Absence.


 次の日、俺は普段通り出勤した。



 朝シャワーを浴びたこともあり、酔いは引きずっていない。


 そのはずなのに仕事に集中できなくて。



 頭を過るのは昨日の別れ際の春美さん。



 ――まさか……いや、まさかな。


 

 そう、きっと気が緩んでいるだけだ。

 異動が決まったことで広報部の仕事に対する熱意が薄れてしまったのだろう。


 気合を入れなおしてPCと向かい合い、淡々と指を動かし続ける。



 ――大切なのは目標だ。引継ぎの事もある。ノルマを終わらせてそっちに時間を回そう。


 そう思う事でいつものペースを取り戻す事ができた。








 帰宅後――



 今日は何時にチャットをすると特に時間は決めていない。

 だからいつもの時間にスタンバイ。


 昨日の報告の続きをしなければならない。



 春美さんが試験に合格していると信じたい。

 だが、昨日の別れ際の様子を振り返るともしかしたらと思えてくる。



 いや、どちらに転んだとしても一緒に受け止める覚悟をすべきた。


 春美さんは試験に落ちたからと言ってそれで終わりではない。

 フランスで行われる展覧会への出展という目標は変わらずあるからだ。



 春美さんが受かっていれば昨日春美さんがそうしてくれたように、めいいっぱい喜んで、祝福して。もし、ダメだったしても励まして労って春美さんが望む成功まで支え続けてあげたい。


 

 

 そんな風に覚悟を固めて待機していた。










 だが――






 結局、春美さんがログインする事は無かった。


  


 その次の日も。


 またその次の日も。



 そうやって春美さんのいない日常が過ぎていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る