第6話 チュートリアルからハードモードて〜逆襲の後編!




 12歳になり、この身体も随分と出来上がってきたと思う。

 僕はあの惨敗に凝りず、今でも父さんに稽古をつけてもらってる。7年経った今でも。毎日、欠かさずに、だ。


 さあ、今日も対峙する。剣を構える。



 「始めようか……」ブワリ………



 戦闘モードに没入した父さん特有の、この殺気。突き刺さるような激しさはない。

 でも精神に絡みつき、そのまま命ごと刈り取ろうとするようなあの、死神の気配を思わす不気味な殺気は今も健在で……。


(ホントこれ……いつまで経っても慣れないよ…鳥肌がもうホントコレ……って弱気になるな!)


「カアッ!」


 僕はスキル【気合】と【肺喝】を合成進化させたスキル、【豪気】を発動。 放射状に砂ぼこりを巻き上げる程の気合を発してその殺気を相殺。相殺しながら躊躇なく父さんの制空圏内へと突入。


 死神の気配……父さんに近づくほど濃厚に絡みつく。


(……!くそっ!知るかよっ!)


 一瞬逃げ出したくなるも、構わず特攻。スキル【精神耐性】のおかげだ。毎日必死になって修練に励み、身につけ、育てたこのスキル。


(うん。便利だ。役に立ってる!)


 こんな僕でも戦闘のプレッシャーに負けないで突っ込めてる。これは僕にとって必須のスキルだ。

 父さんに向け真っ直ぐ突っ込んでいく僕……の頭上…迫りくる圧力を感知っ。


 『振り下ろしの剣が来る』感知系スキルの一つがそう察知して警報を鳴らす。


 でも、反応しそうになるのを必死に抑え込み、僕は横にかわさず移動しながら身を沈めるに留めた。


 それでは振り下ろしをもろに食らってしまうところだけど……看破!振り下ろしは……よし!やっばり来ないっ!


 先程まで僕の頭が在った位置を父さんの剣がに通過していく。


 先程感じた『振り下ろし』の圧力は父さん御得意の搦め手だったとここで証明された。


 さっきのアレは、僕が身につけてるスキル【気配察知】の性能を逆手にとったフェイント……剣圧に似せただけの無害な風魔法だったのだと予想。


(甘いな父さん…察知系のスキルは【危険察知】の方も身に付けてんだよ僕は)


 剣を横薙ぎに振った父さんの懐。入った。そのまますれ違いざま…っイケる!父さんの腹を打ち据えるべく剣を振る!


   ドンピシャ………ッ


      ……フバ……


 (…やっぱり。)


 そこにはもう父さんはいなかった。父さんだったものがかき消えゆくだけ。これはきっと父さんが発動した風と光の混合魔法による、幻影だ。


(じゃあ肝心の父さんの実体は、何処へ?)


 父さんは直系のハーフエルフ(片親に純血のエルフをもつハーフエルフ)にしては珍しい戦士タイプ(魔法も使える厄介なヤツ)。よってMPがあまり育ってない。あくまで直系のハーフエルフにしては、だが。


 だから高火力な攻撃魔法の連発を避けるようになった……だけどその分、繊細な魔力操作を得意とするようになったらしい。

 先程の振り下ろしのフェイントや幻影などは父さんの得意分野だ。『繊細な魔力操作』というものは本来、高火力魔法を発動するよりもよっぽどMPを消耗する割に効果が薄いという…燃費が非常に悪い魔力運用であるらしいのだけど。

 父さんはそれを修練で無理矢理効率化に効率化を重ね、熟練に熟練を重ねて、『遂には魔力消耗を抑えつつさらに無詠唱で即発動できる』という凄技に昇華してる。


『火力一辺倒でなく、省エネ魔法で多彩な攻撃を放ちつつ、相手が隙を見せた瞬間決め手の最大火力を叩き込む!』というのが父さんの戦型せんがただ。


 だから、ほら。僕がかき消しつつあった幻影を突き破って迫って来た。位置的には僕の背後からだ……アレは今度こそ父さんの実体だ!


(………でもそれも読んでたよ……父さん)


 僕を打ち据えようとする父さんの動きが淀む。明らかな迷い。これは珍しいこと。後ろ姿だった僕の姿が急に正面から見た姿に書き換わったんだから、それも無理ないこと。


 僕が発動したこれは魔法……ではない。3つのスキルの合わせ技だ。【魅力】と【挑発】と【詐術】。


 面倒な作業だがこれらを極めた上で同時に発動すれば、ヘイト管理の上位版…言ってしまえば『催眠術に近いこと』が出来る。相手に幻覚を魅せることすら可能になる。

 正面から向かい撃たれると思った父さんは急制動をかけようとしたが……


(くそ……っ!)

 

 どうやら“タネ”に気付かれたようだ。

 父さんは急制動を瞬時にやめた。

 飛び込むようにして僕の方へと突っ込んで…そのまま僕を、『突き破って』いった。そして前転、立ち上がる。


(さすが父さん……)


 あの瞬間で僕渾身の罠の全て見破るとは。

 そう、幻影の父さんに剣道の抜き胴よろしく突っ込んだあの瞬間前。あの段階で僕は既にスキルを発動していた。


 3スキルの合わせ技で父さんに催眠術をかけつつ、もう一つスキルを同時発動していたのだ。


 元は【気配操作】というスキルだったものだ。

 このスキルは本来は『気配を薄くして存在を察知されにくくする』というスキルだったんだけど、僕はこのスキルの進化先を『気配と実体を切り離し分化する』という『リアル分身の術的効果』を持つスキル、【気配分化】に変更していた。


 突っ込んでいった僕は、実体から解き放たれた僕の『気配のみ』だったというわけだ。


 そう、実際の僕は最初から動いていなかった。


『幻影の父さんに特攻していった気配のみの僕、の背後を突いた父さん』のさらに背後から、確実に勝てる瞬間を見極めようとして待機……て自分で言っててややこしいわっっ!


 僕が切り離した気配の方をあのまま父さんが攻撃、もしくは警戒して急停止でもしてくれたなら……僕は父さんを背後から不意打ち出来てた。


 けど、やっぱ父さんは凄い。


 僕がスキル【調合】で作った『特性潤滑剤』が地面に撒かれてることにまで、あの瞬間に気付いくとは。しかも対処までしてしまうんだから、堪らない。


 実は最初に【豪気】を発動して砂ぼこりを上げたのは、父さんの殺気を相殺する以外に2つの目論見が在った。


 1つ目は気配を消した僕の実体が潤滑剤を撒くのを隠す、念のための目眩ましであったのと、

 2つ目は撒かれた潤滑剤を砂ぼこりで覆い隠してカモフラージュするため。

 ここまで念入りにやって、それでも父さんには届かなかったというわけ。なんだそれ手強すぎるっ


 あのまま飛び込み前転しなかったらどう動いても父さんは潤滑剤で足を滑らせ体勢を崩していたか…滑らさないまでも体勢維持に注力せねばならなかったはずなんけど……うーん。残念だ。そうなれば僕の勝利は確定していたのに……。


「……ジンくんこれ……。」


 あ。地面に撒かれた特性潤滑剤を指差しながら父さんがジト目を送ってきてる。


「いやまさか父さん……卑怯だとは言うまいね?」


 僕は意趣返しとして言い放った。


「『戦いに向いてない』らしい僕は色々工夫を凝らさなきゃ勝てない。それを卑怯とか……っ。『戦いに向いてない』とか言われた僕でも流石にそんな言い訳はしないかなー?戦闘ではどんなハプニングが起こるか分かったもんじゃないんだからさ。………ねえ?父さん?」


 7年越しの皮肉!ザマア父さん!最高のドヤ笑顔をお見舞いしてやったぜっ!うはは気持ちいい!


(………って、あ。マズい。)


 父さんの目。さらに座っ……いやちょ……っ

 父さん早まっちゃダメつか何する気ですかあなた??


「……じゃぁ、しょぅがなぃょね……」


 ブオンッ!


 バギイッ!


 今、父さんは僕から結構離れた位置に立ってる。


 剣を振っても僕には絶対届かない位置だ。


 その父さんが剣を振った。


 そして僕のずっと後方にある木から衝撃音………。


(………………っていやいやいや……)


「……ずっこいよ父さん!!12歳の子供に『武技』使うとか!それってチートだぞチート!!」


「え?なに?ちぃぃと?…ちょっと、何言ってるのかわからない。それにジンくん。武技はハプニングの内にも入らない歴とした技の一つだよ?全く…しょうがない子だ……なっ!」


 〈〈ブオンブオンブオンブオン!〉〉


 切れ気味な父さん、剣をブンブンふりまわす。

 振り回すたびムチ状にしなる斬撃が飛んでくる。

 僕の周囲がビシバシと抉られていく。

 アレだアレ。『飛ぶ斬撃』というヤツだコレ。

 どうやら父さんは近距離攻撃から遠距離攻撃へと完全にシフトした模様。

 僕も遂にここまで父さんを追い込めるようになったかーと感慨深くもあるが……


「いや大丈夫だから。剣と同じで魔力斬撃の方も刃引きしてあるから。しょうがないから手加減してあげるから。」


 どうも父さんの目つきと言ってることが怪しい方向へ……


「ほお……それは器用ですこと……じゃなくてさ!」


 これは…


「多分切れないし、多分折れないから。多分今のジンくんなら多分折れないから多分。多分痛いだけだから。多分だけど。全くしょうがないなああああああああ!特別なんだからねええええええ!」


 ああ…マジだコレ。マジヤバい。


「へえ…それはなんとも親切設計……じゃなくてさ!折れるって何が?痛いは痛いんだ?つか『多分』て今何回言った!?ほぼ保証出来ないって言ってるよーなもんだソレ…ってうわあぶねー!!!」


 うちの父さん……暴走モード突入だわ。コレ。


「ぼかぁーやっぱり反対だなぁー『冒険者になりたい』とかー。だってしょうがないじゃないかー。こんなのに対処出来ないんじゃー。やっぱりジン君には無理なんだよー。そんな無謀な夢ぇー。しょうがないよー。」


 ウチの父さん…キャラが絶賛崩壊中。


「何でだよう!父さんも母さんも元は冒険者だったんでしょーが!何で僕だけ駄目なのさっ!!つあ!まじやぶぁ……っ!」


「ああもう!うるさいうるさああああああーーーい!!よそはよそ!!うちはうち!だからしょうがない!ね!?」


 知ってる父さん?『逆ギレ』って言葉?

 

「いやコレめっちゃ『ウチウチの話』デスヨネーっっ!?もう言ってることめちゃくちゃだよ……って父さん!?今木が折れてましたよ木の、『幹』が!?僕もきっと折れちゃうヤツだよねやっぱコレ!?」


 マジでマジで。


「うるさいうるさいうるああああさーーーい!!ジンくんはずっとウチにいればいいのっっ!僕は絶対に折れないぞ!?これはしょうがないことなんだっ!『かわいい子には旅をさせない』!!それがウチの教育方針なんだっっ!折れるのは………ジンくんの方なんだ!!!もうしょうがないんだから…諦めなさい!そうしなさいッッ!!」


「いやだから本当に折れるってコレ!主に骨的な意味で折れるってコレうわああ!!」


 ……とまあ、そんなこんなで?とんたハードモードなチュートリアルになってるけど……僕は頑張ってます。


 こんなチュートリアルでも終わってみれば、


『本編のハードさに比べればこんなものまだほんの序の口だった。』と、後に知ることとなるのだけれど。

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