第7話 チュートリアル前のキャラメイク〜Fスキルって何?



 父さんの狂気じみた“愛のムチ”を必死で回避しながら、僕は思っていた。


 もし僕が、を選ばなければ……と。


 さえ選ばなければ、父さんもここまで過保護になりは、しなかったのではないか?


 …いや、その場合、どうなんだ?僕は別の家の子として生まれたのかな?


 うーん。そこんところは闇の中。考えるだけ、無駄か。


 『それにしても…』と思い出してしまう。


 このハードモード全ての元凶を。全ての始まりであるあの、キャラメイクでの僕の大失敗を───


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 ────テンセイライフオンラインへようこそ。』





 (…………ん?ああ、ダイブしたんだっけ)





 僕は目を開けて見る……て、おおおっ!?




 僕は、宇宙空間に浮遊していた。




 遠くには銀河的風景。そして目の前には惑星があった。地球に似てるけど、地形が違う。うーん、近くで見ると迫力あるな……。

 いや近くって言ってもかなり距離が離れてるんだろうけど。当たり前だがそれでも巨大に感じる。普通の『巨大』とは迫力が違った。なんせ惑星だし。

 何だか宇宙規模な巨大なものを目前にすると圧倒されるなあ…うえ、なんか気持ち悪くなってきた……



『……テンセイライフ、 オンラインへ、 ようこそ。』


「あ、はいスミマセンぼーっとしてて……」


 念を押すような女性の声。僕は慌てて返事をする。怒らせたかな?……気になる事があると夢中になるこの癖、いい加減どうにかしなきゃな。


『いえ、謝る必要はありません───早速ですがこれからマスターはあの星の何処かに転生し、第二の人生を生きることになります。ここでの選択によりその転生先が決定されます。ここはいわゆるキャラクターメイキングをするための仮初めの空間、とでも思って下さい。では、目の前に浮かぶ画面に提示された種族からどれか一つ、お選び下さ──』


「僕のことマスターって呼ぶ……ってことは、君はナビゲーター的存在だと解釈しても、いいのかな?」


 申し訳ないと思いつつ遮る形で質問した。キャラメイクは大事だ。今後の展開に大いに影響するはずだから。

 であるなら質問に答えてくれる存在がいて、それを利用できるなら有用な情報を得られるかもしれない。

 キャラメイクはその後でもいいはず。ゲームを有利に進めたいと思った僕は解答を待たずにまた質問をした。


「もしそうなら、このゲームについての質問に答えて欲しいんだけど……そういうのはOK?」


『私は質問に関して答えられる範囲であるならば回答する権限を持ちますが、ナビゲーターであるかどうかと問われるならば違うと答えます。私はあなたの中に宿る『Fスキル』。』


 えふスキル?……て、何だろう?


『Fスキルとは運命を司るスキル……とでも覚えておいて下さい。』


 運命?大きく出たな。なんかヤバイ臭いがするぞ……つか、今心の中読まれた?まあそれは別にいいか。便利だし……


 でも運命って………


『もう少し詳しく説明しますね。』


 あ、はい。お願いします。


『この世界が『生きた世界』である以上、造物主である神様達運営といえど基本、不干渉であるべき立場に在ります。ですのでマスターを含むプレイヤーの皆様に『ゲーム的なイベント』というものをこちらからは一切用意できておりません。』


 え、そうなの?ってことはどう生きてもいいの?それって自由度高すぎない?


『好きに生きてもらってもちろん結構なのですが。……しかし、歴史があり、その歴史に基づいた社会がしかと定着しているこの世界では、好きに生きるにしても限度というものがあります。奇異な行動は気味悪がられ、そして異端と捉えらてしまうほど度が過ぎれば迫害を受けることに繋がり、知らぬことであったとしてもそれがもし、法に触れる行為であったなら、容赦なく逮捕されます。そして、原始的裁判では重罪判決が横行しており、それが死刑判決でなくとも内容によっては高確率で死亡します。』


 う。そうだった。


 ゲームであってゲームじゃない……『ゲーム的な容赦(ゲームバランス)』がない世界なんだったコレ。


 この世界の風土的なものを早めに掴まなきゃすぐに死んでゲームオーバーか。なかなかハード……いやこれ無理ゲーなのかもしれないぞ?


『しかしイベントもなく、自由も制限され、ただ平坦に過ごすだけでは、ゲームとして成立しません。娯楽性に欠けてしまうからです。』


 うん。ですよね。


『それでは退屈に膿んだプレイヤーがスリルを求めて無謀な行為……最悪のケースとしては犯罪行為に手を染めることだって想定されます。…それはこの世界の人々にとっても、プレイヤーの皆様にとっても、神様達運営にとっても不都合なこと。』


 フムフム。


『そのために私達、Fスキルが存在するのです。プレイヤーの皆様は個別に与えられた様々なFスキルの力を使うことで、平凡な運命を刺激し、物語を動かすことが出来るようになるのです。』


 …んなるほど。これは、ただの異世界体験ツアーとして終わらないようにするための措置か。

 まあ体験するだけでも十分に凄いことなんだろうけど……平凡な生活に慣れてしまえば流石に退屈するだろうしな。

 ちゃんとしたゲームとして成立するよう運営も考えてるわけだ。

 ちなみにこのFスキルのFってのは『Future(未来)』の略ってことなのかな。


『自由(Freeフリー)に解釈してもらってもかまいません。未来(Futureヒューチャー)を呼ぶスキルという解釈も間違いではありません。この“F”が幸運(Fortuneフォーチュン)となるのか、凶運もたらす伏線(Flagフラグ)となるのか、それはマスター、あなた次第です。』


 う。なんか上手くまとめてきた。


 僕次第って言うけどそれはFスキルの内容次第でもあるんじゃない?……となると気になるな。


 僕が与えられたFスキルってどんな感じなの?


『まだ定まった機能はありません。現状の私はまだ、ただFスキルと分類されるだけの存在。なんの力も持ちません。覚醒して名を授かった瞬間から発動する仕組みになっています。』


 それは、どうすれば覚醒するの?


『マスターと共に生きる中で経験する様々が糧となり、私は形成されていきます。マスターが独り立ちするまでにどのような経験をするかで私の力は決まるのです。言い方を変えればFスキルが覚醒した瞬間からマスターは独り立ちできるようになり、この世界での『潜在的キーパーソン』となる力を得るわけです。』


 つまりFスキルが覚醒した段階で僕は独り立ち出来る……つまりはチュートリアルが終了するってことか。

 そして今言ってた『潜在的キーパーソン』ってのは……物語の主人公になりうる存在……って解釈で、OKなのかな?


『その解釈は間違いではありません。』


 う。さすがだな。なかなか言質げんちとれないや。

 ……まあいいか。手探りなのもゲームの醍醐味と考えてしまえば問題ない。


『マスター。そろそろキャラクターメイキングを開始してもよろしいですか?』


 あっ!そうだったね。随分と話が脱線しちゃった……えと、先ずは種族を選ぶんだっけ?


『はい。では改めて──マスター。目の前に浮かぶ画面に提示された種族からどれか一つ、お選び下さい。』


 Fスキルさんがそう言うと画面が浮かぶ。その中に多様な種族名がズラリと並んでいる。





〈種族一覧 性別男〉



 ヒューマ(アウトリア王国、以外王国)

 ヒューマ(ベルン帝国、以下帝国)

 ヒューマ(共和国、以下、同じく共和国)

 ヒューマ(ステアティア聖教国、以下教国)

 ヒューマ(ラン·ズール吼獣国、以下獣国)

 ヒューマ(ガイアスダン堅鉱国、以下鉱国)


 アニマ(猫系·出身ランダム)

 アニマ(犬系·出身ランダム)

 アニマ(熊系·出身ランダム)

 アニマ(鳥系·出身ランダム)

 アニマ(牛系·出身ランダム)

 アニマ(羊系·出身ランダム)

 アニマ(猿系·出身ランダム)

 アニマ(爬虫類系·出身ランダム)

 アニマ(雑種·出身ランダム)


 エルフ(エルフェイラ星樹国、以下樹国)

 ハーフエルフ(樹国)

 ハーフエルフ(帝国)

 ハーフエルフ(王国)

 ハーフエルフ(共和国)

 ハーフエルフ(教国)

 ハーフエルフ(獣国)


 ドワーフ(鉱国)

 ドワーフ(帝国)

 ドワーフ(共和国)

 ドワーフ(教国)

 ドワーフ(獣国)



 この中から選ぶのか。( )内は生まれる場所なんだそうだ。どの国に生まれるかも選べるということか。アニマ以外は。

 アニマは出身地を選べない代わりに『種族系統』を選べるらしい。『犬系のアニマにするか、猫系のアニマにするか、それとも熊系?』という具合で。


 ……さあて、どれを選ぶべきかな。


 なるべくなら戦士職に適した種族を選びたい。やっぱ男の子だしね。今までやってきたゲームでは全部戦士職だった。

 だって『深淵の焔がどうたら〜…』とか『闇より来たれ〜』とかさ(笑)あの詠唱が凄く苦手。女子がやる分には萌えるけどね。こんなモブ夫が…ねぇ?


 だから魔法職選ぶのは流石にキツイというわけです。


 それに『でやー!』とか『とぉう!』とか言えない感じじゃん魔法職。それじゃあ血沸き肉踊らない。というわけでやっぱ戦士一択でしょ。


 え?『結局の厨二病じゃん』だって?


 ハッハッハ。そうですが、 ……何か?


 ともかく、ここは慎重に慎重を重ねて選択したい。 僕はもちろんFスキルさんに詳しく話を聞いた。




「フムフム……ヒューマってのは

僕らプレイヤーと同じ人間に近い種族で思考が柔軟、なので能力値は万遍なくの割り振りでどれも平均的。

 そのせいかスキル取得に不得手はないけどスキルの成長も平均的……と。つまりは結局の器用貧乏ってこと?いやいやそれは育成次第でしょ……」



「えー…っと…アニマは、

 【獣属性】っていうスキルを生まれつき持っててそのスキルに則して何らかの獣の特性と見た目をもつ……か。

 猫系だろうが犬系だろうがどの『種族系統』の【獣属性】で生まれてもアニマの身体能力は他の種族に比べてピカイチ……なんだよいいなそれ。戦士職には持って来いだろ。

 あ。その代わり魔法を使うのがとてつもなく下手なのかー…うーん。全く…てのはなぁ…

 アニマはラノベとかで言うところの獣人的な種族なんだろうか?……え?獣人とか亜人とかは差別用語?OK今後気を付けるね。

 …ああ。アニマは【獣属性】の系統は選べるけど出身地は選べないんだっけ。それは……なるほど…やっぱ…うーん……」



「そんでエルフは

 なんと言っても魔法系スキルが大得意。そんで美男美女。他のスキルはどれも若干ではあるものの、不得意……身体能力は素早さが高い…それ以外の能力値は並以下

 ハーフエルフは

 エルフの得意分野が若干弱くなって不得意分野に若干強くなる…か。なるほど…意外といいじゃんハーフエルフ……と言うよりマイルドエルフって感じだな。使い勝手なら純粋なエルフより良さげだね。」



「ドワーフは

 手足短くで素早さとリーチに難があるものの、他は強くて戦士向き。まあ、パワー系【獣属性】持ちのアニマには敵わないんだろーけど。

 魔法はあまり上手くない……けど【鍛冶】とか【錬金】とか職人系スキルに秀でてる……か。」



「うーん。能力的にはどの種族も育成次第では戦士職イケる口だなあ。ヒューマとエルフとハーフエルフは魔法ありきのオールラウンダー型かな。」



「オールラウンダー目指さないなら他の種族選んだ方が良さそう……で、アニマはアタッカーかタンク、どちらかに特化型な感じなのかな……で、ドワーフはタンクしつつも攻撃力があってサポート力も充実してる……どれも甲乙付け難いな。」



「………となれば出身国とか『育成環境』が鍵になるのかな…………Fスキルさん、主要各国の情報も教えてくれる?」


『わかりました。マスター……────





 ………という感じで、Fスキルさんに根掘り葉掘り聞くことに多くの時間を使うかわりに多くの情報が得られた。


 何度も言うが、僕は引きこもりだ。


 引きこもって後悔の念に苛まれながら、それを忘れようと意味もなくネットにハマり、あーだこーだと愚にもつかない妄想に夢中になってたこんな僕にも、分かったことが一つだけある。

 それは、世の中で勝ち組と呼ばれる成功者達は、誰よりも速く情報を得て、それをモノにしている。

 つまり成功者とは、その新鮮な情報を元に何らかの成果を上げた人達なのだと。


 ふふふ。


 Fスキルさんからはたんまりと情報を引き出せた。この時点で、このゲームについてここまでの情報通になってるプレイヤーが、僕以外に果たして何人いるだろうか……


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 …………いやいや結構いるってそんなの!


 情報の大事さなんて誰だって知ってることだろっ。


 特にこのゲームは殆どの情報が開示されていなかったんだからみんな情報を欲しがってたはずだし……


 ナニいい気になってんの“この時の僕”?


 ……そんなんだからになるんだよ…っ!


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