第16話

 深夜のパン工場のバイトのあと、孝彦と敏夫は、コンビニで買い物をして、駅近くの公園でアイスを食べていた。もう日の出はかなり早くなっているので、周囲は明るかった。しかし、人気はさすがにない。

 「ここらも心霊スポットだったりして」

敏夫はふざけていった。

 「やめろよ。マジで怒るよ」 

 「あのさ、ちょっと聞きづらかったんだけど、母子家庭って、両親、離婚したの?」

 「なに、急に。そうだよ。おやじの顔も覚えてないよ」

 「そうなんだ。ごめん」

 「いや、ぼくには普通のことだから。敏夫は実家からだよね。親、うるさくない?」

 「ああ、ちょっとうるさいね」

 敏夫はあいまいにこたえた。

 孝彦のことを聞き出しておいて、自分のことを話さないのは悪い気もしたが、言う気になれなかった。気を使われるのが面倒な気がしたのだ。敏夫はまた首を振った。

 

 「にしても、相田さんて、別に変じゃないじゃない」

 突然孝彦が言った。

 「え?」

 「前言ってた、地味で変な子って、あの子でしょ?」

 「ああ! あのことか。いや違うよ。別に相田さんは地味じゃないし」

 「そうだね。地味でもないし、派手でもない。ちょうどいいね」

 「なるほど」

 確かに、美鈴は長めの髪をポニーテールにしていて、服装も派手ではないが、よく似合うものを着ていた。この大学の女子にしては、かなり洗練された感じだった。陸子のほうは、パーマをかけて、ぐっと明るい雰囲気にはなっていたが、身なりはあまりぱっとしない。ただ、スカートがよく似合っていた。そんなことを考えていて、敏夫はこの間、美鈴に無神経なことを言ったのに、またこんなことを考えている自分に嫌気がさしてきた。そこで、振り払うように付け加えた。

 「相田さんて、明るそうに見えるけど、けっこうよく人を見て気配りしてるよね」

 「ぼくもそう思う。親のしつけがよかったんだろね」

 孝彦が大人びたことをいい、

 「正直、ああいう子を見てるとホッとするよ。気分が明るくなる」

 「そうだね。あ、実際いつにする? 例のところに行くのって」

 「やっぱり、ほんとに行くの?」

 孝彦はあきらめたようだった。

 「ぼくの試験はけっこうギリギリだけど、楽勝科目だから、その前でも大丈夫だよ」

 「そうか。あのさ、もう一人、相田さんの友だちの女の子も来るから」

 「ふうん、じゃあ、四人だね。そのほうが怖くないか」

 「マジ? マジなんだ」

 「そりゃそうだよ。ぼくは霊感強いって言っただろ」

 「幽霊なんかいるかよ」

 「じゃあ、賭けようか」

 孝彦は本気で言っているようだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る