第6話 2日目~昼~
【いちご目線】
うつ伏せになって落ち込んでいるきりんに、私は言う。
「ほらぁ、これでも飲んで落ち着きなよ」
「へ?あぁ、ありがとな」
私が差し出したのは、カップルが2人で飲むイメージのあるジュース。ほら、ハートの形をしたストローがぶっ刺さっているやつだよ。
「いちご、疲れてるのか?いや、疲れてるんだろうけど」
「誤解しないでね?これ持っていけば、きりん笑って元気出すかなぁって」
「……俺が笑ってたほうがいいのか?」
「そんな事、当たり前だよ!」
「……」
あれ、きりんの顔が赤くなってる?え、熱かな?
私は、体温を確かめようと、きりんのおでこに手をのばす。
「うわっ⁉ななな、なんだよ⁉」
「顔赤いから、体温をはかっています。でも、熱じゃないみたいだね……ん?」
「どうした」
「いや、きりんって、前髪あげたら案外カッコイイ……?顔、整ってるよね」
「……もう、俺いやだぁ……」
顔を覆って、しゃがみ込むきりん。
あれえ?なんか変な事言ったっけ。ん~?
笑ってたほうがいい、でしょ。あと、カッコイイ……だよね……んんん?
……これ、ほぼ告白じゃあん……
「ひえぇぇ……」
私も、腕で顔を覆ってしゃがみ込む。多分、今の私の顔、真っ赤なんだろうなぁ。
だけど今しゃがんでいるのは道の、ど真ん中だ。
「き、きりん。邪魔だし、端っこ寄ろ?」
「あ、あぁ。しっかし、人多いな」
「そう、だね。はぐれそう……」
「……ん」
「へ?」
「手」
「あ、ありがと」
私はきりんの手を掴む。そこを見ていたカップルがコソッと言う。
「ねえねえ、あそこの2人さ……」
きりんと顔を見合わせる。
「可愛いきょーだいよね」
てん、てん、てん、まる。
「だっ、だよねぇ!」
「そっ、そうだよなぁ!」
ぶんっと、手を振り放す。
ここで、アナウンスが入った。
『イベント開始15分前です。エントリーされたペアの方々は、至急中央広場まで、お越しください。繰り返します――』
「きちゃったかぁ……」
「そう言ってる割には、楽しそうじゃないか?」
「だって、何が起こるか楽しみじゃん」
「わー、ここにワルがいるぞー」
何だか、不安だったのが噓みたいに清々しい。
私はきりんの横に並び、フフッと微笑んだ。
【しと目線】
―― 15分前
「いちごに裏切られたぁ……」
こんな言葉を言ったのは、もちろんゆずしおだ。
自然に『じゃあまた後で』とか言って二手に分かれて、今はベンチに座っている。
今までずっと一緒にいて、意志疎通も簡単だったのに……何だか上手くない。
中学校とか入ったら、どうなるんだろう。もう話もしなくなるんだろうか。
ズーンと落ち込んでしまった僕。
ふとゆずしおを見ると、じっと僕を見ていた。
「うわっ、びっくりした……なに見てんの」
少しとげついた言葉になって、プチ後悔。なーんか僕、空回りしてるなあ。
「いや、何でもないんだけど……よく見たらしと、カッコイイ顔してるなぁって」
「なっ」
顔が瞬間沸騰する。い、いきなりなんだよ……よおし、仕返しだ!
「よく見たらって何?……僕はゆずしおの事、いっつも可愛いって思ってるのに」
「ふえっ」
奇妙な声を出すゆずしお。む……ちょっとぐらい照れたっていいだろ。
「し、しとの天然タラシめぇ!ふんっ!我は怒ったぞ」
ゆずしおは目をつむって歩き出す。ど、どういう反応なんだろ。うろたえる僕。
ってか、そっちの方向だと……
「へぶし!」
あーあ……柱にぶつかった。
「ちょ、ゆずしお大丈夫?」
「……」
「なんか言ってくれないと、分からないだろ。ほら立って」
「うぅ~」
ハァ……どうしようもないな、これは……
僕は諦めて、ゆずしおを担ぐことにした。ヒョイと持ち上げる。
「ひょえぇ⁉な、何⁉」
「え?立ってくれないんなら、担ぐしかないかなって」
「だからって、人を米俵みたいに持つなぁ!」
「米俵、見たことあるの?」
「ぐぅ……」
ははっ、いつものゆずしおだ。
「なに笑ってるの」
ふてくされているゆずしお。……当の本人は自覚していないみたいだな。
ここで、アナウンスが入る。
『イベント開始、15分前です。エントリーされたペアの方々は、至急中央広場までお越しください。繰り返します――』
「楽しみだねぇ?しと」
「いやいや怖いし。セリフと声が合ってない」
「さっきのお返しだぁ!こそばせてやるぅ!」
「えっ?急に何でって、あははははっ!ちょ、やめろよ……っくくく……!」
ゆずしおと僕の性格は反対だけど、このぐらいが、丁度いいのかもしれないな。
そんなことを、ふと思った。
【ゆずしお目線】
「あ」
見慣れた人物を見つけて、声を出す。
いちごときりんだ……なんて言って顔合わせればいいんだろ。
『もー』って怒る?『2人で何してたのぉ?』って茶化す?ほら、さ。なんか言わないと、仲直りできないかもしれないし。
そんなことを思いつつも、ウチは、口を開いては閉じるを繰り返すばかりだった。
なんか、怖い。いつもはスラスラとふざけた言葉が出てくるのに。
「お前らさ、気付いてるんならなんか言えよ」
しとがしびれを切らしたのか、2人に向かって言った。え、気づいてたの?
「ごめん、って言っても、許されるワケないよなぁ……」
「本当に、本当に、遊び半分だったんだよ……」
気まずそうな顔して言ういちごときりん。
ハァ……とため息をつくしと。
でも、なんかおかしい。結果的にはどっちも参加するのに。お人好しっていうのかもだけど、黙ってらんないよ。
「もう、3人ともおかしい!結果良ければみんな良し、でしょ?こんなのでケンカしてても、しょうがないとウチは思う」
最後らへんは涙出てきちゃって、声が震えてた。ずび、と鼻をならす。
って、あれぇ?反応がなくない?
「それは時と場合によるけど……本当だな」
「フフッ、ゆずしおはたまにイイこと言うよね」
「そもそもさ、俺らケンカしてたっけ?」
しとはいいとして……いちご、たまにって何⁉え、きりん、そこから⁉
「っっっ……あはははは!」
ウチは笑う。つられたかのように、みんなも笑う。
やっぱし、仲間っていいもんだよねぇ。
【きりん目線】
「だあぁ……疲れた……」
「何なの、あれ」
「ウチらにリア充コースは無理だって……」
「今度からは絶対に行かないからな」
俺たちこと、しろくろーず団は
カレカノフェスティバルという意味不明なフェスティバルに参加した挙句、中央広場でやってたイベントにまで行ったんだぞ⁉……まあ、俺といちごのせいでもあるけど。これについては本当に反省している。
「いやぁ、まさかあんなことになるとはね」
「う、思い出させるなよ」
「結果的には良かったんじゃない?」
「そうだけどさ」
そうだなぁ、今から40分くらい前か?あれは。
―― 40分前
『さーて、始まりました!カレカノフェスティバル名物のぉ、イベント!司会者は
軽いな、なんて思った。って!ちょっと待て!
しか⁉お前、しか⁉そんなキャラだったけか、アイツ。
「しかちゃん?……きりんの妹だったけ。数ヶ月違いの」
「なんでいちご、そんな落ち着いてるの⁉」
「色々あり過ぎて……慣れちゃった」
「そ、そうか」
『はーい、説明しますよぉ。皆さんご存知の通り、このイベントは順番にインタビューするという形式で行われます!一応カレカノフェスティバルなので、原則カレカノでペアになってもらってます。2人の愛を見せつけちゃってください☆』
嫌でーす。というか俺ら、カレカノでもなんでもありませーん。
『あ、そうだぁ。優勝したペアには賞金と、特別な装備品がもらえますので』
……
もちろん、俺を含めて。
『それでは、始めますよぉ。じゃ、まず青髪の男の子のペア!』
「は、はい⁉」
「え~と、ウチも、だよねぇ」
あちゃ~、しととゆずしおか。青髪の男子といえば、しとぐらいだしなぁ。
「しと、大丈夫かな」
「大丈夫だって。しとはああいう時、よそ行きの顔になるから」
「んじゃ、ゆずしおが心配だ」
ゆずしおは、たまにテンパるからな。俺も心配だ。
『お互いの趣味は?男の子からどうぞ!』
「う~ん、ご飯食べてるとき、ですかね」
『何故そう思うんですかぁ?』
「楽しそうな顔してるので」
「え、見てたの⁉」
『フフッ、お次は女の子☆』
「ふぇ、え、えと。寝てるとき?」
『どうしてですかぁ?』
「寝顔が幸せそうな感じだったから?本当に嬉しいんだなってぐらい」
「っ⁉」
腕でバッと顔を覆うしと。
くくく、恥ずかしいんだな?耳が真っ赤だぞ?普通、寝顔とか見ないもんな。
いちごもニヤニヤしている。
『ありがとうございましたぁ。いやぁ、始めっからすごかったですね』
本当だよ、アイツら何気にすごいのな。さっさと優勝しちゃってくれ。
そこから10分ぐらいか。未だに俺といちごの番は回ってこない。
出来れば来ないでほしいんだけどな。……でも、気になるだろ?
『ではでは~、最後に赤髪の男の子のペア!』
う、やっぱり来たか……ふぅっ、こうなったら一気に答えてやろう。
『ここはベタに行っちゃいましょうかぁ。お互いの好きなところ4つ、どうぞ?』
あ、アイツ……絶対分かってて言っただろ……!
『今まで男の子からでしたけどぉ、う~ん、レディーファーストで!女の子から』
「えっ、なんでそうなるの」
「いちご、後だと思って安心してただろ」
「ハハハ……」
というか、4つ?多くないか。
「えっと。1つ目が、仲間思いなとこ。2つ目が、言いにくいことも言ってくれること。3つ目が、ノリがいいこと。4つ目が……優しいこと、かな」
さらりと言ういちご。……俺、いちごからこんな風に思われてたのか?
なんか恥ずかしくなってきた。顔が熱い。
『ふむふむ。男の子の方はどうですかぁ?』
何がふむふむ、だよっ!
こちとらお前のせいでこっぱずかしい目にあってるんだっつーの。
反論しても、しょうがないんだけどな。
「1、場のふいんきを和ませてくれること。2、色んな考え持ってること。
3、性格いいこと。4、……一緒にいて、楽しいこと。以上!」
みんなの好奇心旺盛な視線が嫌で、早口になってしまった。
『……はい、ありがとうございましたぁ!では、審査員の方の集計が終わるまで
少しの間お待ちください』
――こんな感じだったな。この後優勝したペアが決まって、今に至る。
「ホント、驚いたよね」
「ああ。まさか、どっちも優勝するなんてな」
いちごとしとが言った。
俺の手の中には、賞金の入った袋が顔をのぞかせている。
そう、しかは『う~ん、同点!』と言ってどちらも優勝にしてしまったのだ。
他のカップルたちはただイチャイチャしてただけだったからな。
いずれにせよ、もうこういうイベントには来ないからな!
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