Don't expect souveniors.


 俺と春美さん二人っきりの初詣は東京駅で終わりを迎えた。



 俺は外回り、春美さんは内回りの環状線にそれぞれ乗り換えなければならないからだ。



 俺は春美さんの電車が来るまで一緒に待って見送った。


 別れ際に彼女はにこやかに笑っていたが、俺を安心させるための強がりだったんじゃないかと思えてならない。


 本当は家まで送ってあげたくて、実際にその事を提案しようとも思ったが、それはやはり出しゃばり過ぎだと自分に言い聞かせて踏みとどまった。


 内回りという事は、春美さんの住まいは神田、上野、池袋……もしかしたら秋葉原で中央・総武線に乗り換えるのかもしれない。


 外回りの電車に揺られながらそんな事を考える。


 人波に押しつぶされていないだろうか。

 夜道の暗がりで怯えていないだろうか。

 ちゃんと家まで無事帰れるだろうか。

 

 行きは一人で来れたので恐らく問題なく帰れるであろうことは理性的には分かっている。



 だが、今、春美さんが何を見てどう感じているのかが気になってしょうがなくて。



 今となっては知人に目撃されるのを恐れていた自分を馬鹿馬鹿しく愚かだったと思えてしまう。



 ……こんな事なら電話番号を交換しておけば――いや、それはダメだ。


 きっとこれ以上仲良くなったら、俺は自分を抑えられなくなってしまうかもしれない。




 だから、今は楽しみに待とう。


 次に彼女とチャットで話すその時を――






 同日、21時。自宅にてファシリに初詣の成果を報告する。






「それで春美さんをちゃんとエスコートできたのですか?」





 メインは面接の必勝祈願であったはずなのに、ファシリの質問はなぜか春美さんについての事ばかりで。


 以前までの俺だったら、適当に茶化して有耶無耶にするのがオチだった。


 なのに今日はむしろ聞いてもらえるのが嬉しくてしょうがない。



「そうだな……俺にしては頑張った方だと思うが、その……今度春美さんにそれとなく聞いておいてもらえないか?」


「ええ、もちろん構いませんよ」


「念のために言っておくがそれとなくだぞ、それとなく……」


「もちろんわかっていますよ。勉さんが春美さんの事を意識しているとバッチリ伝えておきますね!」


「いや! だから違……ってか、おまえわざとやってるだろ……」


「ふふふ、バレました?」


「まったく、お前に相談するんじゃなかったよ」


「冗談です! 冗談ですから! ちゃんとやりますから私も混ぜてください! 除け者は嫌ですよ?」


 

 ファシリはやたら俺と春美さんをくっつけようとしてくるが、その理由が今なら何となくわかる。





 春美さんの“男性恐怖症”――



 おそらくこれが全ての要因だ。



 春美さんの男性恐怖症の発症原因まではわからないが、恐らく俺とチャットを始めた時には既に発症していたはず。

 そしてその重症度は今日の春美さんの様子を見る限りかなり重い。



 しかし、なぜか俺は大丈夫だった。



 文字チャットやライブチャットを通じてそれに気づいたファシリが、男性恐怖症の克服に役立つと考えて俺と春美さんの距離を縮めようとしたのだろう。


 そう考えると、これまでの春美さんの言動にも説明がつく。



 セクシーサンタの件はまあ……あれだけど……。



 


 しかし、ここまでの推測はあくまで俺の想像に過ぎない。

 それでも春美さんのために何か俺にしてやれることがあるなら喜んで協力したい。


 こんな俺を応援してくれた彼女に対するせめてもの恩返しをしたいんだ。


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