶されている、と思ってしまう。
あの日の夜、一人で家に帰ったわたしが自分の部屋から出ることは無かった。散々泣いたはずなのに、また一人で泣いていた。
でも、1ヶ月もすると細川君と関わることの無い生活に慣れ始めている自分がいた。この生活に慣れていく自分が怖かった。
授業の沈黙を引き裂くように、終了のチャイムが鳴り響く。
そういえば、今の授業4限目か。今から結衣と昼ご飯……。と思いつつ、わたしはカバンの中を漁って弁当箱を取り出す。
「結衣、ご飯どこで食べる?」
立ち上がりわたしが呼ぶと、隣に座っていた結衣がわたしの方に振り向いた。
「葵は食べ物に目がないんだから……。ノート写し終わるまで少し待ってて」
「仕方ないな〜」
もう一度椅子に座って結衣が写し終わるのをぼんやりと待つ。
「終わった!」
「んーどこで食べる?」
「外は寒いから、ここでよくない?陽も当たるし」
「そうだね」
わたしは机と椅子を結衣の方に向けた。
結衣も机と椅子をわたしの方に向けて、対面する形になる。
早速弁当箱を開けると、わたしの大好きな卵焼きが入っていた。お母さんが作ってくれる卵焼きは甘くて美味しい。
結衣も鞄から弁当箱を取り出し、ご飯を食べ始めた。
「葵、最近授業集中してないけどなんかあった?」
「そうかな?」
「丸わかりだよ。今まで葵が授業中に怒られたところなんて見たこと無かったのに、最近すぐに怒られるもん。優等生キャラはどうした?」
「別に優等生のキャラ作ってるわけじゃないし!」
「ふーん。まぁいいけど、もしかして細川君と何かあった?」
ギクリ。図星だ。結衣は天然キャラのはずなのに意外と鋭いところをついてくる。女の勘と言うやつだろうか。
細川君に慰められて謝りに行った日、結衣のことを信じるって決めたんだ。だから、結衣には隠し事をしない。
「実は……細川君に一方的に避けられているっていうか……多分細川君に嫌われた……」
「え! あんなに仲良かったのに? 一緒に帰ってたじゃん」
「そうなんだけど……全部わたしが原因だから仕方ないよ……」
「落ち込まないで、こういう時の友達でしょ? 話聞いてあげるよ?」
「ありがとう」
わたしは結衣にお礼を言いつつその日にあったことを話した。
細川君が他の女子に告白されていたところを見てしまったということ。
その時に、細川君は他に好きな人がいるって振ったこと。
一緒に帰ろう? って言われたけど、細川君には好きな人がいて……だから、だめって言ったんだけど一緒に帰ろう? って言ってくれたこと。
でも、結局来ないで! ってわたしが細川君を拒絶しちゃったこと。
細川君の特殊な力に関しては結衣には告げなかった。これは、細川君と約束したわたしと彼の2人きりの秘密だから……。
話を聞き終わると結衣は細川君が告白されていたことにとても驚いていた。
「葵が細川君を拒絶しちゃったのかぁ……それはたしかに葵が悪いね」
「だよね……」
ご飯を食べ終わったわたしはわかりやすく机にうなだれる。
「でも、細川君と一緒に帰ればよかったじゃん?」
「だって、細川君には好きな人がいて……その人と帰った方がいいじゃん」
わたしは顔をうつ伏せて答える。
次の結衣の言葉を待ってもなかなか出てこなくて、わたしは顔を上げた。すると、結衣は珍しく真剣な表情になっていた。
「それさ……私が思うに、細川君の好きな人って葵だよ?」
え? 頭がこんがらがる。細川君の好きな人がわたし? まさか。そんなことあるはずない。わたしはただの協力者じゃないか。協力してくれる人と仲良くするのは当たり前なんじゃないのか。
「葵、一緒に帰ってたけど、実際どこまでした?」
「どういうこと?」
わたしは首を傾げる。
「一緒に帰ってたら手を繋ぐとかあるじゃん?」
「手を繋いだことは無いかな……あ、でも、抱きしめられたことはある……」
「え? 惚気話か何かです? 好きじゃなかったら異性を抱きしめるとかしないでしょ」
「だって……あの時は慰められてたから……そういうものじゃないの?」
また、わたしが首を傾げると、結衣は大きくため息をついた。
「あのね、いくら仲が良くても好きじゃなかったらそういうことしないよ。葵って優等生だけど、恋愛に関しては全然してこなかったのね」
「だって、好きな人が出来なかったんだから仕方ないじゃん! 告白されたことは何回かあるけど、好きじゃないのに付き合うって悪いし……」
「まぁね。で、どうするの? 細川君多分物凄く傷ついてると思うよ」
「とりあえず、今からでも謝らないと……でも、避けられちゃってるし……」
どうしよう。わたしは頭を抱えた。そもそも、1ヶ月間も謝れずに居たのに今更謝ったところで意味あるのだろうか?
「うん。とりあえずなんとかしないとだね。もう私に出来ることはないから葵次第だよ」
「うん……話を聞いて貰えただけでもだいぶ楽になれた。ありがとう」
話を終えると、授業5分前の予鈴がなった。
これからどうしよう。とりあえず細川君と2人きりになる方法がないかわたしは考えることにした。
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