第5話 《クレル》がまさかの実体化
振り返ろうか。
昨日あったことを。事細かく説明しよう。と思ったけどめんどいから、ざっくりで。
そんな忘れてる人なんていないと思うけどさ。
私が忘れない為にもさ。やっておくべきだよね。
今日あったことの振り返り。
え?目の前にモンスターであるスライムがいるって?今はそんなこと眼中に無いよ。
そんなのいつでも考えることが出来ること。でも、私がやりたい事は記憶から消えていきそうな事を、振り返るんだよ?
スライムなんてスコップで1発だよ。
昨日は異世界に始めてきて《クレル》と出逢い、ピーチクパーチク言われた挙句、男、男詐欺をされた。
その後に、シルという見た目は犬、本来は狼のモンスター。
瀕死のところを私が助けたら、何故か懐いてきたので《クレル》の教えでテイムが出来た。
またその後、焚き火をするために初めてスコップを振り回して木を切った。
またまたその後、ステルスという男に出会って外の情報を多少ゲットと、この森のことを教えてもらった。
これが昨日起きたことをざっくりとの説明。
みんなが気になっているであろう、目の前のスライムについてだけど。
本人も理解出来ていないみたいであります。
大変だぁ。焦ってるよ。はぁ。
嫌ってわけじゃないけど、いつでも喋れるってなると正直面倒だしなぁ。
「なんか夢とか見てないの?」
「見て無くはないけど、関係ないでしょ」
関係ないとは限らないから聞いてるんだよ。
上を見ると普通に明るく、朝日が登ってスライムを照らす。
泉にも朝日が反射してキラキラと光る。
今は何時くらいだろうか。いつもだったら、急いで支度をしている時間帯だろうか。
体がその感覚を覚えてしまっている。私の勤めていた会社は残業なんて当たり前の会社。いわゆるブラック企業である。
働き方改革とか言ってるけどそんなの私の会社ではお構い無し。
そう。私の務めている会社はブラック。休みとかこんなにゆっくりして起きることをなかった。
今日はちょっと違うけど、これからが違うかもしれない。
草木の間から日が差し込んでいる。
私くらいの高さの草もある。
「とりあえず、言ってみてよ」
「うーん。なんか小さい男の子が出てきたんだよね~」
《クレル》によると、私の想像で話すが、ゼウス位の男の子が《クレル》に一言言ったらしい。
「君は実体化してサポートするべきだ。君の仕事は、別の人にやってもらうからね」
と、言われその後に魔法をかけられたらしい。
案外鮮明に覚えてるのね。
そんで目が覚めたらスライムになっていた。
という訳らしい。
私はステルスが昨夜かけた魔法なのかな、とか考えたりもした。
それ以上考えても見当がつかない。
ゼウスって転生神じゃないの?人の夢にまで現れるの?
シルは、森の奥の方に自ら進んで行った。
私はそんなの目に停めず、《クレル》が泉の前の岩に座り、私がしゃがみこんで下から見つめる形になった。
あ、いいこと考えた。
私は《クレル》を片手で鷲掴みにして、ハンドボール投げの勢いで投げた。
「は?……………え、えぇぇぇぇえええ!」
《クレル》は叫ぶが、私は落ちていくのを眺めているだけ。
少し思ったことがあったからだ。私的に思ったことで、別に小説に書いてあったとかではない。
個人で思っだけ。
─ポチャン
石が泉に落ちる音より、少し大きめの音で無事着した。
と、思われたけど。
─ズズズズズ
ありえない音を立てながら水が《クレル》を中心として渦巻いていく。
そして、《クレル》の体がどんどん大きくなっていく。
どんどんと大きくなっていく。
少し時間が経つと、私の何倍あるのだろう。すごく大きくなった。
そして、泉の水が《クレル》に吸い取られている気がするのは私だけだろうか。
スライムだから水を吸うのかなと思ったら、まさかの泉の水を全部吸いやがった。
上の滝からは、勢いは変わらず流れ落ちてくる。
「何してくれるんだ!面倒事を増やすなよ!」
「あんたは実体化してるんだから、仕事なんてないんだよ」
そうだった、みたいな顔をしてこちらを見る。
「と、とりあえず水をどうにかして!」
「やり方知らないよ」
「俺が知ってるから!」
時間がかかったけど言われた通りに、すると《クレル》の体が小さくなってきた。
やりたかったことも出来たし、一通り終わった。
でも、なんでだろう。夢でゼウスみたいな男の子が出てきて、仕事は引き受けたみたいな事を言われるって。
仕組まれたとしか思えない。
まさかのステルスが、かけた魔法がゼウスと案内人の《クレル》を繋ぐ魔法だったとしたら。
そうしたら、辻褄が合うかもだけど。
そんな魔法かける必要あったかな。
「はぁー。めんどくさいことしてくれるなぁ」
「すみません。興味本位です」
少し間を開けて、謝ると《クレル》はため息をついた。
「これからどうしよう」
そう。これからどうしようか。
夢のマイホーム作りしますか。待て待て待て、まだ早すぎるでしょ。
もっとやっておくべきことは。
街に出るべきか?
いやいや、街になんて行きたくねーよ。1人で森に#篭__こ__#もってコソコソやっていたいのに。
騒がしい街になんて行きたくないし。
そもそも、街なんてあるんですかね。
こんな森があるのに、どこに街があるって言うんだよ。
あ。ステータス開けばマップあったよね。
自分で行かないと、更新されないやつだったら私死んじゃうよ。
お外に行きたくないよ!人目に晒されて死んじゃう!
─ぐぅーー
おい。誰のお腹がなりましたか。私は違いますよ。
《クレル》かと思って、《クレル》を見ると違う違うと跳ねた。
じゃあ誰ですか。
シルでした。
「お腹減ったよね~」
「ボクの分も増えたしね」
はっ、そうだった。《クレル》が実体化したことによって、手に入れなきゃ行けない食料が2倍になったんだ。
最悪だ。お金なんて持ってないし。
そこら辺に生えてるのは。
見渡すと、食べられそうな草が生えていたりした。
しかも、泉の周りに鹿がいたし。
肉に困る事は無さそう。
流石に生の肉は嫌だから、焼くための火が必要になる。
昨日使った火を見ると、既に消えていた。
又、木を切りますか。
私はスコップを持って立ち上がる。
「どっこらせっと」
ババアかよ。
折角の若い肉体なんだから、三十路のおばさんを消して若々しく生きなきゃ。
勿体ないよ。
すると、ステルスがひょっこりと現れた。
「よぉ。また来ちまった」
「そーなんですね」
スマーイル。笑顔を作るが、ステルスにはお見通しのようだった。
頬を引っ張られ、作り笑いは嬉しくない、と言われたので素のままでいることにした。
「どうしたんですか?」
「いや、様子を見に来てね。一夜を過ごせたのなら、これから生きていけるだろうな」
へー。それより、聞きたいことがあるんですけど。
「ステルスさん」
ちょっと引きっつた顔で、話しかける。
「その、スライムはなんなんだ?」
無視ですか。無視するんですか。泣きますよ、私。
話をそらさないでくださいよ。
ちゃんと話してくださいね!
「今日。私の中から飛び出て来た、モンスターのスライム。《クレル》です!」
「あぁ。やっぱりか」
何を納得してらっしゃるんですか。様子を見に来たのは、私にかけた魔法の効果を見に来るためですか?
赤黒い髪を、片手でかいている。
「昨日かけた魔法のせいですか?」
「よく分かったなぁ。やっぱり、お前」
「それ以上。グダグダさせないでくれるかな!?お……ボク。退屈なんですけど!」
あ、一瞬、俺って言いそになったでしょ。
てか、何がよく分かったなぁ。ですか。
私がすごく迷惑しているんですけど。
私が怒り奮闘している間に、ステルスは少し《クレル》を借りるぞ、と言って森の奥に1人取り残された気分だった。
シルは、戻ってくる気配がない。お腹が減って何処かに採りに行ったのだろうか。
まぁ、テイムしたから問題は無いだろう。狼って鼻良いんでしょ?
だったら、私の居場所もわかるはずだから。
みんな無事に戻ってきてくださいね。お昼までには戻ってくる事!
日は南東の位置にあった。
まだまだ、日は沈まない。帰ってこなければ、この日が沈むまで探しまくってやるからね。
覚悟せぇい!
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