第18話 失踪14(修正済)

俺は引き続き学生名簿を検索していた。ヒロコたちが帰った金曜日の午後。夕方にユウナが来ることになっていたため、それまでには見つけたいと思っていたが、結論から言うと奥村マコトは見つからなかったが、マコトは見つかった。


学科ごとに一年から四年、昼間部と夜間部といった感じに分かれているので、全てを開くだけでも結構時間がかかった。一旦開けば、コントロールキーとエフによる検索が有効なので、それを活用したが、全てのページ、つまりすべての学科および学年に、奥村マコトは存在していなかった。


もう一回同じことをしようと最初のファイルを開いたとき、ふとヒロコとの会話を思い出した。ヒロコは「マコトとはガイダンスで一緒だった」と言った。また、ヒロコはフランス語だけが一緒の講義だったとも言った。語学は、受講生をなるべく少なくして、会話重視の授業にするのがうちの大学の特徴だった。わざわざ、学生の少ない講義に出る意図はなんなのか。それらのことから、マコトは確かにヒロコと同じクラスに、すなわち法律学科の二年に在籍しているのではないかという仮説を立てた。


その上で、俺はもう一度法律学科二年の名簿を開いた。今度は一人ずつ名前を確認していった。ヒロコの名前は見つけたが、やはりマコトはいなかった。しかし、名前を吟味していくうちに、同じページに信じられない名前を俺は見つけた。俺は情報の速度に頭が追いつかず、しばらく考えた。


【木島真琴】






「どういうことなんでしょう」


「いや、どういうことなんでしょうじゃねえよ」


俺とユウナは、パソコンの画面を何度も確認した。


「木島真琴って奴が本当にいるんじゃねえの?女か?」


「いや、多分これマコトですよ。そんなに木島なんていないと思うし」


「なんでおめえにわかるんだよ。おい、住所とかねえのかよ」


一覧の名簿ではなく。個人情報が記されているファイルを開いた。一人ずつ、四千人超のファイルがあるが、綺麗に整理されていてすぐに発見できた。法律学科二年木島真琴。住所欄に宮城県仙台市と見つけた。エミの住所も確認すると全く同じだった。


「おい!」


俺たちは顔を見合わせた。


俺はすぐさま木島さん、エミの父親に電話をかけようとしてやめた。代わりに尾見くんに電話をかけていた。事情を話すと尾見くんは、今回は拡散しないほうがいいとアドバイスしてくれた。それもそうだ。もしマコト本人が何らかの事情で隠しておきたいと思っているなら、ここで拡散されたらそれこそもう大学には来ないだろう。尾見くんに礼を言うと、今から行こうか、と言ってくれた。時刻は十七時を過ぎたところだ。俺は図々しいとは思ったが、ヒロコを連れてきて一緒に来てほしいとお願いした。


「なんでヒロコなんか呼ぶんだよ」


ユウナは嫌そうに言った。仕方がないと思うけど、俺やユウナではわからないことをヒロコは知っているかもしれないからだ。


「ユウナ先輩、ナナ先輩も呼んでもらっていいですか?」


俺はそう言って、ユウナの返事を待たずに中原さんに電話をかけた。


「いいけど、エミのお父さんはいいのか?」


俺は黙って頷いた。それを見てユウナもナナに電話をかけていた。






一時間もせずに全員が集まった。俺は病室ではなく、離れにある祖母の入居棟にみんなを集めた。祖母が入居している部屋は一階部分と二階部分に別れており、冷蔵庫に飲み物があるし、簡単な食べ物も作れる。リビングには四人掛けのソファーが二つある。俺はベッドごと看護士に運んでもらった。祖母は、まだ十八時だというのに床についていた。都合七人座れる皮のソファーにみんなを座らせ、俺はベッドの上、介護士の田嶋さんに適当に飲み物とつまみを用意してもらった。


「忙しい中、本当にすいません。どうしても相談したいことがあって。ちょっと長くなるかもしれないです。いいですか?」


ユウナとナナは俺の横手のソファーに、ヒロコと尾見くんと中原さんは俺の正面のソファーに座った。俺は今日見たこと、今までのことを、なるべく正確に伝えた。


「まず、エミ先輩とマコト、連絡が取れなくなって今日で一週間です。どっちの家にも誰もいなかった。そして、エミ先輩の家にはお父さんが詰めていますが、今朝の時点でまだ帰ってはいないです」


「その前によ、なんでこいつがいるんだよ!てめえ、一樹に何したかわかってんのか?」


ナナが腕を組んだままそう言った。ヒロコは下を向いて小さく謝った。


「ナナ先輩、俺が呼んだんです。色々あったけど、今は小さなことで揉めてる場合じゃないと思います。エミ先輩とマコトを知る人に力を借りたいんです。一人でも多く」


ナナは納得していない表情を見せた。見せたというより、作った。はっきり言って、俺だって納得していない。だが、どう考えてもマコトに一番近いのはヒロコなのだ。


「ヒロコは、はっきり言って反省しています。必ず力になってくれます。それにヒロコじゃないとわからないことがたくさんあるんです。借金のこととか」


「待てよ。ヒロコ、てめえエミたちがどこ行ったか知ってんじゃねえのか?」


今度はユウナが突っかかった。


「私は知らないです。」


「嘘つけよ。マコトたぶらかして金貢がせてたじゃねえか。おまえが一番怪しいんだよ」


「先輩、ヒロコは多分、本当に知らないです。もう僕の前で嘘はつきません。保証します」


俺は間髪置かずに話した。


「確認しながら話しますけど、金曜日、マコトはバイト、エミ先輩は俺との約束があった。けど、どっちも約束を守らないで失踪しました。エミ先輩の部屋はテレビが付きっぱなしで、窓の鍵も空いていました。ついでに言うと、前の日から着ていた服や下着を着替えずに出かけた可能性が高い」


俺は自分自身に確認するように話した。ユウナとナナ、中原さんが頷いた。


「そして、今日大学の名簿を調べていたら、マコトの名前が木島真琴と入力されていた」


ナナはユウナと俺の顔を交互に見た。ヒロコは両手で顔を覆うような仕草をしながら俺を見た。尾見くんは全く動じていない。俺は尾見くんに説明した。


「木島っていうのは、エミ先輩の名字なんだ。ちなみに木島真琴の住所は、エミ先輩と全く同じだった」


「え?どういうこと?」


尾見くんは、単純にどういうことかを図りかねていた。


「マコトとエミ先輩、二人は家族だと考えるのが妥当なんじゃないか」


ナナは声に出さずに、マジか、と口を動かした。ヒロコは両手で顔を覆ったまま下を向いた。


「二人が家族だとしたら、なんで俺たちには姉弟って言わなかったのか。なんでマコトは奥村って名字を語ったのか」


尾見くんは、理解したと言わんばかりに何度も首を縦に振りながら聞いた。


「ユウナ先輩、エミ先輩とマコトは付き合っていたって言ってましたよね?」


ユウナは顔色を変えずに話した。


「あたしがあの二人を見て思ったことは、凄い絆で結ばれているってこと。エミは、マコトと付き合ってたってナナに漏らしてた。だよな?」


ナナは頷いた。


「あたしもそれは納得した。確かに付き合ってたって。二人の関係は確かに恋人のものだったと思う。マコトは、誰が見てもわかる通り、エミを一番に好きでいた。エミもマコトに頼っていた部分があった。ただの姉弟ならあんなにお互いを尊重できない。あたしにも弟がいるけど、あんなデレデレしねえよ。気持ち悪い」


ヒロコも頷いた。


「私もそう思います。マコト、エミ先輩のことすっごく好きで、それでいつも悩んでいて、辛そうだった」


中原さんは神妙な顔をして聞いている。


「あいつらは絶対に付き合っていた。それを少なくともナナには漏らした。あたしはあのとき、エミとちょっと喧嘩っぽくなってたからな。あたしには言えなかった。でもナナには言えたっていうことは、これは嘘じゃないと思う」


ユウナはそう言ってため息をついた。


「二人は過去に付き合っていたと。でも、同じ名字で実家も同じ番地です」


「どういうこと?」


再び尾見くんがそう言ったが、誰もそれには答えなかった。居間に静寂が流れた。それぞれが状況を考えていた。






「姉弟で付き合ってたってことか?」


沈黙を破ったのはナナだった。


「それか、家族ではないけど同じ家に住んでいて名字も同じだということか、どちらかでしょうな。従兄弟ならあり得ます。また、養子縁組などの場合もそれに当たります」


中原さんはそう言った。


「確かにその可能性もあると思います。そして、二人の過去を暴くことが目的ではないというのも事実です」


俺の一言にみんな頷いた。


「でも、もう一つ事実があって、エミ先輩のお父さんに、先輩とマコトの行方が知れないと言ったときに、お父さんは二人の関係については何も言いませんでした」


「昨日会ったけど、エミのお父さん。普通だったぞ」


ユウナがそう言った。ユウナはエミの父親と会い、色々と案内したと、これはエミの父親から聞かされた。


「俺がお父さんにマコトの名前を出したんです。一緒にいなくなったって。でも、それには全く反応しなかったです。そして、マコトのお母さんには連絡は取れないと言ってました」


「二人の親が再婚して同じ名字になったってこともあるんじゃないの?それで子ども同士も家族になったんじゃない?」


尾見くんが言った。


「そういうことだったらあたしらに隠す意味がねえだろ」


「そうですね、エミ先輩のお父さんが、マコトの親に連絡は取れないって言っていた。一緒に住んでるんだったら連絡が取れないというのは不自然だし、しかもマコトの親は、一度こっちに来て、エミ先輩とも会ってる」


尾見くんは、俺たちの言葉の一つひとつをゆっくり噛み締めるように聞いた。ハッとしたようにナナが声を上げた。


「おい!エミはお父さんしかいねえんだよな?んで、あのとき来たのはマコトは母親か?その二人が離婚したってことか?」


誰もが顔を見合わせた。ヒロコでさえ唖然とした表情を浮かべ、誰彼となく同意を求めていた。しばらく場は凍りついたかのように止まった。俺は一連の流れを追ううちに、若干心拍数が上がっていたように思う。


「父親と母親が離婚して、エミは父親に、マコトは母親に、それぞれ付いていって別れた。マコトは木島から奥村になった。エミとマコトは姉弟で付き合っていた。こういうこと?」


尾見くんがまとめた。可能性として、その線が最も濃厚な気がした。


「待って!親同士が再婚して、その後離婚したってこともあり得ると思うわ。それなら、エミ先輩とマコトは姉弟ってわけじゃないし。私はそういうほうが自然だと思う」


ヒロコが言った。それももっともだと思った。ナナもユウナも真剣に聞いた。


「どっちにしても、エミのおじさんに聞くわけにはいかねえだろ。もし、自分の子どもがそういう関係になっていて、あたしらがそれを勘違いしてるんならわざわざ自分から言うわけないしな。触れられたくない問題だろ」


「はい」


「そうだな」


それぞれ頷いた。俺はみんなに言った。


「でも、それがわかったところでこのままじゃ埒があかないし、思い切って行動に移りたいと思うんです」


全員が俺を見た。


「中原さん、マコトの部屋、もう一回入りたいんです。いけますか?」


「もちろんです。すぐに手配します」


中原さんは携帯電話を取り出した。


「それと、やっぱり仙台に行くべきなんだと思います。日曜の夕方には木島さんが向こうに戻るので、できればその前に何かわかれば」


「エミの高校?」


「高校もだけど、マコトが母親と住んでいる家だな。こっちは絶対に行って、母親に話さないとダメだ」


ユウナが言った。その通りだと俺も思ってた。ヒロコは、


「そういうことなら、エミ先輩の実家も行った方がいいと思うの」


と言った。


「行く必要ねえだろ!」


ナナがヒロコをどやすと、尾見くんがヒロコに助け船を出した。


「いや、僕もそう思います」


「あ?」


「そんな怒んないでくださいよ。家を実際に見たら、どんな生活をしていたとか、古い家だとか、色々わかるじゃないですか。木島家と奥村家はどれくらい離れているとか」


ナナは黙った。それが了承のサインだった。


「でも、家わかんのか?」


「高校に聞くしかないですね」


「教えてくれるとは限らないな。でもそこしかないか」


尾見くんは俺を見た。


「一樹、俺仙台に行こうか?エミ先輩もマコトもどっちもよく知らないけど、一樹のためだからな」


するとユウナも同じことを言った。


「ああ、あたしも仙台に行こうと思ってた。バイトあるけどいいわ。そっち優先」


「尾見くんもユウナ先輩もありがとう」


「うちはムリ。マコトに会いたくないもん。一樹、ごめんね」


そう言ったのはナナだ。


「ナナ先輩、僕に謝らないでくださいよ。僕なんて寝てるだけですし」


「マコトの家もちょっと無理かも」


「マコトの家は私が行きます!」


ヒそう言ったのはヒロコだ。


「私、夜ならいつでも大丈夫です。何度も入ったことあるし」


全員がヒロコを見た。


「マコトの家で、何かを見つければいいんですよね?」


「おまえ一人で大丈夫か?いや、その能力的な意味じゃなくてよ。ヤバい奴がいたら襲われるかもしれねえぞ」


「マコトさんの家には、管理会社の人間と警察官が一名ご一緒いたします」


中原さんが言った。


「ありがとうございます。ヒロコ、それで大丈夫か?」


ヒロコは、うん、と頷いた。


「中原さん、土日は動けますか?」


「大丈夫です」


「仙台に一緒に行ってもらえますか?高校に聞くときに、やっぱり中原さんじゃないと厳しいと思うんで」


尾見くんとユウナも同意した。


「かしこまりました。それ以外からも聞いてみましょう。事務所の者も一名連れて参ります。お二人とも、私どもの車でよろしいですか?」


「お願いします。お金は払います」


「尾見くん、待って。今回の費用はもうあるんだ」


俺はシーツの下から百万円の束を五つ出した。おまえ!一樹!そんなにいらねえだろ!みんなが口々に声を上げた。


「もちろんこれ全部は使わないと思う。でも何があるかわかんないし、興信所とかも使うかもしれない。これを中原さんに渡すんで。お願いします」


有無を言わさずに中原さんに札束を押し付けた。中原さんはそれを受け取り一旦、部屋を出ていった。






「一樹、おまえなんなんだよ。金持ちどころじゃねえだろ。あんな金初めて見たぞ」


「僕も初めてですよ、あんなお金。昼間、襲撃犯を掴まえるのに使ったんです」


「あ!それどうなったの?」


「うん。全員逮捕だって」


ヒロコの顔が一瞬曇った。


「じゃあ、おまえやべえんじゃねえの?襲われるかもしんねえぞ」


「ここには警察もいるし、民間の警備会社の人も常駐してるんで。それより、尾見くんとユウナ先輩、どうします?明日の朝一で出ますか?」


尾見くんとユウナは顔を見合わせた。するとユウナは、あろうことか尾見くんに対して、「おまえ、猿みてえだな」と言った。


「なんてこと言うんですか!この前から思ってたけど、あんたちょっとおかしいですよ。常識ないんじゃないですか?」


「あ?」


「ちょっとユウナ先輩!」


「一樹、こいつ生意気なんじゃねえの?」


「今のは誰が聞いてもユウナ先輩が悪いですよ!向こうで高校の人とかに失礼なこと言わないでくださいよ」


俺はヒロコとナナを見た。二人とも呆れた顔をしていた。


「おまえら、なんなんだよその顔は!」


ユウナがヒロコとナナに突っかかっていくと、ヒロコは少し笑った。ナナは、


「やっぱりうちも行こうか?一樹、うちも行くわ仙台。おまえらだけだったら不安だもん」


と言った。


「ナナ先輩、お願いしていいですか?」


「わかった。んで、どうすんのよ?」


ナナは二人に聞いた。


「僕は、このまますぐに向こうに行ってもいいです。明日の朝一から動けますし」


尾見くんが言うと、


「おまえな、あたしらは色々準備しないとダメなんだぞ。明日だ。明日の朝に駅集合」


とユウナが言った。


「そうだな。今から行っても別にやることなくね?」


「わかりました。じゃあ五時くらいに行きましょう」


「はええよ!バカか!」


ユウナが尾見くんの頭を叩いた。尾見くんはビックリして俺を見た。


「九時くらいで大丈夫だべ」


ナナが言うと、ユウナはナナの頭も叩いた。


「九時はおせえだろ!おまえら真剣にやれよ!観光旅行じゃねえんだぞ!今日は家に帰ってそれぞれちゃんと行くとこを考えて、場所とかの下調べもいるべ。んで明日の車の中でそれを擦り合わせるんだよ!なんの準備もしないで動けるか!」


尾見くんとナナは、ユウナの気迫にたじろいだ。俺はビックリして思わず拍手しそうになった。


ヒロコは複雑そうな顔で三人を見ている。ただ、最初のときのような険しさはなくなっていた。


「ヒロコ、今夜動けるか?」


俺はヒロコに声をかけた。


「うん。大丈夫」


「じゃあ、早速で悪いんだけど、これから向かってくれ。何もないと判断したら切り上げて」


「終わったらここに報告に来るわ」


「電話でいいよ」


「わかった。大事なことがわかったら夜中でも電話するね」


「頼む」


中原さんが戻ってきたので、仙台行きの打ち合わせをして、解散した。どうなるかわからなかったが、むしろ、なんでもっと早く動き出さなかったのかと、少し後悔した。今さら言っても始まらないだろうが。とにかく、俺にできることは祈ることくらいだ。


祖母は全く起きなかった。俺は田嶋さんと西さんによって病室に戻された。病室に着くと、いきなり左足の裏がつったような感覚になり、足を伸ばしてもらおうとナースコールに手を伸ばしたら、左足の膝下全体に痛みが広がった。すぐに医者が来て、手術の後遺症です、と言った。


俺は改めてヒロコやあの男たちのことを思い出した。何回考えても震えるほど怖い。そいつら全員を俺は許したが、それで良かったのだろうか。俺の足がもう動かなくなったら、賠償とかそういうのは抜きにしても、あいつらは何かをしてくれるのだろうか。いや、それを求めることは自分の考えを押し付けることになるかもしれない。しっかり賠償させ、それで終わりにした方が後腐れはなかったかもしれない。でも俺には、あの男たちの将来が、ろくなものに見えなかった。それなら、俺なりのやり方であいつらを救う方法を考えても罰は当たらない。俺は働かなくても大丈夫。でもあいつらは金がないと犯罪に走る。前を向いて働いていくためにも、金は必要なのではないのか。


たった一度の失敗で人生を終わらせられる。今の日本はまさにそういう社会だ。力のない奴とか学力のない奴にはとことん厳しい。学歴レースから一瞬でも外れれば、どんどん下に落ちていく。上の奴らからすれば、不良も引きこもりも同じことだ。一旦外れてから挽回するなんて、よほどの天才でもない限り絶対にできない。


近年、ユーチューバー、ブロガー、テンバイヤーと呼ばれる新しい職業の奴らが金を稼いだという話を聞くが、おそらく成功しているのは全体の中の数パーセントだ。五パーセントくらいか。いや、もっと少ないだろう。そういう、一発逆転ができる強運を、誰もが持っているわけではない。


そのわりに、公務員やマスコミの奴らが不祥事を犯しても、案外転属して知らない顔で勤務していることもよくある。大企業は、クリーンな新卒のみを守るし、高齢者は年金に守られているし、結局ごみ溜めにいる若者ほど我慢をしている。日本の社会は、道を外れた若者を生かす術を知らないのだ。若者を優遇できないのだから、少子化など止まるはずがないし、道を外れたのはすべて自己責任なのか?そういう責任を子ども自身に押し付けて終わりなのか?そういう試みを、誰もやらないなら俺がやってもいいはず。社会に迷惑はかけていない。


俺は自分の行為を正当化しているだけかもしれない。でも大きく間違ってはいないはず。斉藤たちが戻ってきたら、そういう話をしてみたいと思った。

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