世界最弱小種族
転々
第1話 最弱の種族
一番古い記憶は、幼馴染や兄弟と洞窟を駆けているものだった。
その頃は、周りに自分と同じ種族の人々しか居らず、周りと比べることもなかった。
僕が十歳の頃、洞窟に迷い人と呼ばれる人が来た。
迷い人は自分たちとは違い、体も大きく毛も少ないけど、怪我をしているようで村の大人達が手当てをしていた。
僕たちは、自分とは違う迷い人さんを見ようと、部屋を覗き込もうとしたが、大人達が見せてはくれなかった。
しばらくして、迷い人さんの怪我が良くなってきて、あってもいいよと言われたが、迷い人さんが話している言葉が僕には分からなくて、昔洞窟からでて冒険をしたことのあるおじさんが、迷い人さんと話すとき通訳してもらった。
迷い人さんは、遠くの国から逃げる為にこの洞窟にたどり着いてしまった様で、ここがどこかもよくわかっていない様だった。
僕もここがどこと言われるとよく知らない。
家は洞窟で外にはに木がいっぱい生えているところがあるくらいしか知らなかった。
僕たちは、おじさんがいる時に度々迷い人さんとお話をした。
迷い人さんの名前は、ケインさんって言うらしい。
ケインさんは、色々な事を教えてくれた。
外の木が生えているところは、大森林と言われていて、大森林の外には色々な人々がいて、大きな街やダンジョンとよばれるところがある事を聞いた。
子供だった僕たちは、その話を目を輝かせながら聞いていて、ケインさんも子供達に話をするのは楽しそうだった。
ケインさんがきて三ヶ月がたった。
ケインさんのの怪我が治って、ケインさんと大人の人達が話し合いをしていた。
僕たちには詳しく教えてもらえなかったけど、ケインさんはこの洞窟から出ていくそうだ。
僕たちは、ケインさんにもっと色々な話を聞きたかったくて、泣いたり駄々をこねたりしたけど、ケインさんや大人達は聞いてくれなかった。
ケインさんが洞窟を出ていく日、ケインさんは大人達に感謝の言葉を述べて、泣きながら縋り付く僕たちの頭を撫でて洞窟から出て行った。
その日の夜、僕たちは大人達に起こされて、洞窟の奥に連れていかれた。
洞窟の入り口のほうから、変な音や叫び声が聞こえてきて、みんなは洞窟の奥で震えていた。
僕は、その音が気になりこっそりと入り口の方へ向かって歩いていく。
音がする方へ近づいていくと、変な匂いがした……血の匂いだ。
流石に僕も血の匂いがしたため、怖かったけど好奇心が抑えられず覗いてしまった……そして悲鳴をあげて洞窟奥ではなく、別の外に向かう穴からにげだした。
気がついた時には、身体中が痛かった。
僕は洞窟を抜け出し、山をどこへでもなく走っていたのだけど、足を滑らせて谷に落ちてしまって気絶していたみたいだ。
身体中が痛くて痛くて、泣き叫び、お父さん、お母さん、痛いよ、助けてよ、と谷中に響く声で叫んで、また気を失った。
次に気がついた時は、僕の周りには誰かがいた。
ケインさんみたいに大きな体をしているけど、頭に耳が生えていて、尻尾も生えている見たこともない人達だった。
「起きたか坊主。大丈夫か、まだどこか痛むところはあるか。」
僕に声を掛けたのは、白黒のしましま模様の毛並の大きな人だった。
僕の自分の体を見ると、右腕には包帯が巻かれていたが、体の痛みはなくなっていた。
「……痛くない。ここはどこ。」
「そうか……ここは坊主が倒れていたところに近くにある洞窟だ。叫び声が聞こえたらか来てみたら、坊主が傷だらけで倒れていたんだ。」
「……ありがとう。」
しましまの人は、僕の頭をグリグリと撫でながら笑っていた。
しましまの人の後ろから、黄色と茶色のまだらな毛並みの人がのぞいてきた。
「あら起きたのね、怪我の方も大丈夫そうね。お腹は空いているかしら、何かたべられそう?」
そう言われて始めて気がついた、とてもお腹が空いていて、おなかがぐぅとなってしまった。
「はいどうぞ、熱いからゆっくり食べるのよ。」
「ありがとう、いただきます。」
木の器に入った、なにかの実を煮詰めた物を僕はかき込んだ。
おかわりまでして、お腹いっぱいになるまで食べたのは、生まれて初めてだったかもしれない。
「ごちそうさまでした。おいしかった。」
「おそまつさま。そういえば、なんであんなところで倒れていたの?」
びくりと体が反応してしまう、そして体がガタガタ震え出してしまった。
僕は思い出してしまった、洞窟での出来事を、血だまりに横たわるみんなの姿を。
「あ……あ、ああ、あああああああああ! 」
包帯の巻かれていない左手で体を抱きしめ、震えながら叫び声をあげた。
「大丈夫、大丈夫だよ。」
黄色と茶色のまだらの人が、僕を優しく抱きしめて撫でながら言ってくれる。
僕の震えが止まっても、その人は抱きしめていてくれた。
「も、もうだいじょうぶ、です。ごめんなさい。」
「謝らなくても良いのよ、私こそごめんなさいね。」
どれくらい時間が経ったかわからないが、僕は落ち着いて何が起こったか話をした。
ケインと言う迷い人が洞窟にやってきたこと。
ケインが洞窟で怪我の治療をしたいたこと。
ケインが洞窟から出て行ってしまったこと。
その日の夜に、大人達に起こされて、洞窟の奥に連れていかれたこと。
こっそりと、何が起こっているか見に行ったこと。
そして、ケインや大人の人達が、ケインみたいな人たちと戦っていて、いっぱい人が倒れていたこと。
それを見て、僕は洞窟から逃げ出し、気がついたら助けてもらっていたこと。
話し終えると、二人とも悲しそうな顔をしていた。
「そうか、大変な目にあったな。坊主が洞窟にいた時は……そのケインと言うやつとか、他の大人達はまだ生きていたんだよな。」
「ぼくが見た時には、まだ戦ってた。お父さんもお母さんも戦ってた。」
「そうか。坊主、朝になったら坊主の洞窟を見に行こう。洞窟の場所はわかるかい。」
「よくわかんない。でもケインは大森林と山の間に洞窟があるって言ってた。」
「ふむ、大森林と山の間ね。まあそっちの方に行けば、何かわかるかもしれないな。とりあえず坊主は怪我もしているし、夜も遅いから寝たほうがいいな。」
白黒の人がそう言うと、黄色と茶色の人が僕を寝かしつけてくれる。
僕が眠るまで、ずっと隣に居てくれて、僕は直ぐに寝入ってしまった。
いい匂いがして、僕は目を覚ました。
黄色と茶の人は僕の隣で寝ており、その横に白黒の人が座っていた。
匂いは洞窟の外からしているようで、昨日いっぱい食べたのにまたお腹が空いていたようで、匂いにつられて僕は起き上がる。
「坊主起きたか、外で飯の準備がしてあるから付いて来いよ。」
僕は、黄色と茶色のひとを起こさないように立ち上がり、白黒の人の後を付いて行く。
洞窟を抜けると既に日は登っており、眩しさに目を顰める。
石で作った竃の横には、しらない人が二人いて、白黒の人に挨拶をしている。
二人ともケインと同じように毛が少なくて、体の大きな人だった。
「お、坊や。元気になった様だな。ご飯は食べられそうか。」
僕が頷くと、その人はお椀にスープを注いで渡してくれた。
この場所は少し寒いところなので、暖かいスープがとても美味しかった。
ありがとうとお礼を言って、お椀を返すとおかわりは要らないかと聞いてきたが、昨日もいっぱい食べさせてもらったから断ろうとしていたら、いつの間にか二杯目を注いで渡してくれた。
スープを二杯ももらって、お腹もなりました。
僕がご飯を食べ終えた頃に、黄色と茶色の人が起きてきた。
黄色と茶色の人は、僕やみんなに挨拶をしてからご飯を食べ始めた。
ご飯を食べ終わるまでの間に、色々とお話をした。
白黒の人はトラオウさんで、黄色と茶色の人はミモザさん。
朝ごはんをくれた人はハルレクターさんで、もう一人の髪の長い人はアルルさん。
四人で冒険者をしていて、人を探していたら僕が倒れていたらしい。
ケレインさんって人と別の街で待ち合わせしてしていたのに、いつまでも来ないから探しにきていたらしい。
いつも四人で色々なところに行って、魔物とか言うものを倒したり、ダンジョンに潜ったりして暮らしていたんだって。
ミモザさんがご飯を食べ終わると、片付けをして移動の準備を始める。
トラオウさんを先頭にハルレクターさん、僕、アルルさん、ミモザさんの順番に並んで谷を進んでいく。
半日くらい歩くと、谷を抜けて森が見えてきた。
山と森の境目でどちらに行こうか相談していたみたいだけど、トラオウさんが何かに気がついて、谷を右に曲がった方へ行くことになった。
少し歩いていると、遠くの方で煙が上がっていた。
煙に近づいて行くと、僕は見覚えのある森と山があることに気がついて、みんなにそこことを伝えると、みんなは顔を見合わせて立ち止まった。
「坊主、お前がいた洞窟はこの先か。」
「うん、たぶんあのけむりが上がっているところが表の入り口だよ。」
「表ってことは、裏の入り口もあるのか。」
「あるよ、山を少し登ったところに、もう一つの入り口があるんだ。」
四人は、少し相談していた様だが、裏の入り口から行こうと言ってきた。
「なんで裏から行くの。」
「表には、君たちを襲ってきた人がいるかもしれなから、裏からにしましょうね。」
ミモザさんは、俺を諭す様に優しく言った。
僕も、襲ってきた人達と鉢合わせになるなんで嫌だから、ミモザさん達を裏の入り口に案内する。
もう少しで、裏の入り口に着くところで一旦止まって、トラオウさんが裏の入り口を見に行った。
裏の入り口は影になっていてわかりにくかったみたいで、少し時間がかかっている様だった。
しばらくしてトラオウさんが戻ってきた。
入り口付近に敵はいない様で、罠とかも無いとのこと。
僕以外が出入りした匂いもないことから、恐らく安全だろうと言って、皆んなで裏の入り口に向かう。
裏の入り口は、岩の窪地の様なところにあって、下に降りないと入り口が見えない様になっている。
裏の入り口から中に入ろうとしたら、トラオウさんに肩を掴まれて、少し怖い顔をしていた。
「坊主はここで待っていた方がいいかもしれん。戦闘もあるかもしれないし、もしかしたらアレもあるかもしれない。」
トラオウさんが何を気にしているかはわかるけど、やっぱり僕が行かないといけない気がした。
「僕は行くよ。それに洞窟は暗いし、ごちゃごちゃしてるから僕が行かないと。」
トラオウさんは、「いいんだな。」と念押ししてきたけど、僕は頷き、トラオウさんも頷いた。
トラオウさんを先頭に、洞窟を慎重に歩いて行く。
松明の灯りで洞窟を進んでいくが、松明の照らされた洞窟は異様な雰囲気を醸し出している。
洞窟内は、色々な匂いがしていた。
元々僕たちが暮らしていた匂い、何かが焼ける匂い、そして血の匂いだ。
洞窟の途中にある部屋を一つずつ丁寧に調べて行くが、どの部屋も荒らされていてぐちゃぐちゃになっていた。
道を進んでいくと分かれ道になっていて、トラオウさんが立ち止まり道を聞いてくる。
右は子供達が居た最奥の部屋で行き止まり、左は入り口に向かう通路だと伝える。
まずは、行き止まりの通路を見に行く事にして進んでいく。
通路は静まり返っているが、進めば進むほど嫌な臭いがしてくる……血の匂いだ。
最奥の部屋は、扉が開け放たれており、中は松明があるのか明るく、扉の辺りに人影の様なものが映っている。
トラオウさんは俺を下がらせて、慎重に近づいて行く。
足音を消して近づいて行く、人影は扉の近くから微動だにしていない。
合図をして、トラオウさんは一人前に出て行き、扉に近づいて行くと……急にものすごい形相になって、扉の潜っていった。
松明のパチパチという音だけが、洞窟内に響く。
暫く経って、トラオウさんは部屋から出てきたが、何か凄い顔をしている。
怒っている様な、悲しんでいる様な複雑な顔だ。
それを見て僕は気がついてしまった。
ああ、みんな居なくなっちゃったんだと。
洞窟内を一緒に駆け回って遊んだ友達や、ケインさんの所に一緒に話を聞きにいったみんなは、もう誰も居ないのだと。
意識をしていなかったが、僕の足は部屋に向かって歩き出していたが、トラオウさんが首を振って止められてしまった。
「これはお前が見るもんじゃ無い、今見たら動けなくなってしまうだろう。それよりも、まずは入り口を見に行こう。」
僕は目を扉から離せず、ミモザさんに抱えられて道を戻って行く。
扉が見えなくなるまで、僕は扉を見続けていた。
入り口に向かうまでの間にも、分かれ道や部屋などを見て回った。
通路には誰も居ないし、どの部屋も荒れていてごちゃごちゃになっていた。
僕達の部屋にも行ったけど、荒れていてよくわからなかった。
そして、僕が逃げ出した曲がり角の近くまで来た。
血と何かが焼ける臭いが充満していて、物凄くひどい臭いがしている。
僕は、臭いとこの先の事を考えて顔が真っ青になっていた様で、ミモザさんが待っているか聞いてくるが、首を振って付いていく。
みんなが止まって、トラオウさんが通路を覗き込む。
「敵はいない様だが、ひどい有様だ。ミモザとアルルは坊主と一緒にここに残ってくれ。二人で生き残りがいないか調べてくる。」
トラオウさんとハルさんは、曲がり角を曲がって見えなくなった。
ミモザさんは、僕のことをぎゅっとしてくれていたし、アルルさんも僕のことを心配そうに見ててくれる。
結構時間が経って、トラオウさん達が帰ってきたけど、二人とも服が血まみれになっていた。
ただ、怪我をしたわけではない様で、腕とかに付いた血を拭き取るだけで済ませていた。
「入り口までの通路は確保した。それと、遺体は外に並べておいたから、後で埋葬してやろう。それと……ケレインの遺体もあった。」
「そう、間に合わなかったのね。とりあえず、ここではあれなので、外に出ましょう。」
ミモザさんに手を引かれて歩き出す。
曲がり角を曲がるとそこには、血溜まりがそこら中に出来た真っ赤な通路になっていて、床には棍棒や折れた剣などが散乱していたし、真っ赤に染まった色々なものが転がっていた。
外に出ると、皆んなの遺体が並べられていて、そこには両親やおじさん達、それにケインさんの遺体も並べられていた。
ここには大人達が並べられており、多分子供達はいなかったので、まださっきの部屋の中にあるんだろう。
僕は、皆んなを眺めているだけで、何もしなかった。
悲しむことも、泣くこともせず、ただ亡くなった皆んなを眺めていた。
ミモザさんが僕に近づこうとしていたが、トラオウさん達に止められて何か騒いでいる。
なにもかも突然過ぎて、僕はどうして良いかわからなくなっていた。
何故か立っているのが辛くて、洞窟横の壁を背もたれてにして、俯いて座り込んでしまった。
トラオウさんを突き放して、ミモザさんがこっちに来て話しかけてくれているが、何を言っているのかよく聞き取れない。
どれくらい時間が経ったのか、いつの間にか辺りは夕暮れになっていた。
近くでミモザさんは、野営の準備をしており、夕食の準備をしており、周りにはいい匂いが漂っているが、今の僕はご飯を食べる気にはならなかったが、準備を手伝おうと近づいていく。
僕が近づいてくるのに気がついたミモザさんは、少し悲しそうに微笑んでいた。
「もう少しでご飯ができるから、ちょっとまっててね。」
「僕も手伝います。」
「……それじゃあ、器と匙をだしておいてくれる。」
ミモザさんは何か少し考えてたようだけど、準備を手伝う事にした。
器と匙を袋から出して並べ終えた。
そういえばトラオウさん達が居ないと思って周りを見渡すと、何か違和感を覚えた……あれ、皆んなの遺体が無くなってる。
僕はキョロキョロ見渡して探してみるが、誰の遺体も近くにはなかった。
「皆さんの遺体は、トラオウ達が埋葬しに行ってるわよ。奥にいた子供達も、一緒に埋葬してあげているわ。」
「どこに?」
「もうすぐ準備が終わるから、そしたら一緒に行きましょうね。」
しばらくして、夕食の準備を終えたミモザさんと一緒に、皆んなを埋葬したところへ向かう。
入り口から少し離れ、森を少し入った所にトラオウさん達が居た。
そこは、もりの森の中で不自然に木が生えていない場所で、周りを石で囲ってある場所だった。
そうだ、ここはお墓だ。
お爺さんやもっと昔のご先祖様がいる所だって、お父さんとお母さんが言っていた場所だ。
「来たか。少し探すのに手間どったが、みなをここに埋葬してある。」
トラオウさんは振り返えらずに言った。
僕が何もできなかった時間に、トラオウさん達はみんなのお墓を作ってくれていた。
奥には小さな石が並んだご先祖様のお墓で、中程に大きな石が経っていて、前に見たときにはなかったから、これが皆んなのお墓なんだろう。
僕はみんなのお墓の前に立った。
急に、涙が溢れてきて、涙が止まらなくなった。
「ねぇ、なんでみんな居なくなっちゃったの。お父さん、お母さん、なんで、なんで……。」
僕は石に縋り付くように、泣き叫びながら崩れていた。
「お別れは済んだか。」
しばらく泣いていた僕が泣き止んだ頃合いを測って、トラオウさんが呼びかけてくる。
僕は、目元を腕でぬぐいながら振り返り、頷いた。
トラオウさんも頷き、みんなと一緒に野営場所まで戻っていった。
戻る間、会話は一切なかったけど、僕は何か吹っ切れた感じがして、足取りは軽かった。
途中だった食事の準備を済ませて、みんなで食事を終えて火を囲んでいた。
「それで、ボウズはこれからどうするんだ。」
トラオウさんが唐突に、話を切り出してきた。
他の三人から、咎めるような視線を向けられていたが、トラオウさんはやめなかった。
「ここで暮らしていくのか、街に出て働くのかどうしたいんだ。」
どうするって、どうしたら良いんだろう。
僕はまだ、狩や食料集めに出たことはなく、洞窟周辺でしか遊んだことはなかったし、どうしたらいいのかわからなかった。
「……わからないです。」
「ボウズは、ここで食料を集めることはできるのか。」
「わからないです。やったことがないので。」
「そうか。だけど、ここで暮らすなら食べ物を自分で探さないといけない、魔物も居るから逃げるのか退治しなければいけない。そんな所でボウズ、お前は暮らしていけるのか。」
トラオウさんが言っていることはわかる。
今までは、大人達が食べ物を探してきて、みんなで食べていたけど、今の僕は一人だから全てを自分でしなければならない。
だけど今の僕は、どこに木の実や果物があるかわからないし、魔物と戦ったこともないから、ここで生きていくのは難しいんだろうな。
「無理だと思う。」
「じゃあ街で働く位しか道はないか。でも、ボウズは働いたことはないんだよな。」
僕はこくりと頷くと、トラオウさんは少し困った顔で考え込む。
「ねぇトラオウ、この子うちに入れてあげられないの。家族もいないような子が働けるような所なんて冒険者しか無いけど、この子を一人で置いていけばすぐにどうにかなっちゃうわ。」
「だけどなミモザ、俺たちについていく方が危険だ。それに、ボウズは俺たちと違って戦いが得意な種族じゃ無い、ボウズを守りながら戦うのは厳しいと思う。」
「でも、この子を置き去りにして行くなんて出来ないわよ。どこかで働けたとしても、奴隷みたいに扱われるし、下手したら騙されて奴隷になるかもしれないわ。」
「二人とも落ち着けよ、とりあえずは街に戻るんだし、そこで落ち着いて考えた方がいいんじゃ無いか。俺たちが知り合いに聞けば、住み込みの仕事があるかもしれないし、他にも何か手があるかもしれない。」
「トラオウ落ち着いて。戦士としては無理でも、魔法ならいけるかもしれないでしょ。」
「アルルが言いたいこともわかるが、この子は獣人種だぞ。」
トラオウさんとミモザさんの言い合いになりそうな雰囲気の時に、アルルさんが仲裁する様に言ったが、トラオウさんは頭をポリポリ掻きながら言う。
「そうかもしれないけど、戦闘に特化していない獣人種なのだから、何か他の才能があるかもしれないでしょ。どのみち街には報告に戻るのだから、その間に何か才能があるか確認してからでもいいんじゃない。」
「じゃあその辺はミモザとアルルに任せるは。俺はどうにも手加減が下手だから、何かを教えたりするのは向いてねぇんだ。」
「じゃあ俺も手伝うよ。もしかしたら、気配感知とか索敵に向いているとかあるかもしれないしね。」
こうして僕は、街に向かう間みんなに特訓してもらうことになった。
翌朝街に移動しながら、アルルさんによる魔法訓練になった。
魔法には大きく分けて三種類あって、基礎、応用、超越魔法があり、アルルは超越魔法も使える凄い魔法使いなんだって。
魔法は誰にでも使えるらしいんだけど、感覚を掴むまでが時間がかかるみたいだけど、それさえわかってしまえば簡単に使えるんだって。
「まずはどこにでもある土を使った魔法を覚えましょう。」
そう言うと、アルルさんは小さな袋を僕に渡してくる。
受け取って中を見てみると、袋の中には土が入っていた。
よくわからなくて不思議そうに見上げる僕に、アルルさんが特訓の説明をしてくれる。
簡単に言えば、土が入った袋に魔法で穴を開ける事が出来たら、第一段階終了になるんだって。
「自分の力を土にあげながら、暴れて袋を破れ! でもしいし、硬く尖って破け! でも良いから、その袋を魔法で破れたら完成よ。」
頭の上にはてなマークを浮かべながら、アルルさんの言った事が出来るかやってみる。
えっと、土に自分の力を分けてあげて、その土に袋を破ってもらうお願いしてみる……土は特に変化を起こさず何も起こらなかった。
その日は、何度も同じように土にお願いしてみたが、袋が破れることはなかった。
魔法の練習を真剣にしていたら、いつのまにか僕が助けられた辺りまで来ていて、ここには洞窟もあるので今日はここで野営をする事になった。
野営の準備を手伝おうとしていると、ガシっと頭をハルレクターさんに掴まれた。
「ボウズはこっちな。野営準備はトラオウ達がやってくれるから、ボウズは俺と周辺索敵に行くぞ。」
僕はうなずきハルレクターさんと一緒に索敵に向かった。
索敵と言うけど、基本的には周囲を歩き回り近くに魔物が居ないかとか、貴重な薬草などが無いかを調べながら歩いているだけなんだけどね。
ただ夕暮れが近く樹木の生い茂った森は、不気味な雰囲気を醸し出し暗がりに何かいるかもしれないと考えたりしてきょろきょろ辺りを見渡しながら歩いていた。
「ボウズ、そんなに緊張していたらわかるものもわからんぞ。今は俺が居るんだからもっとリラックスしろ。」
ハルレクターさんはそう言いながら僕の頭をぐしぐしと撫でまわしているが、視線だけは森の奥の方へと向いていた。
「……止まれ」
「なにかいるんですか? 」
しばらく歩いていると唐突にハルレクターさんが僕の目の前に手を出しながら歩みを止めた。
僕もハルさんが見つめている方に視線を向けるが、目では何かが居る様には見えなかった。
そのまま暫く森の奥を眺めていると、背負っていた弓を引き絞りだし……矢を放った。
「もういいぞ。ボウズ、俺が矢を撃ったところに何かいたのは気が付いていたか? 」
「見えなかったけど、何かが居るのはわかりました。」
「本当か? って、ボウズは見えなくても何かが居るか分かるのか? 」
「えっと、説明するのは難しいんだけど、なにかぞわっとする感じがするんだ。ほら、あっちとか、こっちにも。」
ハルレクたさんは少し疑問に思っていたようだけど、僕が指を指した方へ意識を集中し始めて、急に驚いた表情をして再び矢を放ち、もう一方も同じようにし索敵し矢を放った。
「おいおい、ボウズはあれが分かってたのか? 」
「うん? ハルレクターさんも気が付いていたんじゃないの? さっきまでも同じようなの居たけど無視してるようだったから問題ないのかなって? 」
「……まじか!? 」
一瞬面白い顔をしたハルレクターさんだけど、直ぐに気を取り直して矢で仕留めた魔物の所へ向かう。
最初にハルレクターさんが仕留めた魔物は、芋虫みたいな見た目でグリーンキャタピラーと言うらしい。
弱い魔物みたいなんだけど、糸を吐いて相手が行動できなくしてから食べる魔物で、弱いけど糸が丈夫でかけられると面倒なので倒しているんだって。
それと、魔物の特定の部位を持って帰るとお金がもらえることがあるから、お小遣い稼ぎ程度には稼げるって教えてくれた。
その後も、僕が嫌な感じがするところを教えてハルレクターさんが仕留めていくという事を何度か行ってからみんなの所に戻った。
僕たちが戻って来た時には野営の準備が終わって、ご飯の準備まで済んでいた。
「よう、遅かったな。何か変な魔物でも居たのか? 」
「それがよ、聞いてくれよトラオウ。このボウズの索敵は俺なんかより遥かに精度が良いぞ! この森の暗がりの中見えない茂みの向こう側や、方向を限定して集中しないと見つけられない様な気配を簡単に見つけるんだぜ! 」
「それは凄いな! ふむ、それなら斥候や索敵には適性がありそうなのか? 」
「まだ確かな事は言えないが、索敵だけて言えば俺なんかよりも遥かに鋭敏な感覚を持っているし、もしかしたら他にも何かわかってないだけであるかもしれない。」
「なるほどな。じゃあ明日からも何か適性が無いか探りながら行くか。良かったんボウズ、ハルよりも優れた索敵能力があるなんてそれだけでも冒険者としてやっていくことが出来るし、他にも何か適性があれば騎士団なんて所も行けるかもしれんぞ。」
そういいながらトラオウさんは僕の頭をぐりぐりと撫でてくれて、話を聞いたミモザさんやアルルさんからも褒めて貰えた。
「お、そう言えばこれがあったな。これもこのボウズのおかげで狩れたやつだぜ! 」
そう言うとハルレクターさんは腰に付けた小さな袋から、少し大きなウサギの取り出してみんなに見せた。
「おいおいこりゃ……マジか! 」
「うそ! これを見ることが出来るなんて! 」
「これを見つけることが出来たのがこの子の力と言う事は、それだけで食べていけますね。」
ハルレクターさんが見せたウサギに皆が大騒ぎしていたが、それを見ていたハルレクターさんがニヤリと笑って袋から更にもう一匹同じウサギを出した。
「実はもう一匹いるんだよな! どうだ、スゲーだろ! 」
「マジかよ! と、とりあえず皆落ち着け。こいつをどうするか考えよう。」
ハルレクターさんと一緒に居た時に狩ったウサギは、ダークネスラビットと言い別名ドラッグラビットともいうとても変な名前のウサギ。
ダークネスラビットの由来は、深く暗い森の中にしか居なくてしかも暗闇に紛れるような黒い毛並みで警戒心も強く、見つけるのが困難なウサギなんだって。
しかも、ドラッグラビットの別名は中毒性が在るかのようにまた食べたくなるウサギで、街ではかなり希少な食材に当たるって教えてもらった。
結局一匹はこの場で食べて、もう一匹は街に戻ってから売却する事で決まったみたいで、しかも売った金額の半分を僕にくれることになった。
ダークネスラビットをミモザさんが解体して、アルルさんが魔法で血などを綺麗にして、ハルレクターさんが丸焼きにしてみんなで美味しく食べたんだけど……量が多い少ないで少し喧嘩していた。
それから数日間、移動しながら色々とみんなが他に適性が無いか調べてくれたんだけど、索敵以外に適性が全く分からないうちに目的の街にたどり着いた。
街に入るときに税金が居ると言われてお金を持っていない僕は慌てたけど、白虎の人達が僕の分も払ってくれた。
何でも、ダークネスラビットを売ればこの何十倍ものお金が手に入るから気にしなくていいと言われた……因みに、街に戻るまでの間にも狩りをして売るウサギだけでも四羽になっていた。
「とりあえずはあそこに向かうか。」
「気が重いな……代表してトラオウだけ行かないか? 」
「馬鹿言ってないさっさと行くわよ。あ、でもこの子はどうするの? 」
「じゃあ私がこの事残ってるから皆で言ってきて良いわよ。」
「しょうがないか。ミモザはボウズを連れて先に宿を取っておいてくれ、領主には俺達だけで話をしてくる」
領主さんの家に向かうトラオウさん達は憂鬱そうな顔をしながら、のそのそと歩いて行くのが見えた。
そして僕とミモザさんは、宿を借りるために歩き出した。
周りには今まで見たことも無い建物にあったこともない様々な種族の人達がいっぱいいて、少し怖くてはぐれない様にミモザさんが繋いでくれている手をしっかりと握りながらついて行く。
しばらく歩くと、どっしりとした大きな宿屋にたどり着き、ミモザさんに手を引かれて中に入る。
「いらっしゃいませ~って、あらミモザじゃない。部屋はいつも通りで……ってその子は? 」
建物に入ると、恰幅のいいひと族の女性人がミモザさんに話しかける。
「おばちゃん久しぶり! 部屋は三人部屋と二人部屋の二部屋でお願い。それと、この子は新しく入った新人よ」
「こ、こんにちは」
「ふふふ、こんにちは。それにしても、またえらく可愛い子を仲間にしたものね? 」
「ふふん、可愛いでしょ! でも可愛いだけじゃ私たちのパーティには入れないわよ。その辺りは秘密だけどね」
宿屋の人にじっと見られて恥ずかしくなり、ミモザさんの後ろに隠れると宿の人は「ふふふ、可愛いわね」 と言いながら一度カウンターの中に引っ込み、何かを取り出してミモザさんに記入するようにお願いしていた。
僕はトラオウさんとハルさんと同じ三人部屋に泊まる予定だったけど、流石にみんなはまだ帰ってこないからミモザさんと一緒の部屋に行った。
ミモザさんは部屋に着くと、ハルさんが持っていた小さな袋から平らな石のようなものと水の入った桶を取り出して、腰に下げていた武器の手入れを始めた。
「ん?これが気になるの? 」
小さな袋なのにいろいろなものが出てくる袋を僕が凝視していると、ミモザさんが装備品の手入れをしながらその袋のことを説明してくれた。
なんでも、古代遺跡の調査依頼を受けた際に手に入れた袋だそうで、魔法の力で見た目の何百倍もの荷物が入る特別な袋なんだって。
いまの袋は大体馬車一台分もの容量があって、袋に手を入れると何が入っているかわかって出したいものを中で掴んで引き出すことができるのだとか。
よくわからないけど、たくさん物が入る袋ってことだけはわかった。
武器の手入れが終わると、鎧を袋から取り出して汚れを拭き取り、瓶に入った何かの液体を鎧に塗ると手入れは終わったみたい。
その後もなかなか戻ってこないトラオウさん達を待つ間、ミモザさんは僕の毛がふわふわになるという液体を布につけて毛繕いをしてくれた。
「戻ったわよー! あら?あなたもこっちにいたのね」
「おかえりなさい。それでどうだったの?」
「アルルさんお帰りなさい」
アルルさんは「ただいま」と言いながら、領主の屋敷での話をしてくれた。
まず、ケインさんじゃなくてケレインはこの国の貴族で、他国に潜入して色々調査をしていたらしいんだけど、それがバレて追われてしまっていたのだという。
たまたまケレインさんを保護したのが僕たちの種族だったのだけど、そのせいで他国の人達に僕たちが目をつけられてしまったことがわかり、わざわざ戻ってきて一緒に戦ってくれたらしい。
状況報告を特殊な魔法道具を使用していたのだけど、合流予定になってもケレインさんは現れず、代わりにその場所には手紙が添えられていたという。
それを一旦報告に戻った後、トラオウさん達は再度森に戻り捜索をしていたところ僕と出会ったのだという。
今まで詳細を教えてくれてなかったのだけど、領主さんからその許可を貰ったから詳しく教えてくれたのだとか。
それとともに、僕は身分証を持っていなかったのだけど、領主さんが僕の身分証の発行と僕たちの種族が巻き込まれたお詫びにと何かくれたらしい。
くれたものはアルルさん達は知らないらしく、今はトラオウさんが持っているとのことだったので、みんなでトラオウさんの部屋に向かった。
「お、ボウズはやっぱりそっちにいたのか。領主のおやっさんからこいつを預かってきたぞ」
部屋に入るなとトラオウさんとハルさんが出迎えてくれて、トラオウさんが領主さんから貰ったという小袋を渡してくれた。
僕の掌に乗せられた袋はポスッっという音がしそうなほどペチャンコで、どう見ても何も入っていないように思えるのだけど、みんなは興味津々で僕が開けるのを待っているようだったので開けてみる。
袋の口から覗くと……真っ暗で何も見えない空間になっている。
「……からっぽ? 」
「ああ、ボウズは知らなかったのか。こいつは魔法の鞄の小さいやつだから、外から見ても何が入っているかわからんぞ」
「ほら、俺のやつも見た目は何もないように見えるだろ? ここに手を突っ込むと中に何があるかわかるからとりあえず突っ込んでみろよ」
そう言われてみれば、ハルさんの袋も見た目はポシェットみたいになっているけど、中には様々な物が入っているって言ってた気がする。
僕が恐る恐る袋に手を突っ込んでみると……手を入れた瞬間、頭の中に何がどれだけの量入っているのかが急にわかった。
入っていたものは、金貨二百枚、何か特殊な素材の服と短弓、それと手紙が入っていた。
「ここに出しますね」
金貨やその他の物の価値が僕にはわからなかったので、入っていた物をそのまま机に取り出すと、トラオウさん達はものすごく驚いていた。
「キャー! すごい大金ね!これだけあれば、」
「おいおいマジかよ! 流石に太っ腹すぎねぇかこれは!」
「金貨なんかよりこれを見てみろよ、ミスリルとグレートシルクワームの繊維でできた防具だぞ! 銀以上の冒険者じゃなければなかなか買えないような高級品だぞ! 」
「あんた達の目は節穴? それよりもこれよこれ! エルダートレントの枝でできた短弓なんて初めて見たわよ! これなら魔法発動体としても弓としても使える凄い武器よ!」
僕にはよくわからないけど、貰ったこれらはとても価値がある物ということはわかった。
そしてもう一つ入っていた手紙には……何が書いてあるのか文字の読めない僕にはわからなかったので、アルルさんが代わりに読んでくれた。……その内容は。
あの森はここの領地の一部だったこと、そして過去に僕たちの種族と盟約?(約束のようなものかな?)があり、森の魔物達を狩る代わりに税金の免除と不干渉を約束していたらしい。
その昔、僕たちの種族は獣人族ではあるものの、その弱さや毛皮の珍しさ、そして見た目の問題から奴隷や大量虐殺のようなものに合っていて、別の国から逃走してきた種族だったんだって。
そして過去のこの地域の領主様が盟約を結び、あの森の中での生活が許可され、森の外に出たいというものには身分証のを渡す代わりに税金を納めるよう取り交わした過去があること。
一応ではあるが、領民に当たるからその補償金(後で聞いた話で、トラオウさん達が埋葬した人数を数えて報告したんだとか)を人数分出してくれたんだとか。
それが金貨で、残りの装備品などは僕が案内したおかげでケレインさんの遺体が回収できたことに対する報酬と書いてあったみたい。
何故装備品かと言うと、トラオウさん達が報告に行った際に生き残りの僕をパーティーに加えると言っていたから、僕の種族でも使える装備品を用意してくれたらしい。
「これってすごいんですか? 」
「ああ、今の俺たちの装備よりもいい装備なのは間違いない。……それとなボウズ、一応話しておいた方がいい話があってな」
急に真面目な感じになったトラオウさんに、僕は首をコテリとかしげながら、少し話ずらそうに話を聞く。
「実際どうかわからないが……坊主の他にも生き残りがいるかもしれない」
「そうなんですか! 誰が生きているんです!? どこにいるんです!? 」
「ま、まあ、まて。まだ確実なことは言えないんだが、ボウズの集落の人数と俺たちが埋葬した人数で誤差があるそうなんだ」
トラオウさんが言うには、埋葬した人数は百五十人ほどで、実際にこの領地で管理している人数は二百人程のはずだという。
これは、子供が生まれたり誰かが亡くなったことを毎年報告に来る人がいて、誤差にしては小さくない人数だからもしかしたら襲ってきた兵士達に捕まっている人がいるかもしれないとの事だ。
ただ……ものすごくいい辛そうにトラオウさんは、良くて奴隷か愛玩動物みたいに扱われ、最悪の場合は毛皮のを剥がされて殺されているかもしれないと言った。
それでも僕は、僕以外に誰かが生きているかもしれない状況に嬉しくなり……なぜか涙が溢れてきてしまった。
嬉しいのにとめどなく流れ出る涙。止めようとしても止められず泣きじゃくっていると、ミモザさんが前みたいに優しく抱きしめてくれそのまま暫く泣き続け、いつの間にか意識が遠のいて行った。
そして再び目を覚ましたのは日が傾き始めた夕刻だった。
「ボウズおきたか。飯は食えそうか? 」
まだたくさん泣いたせいで腫れぼったい目をこすりながら声の方へ向くと、そこには椅子に腰を掛けたハルさんが居た。
僕はハルさんにうなずきくと同時に僕のおなかがグーと鳴り、少し笑ったハルさんと共に部屋を出て階下にある食堂へと一緒に向かった。
たくさん泣いたせか、とてもお腹が空いていたようだ。
「こっちだぞ! 」
ハルさんと一緒に食堂に降りると、トラオウさん達は既に食事を始めていたようだったが、僕たちを見つけて大きな声で呼んでいた。
僕が席に着いた時には既に大量の料理が並んでおり、好きな物を好きなだけ食えよと言いながら、トラオウさんはお酒を美味しそうに飲んでいた。
「ありがとうございます。それと、さっきは……その……」
「ああ、謝る必要はないぞ。ボウズは別に悪い事をしたわけではないし、ああなることは少しは予想しておかなかった俺が悪かった。……それに、皆も特に迷惑をかけられたとは思っていないぞ」
トラオウさんが「そうだよな」とみんなに確認するように聞くと、皆首肯して気にするなとか、仕方ないわよねとか、全てトラオウが悪いなど……別にトラオウさんは悪くはないとは思うんだけど、そう言って気にしなくていいと言ってくれた。
「ま、そんなことは今はどうでもいいだろ! ボウズが今まで食べたことのない様なな料理もたくさんあるから一杯食えよ! 」
そう言われてテーブルの上を見ると、洞窟に住んでいたころには見たこともない様な料理がたくさん並んでいた。
平たく焼いたお肉に何か茶色いいい匂いのするものが掛かっている料理や、スープの中に肉と色とりどりの野菜がいっぱい入った料理、それに見たこともない色とりどりの果物が並んでいた。
洞窟に住んでいたころは、動物か魔物の肉を焼いた料理か木の実や稀に果物があるくらいだったので、こんなに色々な美味しそうな匂いのする食べ物を目の前に口の中によだれが溢れた来る。
「いただきます」
僕の目の前にある平たく焼いたお肉にかぶりつくと、上にかかっていたあまじょっぱい感じの物がお肉の美味しさと混ざり合って、物凄く美味しくそのままかじりつくように食べた。
他にも野菜がいっぱい入ったスープも、今まで食べた物とは違いスープにお肉以外の味が出ていた美味しく、そのまま他の料理もがっつくように食べていく。
「あらあら、しょうがないわね」
「誰もとったりしないからゆっくり食べなさい。ほら、頬にソースが付いてるこっち向きなさい」
ミモザさんは料理にがっつく僕を眺めながら微笑んでいて、アルルさんは僕のほっぺたに付いていたソースを拭いてくれたり、これが美味しいわよと言いながら色々料理を食べさせてくれた。
そんな様子をトラオウさんとハルさんは眺めながら、久しぶりのお酒を楽しみながら宴会を楽しんだ。
「ボウズ、少し良いか? 」
宴会も終わり僕たちはそれぞれの部屋に戻ると、トラオウさんが何気なく話しかけてくる。
「ミモザやアルル、それにハルにも既に確認は取ってあるが、ボウズは本当に俺達と一緒に冒険者をやって行くので良いのか? 」
「? どうして? 」
「トラオウそれじゃわからんって。ボウズ、冒険者っていうのは狩りをしたり魔物を倒したりいろいろやるんだが、今回みたいに危ない依頼も多々あるわけだ。そうなると、ボウズも危険があったりするかもしれないけど大丈夫かって事だ」
「だいじょうぶ。僕だってみんなの役に立てるってわかったし」
僕はトラオウさんが言っている意味が良くわからずに首を傾げると、隣からハルさんが話しかけてきて補足をしてくれた。
二人はやれやれといった感じで肩をすくめていたが、仕方ないかと言った感じで僕の頭を撫でてくれた。
この時僕は深くは考えていなかった。家族や仲間の皆が居なくなって、助けてくれたトラオウさん達がと離れるのが怖かったんだ。
それに、皆と居れば大丈夫だとよく理解できない安心感がみんなから感じていたのもあったにはあったのだ。
「ま、そう言う事なら明日は冒険者ギルドに行って登録をすることから始めるか。俺達と一緒なら特に問題になることも無いだろうしな」
「そうだな。今日は色々あって素材を売ったり出来なかったから、明日は朝一でギルドに行って素材を売らないといけないから今日はさっさと寝てしまおう」
二人ともそう言いながら、僕の頭をグシグシと撫でた後布団に入り寝てしまった。
さっきは気が付かなかった柔らかなベットと温かな布団に包まれ、直ぐに寝入ってしまった。
翌朝、僕たちは身だしなみと装備を整えて階下の食堂に向かうと、既にミモザさん達が席を取っていて僕たちを手招きしていた。
トラオウさん達は直ぐに着替えることが出来たのだけど、僕は昨日貰った鎧の様な服を着たほうが良いと言われたので着ようとしたのだけど、僕の体型では手がうまく届かなくて着るのに時間がかかり遅れてしまった。
朝食は、昨日飲んだスープとパンと言う黒っぽい硬めの物が出てきて、パンをスープに付けて柔らかくして食べるんだと教えてもらいながら朝食を終えた。
パン自体はあまり美味しいものではなかったけど、スープを吸うとパン柔らかくなって味もスープと同じになるので美味しかった。
その後、宿から出て街の大通りにある大きな建物の中に皆で入って行く。
ここが冒険者ギルドと呼ばれている場所で、トラオウさん達はここで仕事を貰ったり狩りをした動物を売ったりしてお金を稼いでいるんだって。
ギルドの中に入ると、そこにはトラオウさん達の様な鎧を着た人たちがいっぱいいて、壁に貼られた紙を眺めている人や何か飲み物を飲みながら歓談している人達でごった返していた。
トラオウさん達はそんないっぱい人が居るとこではなく、奥の方のカウンターの方へ歩いて行きそこに居る女の人に話しかける。
「ソフィアちょっといいか? 新しく俺達のパーティーに入る事になったボウズの登録を頼みたいんだが」
「白虎の皆さんおはようございます。問題ありませんよ。えっと、その子が……って……え? そんな子を白虎にいれるんですか!? 」
「そうだ。まあ、見た目は子供だが……って本当に子供なんだが、ちょっと特殊な力がある子だから俺達のパーティーに入れたいんだ。だめか? 」
「は、はぁ。まあ、冒険者になるには特に資格などは必要ないので問題はありませんが、銀級の白虎が新人のしかも子供を入れたいといったら流石にびっくりしますよ。とりあえず、ここに名前と大まかでいいので職業の記入と登録料は……銀級の自パーティへの推薦なのでありませんね」
「じゃあボウズ、これに名前と職業の斥候と書いてくれ。……どうかしたのか? ああ、もしかして字が書けないのか。分かった代わりに書いてやるから名前を言ってくれ」
僕はトラオウさんが受付の人からもらった紙を受け取り、困った顔でじっと見つめていると字が書けないとことに困っていると思っていたようで代筆をしてくれるみたいなんだけど……字が書けないのもあるんだけど、僕にはまだ名前がないのである。
「トラオウさん、僕名前が無い」
「なんだって! じゃあ、今までなんてよばれていたんだ? 」
「えっと、トーオとチークの息子とかお兄とかよばれてました」
「えっと、これってどうしたら良いんだ? 」
「トーオとチークの息子だから、トークとかトーチとか? 」
「それって両親の名前をくっ付けただけじゃない。ねぇ、名前はいつに誰が付けてくれるものなの? 」
「えっと、十五の成人になった日に族長が付けるんだよ」
僕に名前が無い事を知ったトラオウさん達はどうしたら良いのか困ってしまったようだ。族長はこの間の戦いで亡くなってしまって、僕に名前を付ける人が居なくなってしまったのだ。
「あのー。もしかして、名前がまだないんですか? であれば今から名前を付ければいいんじゃないですか? 良くスラムの子とか名前が無い子は登録時に名前を考えて登録していますし……実際偽名でも登録はできてしまいますし」
受付のソフィアさんがアドバイスをしてくれると、トラオウさん達は更に僕の名前について討論を開始した。
最終的には、僕たちの種族を過去に勇者様達がハムスターと言っていたことから名前を取り、スターと言う名前に決まった。
「スター。スター……僕の名前はスター! みんなありがとう」
こうして僕はスターと言う名前と薄銅級の冒険者として、白虎の皆のパーティに参加することになったんだ。
僕の等級を上げるために簡単な薬草採集から、小型の魔物の討伐やら色々みんなのお世話になって冒険者を頑張って行った。
そして数年後……俺達白虎は金等級の冒険者として他国でも有名になり、様々な指名依頼が入って来るようになったりしたのだが……相変わらず俺は斥候以外に能力が全くと言っていいほど無かった。
だけど、皆はそれでいいと言ってくれる。敵を先に見つけることが出来れば奇襲も可能だし、相手を有利な地形に誘導する事も出来る。
それに、違法ギルド殲滅戦の時に気配探知範囲が広い為、裏口や秘密の抜け道なども偵察で看破し逃走者ゼロと言う事も、俺が居たから出来たことだから気にするなと言ってくれた。
それでも俺は冒険者としての戦闘能力の欠如についてずっと考え、引退して他の仕事をしようかと考えていたころ……変わった指名依頼出会った。
これに白虎の人達は困惑と激昂していたが、俺自身タイミングも良いので一人白虎を脱退し依頼主の元に向かった……まあ、ミモザさんが散々ごねたけど他の人達が道は一つじゃないし、スターも子供じゃないんだからと言って納得させてくれていた。
依頼主との顔合わせのその場所には、自分と同年代の黒髪の可愛らしい顔立ちをした少女がいて、ある事が終わるまでパーティに加わって欲しいとの事だった。
どこから情報を仕入れたのか知らないが、彼女は俺の能力を知っていて他にも俺の同族の生き残りがどこに居るなどの情報を持っていたのである。
そして、依頼の報酬でもある同族の生き残りの場所が旅の途中であれば救出の許可もくれるという好条件だったため、俺はすぐさま飛びついた。
その時は知らなかったのだが、その少女こそが魔王討伐の為に召喚された勇者であったのだ。
そして、その少女達と様々な所へ旅をして、幾人もの同族を救い出したりまっとうな主に雇われていた者などと再会していくのであった。
そして……俺達は○○○○を達成するのであった。
世界最弱小種族 転々 @korokoro0729
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