第14話 ギルドなんてあるの?

 ステルスは、慣れた手つきで朝食の準備をすませる。

 私はリンゴを持って、キッチンのあるところへ向かうと足を進める。途中リンゴをダイニングの机に置いてから、ステルスのいるキッチンへ向かう。

ステルスの家は奥に長く、廊下が家を左右に分けるように縦断している。そして私は一番奥の右側の部屋を使わせてもらった。向かいの部屋はステルスの部屋であった。扉が開けっ放しである。私の隣は洗面所だったり、脱衣所、浴室などがある。トイレはその向かい。トイレの隣はキッチン、その向かいはダイニング、そして玄関に近いところにリビングがある。意外と広い家だった。


 シルは私の布団でまだ寝ている。


「おはよーございます」


キッチンに声をかけに行ってから、洗面所にUターンした。

 私は寝ぼけた頭を覚ますために、冷たい水で顔を洗う。ついでに口もゆすいでおいた。そして、はねた髪を濡らして元に戻す。


「タオルなら、外に干してあるからとっておいで」

「はーい」


 お父さんか!それか、お母さんかい!なんかいいな、こんなお父さんだったら、憧れる。私はそのまま廊下を奥へ進んだ。

 ふと私の腰ぐらいの棚の上に、写真が置いてある。朝日で反射して、醜いから近づこ。部屋にずかずかと無神経に入り込んで行った。


──ひょい


 一瞬、幼い女の子と、若い女の人が見えた気がした。

ステルスの部屋を見ていたのがバレたのか、早歩きで向かってきたのだ。余程見られたくなかったのだろう。


「ステルスさ……」

「タオルはこれじゃないよ?それにここは室内であって外ではないからね?」


 はい。分かってます。

 私の言葉を遮るように、ステルスの声がかかる。微妙に怒っているような気もした。

 見られたくない過去とかなのかな?それだったら、なんか行けないことした気分だ。罪悪感に苛まれた。


「それに顔がびしょ濡れじゃないか…」


私は少しの間静止して、その場に立ち尽くした。


「ん?どうした。早く拭かないのか?」


私はその言葉に驚き、急いで部屋を出て庭に出た。


「おわ、広い庭だ」


 私は一枚のタオルを手に取って、いそいで顔を拭く。

 さっぱりだ。


「ステルスさーん。このタオルどうしたらいいですか?」

「持って帰るといいよ」


先程の雰囲気がなんだったのかと思わせるような程、明るく元気なステルスに戻っている。


「……そんな!?こと、出来ないです……」


 なんか、色々と申し訳ない。リンゴまでくれて、泊めてもらって朝ごはんまで作ってもらって。なんか、お嬢様気分にひたってしまった。

 ダメだよ。何かお手伝いしなきゃ。


「何か手伝います!」

「今日は元気だね。手伝いは結構だけど、ちょっとだけ付き合って貰えるかな?」


 おぉ!なんか、楽しみだ。お父さんみたいな人と出掛けるのは、初めてだ。そもそも、こんなに歳が離れた男の人と出かけたことすらない。

 お父さんがいなかったしね。


「はい。朝ごはん」


 そう言って私の目の前に出された、朝ごはんのメニューはスクランブルエッグと、ウィンナー?と、ブロッコリーと、フランスパン。

 なんと豪華な朝ごはんなんでしょうか。

 久しぶりのまともなご飯でございますからね。

 

「いただきま………」


──ギュルルルル


 今から満たされますからねぇ。待っててね!胃!今から満たされるからな!


「ゆっくり食べるんだよ」


 ステルスは笑を零した。これが、本当のお父さんなのだろうか。どれが基準なのかわからないから、ステルスが正しいのかはわからないけど、多分いいお父さんなんだろうな。

 家族がいればの話。


「くるみ?」

「ひゃい!なんでしょうか!」


 ステルスが大きな声で笑った。


「あっははは!その反応。俺は好きだな」


 笑い涙を、片手で拭い、もう片方の手はお腹に当てている。

 私は頬をふくらませて、食事を進める。

 てか、好きとか簡単に言ってはダメですよ。ステルスさん。まぁ、おじ様には全くときめかないけど。


「冷めちゃいますよ~。知りませんからね?いーっだ」

「ははは!ひひっ、おもしれーや」


 怒りますよー、私。


 そんなやり取りをしながら、食事を終えて出かける準備をした。

 

 服はいつものでいいかな~。だってこれしかないし。


「お待たせでーす」

「ほいよ。お、服装変わらないのかい?」

「はい。この服しか持ってないですしね」

「買ってやろうか?」

「いやいやいや!そんなことまで」


 まじな感じのおとっつぁんや。いいな。こんなお父さん、欲しかったなぁ。

 いや、今はそんなこと考えている暇はない。


「と、とりあえず行きましょ!」


 私は急いで扉の取っ手を掴む。そして扉を引いた。

 あれ?開かないぞ?ん?ん?


「ステルスさー…………」


 ステルスがこちらに怖い顔で向かってくる。眉間にシワが集まっている。

 そして、同じく取っ手を掴んだ。正しく今は、壁ドン状態!

 ドキッーーー

 なんてしませんからね。おじさんですよ。ましてや、家族がいそうな感じの。


「扉を押すんだ」


 私は扉にもたれていたので、そのまま後ろに倒れて行った。


「ほわぁーー!」

「うおっと……」


 ナイスキャッチです。ありがとうございます。


「危なっかしいな。君は」

「前は違ったんですけどね?」

「前は、と言うと?」


 しまった。ステルスさんには、私の過去を言っていない。探られるところだった。


「そ、それよりー。これから何処に?」


 ステルスさんには冷たい目で見られたけど、これは仕方が無いことだ。だって、話を逸らさないとどうせ、ステルスのことだから深く追求してくるに違いない。

 冷たい目で見てきている時点で、そうなんじゃないかな。

 単なる私の予想。当たってたら、神って呼んでほしいぐらいだね。


「はぁ、ついてこれば分かるよ」


 でしょうな。てか、ステルスについて行かないと何も出来ないですしね。


「今とてつもなく人手が足りていないところがあってな」

「へー。人手不足ってあるんですね」


 前の世界と同じ見たぁ~い、なんて言わずに心に留めておくことにした。


「どうして人手不足なんですか?」

「この世界には、臆病者ばかりでな」


 臆病者…人手不足…って!なんかやばい感じしかしないんですけど!

 これはついて行くべきなのだろうか。だが、ここまで世話をしてもらったんだ。ついて行かない訳には行かない。

 

──くそっ!


 上手いことはめられた気分だ。



*  *  *  *



「や、やっぱりこの世界にはあったか……」


 ステルスの家から数分街を歩くと、大きなレンガ造りの建物についた。そこの周りには、物騒なものを持った人がうろついたりしている。

 嫌な予感が的中だ。


「知っているのか?ここを」


 モチのロンですよ。はぁ。モンスター討伐!とか、賞金稼ぎに依頼を受けよう。とか、よくあるやつ。


「ギ、ギルド、ですよね~」

「よく知っているなぁ」


 最悪だ。この世界にもギルドがあるなんて。そして私ははめられたんだ。元から来ることを知ってたんだ。


「はめましたか?」

「さぁ?なんのことやら」


 こいつぅ!知ってたんだな。私がここに来ること。また盗み聞きしてたんだろうな!


「はぁ…とぼけないでくださいね」

「とぼけてはないぞ。本当の事だ」


 そう言ったステルスは、ギルドの中に入っていく。

 それについて行くように入ると、役員の人に止められた。


「え?」


 ギルドっていろんな人が簡単に入れるわけじゃないの?しかもこの役人ガタイが良すぎて、怖い!


「すみません。ギルドの認証コードはお持ちですか?」


 威圧がすごすぎる!


「すまんが、そいつは俺の連れだ。通してやってくれ」


 ステルスさんは常連なんですか。そうでしたね、貴方は元国家の人でしたね。

 はぁ。権力って素晴らしい。


「入らなくても良かったですけどね」


 サラッと私は、嫌味を言う。それに対して、ステルスは気にしずにずかずかと進んでいく。

 はぁ。面倒くさ。まさか、パーティーとか作れって言わないよね。

 はい。フラグ立てましたー。折れるのいつかな~。


「まぁ、取り敢えず呑もうか」

「は?……い?」


 は?って言いそうになった!あっぶねー。


「私って今何歳なんでしょうか」

「まさかお前、未成年か?」


 さぁ、と私は首を少し傾けてステルスを見る。

しばらく沈黙がその場に流れた。私の耳には騒がしい外の音が耳を割く。


「じゃあ、飲まない方がいい。ここの酒は強いからな」


 それをこんなに若い人に飲ませてどうするんですか。セクハラしようとしてるんですか?

 や~ねぇ~。


「そんなに強いんですね」

「俺はちっとも酔わないけどな」


 それってここに通い詰めて、慣れただけじゃないんですか?


「そーなんですねー」

「関心が少ないな」

「興味が湧いてこないので」


 やっぱダメだわこの人。

 するとスタッフが、近ずいてきた。そして、ジョッキが出された。

 私の方に視線を向けてきたので、私は両手を左右に振って断った。


「今日はこれで良かった?」

「あぁ。これで」


 やっぱりな。通い詰めてたんだな。

 クズな大人の完成だ。完成だなぁ!


「いつものって……」

「週3くらいで来るかな~」


 聞いてねぇ!

 へぇー、と適当に返しておいて私はギルドの室内を見る。

 明らかに強そうな人がうじゃうじゃいる。

 槍持ってる人とか、盾持ってる人とか妙にリアルすぎてキモイな。

 転生物語とかで、カッコイー!とか言ってるけど、血がついてるし。

 イケメンがいないし。はぁ。やりたくないよ。


 巻き込まないで欲しいな、ステルスさん。

 モンスターとは戦いたくないしね。

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