協力してあげたい
1階から聞こえる掃除機の音で目が覚めた。
壁にかけてある時計を見ると短針が9の数字を指している。
寝ぼけながらも隣においてあったスマートフォンを開き、友達から送られてきていたメールを確認する。
「今度の土曜日部活ないから遊ばない?たしか河川敷で花火大会やるらしいから一緒に見に行こう!」
結衣からメールが届いていた。相変わらずメールでも学校生活と変わらずテンションが高い。わたしは返信画面を開いた。
「土曜日暇だから行けるよ!また何時に家に集まるか教えてー!」
目を擦りながらも短い文を打ち終えて送信ボタンを押した。メール画面を閉じようとすると見慣れないアドレスから返信が来ていることに気がついた。心当たりがないが一応開いてみる。
「アルバイトやってるよ。書店での似た店員さんってのは僕のことだと思う」
文の内容を見る限り細川くんからのメールだった。そういえば昨日アルバイトやってるか聞いたんだった。
昨日、細川くんに似ている店員さんを見つけたあと店内を探したのだが結局見つけることが出来なかったのだった。それで細川くんにメールを送ったのだ。
あ、そういえば結局本買うの忘れた。どうせ土曜日まで暇だし家にいても特にやることも無い。それに本がなくては新学期に読む本も見つからない。仕方がないから今日も午後から書店に行くことにした。
書店に入ってみると、意外にも昨日より人が少なかった。冷房で熱くなった体を冷やしながらも昨日見た本棚の前まで移動する。
さすがに今日こそは本を見つけないといけない。わたしは長いこと本棚にある本を取って見ては戻す作業を繰り返していた。
十数分格闘した末にやっと読んでみたいと思える本が見つかり、本を持ってレジへと向かう。その途中に本棚にむかって屈みながら作業をしている1人の店員さんを見つけた。
昨日も見た店員さん。結局細川くんだったんだっけ。話しかけてみよう。
本が見つかり浮かれていたのか軽い気持ちで作業をしていた店員さんに声をかけた。
「細川くんって土曜日って河川敷に花火見に行くの?」
その瞬間目の前が真っ白になった。
急に後ろから名前を呼ばれたからとても驚いた。
誰か分からず後ろを振り返るとそこには赤井さんの姿があった。
しかし、想像以上に赤井さんの顔が近くすぐさま目が合う。
まずい。今ここで数秒でも目を合わせたら昨日みたいにまた面倒なことになってしまう。僕は動揺しながらもすぐさま目を逸らした。
なんとか間に合った…か?
目を逸らしたあと、恐る恐る赤井さんの方を見てみた。
しかし、もう既に遅かったのか赤井さんはその場に立ち尽くしていた。
目を開けるとそこには見慣れた天井が見えた。
私って確か書店にいたはず…でもなんで自分の部屋に?
自分の上にかかっている毛布をどかして、布団のから起き上がる。立ち上がってみるとといつもよりも目線が低い。
なんで布団に寝ているの?いつもベッドで寝ているはず。まさかまた細川くんの力によるもの?
わたしは急いで自分の部屋においてあった手鏡で自分の顔を確認した。
その鏡に映し出されていたのは、小学1年生の頃の自分の顔であった。
多分また昔の記憶を辿ってるんだ…
わたしは納得し、小学生になった小さな体で落ちそうになりながらも階段を降りた。
階段を降りると誰もいないのか家の中は静まり返っていた。
仕方ないのでひとまずリビングに入る。
お腹が空いた。なにか食べものないのかな?冷蔵庫の中を漁ろうとするが、小学生になって小さくなった体では冷蔵庫の扉に手が届かない。
仕方ないから諦めようとした時、玄関の方から扉の開く音がした。
「ただいま〜」
お母さんの声だ。お母さんは靴を脱いでリビングに入ってくる。
「もう起きてたの?ご飯出すからちょっとだけ待っててね〜」
お母さん私に向かってにこにこしながらそう言ってきた。
それにしても、この頃のお母さんは若くて綺麗だなぁ。
いつも見ているお母さんはもうすでに40歳くらいだ。それでもまだ若く美しく見えるのだから当たり前といえば当たり前かもしれないけど。わたしもお母さんの血を持っているはずなのに、こんなに綺麗になれる自信は無い。
椅子の上に座っているとテーブルの上にご飯が乗せられた。
小さい茶碗にご飯とその隣にはみそ汁。大きなお皿の上には、レタスの上にいい色に焼けたソーセージが乗っている。
相当お腹か空いていたのか幼い頃のわたしはすぐさまご飯を食べ始めた。
「ご飯食べたら学校へ行く支度をしなさい」
お母さんは朝の忙しい家事をこなしながら、私に着替えをさし出してきた。
とても小さい洋服。小学生のわたしに渡される物全てが高校生になったわたしには小さく見えて、その小ささを見ると懐かしくなった。
とりあえず差し出された洋服を着てみる。
「洋服きたら顔洗って歯を磨いてきなさい」
いつもは穏やかなお母さんも今だけはちょっとピリピリしている。どうやら時間が無いようだ。
言われるがままに洗面所に行き歯を磨いて顔を洗った。
リビングに戻るとお母さんがランドセルを持っていた。
「時間ないから急いでいってきなさいね。みんな待ってると思うから登校班の集合時間に遅れないようにね。お母さんは仕事が早いから今日はついて行けないけど、気をつけてね」
お母さんにそれだけ告げられて小学生の私は玄関の扉を開けた。
たしか集合場所までは5分もかからない。走れば3分くらいでつくだろう。
それにしても、わたしはいつの記憶を見ているのだろう?今までは必ずなにかしら不幸な事が起こっていたのに何も起こらないなんて珍しい。ただ単に小学生の時の記憶を辿っているだけなのか。よく分からない。
幼いわたしは走りながら住宅街の十字路を右に曲がる。
「おはよう」
ちょうど雨戸を開けていた近所のおばさんが挨拶をしてくれた。
「おはようございます!」
元気に挨拶をして次の十字路を左に曲がろうとする。
あのおばさんで思い出した。確かこの次の十字路を勢いよく飛び出すと自転車がやって来てぶつかるんだ。何とかして身体を止めようとするが身体が言うことを聞かない。
考えること出来たり、意識があってもこれは過去の記憶なのだ。目線は過去の自分でも、体を自由に動かすことは出来ない。
手鏡をみたり、お腹が空いたからご飯を食べたのかと思ったりしたけど、実際は昔のわたしの行動と今のわたしの意思がたまたま重なっただけだったんだ。
わたしはこれから先起こることが分かっていても何もすることが出来ずに、十字路の左から出てきた自転車に激突してしまった。
その時、また目の前が真っ白になった。
赤井さんにまた能力が働いてしまった。放って置くと昨日みたいに面倒な事になるし倉本さんに後のことも考えろって注意されたし。
とりあえず店内に置き去りにすることは出来ない。でも突っ立っている女子を動かせるわけないし、移動させれる場所もない。
仕方ないので回想が終わるまで赤井さんの前でしばらく待つことにした。
数分後、赤井さんの指が動いた。僕の所にも映像が伝わってこなくなったし、どうやら回想が終わったようだ。
恐る恐る赤井さんに声をかけてみる。
「だいじょう…ぶ?」
だんだんと白い光が薄くなる…。真っ白な光が晴れると、目の前には細川くんが立っていた。
「あ…細川くん」
まだ元の世界に戻ってきた実感がなくそっと呟いた。どうやら現実の世界に戻れたようだ。
「だいじょうぶ?」
細川くんがもう一度私に問いかけてくる。
「大丈夫だよ。なんともない」
「それならいいけど…その…毎回毎回、迷惑かけちゃって本当にごめん。」
申し訳なさか恥ずかしさを紛らわすためか、細川くんは手ぐしで前髪をとかしていた。
「それよりもさ、細川くんの能力についてもっと詳しく教えてくれないかな?」
わたしは、興味本位で細川くんに言った。
「え。急にどうしたの?」
細川くんは驚きながら言った。
「これから先、細川くんと会う時に能力のことを少しでも知っておいた方が楽でしょ?」
「まぁたしかにそうだけど…」
細川くんは戸惑いながらも小さな声で呟いた。
「そう思うなら能力について詳しく教えてよ?」
「確かに教えてもいいけど、自分自身もその…この能力についてよく知らないんだ」
顔を見ると、細川くんは少し困ったような顔をしていた。
「よく知らないんだ…ごめん。なんか調子に乗っちゃって…」
流石に調子に乗りすぎちゃったかな。と自分の中で反省する。
「全然いいよ。気にしなくて」
細川くんは、優しい声でそう言ってくれた。
けど、このままじゃ悪い。不思議と能力についてよく知らないのなら少しでも協力してあげたいと思った。
「それならさ、一緒に細川くんの特殊な能力?について一緒に調べよ?細川くんの能力について知っているのって極一部の人だけなんでしょ?それなら、能力について知っている自分が少しでもいいから協力してあげたい」
「え、悪いって…こんなよく分からない能力。それに、調べてもこの能力について詳しくなれるかも分からない」
「いいから、気にしないで。わたしが協力したいと思ったら協力する」
「でも…悪いって」
「そんなに私の事、気を遣わなくてもいいから」
わたしは半分ムキになって細川くんに言っていた。
「まぁ協力してくれるなら、協力してほしい」
細川くんももう諦めたのか、私が能力について協力することを承諾してくれた。
「ちゃんと協力する」
わたしは細川くんの足元を見ながらそう言った。
「あ、そろそろ業務に戻らないと。じゃあね」
細川くんは私にそう言い残して本棚の向こう側へと消えていった。
そういえば結局細川くんが花火大会行くのか答えを聞いてない。それに聞きたいことがまだまだたくさんあったのに帰ったらメールで聞けばいいか。
本を手に取ったわたしは会計を済ませて店を出た。
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