第18話
(18)
その場所とは、新宿区の新宿駅からさほど離れていない場所。L工場の裏通りとのことだった。
敏夫、孝彦、美鈴は正門前に集まった。約束の時間まではまだある。あとは陸子を待つばかりだった。敏夫も孝彦も、いつものようにラフな格好なのに、美鈴は今日は青い小花模様の夏物のワンピースを着て、しかも不似合いなほどの大きなバッグを持っていた。まるで旅行へでも行くかのようだ。あとは陸子の登場を待つばかりだった。
昨日梅雨明けしたばかりで、世界は驚くほど明るくなっていた。日も長くはなっていたが、さすがに四人の待ち合わせの頃には空は暗くなっていた。だが、がやがやとした喧噪。帰宅の途に就く学生たちが次々と通り過ぎていくのを、三人は見送りながら、陸子が来るのを待っていた。陸子は今日もバイトを入れていたので、それが終わるのを待っていた。それでも、美鈴の話によれば、陸子は店長と交渉し、時間を早く上がれるようにしたとのことだった。
「ごめん、遅れちゃったかな」
背後から声をかけられた。三人は陸子が正門前の通りからくると思い込んでいたのだが、実はキャンパス内を通ってきたのだった。いったん家に帰ったのかもしれない。陸子の下宿は近かった。白いブラウスに夏物のジャンパースカートで、かなり伸びてきたパーマをかけた髪を垂らしていた。いつもより明るく見えた。それが、口紅をつけていることによるのだと、しばらくたってようやく気付いた。小さいショルダーバッグを一つ持っていた。
「陸ちゃん、今日かわいー。もう喘息は大丈夫?」
「うん、ありがとう。梅雨ころって、発作起きやすいんだ。でも、もう大丈夫。薬も診療所でもらえば、けっこう効くから」
「あ、紹介するね。この人は高森孝彦くん。フラ語とってるんだって」
「こんにちは…こんばんは、かな。ぼく、たか・たかです」
陸子は孝彦を見ると、かなり露骨にどぎまぎした。
「…こんばんは。斎藤陸子です。今日はよろしくお願いします」
小さい声で言った。
「じゃあ、行こうか」
敏夫は声をかけ、それから気がついて聞いた。
「どこかでご飯食べてく?」
「じゃあ、モスにしようか。陸ちゃんがアルバイトしてるとこ」
「え、それはいや、恥ずかしい」
「じゃあ、マック?」
「マックもやだな。大体、混むよ」
「高森くん、マック嫌い? あ、じゃあ駅前のお肉屋さんのコロッケ買おうか? あそこのコロッケって、すごくおいしいんだよ」
美鈴が思いついたように手をたたいていった。少しはしゃいでいるようだった。
「へえ、食べてみたいな。でもコロッケだけ?」
「あとはコンビニに寄ろう」
そうして四人は、通りを駅の方に歩き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます