第4話 《クレル》使いすぎて説明役だったやつが…【後編】

 数分前。 

 私は、泉に映る自分を見て、白銀のショートカットの髪や、ブルーの瞳を見て興奮していたりした。

 今は、スコップをぶんぶん振り回して木を切り倒していた。

 どうだろうか。このギャップの違い。

 面白い。

 私は今何も考えずに、半径10メートル以内の木を切り倒してしまった。

 《クレル》からのストップがなければ、どこまでも切り倒していたかもしれない。

 そして、スコップがちょー使えることが判明した。

 ありがたやぁ、ゼウス様々です。

 今から会いに行けたら、土下座して感謝しまくりますから。

 しかも若くなってたし。

 私のどストライクな髪型、体型、若さだった。

 やっぱり、若さを求めたくなるんだよね。

 まぁ、小さいことでイライラしてる時点でババアなんだなと、思わされるのが苦痛。

 と、そんな感じで1日を過ごそうとしている私。


「はぁ、薪がつくれた!」


 最初のため息は、疲れた、の溜息ではない。

 達成感の溜息だ。

 大事なことだから、2回言う。

 最初のため息は、疲れた、の溜息ではない。

 達成感から来た、溜息だ。


「うん。火起こしは、とーっても簡単。薪を叩けば、火が出来るから」

「わーお。とっても簡単」


 すぐさま叩いた。

 好奇心&楽しさで叩いた。

 てか、私は今思ってしまった。

 《クレル》って言ってないのに話しかけてくるんだけど。

 どゆこと。

 だって、ゼウスは《クレル》って言ったら助けてくれる、としか言ってないからね?

 自分から出てくるとか、聞いてないんですけど。

 まぁいいや、これが変な予兆じゃなければいいけどね。

 私は、軽く嘲笑った。

 パチパチと、音を立てる焚き火を見ているとうとうとしてきた。

 この暖かさと、オレンジっぽい色が眠気を誘っていると私は思っている。

 

「眠くなってくるね。夕方なのに」


 《クレル》。呼んどらへんぞ。

 まじで不思議だ。呼んでもないのに現れるって、怖いよ。


「ねぇ、《クレル》」

「はーい」

「なんで、《クレル》って言ってないのに話が出来てるの?なんで?」


 しばらくの間、沈黙が走る。

 まぁ、別に答えてくれなくてもいいんだけど。

 私は、泉の前の岩に座って眺める。泉の前なのは理由がある。それは、何かが燃えたら泉に直行できるからである。

 火の元は怖いからね。

 消化器替わりの、泉の水。


「なんででしょうね。ボクも怖いです。なにか嫌な予感がしますね」


 え、貴方が言うとまじに聞こえるからさ。辞めてくれよ。

 はぁ、と溜息を吐いてからシルが食べていた果実を摘む。


「寝たい。ちょー寝たいけど、駄目だよね」

「寝ても大丈夫ですよ。だって、そいつ狼だもん」

「は~?い?」


 変な声が出たけど、そこは気にせず。

 んー!?聞いてないんですけど!

 こんな身近に、獣が居るなんてビクビクして寝られない……ことは無いかなー。

 だって、こんなにちっこいんだもん狼だなんて、嘘だ!嘘に決まってる。


「え……嘘でしょ?」

「嘘じゃない。ボクは犬とは言ってないから。まぁ、月が出れば分かる」


 私の記憶上。貴方が犬って言ってた気がしたけど気のせいかな?

 まぁ、それは頭の隅に置いといて。

 月の光に当たると、狼になっちゃうのかなー?

 私は半信半疑で月が出てくるのを待ちながら、果実を食べる。

 果実のあった所に行くと、青みがかった果実がありそれを食べた。

 あー、渋いですわー。


「ほら、見てご覧よ。ボクの言った通りだよ」


 《クレル》の言った通りなのかを確かめるために、シルへ目線をむける。

 すると、シルが伏せの状態でどんどんと大きくなっていく。

 ひぇぇぇーーー!マジか。


「お、ぉぉぉぉ。大きい!」

「だから言ったでしょう?狼なんだって」


 あ、本当なんだ。《クレル》は、信用してもいいのかもしれない。

 てか、大きくてもふさふさは変わらないんだね。カッコイイよ。

 シルって名前で良かったよ。可愛さだけでつけてたら、やばかったんだろうな。

 抱きつきたい。


「むぎゅーーーっ!」


 私は、シルにジャンピングハグで抱きついた。

 うわぁ。モッサモサだぁ。しかも暖かい。

 寝ていいですか?シル。抱き枕だよ、この温かさ、もふもふ感。

 私にぴったりの抱き枕です。

 嫌な予感ってこれですか?別に嫌じゃないんですけど。

 パチパチと、焚き火の音が響く。あぁ、その音とシルの温かさが丁度よすぎて寝そう。

 すると、シルが立ち上がる。


「んにゃぁ?どうしたんですかー?シル」

「近くに人がいる。逃げようとしてるよ」


 えー。お二人さんすごいですね。

 私、人の気配もわからないんですけど、生きてけるでしょうか。

 てか、まだ1日も経ってないって言うね。

 もう、1日過ごした気分だよ。

 あー。スコップを置いていかないであげてー。

 私の気持ちがつたわったのか、シルはスコップを咥えて木が切られていないところに逃げ込む。

 忍者のように静かに隠れた。

 警戒しているのだろうか、シルの鼻息が荒い。

 すると、人影が焚き火の前に立っているのが影でわかる。

 その人を、じっくり見せて~。

 シルはのそのそと、人が見える所に移動する。


「うわぁ。重装備ですね」

「うぬ。そうですね」


 腰には、猟銃を掛けていて片手には盾を持っている。

 盾には、大きな爪の跡が残っている。

 常連様のおひとり様ですかー?

 お初にお目にかかります。


「くるさん。スコップで、追い払えるんじゃない?」

「お、まじですか」


 え、あんな盾持ってる人に、適うとでも思ってるんですか?

 無理に決まってるじゃないですか。

 私の足はガタガタと小刻みに震えている。

 これが私の最後とかになったら、《クレル》が責任とってくれるよね?

 私は、覚悟を決めてシルにしがみつく形で乗る。

 そして、

 

「よし、決めた。行こう!」


 その声と同時に、シルは大男の前に立ちはだかる。

 枝を踏みおる音で、男は振り返る。

 立ちはだかった瞬間、男は猟銃を私にむける。


「なんじゃ。女か」


 男は猟銃を下ろし、肩をも落とす。

 私は心の中で叫ぶ。

 女で悪かったですねぇ!

 よく見ると、男の顔にも盾と同じような爪痕が、目を縦断する感じにつけられていた。

 

「なんですか!何用ですか!ここに」


 男は、細い目でこちらを見る。

 私は、その時嫌な顔をしていたであろう。


「ついてこい」


 野太い声で、言った。

 私は、男の猫背を見つめて首を傾げる。

 シルはまだ息が荒い。《クレル》は、何も言ってくれない。関わりたくないのかなー?

 

「ついて行こう。何かあるのかもしれない」


 やっぱり、恐怖より好奇心だよね。

 シルは、眉間にシワがよっているが私の命令に従って、男の後をついて行く。


「ここは初めてか」


 私は驚いてしまった。

 細い目で野太い声って言ったら、余り喋らないコミュ障な人のイメージがあったから。

 イメージだけで決めつけるのは、駄目なんだってこれでわかりましたか。

 よく喋るんだな。この人。

 私は背中を眺めながら、進む。見ていると、その背中が寂しく見えてきた。


「はい。今日ここを拠点にしようとして決めました」

「気をつけた方がいいぞ。ここら一帯はS級モンスターがウロウロと出入りしておる」


 え、《クレル》教えてくれなかったんですけど!

 怖いよ!てか、S級モンスターとか何なんですか。


「え、S級モンスターってなんですか?」

 

 それを伝えた瞬間、男は立ち止まり振り返って驚いた顔をして見つめてくる。

 何も知らなくてすみませんでした。

 ド素人なんですよ。


「そんなんも知らんのか」

「はい。転生者なので」


 又、驚いた顔をされた。

 さっきの言葉に驚く要素って有りましたか?

 男は地面にどっこらせ、と座った。

 私はシルに乗ったまま上から見る感じで、男の話を聞き続ける。


「その、転生者って言うのは公にしない方がいい。特に女はな」

「なんで女は、言わない方がいいんですか?」


 険しい表情をする。

 きっと優しい人なんだろう。私の心配をしてくれている。

 こんな人が、《クレル》だったらいいのに。

 まぁ、羨んだって仕方が無いことだ。


「奴隷として売られる羽目になる。特に転生者ってだけで高値がつくのに、女ときたらこりゃまた」

「値段が跳ね上がると……」


 男は大きく首を縦に振る。

 てか、ここの世界にも奴隷とか人身売買が行われてるんだ。

 最初に会った人がこの人でよかったよ。


「それで、S級モンスターっつーのはな。……とにかく強すじるんだ。王国の奴でも今じゃ適わない」

 

 さっきの間が怖すぎる。

 てか、王国の奴でも適わないって、どんなとこに転生させられたの!?私!

 今の王国ってことは昔はかなったってこと?


「今じゃってことは、昔は?」

「これは、極秘じゃ」


 微笑んで返された。

 あまり触れるなってことだろう。

 男は立ち上がって、歩みを進める。


「わしの名は、ステルス=グレーデスだ」

「私は……」


 ここは、偽名でも言っといた方がいいのだろうか。


「こいつ、くるさんが一風呂入ってる間に見てたぞ」


 うそーん。こんな良さそうな人が、盗撮ー?

 盗撮は違うか。なんだろ。

 あの時、《クレル》が待ってって言ってたのはそういう事ね。

 まぁ、そこはどうでも良くてですね。


「偽名、偽名……」


 頭の中で考えていたことが、口にそのまま出ていた。


「偽名なんて言わんでいい。元からお主の名前をよに晒したりはせんわ」


 やはり優しい人なんだろう。

 そんな会話をしていると、柵が横一列に立っているところに着いた。

 その柵から奥は、何故か嫌な気が溢れている。


「ここらに拠点を立てようと思とるなら、この柵から奥には絶対に行くな」


 ステルスは私に背を向けた状態で、柵を両手でポンポンと叩きながら言う。

 その背中はまさに、最愛の人をモンスターに殺されたかのように……なんていう妄想はよして。

 私は、頷く。


「わしはちょくちょくここに見回りに来るんだ。たまにお主のようにあの泉に浸かる人もいる」

「やっぱり見てたんですか?」

「何故わかった。気配を殺しておったのに」


 少しだけ、表情が崩れた。

 細い目を大きく開けて、それと同時に息を大きく吸った。


「私が気づいたわけじゃないんですけどね」

「ほぉ、にしてもそいつぁ凄い。これからのためと言っちゃなんだが、1つの魔法をかけてやろう」


 私は、ポカンと首を傾げる。

 ステルスからの贈り物を有難く受け取っておこう。


「ありとうございます……」


 やっぱり、不安が大きい。

 けど、この人は信用していいと思った。私の感だけど。


「目を閉じてくれ」

「はい」


 目を閉じる。

 その間に、何かを懐から出す音が聞こえてくる。

 パラパラと本を開く音が聞こえてくる。

 魔導書みたいなやつだったりして。んなわけないか。

 


*  *  *  *


「終わった。目を開けてもいいぞ」


 なんにも体には変化が感じられなかった。

 この後になんか起きるのかな?

 それとも、死んだらまた復活するって魔法かな?

 呪文聞こえなかったしな。どうやって魔法をかけたんだろう。

 そんなことを考えながら、来た道を引き返していた。

 泉に着くと、ステルスと別れて焚き火の前で寝る体勢に入る。

 《クレル》は寝るまで邪魔をしてこなかった。

 珍しい。と言うか、初めてだけど。

 長かったな、1日が。また明日も頑張ろう。

 おやすみ。みんな。

 一瞬で眠りについた。


*  *  *  *


 鳥の囀りが聞こえる。

 なんか頭が重い。久しぶりにこんなに寝たからだろうか。


「重いー」


 目を開けても、頭には見えにくいが何ものっていない。

 手で頭を触ると、ぷにぷにしているものが手に当たった。

 なんでしょうか。これは。

 体を起こしても、落ちてくる気配はない。

 よし、呼ぼう。


「《クレル》」

「ここだよ。ここ」


 私は頭からではなくて、頭の#上__・__#から声が聞こえた気がするんだけど。

 聞き間違えではないよね。


「《クレル》」


 2回目。すると、頭の上から水色の丸い物体が落ちてきた。

 性格にはジャンプしてきたと言った方がいいだろう。

 しかもその物体は喋った。


「あんたもしかして《クレル》ですかい?」

「もしかしてのもしかしてだよ!」


 アハ。《クレル》だったよ。

 こりゃ驚いた。

 なんでなんだろうな。まさかの、ステルスの魔法だったり~。

 あはは。そんなわけないよね~?

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