Unrivaled rival. 2
まさか優に春美さんと二人きりでいたところを見られていたとは……
こいつ初めから全部知ったうえで知らないふりをしていたのか⁉
俺の反応を見て心の中で楽しんでいたのか⁉
……いや、落ち着けまだ誤魔化せるかもしれない。
「さあ、何の事かわからないな。人違いじゃないのか?」
あの時はそれなりに混んでいた。優はかまをかけているだけかもしれない。
……とにかく感情を顔に出すな。やつをうまく出し抜くんだ!
すると優は探るような眼でじっとりと俺の顔を見ていたかと思うとすっと緊張を解くように、
「そうだよな……。きっと俺の見間違いだよな」
「そうそう。俺が女……子と二人きりで遊ぶわけないだろう?」
……あっぶねえ。つい、女子大生って言いそうになった。
ふう、とにかくこれで難を逃れたわけで――――ッ⁉
「あの、優君……その怖い笑顔は……何?」
目が笑っている。その瞳はどこまでも淀んだ漆黒で。
「いま、“ホっ”としたよね、勉君」
「さ、さあ……気のせいじゃないか?」
「ふーん……じゃあ、どうして俺から目を逸らすのかなぁ?」
……ギクリ。
嫌な汗が額をなでる。
……落ち着け、まだなんとかなる。
まずは直視。やつを堂々と見据えてやればいい。
それから、“まだ仕事が残ってるからじゃあな”って平常心全開で言い放ってやればいい。
……よし、準備オーケー。
俺はまず呆れたように溜息。
それからゆっくりと顔を戻しながら、
「そういえば俺まだ、仕事が残っ……て! そ、それは……⁉」
優が印籠の如く高らかにかざすスマホ。
その画面には俺と春美さんの姿がそれはもうくっきり。
肩が触れ合う程に近く、春美さんは俺の袖をつかみ、“他人”と言い逃れるのは到底無理な状況。
……しかも顔までバッチリ写ってやがる。
「いやあ、しかしコイツ、ホント勉によく似てるよなぁ。ところで勉君はこの時どこで何をしていたのかなぁ?」
「そ……それはだな……」
「いや、よく覚えていないなら無理に思い出す必要はないぞ。俺もそこまで鬼じゃない」
「優……おまえ……」
「お前が覚えてないなら、他の社員に聞いて回るだけさ。この写真を見せながらね」
「お前、やっぱり鬼だろ!」
「まあまあまあ、もしお前が素直に話すならこの事はここだけの秘密にしてやってもいいぞ?」
……ああ、くそ。やはり最初からすべて見透かされていたわけか。
駆け引きでは優に叶わない。
それを改めて思い知らされた俺は遂に観念して口を割った。
「それはFaciliを通して知り合った春美さんっていう名前のユーザーさんだ」
「ふーん。いや、しかしこの子めちゃくちゃ可愛いっていうか勉の好みどストライクだろ?」
「……そうかぁ?」
「このなんつーか清楚な感じとか、大学時代に勉が惚れてた――」
「そこは掘り下げんでいい!」
「はは、しかし若いな。まだ学生じゃないのか?」
「ああ、女子大生だ」
「女子大生ってお前……」
「いや、言いたいことは分かる。だが俺と春美さんはお前が思っているような関係じゃないんだ」
「ふーん。どうやら嘘は言ってないみたいだが……これはまずいだろ、他の社員にでも見られてたらお前……」
「ああ……やっぱりそう思うよな。だからこれからは気をつけようと思う」
「まあ、異性でもただの友人同士なら別にいい気もするけどな。しかし、ファシリの仲介があったとはいえ勉が女性と交流を持つなんて珍しいな」
「いや、大学時代にさんざん俺のフラグを潰してきたお前にだけは言われたくないがな」
「まあまあまあ、そこは言いっこなしで頼むよ。で、何でそんなに親密になったんだよ?」
……男性恐怖症の事はプライバシーに関わるし言わない方がいいよな。
「彼女は内のお得意様でな。まあ、Faciliを使用している時点でお得意様なんだが、CGツールとかも気に入ってくれてて、使用感とかをちょくちょく聞いてたんだよ」
……まあ、実際にチャットで聞いた事もあるから嘘じゃないしな。
「なるほど、つまりモニターってわけか」
「ああ、後は俺が開発部目指してるのを応援してくれてな。それで仲良くなったと言うわけだ」
「ふーん。勉がその話を他人にするとは驚きだな」
「俺自身も驚いてるが……まあ、成り行きというやつだ」
優はどす黒い瞳で覗き込むのは止めた、まだ何かを疑っているらしく品定めするような目つきで俺を見てくる。
「まだ何かあるのか?」
「いや、俺もそろそろ昼休憩が終わるからな。だから、これが最後の質問だ」
「本当にその春美さんとは恋愛関係じゃないんだな?」
「いや、だから違っ――」
「反射的に答えずに良く考えてから答えてくれ」
「――ッ⁉ ああ……わかったよ」
一旦優から目を逸らして落ち着いて考える。
春美さんは確かに綺麗だ。俺が学生だったら惚れていたかもしれない。
初詣の時に春美さんのかわいい仕草に心を奪われそうになったのも事実。
だが、あれを恋愛感情と呼べるだろうか。
学生時代、自分に優しくしてくれたある女子生徒を勘違いして好きになってしまった痛い経験がなければ、春美さんへの感情を好意と捉えていたかもしれない。
一方で、これまで他者に抱いた事のない特別な感情もあるとは思う。
だけどそれは、これまで誰にも話せなかった悩みを聞いてくれたからであって、それは仮に打ち明けた相手が男性だったとしても成立したはずだ。
だから――
「春美さんは俺にとって大事な存在だけど、これはやっぱり……恋愛感情じゃないと思う」
優は俺の答えを聞くと一つ小さな溜息をついてから、
「……そうか。急に試すような事をして悪かった。確かめるまでもなく勉は昔から誠実なやつだからな」
「急にクサイ事を言うのは止めろ。体中が痒くなるだろうが」
「はは、わりいわりい。まあ、とにかく気をつけろよ。勉はそのつもりじゃなくても周りのやつらはそう思ってくれるか分からないからな」
「ああ、気をつける。忠告ありがとな」
「いいって。じゃあ、面接、悔いのないように頑張れよ!」
優は最後にそう言い残し部屋を出ていった。
来る1月22日の面接――
支えてくれたのは春美さんだけじゃない。
部長に優、それにファシリだってそうだ。
――俺の全身全霊をかけて必ず成功させてみせる!
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