第4話:2日目、図書館。そして、武器の秘密

(第4話)

 * * *


 ――ゴーーン、ゴーーン


「……んあ? ……ん~」


 外で鐘の音が響いている。

 だが、部屋の中にいる青年は一瞬目を開けるが、そのまま寝返りを打つ。

 そのまましばらくモゾモゾ動いていたが、次の瞬間、ガバッと起き上がった。

 誰であろう、カイトである。


「……くぁ…………朝か……何時だ、今?」


 カイトは頭を掻きながらスリッパを履き、洗面台に向かう。

 顔を洗い、身だしなみを整える。

 ふと、カイトは鏡の前で立ち止まった。


(昨日の段階では鏡がなくて分からなかったが……意外と男前だな)


 自画自賛するわけではないが、転生して手に入れた顔は中々自慢できそうな美形だった。

 髪の毛は癖がなく艶のある黒髪で、首の付け根くらいまでの長さがある。

 前髪は分けており、7割が根元を立ち上げつつ前に垂らし、残りを後ろに流している。


 目は、鮮やかな青で、深い海を連想させるような色である。

 肌は白く、特にムダ毛が生えているようには見えない。ちなみに髭も生えていなかった。


(髭が生えていないのは助かるな……かつては毎日剃らないと大変だったし……)


 前世は割と髭が濃く、大変だったカイトである。

 さて、身だしなみを整え終わると、空腹感を感じたので着替えて外に出る準備をする。

 ふと外を見ると、既に人々は広場に集まり、活動を始めている……というより既に活発に活動しているのが分かる。


(もしかして、寝過ごしたか?)


 ふとそんな考えがよぎったため、状況を聞いてみようと部屋に備えてあるベルを鳴らした。

 これで職員を呼ぶことが出来ると言われていたのを、カイトは思いだしたのである。

 数十秒すると、部屋をノックする音が聞こえたため、カイトは職員に部屋に入ってもらった。


「おはようございますカイト様。よくお休みになりましたか?」

「ああ、とっても良かったよ。少し聞きたいことがあるんだが……」


 そう言って、カイトは朝食を摂ることができるか、この都市の施設の場所などを聞いていく。


「――では、朝食はすぐお持ちいたします。お昼はどうなさいますか?」

「そうだな、多分外に出たままになると思うから大丈夫だ。あと、アリシアには図書館に行くと伝えておいてくれ」

「かしこまりました」


 朝食はルームサービスらしく、部屋まで持ってきてくれるらしい。

 苦手なものがあるかと聞かれたが、特に思いつかなかったので問題ないと答え、後は図書館やめぼしい商店など教えてもらう。


 朝食に出てきたものは、パンとサラダ、後はシチューだった。

 結構朝から重たいな……とカイトは思ったが、食べていると食が進み、なんだかんだと平らげてしまう。


「ふう……満足した……さて、そろそろ行くか」


 もう一度職員を呼び、出かけることを伝えてから部屋を後にする。

 出てすぐが中央広場なので、出ている露店を見ながら図書館への道を進む。

 すると、レンガ造りのしっかりとした建物が現れる。

 見ると看板には本が描かれており、「フォレスタリア図書館」と書かれているのも分かる。


「ここか……結構普通だな」


 図書館の中に入ると、正面に受付カウンターと思わしき場所があり、何人もの職員が動き回っているのが見える。

 本を運ぶ職員や何か書類を見て書き込む職員。

 他にも様々な仕事があるようだ。


 カウンターの向こうに書棚が見えるが、カウンターの横にスイングドアが設けられており、素通りというわけには行かないようだ。

 そのままカウンターに近付くと、座っていた男性職員が声を掛けてきた。


「ようこそ、フォレスタリア図書館へ。閲覧ですか?」

「ああ。地理と歴史、あとは……何か図鑑みたいなものはあるか?」

「ええ、ありますよ。後でご紹介します。先に入館料をお願いできますか?」

「入館料……ああ、そうか」


 図書館に入るのに入館料が必要らしい。

 一瞬驚くカイトだったが、ふと思い出すことがあった。


(大体テンプレだと、本は高価だからという理由で保証料を取られるんだったな……あ、金額が分からないな)

「……いくらだ?」

「あ、50ディナルですね。カードをこれに触れるだけでいいですよ」


 そう言われたので、ポケットを探るようにしてインベントリからカードを出し、魔道具に触れさせる。

 すると魔道具とカードが仄かに光り、数字が50減る。


「はい、ありがとうございます。これは後ほどお返しいたしますのでお忘れなく。さてと……」


 保証料なので後で返却される仕組みらしい。

 職員は受け取ると、咳払いをし、姿勢を正してから口を開いた。


「職員のヴィクターと申します。ご希望の本は……地理と歴史でしたね?」

「俺はカイトだ……そうだな。出来ればこの都市についての本も教えて欲しい」

「分かりました。こちらへどうぞ」


 そう言ってヴィクターはカウンターから出て、カイトを先導する。

 左のドアから入りすぐのところは椅子とテーブルが何脚も置かれており、閲覧室である事が分かる。

 その奥が書棚になっており、どうやら種類ごとに並べられているらしい。


 それぞれの書棚にはカテゴリが書かれており、「自然」「物語」「実用」などと書かれている。


(へえ、実用書もあるのか……後で見てみよう)


 カイトはそう考えながら、ヴィクターの後に付いていく。

 しばらくすると、ヴィクターは書棚の1つに止まり、書棚から1冊の本を抜き取る。

 それを手に持つと、また移動し同じように1冊抜き取る。


 5回ほど繰り返しただろうか。

 ヴィクターは閲覧室まで戻ってくると、視線を彷徨わせた。


「あれ? カイトさんはどちらに……」

「後ろだが?」


 カイトがそう言うと、ヴィクターの肩が跳ね上がった。

 どうもカイトが後ろに付いてきているとは思っていなかったらしい。

 それでも本だけはしっかりと握ったままだったが。


「カ、カイトさん! 付いて来ておられたのですか!?」

「あ、ああ……一応場所を確認したかったからな」

「そ、そうでしたか……普通、この閲覧室で待たれる方が多いので驚きました」


 どうやらこの世界では、本を自分で探すのではなく、職員に取ってきてもらうのが普通らしい。

 カイトとしては自分で探すのも楽しみの1つと思っていたし、戻す時の場所を覚えておくつもりでもあった。


「そうなると、戻す時はどうするんだ?」

「その際にはまた私に言っていただければ大丈夫です。あと、破ったり汚したりはしないでくださいね。場合によってはかなりの罰金になる場合がありますから」


 聞くところによると、この本は領主が税金を用いて購入しているものらしい。

 そのため破ったり汚したりすれば保証料は戻ってこないし、場合によっては罰金ということになるそうだ。


「ふーん……それじゃあ注意しないとな……ありがとう、何かあったらまた呼ぶよ」

「はい、かしこまりました。ちなみに閉館は第4鐘時半ですので」

「ああ、分かった(第4鐘時?)」


 カイトはそう思いながら本を受け取り、椅子に腰掛けて本を読み始めた。



 ――しばらくして。


「……ん、んん~……」


 カイトは背伸びをしながら本を閉じる。

 首を回すと、コキコキッという小気味よい音が聞こえ、相当集中して本を読んでいたことが理解させられる。


「……ふう、結構読んだな。おかげで色々知ることが出来たが……」


 この世界の通貨や物価、法律、国家形態など、生活に直接関係してくるところから、知識として入れておかなければいけないことなど、様々な点を理解することが出来た。

 他にも、時間の数え方などもカイトにとって助かるものだった。


 例えば国の形態。

 この国は、ナトゥルラント王国といい、王族と貴族によって政治が行われていること。


 冒険者ギルドは国から独立した立場であり、どの国でもギルドがあって冒険者は依頼を受けられること。


 ファーベルシュタット帝国と国境を接し、お互いに小競り合いが続いていることなどである。


 他にも、時間はどの都市にも設けられている鐘で知らされること。

 おおよそ午前6時を第1鐘時とし、長めに1回鐘を撞く。そしてそれを3時間毎に増やすのだ。

 1日のうち6回まで鳴るので、午後9時までは鐘が鳴る。

 そして、その間に1度、つまりは1時間半の段階で、2回短い間隔で鐘が鳴らされるのである。


(つまりは閉館時間が4時半。結構早めだな……)


 そんな事を考えていると、外で長めに3回鐘の音がした。


「第3鐘時か……昼食べ行くか」


 そう思ってカイトは辺りを見回すが、ヴィクターの姿が見当たらない。

 ふと、カウンターの女性職員と目が合ったので近付くと、カイトをみて軽く会釈をしてきた。

 そのままカイトはカウンターに近付き、職員に声を掛ける。


「すまないが、昼になったので昼食を摂りに出ようと思うんだ。ヴィクターに選んでもらった内の3冊は読んだから残り2冊をまた戻って来て読みたいんだが、どうしたらいい?」


 女性職員は、犬耳が頭にあるところからすると犬の獣人なのだろう。

 そう要望を伝えると、女性職員もそれを知っていたのか笑顔で頷く。


「はい! ヴィクター先輩から聞いていますから大丈夫です。あ、一旦本をこちらにもらって良いですか? 2冊は取っておきますので!」

「お、助かるな。じゃあ、頼むよ」

「はい! あ、もし今日はやっぱり帰るということになれば、保証料を返却するので立ち寄ってくださいね!」

「ああ、了解」


 そう言ってから手を振って図書館を後にするカイト。


 しばらく道を戻って、中央広場に向かう。

 すると、朝よりも多くの人がベンチで休憩したり、露店で食べ物を買って昼食を摂っている。

 カイトは洗練された「大樹の恵み亭」の料理も好みだが、普通の食べ物も食べたいと思っていたので露店で何か買うことにした。


 ふと目にとまった露店では、何かの肉の串焼きが売られている。

 そっちの方にカイトが近付くと、露店の店主が気付いたのかカイトに声を掛けた。


「お、兄ちゃん! ちょうど焼きたてのオークの串焼きがあるぜ! 食って行きな!! 銅貨4枚、4デイナルだよ!」

「オークか……(オークって、あの定番の豚みたいな奴だよな)……店主、1本買おう」

「毎度!」


 言われるままカイトは露店に近寄っていき、串焼きを1本購入した。

 はっきり言えば知識程度にしか知らないモンスターの肉だが、売られているからには不味くはないだろう……という理由で買ったのだった。

 だがその串焼きを口に入れた途端、カイトは言葉を失う。


「……お、こいつは美味いな」

「だろ!? 適度に脂がのっていて、でも身もしっかりしたやつだったんでな! どうだいもう1本?」

「5本くれ」

「あいよ! すぐ焼くから待ってろ!」


 さらに串焼きを購入したカイト。

 実は、カイトが前世で好きだったものの1つに「豚バラ串」というのがあり、カイトの地元では焼鳥屋で定番でもあった。

 オークの串焼きはそれに似ており、しかも脂が甘くさっぱりしていたので、豚よりも美味しく感じられたのだ。


 それにカイトにはインベントリがあるため、余剰に購入しても無駄にはならない。

 生物は不可能だが何でも入ることと、設定で時間経過のオンオフが出来るということで、食品はいつでも新鮮に、出来たてのままを食べることが出来るのだ。


「ほい! 5本できあがり!」

「……よっと。『センド』」

「毎度あり! また寄ってくれよ!」


 受け取った串焼きをインベントリに入れつつ、もう片方の手で最初の串焼きに齧り付く。

 結局、さらに露店を見て回ったカイトは、ホットサンドのようなものを数種類買って、中央広場で食べる。


「……うん、中々美味い。惜しむらくは、生野菜がないことかな……」


 これは仕方の無いことなのだろう。

 保存技術や生産性という問題で、まだこの世界は生野菜が高いのだろう。

 大樹の恵み亭は高級宿であるが故、サラダなど出せたのだろうな……と考えつつ、カイトは食べ終えると立ち上がった。

 ちなみに余った分はやはりインベントリに片付ける。


「さて……」

「カイト様」


 服に付いた幾らかのパン屑を払い、図書館へ戻ろうとすると後ろから声が掛かる。

 振り返ると、大樹の恵み亭でカイトの部屋を担当する女性職員だった。

 プラチナブロンドの長い髪をアップでまとめており、エプロンドレスのような制服の胸元ははちきれんばかりに自己主張している。

 しかしウエストは適度に細く、彼女のスタイルをなお目立たせていた。


「あ、宿の……」

「はい、『大樹の恵み亭』スタッフのユリアで御座います。偶々お見かけいたしましたので、ご挨拶をと」

「ああ、そうだったのか。お疲れ様」

「はい、カイト様もフォレスタリアを満喫なさってくださいね」

「ありがとう、ユリア」

「それでは、失礼いたします」


 そう言ってユリアは礼をしてから笑みを浮かべつつ離れていった。

 だがなんとなく、一瞬彼女の視線が意味深なものに見えたカイトは驚いた。

 その間にユリアは見えなくなっていた。


 ユリアと別れ、図書館に向かう。

 何故わざわざ声を掛けてきたのか、そしてその視線の意味を不思議には思ったが、カイトは気にしないことにした。

 しばらく進んだところで、ふと思い出したことがあり、カイトは逆方向に歩き始めた。


(そういえば、宿屋が決まったことを伝えておかないと……)


 冒険者ギルドでは、冒険者の滞在先を把握している。

 カイトが登録の時には、まだ滞在先が決まっていなかったが、滞在先が決まったので伝えに行こうと思い、冒険者ギルドに向かった。


 冒険者ギルドに到着し中に入ると、カウンターに座っていたレーナがカイトに気付き、手を振ってくる。

 カイトも軽く手を振り、カウンターに近づく。


「カイトさん! 何か受けられますか?」

「やあレーナ。いや、宿が決まったからな、伝えに来た」

「あ、わざわざありがとうございます。それで、どちらになりました?」

「ああ、『大樹の恵み亭』だな」

「えっ……!? あんな高級宿……なんですか?」


 レーナは自分が大声を上げてしまったことに気付き、慌てて小声になる。


 レーナが驚いたのも無理はない。

 フォレスタリアで「大樹の恵み亭」といえば、最高級の宿だ。

 最も安い部屋でも、1泊で銀貨3枚——300ディナルが飛んでいくような宿。そんなところに滞在しているというのが、驚きだったのだ。


(登録したばかりでFクラスに認定され、宿は高級宿って……一体何者?)


 そんな風にレーナは思い、カイトに対して警戒ではないが、探りを入れようかと考えた。

 だが、それよりも自分の仕事をしなければ、と気を取り直し、書類にカイトの滞在先を記入した。


「はい、これで登録は完了です。宿を変更した場合は、また申し出てくださいね」

「ああ、わかった」


 そう言うと、カイトはギルドから出て行くのであった。




 冒険者ギルドから図書館へと向かい、カウンターで読み残していた2冊を受け取る。

 基本的にカイトは本を読むのに苦労はしないので、片方をを1時間程度で読み切ってしまった。


(何というか、動体視力なのか認識能力かが上がったからなのか、かなりのスピードで読めるな……)


 そう思いつつ、自分の身体能力の上昇を実感する。

 今読んでいたのは「動物と魔物の生態」という本で、様々な動物や魔物についての観察結果をイラスト入りで教えてくれていた。

 それは多くの種類の動物や魔物を網羅していたが、おおよそ全てを覚えることが出来たのである。


「さて、次は……『ファーベルシュタット帝国史』? なんでだよ……」


 自分が今いるナトゥルラント王国の、いわば敵国の本なのだ。

 何故わざわざこんな物まであるんだか……と思いつつも、カイトは好奇心をそそられたのかその本を読みだす。


(へえ……鉱石を多く産出する土地か。つまり逆を返すと食料が少ないんだろうな……海もなく、湖とか川が多いと……ふーん)


 ナトゥルラント王国は海に面しており、山もあるがどちらかと言えば丘や平地、森など、バランスの良い国である。

 そのような理由もあり、ファーベルシュタットとの小競り合いが絶えないのだが。


 その本の中では、有名な帝国貴族たちの紋章と家名も載せられていた。

 数多くある紋章の多くには、大抵虎やライオン、熊といった動物が描かれている。


 その中でふと、気になるものがあったので詳しく読んでみる。

 説明文を見てみると、かつて帝国の重鎮であったが、ナトゥルラント王国との戦争で負けた際に殿を務めたことで当主、跡継ぎ共に死亡し、断絶した家とのことだった。

 そこにはナトゥルラント王国と戦い、皇帝を守った英雄として記念する、と書かれていた。


 そしてそこには、見覚えのある紋章が描かれていたのだ。


「おいおい、こいつは……この紋章は……」


 そう言いながら、インベントリの中から1枚のメダルを取り出す。

 盗賊たちのアジトにあったメダル――それと同じ紋章が描かれていたのだった。



 * * *


 カイトは、しばらくメダルと本を片手に固まっていたが、ふと気付くと第4鐘時の音がしたため、そろそろ図書館を出ることとする。

 流石にセレスティーヌを襲った盗賊の背後に、帝国の貴族らしき影があるということは黙っているべきではないと思ったからだ。

 とはいえ、すぐにセレスティーヌや護衛騎士であるアリシアたちに会えるわけではないので、やむを得ず、しばらく散策することにした。


 ちょうど武器屋があったので、この機会に手になじむものがあれば予備武器を見てみようとカイトは武器屋に入る。


「いらっしゃいませ~」


 入ると、女性の店員がカウンターで出迎えてくれた。

 頭にバンダナを着け、髪を後ろで束ねた、少しそばかすのある元気そうな少女である。

 彼女の着るオーバーオールが、そのイメージをさらに強くしていた。


「何をお探しですか~?」


 カウンターから身を乗り出しながら、店員の少女はカイトに声を掛けてくる。


「いや、少し予備武器をな。大体どのくらいの金額だ?」

「ものによりますね~。50ディナル程度のナイフから、1000ディナルの魔剣までありますよ~。注文なら時間かかりますけど~」


 取り揃えは多いようである。

 大体銅貨50枚から銀貨10枚といったところか。

 棚に並べられているのは、細剣も長剣もあり、カイトとしては楽しくなってきた。

 日本ではお目にかかれないような武器。

 それを手にできることに、カイトは興奮を抑えられないのか、口の端を歪める。


(出来る事なら注文が良いんだろうけれど、そこまでメイン武器ではないしな。注文するとすれば刀とか作って欲しいけど)


 とは言っても刀の造り方は何となくしか知らない。

 それに、カイトとしては近接武器より遠距離を狙えるものが欲しいのであった。


「なあ、魔弾銃スペル・ガンは売ってないか?」

魔弾銃スペル・ガンですか? 流石にあれは売ってないですよ。大体、あれは値段が馬鹿になりませんしね」

「そうなのか……出来れば遠距離を狙える武器が良いんだが……」


 そんな話をしていると、表のドアが開きガタイのいい中年の男性が入ってきた。

 見ると、あちらこちらに火傷の跡があるのが見える。

 そして、なんとなく熊を思わせる毛むくじゃらの髭が特徴的だった。


「帰ったぞ、大人しくしてたかリズ? ……おや、お客さんか」

「ひどいな~店長。ちゃんと店番してたよ? そうそう、この人が武器が欲しいんだって」


 店員はリズというらしい。

 彼女の言葉に店長が顔をカイトに向ける。

 そのまま店長はしげしげとカイトを見、自分の顎を撫でるとニカッと笑顔をカイトに向けた。


「おう兄ちゃんや。流石にここにはお前さんの武器より良いものは置いてないぜ?」

「……何?」


 店長の一言は、カイトを一瞬でも警戒させるには十分な言葉だった。

 だが、そういえば一度だけそれなりの人数の前で、武器である錨を取り出したことをカイトは思い起こし、口を開く。


「……あの時見ていたのか」

「ああ。もちろん戦士としての腕も見せてもらったがな。それより目に付いたのがおまえさんの武器だ」


 ただ喧嘩を見ていたのではなく、カイトの剣――元は錨だが――を見ていたのだ。

 単なる野次馬ではなかったという事だろう。

 そのまま店長は話を続ける。


「はっきり言ってあんな武器は、かつて一度だけ触れたことがあるだけだ。世にも数本しかないだろうな。だから嫌でも憶えちまうさ……武器屋ならな」

「ふーん……元々持っていたから、そんなレアものとは思ってなかったよ」


 嫌でも覚えるといいつつも、店長の顔は嬉しそうだった。

 まるで夢にまで見たものを見たというような表情で呟く。

 対してカイトは、元々自分が持っていたものであることと、本音自分の命を奪ったものだったという事で、いまいち凄さというものを感じていなかった。

 もちろん形状を変えられることとか、魔力発動体も兼ねているということは便利で助かるとは思っていたのだが。

 そのカイトの反応に対して、店長は呆れたような視線を向ける。


「そいつは……危ない奴だな、お前」

「そうなのか?」


 店長から危ないと言われても、いまいち分かっていないカイトである。

 それが分かったのか、店長はさらに説明を続ける。


「考えてもみろ。世界に数本だ。どこかのお貴族共が売ってもらおうとやってくるぜ。果ては、無理矢理奪うために……とかな」

「成る程な。確かに面倒だ……だがまあ、そういう手合いは返り討ちにすればいい」


 貴族という生き物は、見栄を張ったり、欲しいと思うものは必ず手に入らないと納得しない者も多い。

 もちろんシュバリエ家の令嬢であるセレスティーヌを見ているカイトにとっては、そんな貴族ばかりではないことも理解していた。

 だが、所謂テンプレというのはどこにでもあり、手に入れようとして命まで狙ってきかねないという言葉は間違っていない。


 それに対するカイトの反応はなんともドライだったが。

 敵は叩き潰す。見敵必殺サーチ・アンド・デストロイ

 なんとも物騒な奴である。


「……はあ。暢気な奴だ……とにかく注意しろよ?」

「ああ、ありがとうな心配してくれて」

「おう、恩に着やがれ。……あ、それとな」

「ん? なんだ?」


 呆れて気の抜けたような返事をしながらも、店長はカイトが心配なのか助言してくれる。

 気を付けるつもりではあったが、暢気と言われても言い返せない反応をしてしまったので、素直にカイトはお礼を言って出て行こうとする。


 カイトの言葉にわざわざ乗っかって、場を和ませようとする店長が、さらに伝えることがあるのかカイトを呼び止めた。

 それに反応し、カイトも足を止めて振り返る。


「いや、お前さん、あの武器がどういう種類か知らないかと思ってよ。少し説明するからこっち入って座れ」

「いいのか?」

「おう、ついでだからな。こっちに来い」


 そう言って店長は、カウンターの中にカイトを招き入れる。


「例の武器、出せるか?」

「ああ、いいぞ」


 店長はカイトを工房のようなところに招き入れ、カイトの錨を見せて欲しいと頼む。

 カイトも普通であればそう簡単に出さないのだろうが、店長は信用に値すると感じ、すぐにインベントリから大剣状態の錨を取り出す。


 それを見て店長は唸った。


「……ふん。案の定だな」

「どういうことだ?」


 案の定と言われたことに、何か分かったのかカイトは聞いてみる。

 だが、それに対する答えは全く関係ないような言葉だった。


「お前さん、名前なんて言うんだ?」

「は?」


 あまりの突拍子もない質問に思わず聞き返す。

 それに対して何も反応せずに店長は質問を繰り返した。


「名前」

「……カイトだ」


 いまいち店長の質問の意図が分からずカイトは戸惑ったが、それでも話が進まなそうなので素直に答えることにする。

 だが、少し怪訝な表情になったのは仕方のないことだろう。


「カイトか。俺はハンスだ。……こんな風に、俺たちは名前を持っているだろ?」

「そうだな。変な自己紹介になったが」


 突然店長の名前を聞かされ、単に自己紹介をしたかったのか何なのか分からないが、カイトは少し言い返してやりたいという気分になり、片頬を上げながらツッコミとも嫌味ともつかないような反応をする。

 だが、店長は特に意に介していないようだった。


「やかましいわ。結局何が言いたいかというと……つまりだカイト。お前さんの武器も名前を持っているんだよ」

「へえ、初めて聞いたな」


 ある場合、国宝のような武器などは名前を付けられることが多い。

 あるいは使われていく内に、異名のようなものを付けられる武器も多い。

 だが、特に自分が使っている武器に名前があるとは思っていなかった。


(まあ、漫画とかなら「お前の○○の名前も聞けない奴が!」とか、真実の名前を呼ぶと能力が……とかあるよな)


 某漫画の狒々とか蛇を操る誰かさんである。某真っ赤なパインさんである。

 カイトは結構気に入っていたので、何度も読み返したな……とか考えながら店長の話を聞く。


「だろうな。こいつは意思ある武器として知られていて、俺たちはこれを『魂の武器』なんて呼んでる」

「ふーん……『魂の武器』、ねぇ(あながち間違っていないな)」


 カイトの錨は、自分の魂に深く結びついていると言われていたので、確かに「魂の武器」というのは間違っていない。


「おうよ。そしてここからが問題でな。そこそこの意思ある武器……魔剣とかそのカテゴリーだが、これはこっちが名前を付ける。ある場合持ち主が勝手に名前を付けて問題ないんだ」

「なるほど。赤ん坊みたいなものか」


 図書館で読んでいた本の中で、武器に関する記載もあったが、基本的に魔剣と呼ばれるものは人の手で作られる。

 魔法的な処理を施されたものを魔剣と呼び、それが出来る鍛冶師を「魔剣鍛冶」と呼ぶようだ。

 そのカテゴリは、作り手や持ち主が名前を付けられる。


「お、それに近いな。正しくは意思のレベルが低いということなんだが。しかし、レベルの高い『魂の武器』っていうのは、武器自身が名前を持っていやがる。それを使い手が知らねぇと、その力を十全には使えないんだ。実際に会話出来る……というか念話出来る奴もあるらしいからな」

「……つまり、俺の武器は後者ということか」


 意思のレベルが高い、つまり高位のものになればなるほど、名前は既に持っており、それを知ることが本当の使い手の条件になるようだ。

 そしてこれをわざわざハンスが述べるということは、カイトの武器が後者――高位の意思を持つ武器であるというわけである。


「そういうこった。だから早めに名前を見つけねぇと、他の連中に奪われかねない。……といっても、お前さんアイテムボックス持ちか。まあ、早めにするこった」


 本当に自分自身のものにするためにも、その名前を知らなければいけない。

 出来れば念話で分かれば良いな……とか思いながら、カイトは店長のハンスに礼を言う。


「分かった。感謝する。ついでにナイフ数本と……長剣1本買うよ」

「毎度あり!」


 話のお礼ではないが、手間賃として武器を少し購入したカイトであった。



 * * *


 既に4鐘半を過ぎたため、カイトは大樹の恵み亭への帰り道を急ぐ。

 出来るだけ早めにアリシアに、襲撃の裏について報告するためだ。


 多くの人は第5鐘時前に夕食を食べる可能性が高い。

 そのため既に戻っているのではと思い、宿に戻る。


 宿に戻ると、受付の初老の男性職員が丁寧に礼をしてくる。


「お帰りなさいませ、カイト様」

「ただいま。そういえばお昼頃にユリアに会ったよ。声を掛けられるとは思わなかったが、なんか楽しそうだったな」


 街中で自分が泊まっている宿の職員に出会ったのが珍しかったのだろう。

 カイトは挨拶もそこそこに、そんな事を受付に言った。


「! ……左様でございましたか。それはようございました」

「? 何がだ?」

「いえいえ、彼女はあまり人に気を許しませんからな、少しでもカイト様には気を許したのでしょう」


 カイトの言葉に、一瞬、ほんの少しだが驚いたように目を見開いた職員。

 だがすぐにその表情は戻り、よりにこやかにカイトに話しかける。


 一瞬みえた驚きの表情に不思議に思いつつ、何が言いたいのかカイトは職員に尋ねた。

 だが職員は、さっきの驚きの表情が嘘だったかのように、それらしい理由を述べてカイトの追及をかわす。


「ふーん……まあいいか。そういえばあの方々・・・・は?」

「アリシア様はお戻りでございます。如何なさいますか?」

(都合が良いな……)


 どうやらアリシアだけは既に戻って来ているようだ。

 カイトはタイミングの良さを感じつつ、受付と話す。


「そうだな、俺はアリシアと話してから俺は部屋に戻るから、ユリアを呼んでくれ」

「かしこまりました」


 夕食も近いので、ユリアにお願いしようと思い、カイトは受付に部屋に呼んで欲しいと頼む。

 そのまま上の階に上がると、ちょうど3階から降りてきたアリシアと鉢合わせした。


「お、カイトじゃないか。戻ったのだな」

「ん? ああ、そうだ。アリシアもか?」

「いや、私は一旦お嬢様の荷物を取りにな。今日は夕食会を領主が催してくれるらしいから、領主邸に泊まる事になりそうだよ」


 様子としてはあまり大っぴらに来たわけではないセレスティーヌたち。

 それなのに夕食会をするとは大丈夫なのだろうかとカイトは思い、尋ねる。


「おいおい、そんな大々的なものをするのか?」

「そういう訳じゃない。身内だけのものだよ。だが、終わってからここに戻ってくるというのは流石に安全を考えるとな」

「そういうことか……アリシアも領主邸なのか?」


 身内だけで行うのであれば、確かに問題はそこまでないだろう。

 少しホッとしたカイトは、アリシアも領主邸に残るのか尋ねる。


「ああ、今日だけはな。だから気にせずここに泊まっておいてくれ。というか、どこかに行かれると困る」

「分かった、ありがとう。……それはそうと、少し聞きたいことがあったんだが、明日の方が良いかな」


 これで彼女たちがいないのにここに泊まれと言われたら、流石にカイトとしてもそんなヒモになるつもりはないので出て行こうとするだろう。

 だが、一応彼女たちが戻ってくると言うことで、このままここに滞在できることに安心したカイトである。

 

 さて、本当はカイトとしては今日の内に例のメダルの件を話すつもりだったが、流石に忙しそうなので今日は諦めて明日話すことにした。


「ん? 聞きたいこと?」

「いや、少し時間が掛かると思うからな。急いでいるんだろ?」

「ああ……いいのか?」


 アリシアが問題ないのかと聞いてくる。

 だが、彼女たちは領主邸に今日は泊まるので、安全面というところでは問題ないだろうとカイトは考えていた。


「ああ。また明日でいい……一応聞くが、領主はセレスティーヌ様の味方なのか?」

「分かった。ん? ああ、心配するな。シュバリエ公爵の腹心の部下だからな。というか、迂闊にそういうことを言うと、不敬罪と取られかねんぞ……また明日な。ここにいるか?」

「多分な。一応どこか行く時はユリアに伝えておくよ」


 流石に領主について「味方か」なんて聞くというのは、この世界では非常識と言っても良いだろう。

 もちろん直接言っていない以上は不敬罪に問われることはないのだが。

 だが、わざとアリシアはそう言って、カイトをからかった。


 もちろんカイトも分かっているので、何事もないようにスルーしていた。

 もし何かあれば自分の部屋を担当してくれているユリアに伝えておくことにした。

 だが、ユリアという名前が出た瞬間、少しだけアリシアが眉を上げて反応する。


「ユリア? 誰だそれは」

「ん? いや、ここのスタッフだ。俺の部屋を担当してくれている女性だよ。あのプラチナブロンドの……アリシアも見ただろ?」


 なんとなくアリシアの良い方にとげのようなものを感じたカイトは、誰のことを言っているのか説明する。


「ふむ……そうか。まあいい、分かった」

「? おう。じゃあな」

「ああ……またな」


 いまいち要領を得ないアリシアの反応だったが、最後はなんとなく納得したのか、元の表情に戻る。

 カイトとお互いに挨拶し、カイトは上の自分の部屋へ、アリシアは荷物を持って階下に降りていく。


 だが本音を言うと、アリシアの心中は穏やかではなかった。


(全く……カイトは分かっていないのか? ここの職員が名乗ったということは、お前はその者に気に入られているんだぞ……)


 そうなのである。

 大樹の恵み亭に限らず、こう言った高級宿では専属のものがつくことが多い。

 だが、あくまで職員と客というスタンスのため、職員の名前など、いわば個人情報は客側は知らない。


 かつてとある女性職員を気に入った貴族が、その職員を手に入れようと馬鹿をやったためである。

 その職員の名前や出身地の情報から、圧力を掛けたのだ。

 婚約者もいたその職員は、婚約者を殺され、無理矢理その貴族の側室にさせられそうになった。


 結局、その職員の女性は側室に収まるが、その貴族との初夜の際にその貴族を殺し、事実全てを公表した上で自ら命を絶ったのだ。


 そのような出来事を避けるためにも、宿屋の職員、特に高級宿は客に個人情報を与えないのだ。


 だが、その唯一の例外。

 それは、職員側がお客を自らの主としたいと願った場合である。

 もちろん泊まるのは貴族や大商人であるため、正妻になれるとは思わない。

 だが、それでも構わないなら、そして客がその職員を望むのであればその職員を自分の従者や愛人、あるいは側室にすることが出来るのだ。


 これは既に法的に確立されているのだが、カイトはまだ知らない。



 * * *


 カイトが部屋に戻り、一息つくとドアがノックされた。

 カイトがその人物を通すと、入ってきたのは職員のユリアだった。


「失礼いたします、カイト様」


 受付で呼んで欲しいと言っていたとはいえ、なんとも素晴らしいタイミングで入ってきたユリアにカイトは驚かされる。


「(所謂おもてなしの心か?)ああ、ちょうど良かった。そろそろ夕食にしたいんだが、いいか?」

「かしこまりました。すぐにお持ちいたします」


 少しズレたことを考えつつ、夕食を頼む。

 どうやらここに持ってきてくれるようだ。


 しばらくすると、ユリアと数人の職員が入ってきて、料理が準備され、テーブルに並べられる。

 今回はコースのような感じではないが、結構しっかりとしたボリュームでテーブル一杯に準備される。


 他の職員が出て行くと、ユリアがカイトのテーブルのそばにつき、グラスにワインを注いでくれる。

 料理に合わせてだろう。赤ワインが出されていた。

 一口含むと、独特の渋みと同時にコク、香りなど様々なフレーバーを感じる事が出来る。


 一瞬だけユリアは食べないのだろうか、と思ったカイトだったが、流石に職員を留めるわけにはいかないと思い、食事を続ける。

 ふと、顔を上げるとちょうどユリアと目が合った。

 すると彼女は微笑みながら口を開いた。


「本日の料理はいかがでしょうか?」


 昨日カイトがセレスティーヌやアリシアたちと食事を摂っていたことを彼女は知っている。

 当然料理の種類が異なることも、よく知っているのだろう。

 料理の感想を聞いてくる彼女に、カイトは微笑みつつ答えを返す。


「うん、とっても美味しいぞ。流石だ」

「恐れ入ります」


 そう言うと、彼女は少しだけ自慢げな表情を見せつつ深く頭を垂れた。

 なんとなく、彼女の表情が自然なものに思えたカイトは、もう少しユリアについて知ろうかと思い、気になっていた事を聞いてみる。


「ユリアは食べなくて良いのか?」

「ええ。私ども職員は既に済ませておりますので」


 そう言ってくる彼女の表情は、自分の仕事に誇りを持つ者の表情。

 客側に気を遣われることがないように、そういうところもきちんと段取りよく行っているのだろう。

 それはそうと、ユリアがいつも敬語なのでカイトとしては気になっていた。


「そうか……ユリア、1ついいか?」

「何でしょう?」


 敬語のことを切り出そうとするカイトに、ユリアは微笑みながら首を傾げる。


「俺は別に貴族ではない……シュバリエ家とも何か直接関係があるわけじゃないんだ。だからそう固く話さなくていいぞ?」


 本当はカイトとしては楽に喋ってくれたらもう少し仲良くなれるんじゃ……と思っていたのだが、それを素直に口に出すと恥ずかしいからなのか、なんとも自分を卑下したような良い方になってしまっている。

 それに気付いたのか分からないが、ユリアは一瞬驚いた顔をし、すぐに破顔する。


「ええ、存じ上げております。ですが、私はカイト様の担当ですから」

「うーん、そうなのか? ……まあ、大変じゃないならいいが」

「ええ、勿論です」

「そうか」


 特にユリアがきつくないのであればいいか、と思い、カイトはそのまま止めていた食事の手を再開させる。

 その様子を見ながら、ユリアは目を閉じ、深い笑みを湛えながら口を開いた。


「ええ……お心遣い、本当にありがとうございます」


 カイトの気持ちなども全てお見通しなのだろう。

 口を開いた彼女のその笑みは、カイトをしばらく硬直させるだけの力があったようだ。

 

 数秒、あるいは数十秒、はたまた一瞬なのか。

 復帰したカイトはそっぽを向きながら食事を続ける。


(まあ、悪い奴じゃないんだが……調子狂うな……まあ、ここにいる間だけだし、いいか)


 そんな事を考えながら、カイトの2日目は終わった。



 * * *


 暗闇の中、男たちの声が聞こえる。


「依頼主はなんて言ってた?」

「どうも今日は都合が悪いらしい」

「そうか……また様子を見つつ、指示を待て」

「了解」


 彼らは一体何を企んでいるのだろうか。

 依頼主は一体……


「そういえば、どうにかしてあの野郎はこっちに来るように誘導するらしい」

「そうか……俺の恨み……味わいやがれ……」


 誰かを襲う算段なのだろうか。

 それとも、殺すのか……

 それはここにいる男たちと、その依頼主のみである。


「…………」


 ――そして、それを遠くから見つめる影。

 ふっと、気配を消して建物から飛び降りる。


 そこに、流れるような白金の髪を靡かせながら。

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