第6話:対モンスター戦と覚醒(前)
(第6話)
* * *
「はあっ!」
「ギャギャギャ!」
「甘い!」
「ギャヒッ!?」
「まだまだ!」
森に響く青年の声とモンスターと思わしき悲鳴。
何を隠そう、青年の声はカイト、モンスターはゴブリンである。
「ちっ……無駄に数だけはいるな。だが――!」
「「「ギャギョギョッ!!」」」
現在カイトはゴブリンと戦闘中である。
何体ものゴブリンが、カイトに対して棍棒や錆びた短剣で襲いかかる。
特に連携があるわけではないが、同時に飛びかかってくることで誰かが一撃入れるつもりのようだ。
一瞬で飛びかかってくるゴブリンたち。
それを見ながら、カイトは右手に大剣を持ったまま身体を右回転させる。
「――所詮、数だけではな」
誰が聞いているわけでもないが、少し格好を付けて呟くカイト。
同時に、飛びかかろうとしてたゴブリンの上半身と下半身が分かれ、血飛沫を上げながら重力に沿って落下する。
「ギギ!? ガガギゴゴギョ!!」
「「ギャギャッ!」」
ゴブリンのリーダーらしき個体が、一瞬で斬り捨てられた同族を見ながら驚きの声を上げる。
だが、すぐに他の個体に指示を出したのか、さらに数体がカイトに向かう。
「ふん、俺を倒せると思っている時点で愚かだな」
「ギ!? ギャ……」
だが、その数体も無造作に振るわれた大剣で命を刈り取られる。
「一体何なんだ、この数は……」
カイトはそう呟きながら周囲を探る。
既に森に入って数時間。
カイトはひたすらにゴブリン潰しをしていた。
少し進んではゴブリンの集団に出くわすのを何度か繰り返している。
集団を倒す度に、一応魔石と討伐証明の右耳を切り取っては収納しているのだが、それもかなりの数になってきていた。
「やっぱり、どこかに群れでも作っているのかね……」
カイトはそう呟きながら、自分が依頼を受けた午前中の事を思い出していた。
* * *
「混みあってんな……」
アリシアたちと別れて次の日。
カイトは第1鐘時過ぎに冒険者ギルドに来ていた。
流石にアリシアたちと決別のような状態になってしまっているため、いくら問題ないと言われても自分で宿代が出せるようにしておくつもりで依頼を受けることにしたのだ。
しかし、カイト自身としては早めに来たつもりだったが、既に大勢の冒険者が依頼の貼られているボードの前に詰めかけており、それぞれのクラスのものを取っては受付に持っていく。
あまりの多さに圧倒されながらも、カイトは依頼ボードに近づいた。
既に残りは少なくなっているようだが、それでも討伐など残っている。
「確か俺はFクラスだから、1つ上のEクラスの依頼まで受けられるんだよな」
というものの、実はEクラスの連中は多く、そして武器を変えたりしてお金がないため軒並み報酬がいいのは無くなっている。
その中でカイトは、異世界もののテンプレとも言えるゴブリン討伐依頼を見つけた。
これはFクラス依頼だが常駐している。
「ふーん……ゴブリンねぇ。定番っちゃ定番だが……安いな」
依頼数は最低10体。
達成報酬で20ディナル。以後、5体討伐するごとに10ディナルずつ加算される。
はっきり言って安いのだが、それだけゴブリンが弱いと言うことだろう。
更に言えば、常駐ということはかなりの数がいるとも言える。
「まあ、討伐数でも報酬が変わるらしいし、やってみるか」
そう言うとカイトは依頼票を剥がし、受付に持っていく。
並びつつ依頼票を見ると、基本的には「東の森」と呼ばれるエリアにゴブリンが多くいるらしく、そちらを中心に討伐して欲しいと記載されていた。
しばらくしてカイトの番となり、カイトは空いているカウンターに依頼票を差し出す。
するとカウンターに着いていたのは見知った顔だった。
「あら、カイトさん」
「レーナか」
受付嬢のレーナ。
彼女はカイトが登録した際に担当した人物である。
そして、カイトが直ぐにFクラスでの登録となった、そのきっかけを作った人物とも言えるだろう。
彼女が呼ばなければエイベルがカイトと会うことは無く、そうなればカイトはGからのスタートだっただろう。
彼女はカイトを見て微笑むと、興味深そうにカイトの持つ依頼票をのぞき込む。
「ええ、数日ぶりですね。何を受けるんです?」
「これだ」
「『ゴブリンの討伐依頼』ですか……まあ、基本ですけど……」
レーナとしてはカイトがEクラスの依頼を持ってくると思っていたので、「ゴブリン討伐」というありきたりなものを出されるとは思ってもみなかった。
カイトとしてはあくまでテンプレを楽しみたかっただけなのだが。
そう思って、微妙な表情をしているレーナに声を掛ける。
「ん? 何か拙かったか?」
「いえ……でもカイトさんからすれば物足りないと思いますけど。まあ、そこはカイトさんの判断ですからね」
てっきり戦闘を好むタイプだと思っていたので、こんな雑魚でいいのか? と思いつつも、レーナは手続きを始める。
その声や表情からして、何となくレーナの言いたいことを理解したカイト。
「やっぱりゴブリンって雑魚なのか?」
「そうですねぇ……一般人でも腕っ節が強ければ倒せますし。でも……」
別に冒険者でなくても倒せる雑魚。
それがゴブリンの扱いである。
だが、レーナは言葉を切り、真剣な表情でカイトに告げる。
「群れの場合は別です。あれは数の暴力ですから……ゴブリン単体がG寄りのFクラスでも、群れはDクラスですからね。最近近くに群れがいるという噂もありますし」
ゴブリンの群れ。
それは、おおよそ50体から100体が集合したもので、必ず集落を作る。
それはつまり、ゴブリンが繁殖している場所とも言えるわけで。
「ゴブリンは他種族……特に人間の女性を狙って攫い、繁殖の苗床としますからね……」
そう告げるレーナの表情は暗い。
カイトも図書館で読んだ図鑑に書かれていたことを思い出し、溜息混じりに呟く。
「つまりなんだ……下手すると集落があって、冒険者とか捕まっている可能性があるのか」
「あくまで可能性ですが……でも、見つけたからといって1人で手を出さないで下さいね。幾らカイトさんがダリル――Dクラスに勝てても、数という面では確実に不利なんですから」
そう言ってレーナはカイトを案じる。
何となくだが、カイトの場合平気で突撃しそうに思えたのだろう。
レーナの心配そうな表情を見つつ、カイトは苦笑しながら口を開く。
「確かに数が多いのは大変だからな。無茶はしないよ」
「ええ……だからカイトさんも気を付けてくださいね」
「ああ」
そう言って踵を返しつつ、背後でこちらを見つめているであろうレーナに後ろ手で手を振る。
レーナは、カイトがギルドを出て行くまで不安気に見つめていた――。
「さてと……あっちか?」
門を出て、カイトは東の森に向かう。
東の森。
それはフォレスタリアから、王都方面に向かうための主幹道路にほど近い場所にある森である。
フォレスタリアはその名の通り、周囲を森に囲まれていることが特徴であり、周囲には東西南北それぞれに森が存在する。
ちなみに正門に近いのが南の森である。
それぞれの森に生息するモンスターも異なり、南や東はそう強いモンスターが出ることはない。
とはいえ、モンスターはモンスターである。
時折被害が出ているのも事実であり、その中でもゴブリンというのは無駄に数が多いため面倒な相手である。
しかし、特にこれといって必要とされる素材は取れず、唯一の素材と言っていい魔石も小さく、あまりお金にならない。
肉も不味く、食べれるものではない。つまり、あまり良いところがないのだ。
これでは討伐依頼が人気なはずがない。
(それでも、討伐したら討伐しただけ金になるのは助かるがな)
さて、少し走って30分ほどでカイトは東の森に到着し、討伐を始めることにした。
それでカイトは、先日本で知った魔力の使い方である【探査】を使う。
これは、自分自身の魔力を薄い布のように張り巡らせて、モンスターや人、様々な場所を探知するものである。
調べたところによると、魔力には波のような性質があるそうで、魔力の波に触れたものは微弱ながらそれを反射する。
それを検知して相手の位置を探るのがこの【探査】であった。
勿論、モンスターによってはその探査を誤魔化すことの出来るものもいるし、高価な魔道具を使えば人間でも探査されにくくすることが出来る。
それに、結構魔力のコントロールが必要なので、簡単とは言えず、誰もが使えるとはいえないものだが、カイトは何度か試すうちに使えるようになったのだ。
(ん? 反応があるな……8、いや10。サイズとしてはゴブリンか?)
カイトの【探査】は無事ゴブリンを見つけ出したようだ。
その反応の方に向かって、大剣を取り出しながらカイトは走り出した。
* * *
そして、今に至るのである。
「最低10体討伐っていうのはすぐに終わったが……それにしても多すぎるだろ、これ!」
依頼を受けた時はすぐに終わらせて帰るなり、他のモンスターを倒して素材として売るなり考えていたが、ひっきりなしに襲ってくるゴブリンを相手にしていると、それどころではなくなった。
最初は倒しては討伐証明の右耳を切り取っていたが、30体を超え始めた段階で死体ごとインベントリに入れることにした。
インベントリ内であれば、時間が止まるので悪くなるということはないので、後でまとめて討伐部位だけ切り取るつもりである。
そうやってゴブリンを討伐することさらに2時間。
気付けばカイトは森の奥まで入っていた。
「意外と奥まで来たな……一旦解体でもするか」
意外と奥の方まで来るとモンスターが出て来なかったため、休憩がてらカイトは解体を始める。
ゴブリンの死体はどれも、真っ二つだったり首だけだったりと凄惨な状態である。
(解体するとなれば気持ち悪くなるかと思っていたが……意外となんとかなるな。とはいっても、血の臭い――鉄錆臭っていうのは慣れないが)
そんな事を考えながらカイトは解体を進め、右耳と魔石を取り出してはインベントリに納めていく。
30分程度で討伐したゴブリンの右耳と魔石を回収できたようだ。
モンスターの魔石。
それは魔道具作りや、魔道具を動かすための電池のようなものとして扱われる、生活に欠かせないものである。
いくらゴブリンといえど、魔石なら少しはお金になるのでカイトは余すところなく回収する。
大抵モンスターの魔石は心臓の位置にあり、ゴブリンなど人型のものであれば意外と簡単に見つけることができるのだ。
「さてと……『水よ、清めよ――【
カイトは呪文を唱え、手に付いた血を洗い流す。
カイトは図書館の本で得た知識から、魔法の使い方を理解していた。
魔法の発動には、まず魔力発動体が必要である事。
呪文。
そして、イメージである。
呪文を唱える際に、しっかりとしたイメージを持つことは大切らしい。
そして、イメージや効果と繋がりがある呪文である事。
これが魔法には重要であると書かれていた。
(本音、無詠唱でやりたいんだがな……なんか呪文って格好は良いが、厨二病っぽくて……いや、でもそれがこの世界の標準なのか? うーん……)
確かに呪文というのはかなり厨二病のように聞こえる。
だが、何度カイトが試しても、やはり無詠唱というのは出来ないようだ。
もし転生前の時点で少年といわれるレベルの年齢であればよかったのかもしれないが、既にカイトは二十歳を越えていた。
実は少し、呪文を唱える度に心にダメージを受けていたりする。
(でもな………多分呪文が、魔法というプログラムのソースなんだろう。そうなると省略はできないか……)
結局カイトは、出来るだけ短縮出来るように、無駄を削ることに力を注ぐようになるのであった。
* * *
解体が終わった頃には既に昼を過ぎていたため、出かける前に宿で受け取ったサンドイッチや串焼きなどを出して昼食にする。
自分で生み出した水を飲みながら、一息ついていると、ふとカイトの鼻につく臭いが流れてきた。
「ん? 鉄の臭い……」
鉄の臭い。
だが、もっと色々な臭いの混ざった、独特のいやな臭いが風に乗って流れてくる。
それはさっきひたすら嗅いでいたもので。
「血か……向こうだな」
流れる血の臭い。
森の奥から突然漂ってくるというのは通常考えにくい。
本来モンスターというのは夜行性で、強力なモンスターほど昼間に出てくることはまずない。
そのため昼間血の臭いがするのであれば、それは多くの場合人間のものである。
カイトは【探査】を発動させながら、漂ってくる血の臭いの方向へ走る。
すると、幾つかの反応を捉えることが出来た。
同じようなサイズの反応が4つ。そのうち3つが動いている。
そして、かなり大きい反応が2つ。
(多分大きい反応がモンスターだな。前の3つは……冒険者か?)
しばらくすると、左の方から3人の男女が駆けてくるのが分かる。
男の剣士と女弓師、あとは恐らく斥候役のシーフだろうか。
「くそおっ! ムルト、ムルトおおっ!!」
「叫ぶ暇があるなら脚を動かしてよ! ここで死ぬわけにはいかないんだから!」
「くっ……くそがっ!」
どうも仲間の名前を呼びながら、撤退しているようだ。
彼らの眼には、悔しさと、恐怖と、諦念と、怒りと、やるせなさを感じる。
恐らくムルトという仲間は犠牲になったのだろう。
その様子を見ながら、カイトは彼らが逃げてきた方向に向かって加速する。
だが、ちょうどその姿を見られたようだ。
「おいアンタ! そっちに行くんじゃねぇ、オーガがいるぞ!」
「早く逃げなさい! 早く!」
そうやって自分たちも必死に逃げながら、カイトのことも気にして逃げるようにと言ってくる冒険者たち。
カイトはすれ違いながら彼らに向かって叫ぶ。
「心配するな、先に行け!」
「なっ……だが」
驚いた冒険者たちが一瞬足を止めようとする。
だが、その時にはカイトは既にすれ違って向こうに走って行っていた。
「ちょっと!?」
「おいやめろ! とにかく逃げるんだよ俺達は!」
そう言って冒険者たちが逃げていくのを視界の隅に入れつつ、更にスピードを上げる。
「いたな……」
【探査】に映る反応はいまだに3つ。
大きな2つの反応がスピードを上げたのか、反応の動きが速くなる。
ちょうど、木々の切れ目にさしかかったと同時に、2体のモンスターを目視できた。
体高5メートル前後。全身が筋肉質であり、肌は薄緑。額に大きな角を持ち、口元から牙が覗いている。
そして手には棍棒を持っているモンスター。
そう、オーガだ。
「へぇ……こいつが」
クラスCでも上位と言われるモンスター、オーガ。
それを前にしてカイトは不敵に笑う。
(さて、普通ならば足をつかせて攻略するのがセオリーらしいがな……)
通常、大きなモンスターになればなるほど末端を攻撃して崩れたところに致命傷を当てるというのが普通である。
だが、これをするにはパーティーを組まなければ難しいのだ。
特にモンスターは本能からか、隙を作らないように動く。
一瞬の隙を突くには、複数人組むのが確実なのである。
とはいっても、カイトはひとりなのでそれは出来ないし、自分の限界や武器の力、魔法、その全てを使う上での確認を含めて、今回の戦いをトレーニングにすることにしたのだ。
「さて、悪いが相手してもらうぞ――『水よ、集いて我が敵を撃て【水弾】』」
木の間から飛び出した瞬間、魔法を放つ。
「グアアアアッ!!」
魔法が当たった方のオーガが仰け反り、カイトに意識を向ける。
カイトが放った魔法【水弾】。
詠唱の早さと、魔力を込める量で変わる威力という使いやすさが特徴である。
奥を見ると、魔法使いと思わしき人物が倒れているのが見えるが、生きているのかどうかははっきりしない。
視線を向けていると、もう1体のオーガもカイトに気付き向かってきた。
それを見ながらカイトも近い方の1体に向かって走り、跳躍する。
「はああああっ!」
掛け声と共に、大剣を上段に構えてオーガに向かって振り下ろす。
対するオーガは、横薙ぎに棍棒を振るってきた。
「甘いんだよ!」
カイトの振るう大剣の方が一瞬速くオーガの腕を斬りつける。
だが、大剣はオーガの腕に当たると、薄く傷を付けただけで弾かれた。
「グラアッ!!」
「おっと」
傷を付けられて苛ついたのか、オーガは着地したカイトに対して蹴りを放つ。
それを横飛びに回避しながらカイトは再度攻撃しようとするが。
「グオオオッ!」
「くっ!」
後から迫っていたもう1体のオーガが今度は棍棒を連続で振り下ろしてくる。
わざわざカイトの転がる方に向かって先に振り下ろしていることを考えると、意外と頭がいいのかもしれない。
「(少しオーガへの見方を変えるべきか? 中々頭がいいな……)……【
さらに近付いてこようとする1体に対して魔力を固めて速さを重視した【
このまま負けるということはないとはいえ、決め手になる攻撃を放つのが難しい。
魔法を使うにも、2体同時のために中々詠唱出来ない。
(ここで大きなダメージを与えるなり、足止めしなくてはな……)
考えながらもオーガの振るう棍棒や腕、足を躱しながら少しずつ斬りつける。
そうしていると、ふとオーガの反応が変わった。
「ギ、グアアアッ!?」
「ん?」
ふと見ると、オーガの足に傷が大きく刻まれている。
「おかしいな……俺は別に強く斬ったつもりは――なるほど」
一瞬なぜオーガに大きく傷がついたのか分からなかったカイトだが、すぐその理由に思い当たる。
カイトは詠唱前の段階から、魔力を一部大剣に流していた。
これは魔法使いがよく行う方法で、先に魔力発動体に魔力を通しておくことで魔法の発動や収束を早くする方法である。
その分魔力を使う事になるため、普通は大きな一撃を放つ前くらいにしかしないのだが。
だが、カイトが内包する魔力は桁違いに大きいため、魔法発動の前には必ず行う事だったのだ。
「つまり、俺の『武器』は魔力を通すと、変形だけじゃなくて攻撃力も増すということか」
カイトの持つ錨。それは形状の変化だけでなく魔力を通すことで攻撃力も変わるようだ。
それに気付いたカイトは、大剣に魔力を込める。
先ほどまで通していた魔力をあっさりと越えるだけの魔力を注ぎ込んでいた。
それと同時に、大剣が仄かに光を放つ。
「さあ、悪いが付き合ってもらうぞ――俺の戦力強化のためにな」
大剣を最上段に構え、カイトが呟く。
大剣の周りには、カイトの魔力が陽炎のように立ち上り、周囲の景色を歪めていた。
「グ、ググウ………ガ、ガアアアアアアッ!!」
それを見て恐れを抱いたのか、片方のオーガが後退る。
だが、まるでその本能を否定するかのように雄叫びを上げて、そのオーガはカイトに突っ込んできた。
棍棒を振り上げ、地面に立っているカイトを潰さんとしてこれまでで最も速いスピードで振り下ろしてくる。
――ズドンッ!!
振り下ろされた棍棒が凄まじい音を立てて地面にクレーターを作る。
それを見ながら、オーガは自分が恐れを抱いた相手が潰され、死んだと疑っていないのか笑みのようなものを浮かべた。
「グフウ……」
「ま、当たらなければどうということはないんだがな」
「!?」
オーガにとっては信じられなかったのだろう。
ちょうど背面から聞こえてくる声に反応して、オーガが振り返る――。
――ザンッ!
その瞬間。
オーガのちょうど腰上に一筋の線が入ったと同時に、オーガの上半身と下半身が分かれた。
カイトの振るった横薙ぎの一閃。
それがオーガを2つに分けたのだった。
「ふう……さて、もう1体だな、っと!」
「グオオオオオオオオオッ!!」
オーガの死体をインベントリに収納する。
カイトが振り返ると、もう1体のオーガの棍棒が迫ってきていた。
それをバク転しながら回避し、もう一度大剣に魔力を込めて一撃を放とうとする。
だが、先ほどの戦いを見ていたからだろう。
オーガは一定の距離を保って、カイトに近付こうとせず、側にある木を折って投げつけてきたり、石を投げつけてきたりする。
しかも、わざとなのか偶然かは分からないが、カイトが魔弾を放とうとするタイミングで、倒れた魔法使いの近くに回避する。
(くそっ、面倒なところに!)
今のところは被弾させてはいないが、ちょうど倒れている魔法使いに当たるギリギリなのでカイトとしても中々大きな魔法が撃てないのだ。
(別に冒険者は個人の責任の仕事だが……それでも流石に見殺しっていうのは寝覚めが悪いだろう)
別にカイトは誰でも救うと言い出すようなお人好しではない。
さらにいうと、この世界に来てから盗賊を手に掛けたり、絡んできた冒険者を返り討ちにしたりとかなりドライになっていると言えるだろう。
それでも、やはり簡単に見捨てようとは思えなかったようだ。
(こうなれば、こいつの水分を奪い取るとか、そういう魔法を使わないとな)
学生時代に見ていた漫画で、水を体内から暴れ出させるという術を使う人がいた。
それの真似が出来ないかと思いながら、カイトは魔法を構築してゆく。
『水よ、汝が司るは命の流れ。なればこそ、我が意に従い溢れ、沸き出し、逆巻け――【玄流の反渦】』
一気に魔力を消費した感覚と共に、カイトは目の前のオーガの水分を認識できた。
だが、それを暴れさせ、外に排出させようとするが、結局水分はオーガの体内で暴れるに留まった。
「グア!? グオ、クオオオオオッ!」
勿論オーガにとって、それはかなり大きなダメージではあった。
だが、カイトも意外と大きな魔力消費により膝を突く。
それを見てオーガも、大きなダメージながらすぐにカイトを潰そうと襲ってくる。
「くっ……意外と、上手くいかんか!」
膝を突いていたため一瞬カイトの行動が鈍る。
オーガの攻撃に対して、一瞬反応が遅れ、行動が遅れ、回避が遅れた。
「ぐっ!」
下から掬うようなオーガの一撃に対し、ギリギリで直撃は逸らされたものの、ガードした大剣ごと殴りつけられ、距離が離れてしまう。
「っっ……どうするかな、離れた距離からでも威力のある一撃を放てればいいんだが。あまり時間は掛けてられないしな」
今カイトが使える魔法は範囲魔法や身体強化系、回復などであり、意外と一点集中のような攻撃がない。
元々水属性ある以上、破壊力のある魔法というのが意外となく、カイト自身思いつかなかったというのがある。
(手詰まりではないけど、決定打がな……)
そんなことを考えながら、自分自身を回復させていると……
――力が必要ですか?
ふと脳内にそんな声が聞こえてきたのだった。
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