Reveal to Haruharu. 3



 ――より人間に近い、真の人工知能と呼べるようなAIをこの手で作り出したい。 



 俺はその一心で学生時代を過ごし、激しい競争の中で勝ち抜いてALIVEに入社した。

 だが配属された先は開発部ではなく広報部で――。


 それでも夢を諦めきれなかった俺は広報部で奮闘した。

 生来苦手だった人前で話すという所作は、役者になりきる気持ちで何度も練習して克服した。

 とにかく目立たなければ、自分が有能だとアピールしなければと必死だった。


 しかし逆にそれが仇となり、転属願いを出そうとすると部長になし崩し的に断られてしまう始末。


 『君に抜けられたら困る』と。



 それでも俺は夢を諦めきれず、虎視眈々とチャンスを逃さないよう目を光らせ続けた。



 例えば社内公募In-house recruitment



 これは正社員であれば部署を問わず誰でも意見可能なシステムで、斬新なアイデアを集めやすく、意見が採用されれば希望の部署への異動が決まった例も多かった。



 これまでに数えきれない程のアイデアを投稿したが、最大のチャンスだったのは恐らく三年前――





 今でこそ想像もつかないが、そのころはまだコミュニケーションAI開発部の業績は振るわず、企業も頭を抱えていた。


 そこで起死回生の矢を放つために、他に類を見ないコミュニケーションアプリの開発に対する意見が広く求められた。


 公募は一人一件までという制約はなく、俺はずっと温めておいたとっときのアイデアを三つも応募した。

 

 これが最後のチャンスかもしれないと自分を追い込んで寝る間も惜しんでPCと向かい合ったものだ。



 しかし、結果は惨敗――。


 結局俺を含め、公募で採用された意見はなく、人事の再編を経て新たなアルゴリズムを持つAIが生み出される事となる。




 ――それがFaciliだ。



 

 その後Faciliは端末スペックによる制約をものともしない勢いで大ヒットし、ALIVEのコミュニケーションAI部門は大躍進を遂げた。


 そんな中、優は功績を称えられ副チーフの座に。


 

 その事もあって、俺はてっきり優が実質的な指揮を執ったのではないかと確信していたが、この前の様子だとどうやら違うらしい。



 まあ、とにかく今思い返してもあれが最大で最後のチャンスだったと思う。

 


 だからこそ、その時の絶望感を思い出したくないからこそ、俺はFaciliと向き合うことができなかった。



 それからはただ惰性で生きるだけの人生。

 

 

 30代で夢を諦めてしまうなんて時期尚早だと人は言うかもしれない。

 だが、時が過ぎるにつれ俺と優の差はただ開いていくのが現実だ。


 きっと俺には見えないAIの展望が優には見えている。


 海外企業とのシェア争いに生き残るための差別化、国内企業間での技術協力やさらなる革新的技術の息吹。他分野間でのクロス・ユーティライゼイション……etc。

 

 


 ……いや、そもそも最初からチャンスなんてなくて俺の運命は決まっていたのかもしれない。



 開発部に入れなかった時から?

 何をやっても優に叶わなかった大学時代から?

 あるいは……。



 チャンスが来たと一人で勝手に盛り上がって、一人で勝手に落ち込んで……。

 それを繰り返すのもばかばかしくなって、いつからか自分に期待するのは止めてしまった。


 


 もう自分には関係ない世界の話だと言い聞かせて、考えないようにして、押し殺したはずなのに、なぜこんなにも苦しいのか。



 ……俺はその答えを求めているのかもしれない。 

 

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