第15話 説得
「さぁ、ギルドに登録するんだ!」
唐突すぎて驚くだろう。まぁ、前の会話を見ていれば、だいたい予想できていたであろう。
今私は、ステルスにギルドに登録するように進められている(強制的に)。
お酒を飲み終わったあと、唐突に受け付けまで何もわからずに連れられて来たら、こうなってしまったのだ。
最初は酔っているのかとでも思った。でも、よくよく考えるとこんな人が一杯で酔うわけないや、と結論に至る。
「嫌ですよ!そこら辺にいる人の方が、よっぽど使えますって!」
私はステルスに腕を掴まれている。相当強い力で掴まれているので、腕が痛い。
さすが男の人って感じの握力。
痛いです。離してくださいよ。か弱い女の子の腕を強く掴むなんて!
「とりあえずでもいいから!何でもしますって言ったのは君だろう」
図星だ。クソ!昔の私、何言ってくれてるんだ!
「うっ……」
確かに私は、なんでもするとは言ったけど。言ってしまったのが悪いけど。
嫌なものは嫌なんです!
「何を無理矢理してるんですか?」
誰ですか!?この人の仲間か!?
声の方を向くと、なんとも華麗な美女がたっていた。
ほうっ。綺麗だ。この私でも綺麗だと思うほど美しい。私の基準は高いのだぞ。
「グラゼル…」
「ふん!こんなに若い子を連れ込もうなんて、ロリコンにも程があるわ!」
冒険者の皆様の視線が痛いんですけど。それに何を言っているんだ。このグラゼルって人は。
しかも、ステルスが#ロリコン__・__#だなんて。有り得ない。
「ロリコン……」
「そこだけ聞き取らんでいい!」
私は眉を下げる。てか、そこしか気になる場所なかったんだけど。
「はぁ、たく。オラゲーションの神様がなんでここに?」
神様?なんだそれ。人型の神様もいるんだ。あ、でもゼウスも神様か。
「それは勿論。新しい子を迎えるためだよ!」
両手を大きく横に広げて、この人の仕草がいちいち大きい。綺麗な人なのに勿体無いことをしている気がする。
「なら、こいつがいい」
は?なんで勝手に決めるんだよ。
あら、いけないわ。裏の顔がチラッと出てしまった。チラッとじゃない気がしたけど。
「なんで!勝手に決める……!」
何故か口を塞がれた。
「こいつを宜しく頼むな!グラゼル!」
「あぁ?うん。分かった~!」
何で乗り気なんだよ!おかしいじゃないか!
ちょっと止めてください!絶対この人酔ってますよ!
そして、私をグラゼルさんに押し付ける感じに渡して、ステルスさんはスタスタとギルドを出て行った。
置いていかれたぜ。この人を頼るしかないのだが…。
この人が相当ヤバそうな人なんだけど。マジかよ。この人はどんな人なんですか。
「私はオラゲーションの、神。グラゼル神と、申す!」
片手で拳を作り胸に当てて、もう片方の手は腰に当てて胸を張っている。
わぁー。すごーい。すごい自信だなー。
「わ、私は」
──パチン!
指パッチン来ましたー。ナルシストってやつですか?そうゆう人に限って、そうゆうのしますよね。
「胡桃ちゃんだね?」
「な、なんでお分かりに!?」
驚いた。自己紹介もまだなのに。
指を刺されるのは心外だけど。
「それは私が神様だからだよ!」
「ほ、ほ~」
ちょっとだけ感心した。
「取り敢えずお話でもしよや」
と、ニコニコ笑いながら強引に連れて行かれた。
嫌な予感しかしないけどね。
* * * *
「てな訳で、どう?入らない?」
色々と話を聞いた。オラゲーションの神様って言うのは、グラゼルみたいな人間が役職を手に入れる時にオラゲーション神と言う役職でオラゲーションを設立する権利が与えられるということ。
オラゲーションはそのオラゲーション神を信仰しているものが、何人かでのパーティーを組みそのオラゲーションに加入する。
余談だけど、この世界にはオラゲーションが複数あってその中の上位の方にグラゼル神のオラゲーションがあるらしい。
そして今、入れとせがまれている。
謎のアツを感じるけれど、考えた挙句保留という選択をした。
「保留で」
同じ返答をするが。
「保留は、なしだって!」
どうしても入れたいのだろうか。
だがそんなのに屈する私ではないからな。
「保留で」
グラゼル神は頬を膨らませて、ムスッとする。
「メリットしかないじゃないか!」
そう。私にとってはメリットしかない。けど、シルとか、《クレル》からしたらどうなんだろうか。
それに、モンスターが怖いよ!
「だってモンスターと、戦うんでしょ?」
私が死んだらシルと《クレル》は誰をたよって生きていけばいいんだよ!
「そんな初めから前線に出て戦うわけないじゃないか!」
後方の方でも、後ろから襲われたりしたら嫌だろ?私は嫌だね。
後ろが安全って訳でもないからな。
あれだぞあれ。分かれ道があって右に進んだら、左にモンスター潜んで後ろこら襲われるってやつだぞ。
分かってんるだからな!!
でも、いい条件なんだよな~。
「けど……」
「じゃあ、君は身寄りも無いのにどうやってお金を稼ぐんだい?」
ごもっともです。私にはステルスの家しか知らない。
現に事実である。
「………………」
けれど、別に自給自足でも大丈夫な気がする。#気がするだけ__・__#ね。
大丈夫じゃなさそうだけどね。今までを思い返してみたら。
「入った方が稼ぎがでる。後方の方で立っているだけでもいい」
グラゼル神の説得に屈する私ではない!
それでも、怖いんです。それでも私は、入りたくなぁい!
「でも、歳を重ねるごとに前にでなきゃ」
本当にずっと後方の方でやる訳には行かない。いつかは前に立って、誰かを指示しなきゃ行けない。
私に人をまとめる力など、ないことは前世で分かりきっている。
「それは……慣れる!」
ドャァ、と口角を上げて胸を張って自信ありげに言った。自信持たれても困るけどな。それに応えられないのが私なんだから。
てか。
「慣れぇ!慣れなんですか!?無理ですよ!そんなの。それに……」
やっぱり慣れなんじゃないですか。その慣れるまでに時間がかかるんです。
それに……。
「それに、なんだい?」
「それに、私には仲間が既に居ますから」
仲間、そう。私には、大切な仲間がいるじゃないか!
犬とスライムが!
心もとない時もあるけれど、可愛くて頼りになる(犬だけ)仲間が2匹居るんだからな!
えー、スライムは論外です。
「その仲間も、うちに入ればー?」
人じゃないからねぇ。それに、シルは大きくなるんだから走れるくらいの場所があるといいんだけどね。
あっても入らないけど。
「仲間は人じゃないので」
グラゼル神は、口をポカンと開けている。
そして、首を横に振った。
「それでもいいよ」
いいんかい!いやいや、良くないぞ。揺らぎ始めている私の心を、どうしようってゆうんだ。
「それに私人見知りなので、パーティーなんて組めません」
「それはこっちで何とかするよ」
欠点が無さ過ぎた。私にとっても、グラゼル神にとってもメリットしかない。
迷ってしまうほどの好条件だ。
「そ、そーなんですねー」
素っ気なく返したけど、私の心は揺らいでいる。
「あ、迷ってるね?迷ってるね?」
「迷ってますよ」
この人は感が鋭すぎる。鋭すぎて困ったことないのかな。
まぁ、それは良くてですね。どうしましょうかね。迷いますよ。
「取り敢えず。パーティーを組むだけでもしてくれる?」
パーティーだけなら大丈夫なのだろうか。
グラゼル神の方を見ると、なんかニヤニヤしてるんですけど。
「オラゲーションには加入しないですよね?」
「も、勿論……」
怪しい。怪しいけど、入ると得なことしかない。
入ろうかな。いや、でも。
「パーティーだけなら……」
グラゼル神の表情がパッと明るくなった。そんなに嬉しかったんですね。
「さぁ!うちの所に1度来て!」
「はー?」
またも嫌な予感がするんですけどー。この流れで、オラゲーションに入れとか言われないよね。
うん。何とかしてそうならないようにしよう。そうしよう。
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