第12話
これまで何とも思っていなかったくせに、美鈴と友だちになって、敏夫の意識は変わった。やはり、意識せざるをえないのだった。
美鈴とは、孝彦を交えて三人で昼食をとるのが定例になっていた。美鈴は、いつも朗らかに話題を提供し、どちらかというと孝彦のほうと話が盛りあがっているときさえあった。もっとも、それは敏夫があまりしゃべらないからではあったのだが。
美鈴を観察していると、天真爛漫のように見えて、実はかなり意識的に心配りしているらしいのが、だんだんとわかってきた。孝彦のほうとより話しているのは、そのためもあるのかもしれなかった。敏夫は女子というと、悪口や文句ばかりいうような印象をもっていたが、美鈴を見ていて、それが偏見だったことに気づいた。男も女もいろいろな人間がいる。大学入学後、周りをみながら、だんだん思い始めていたことだったが、とくに美鈴には感心していた。それは、特別な感情というわけではないものの、実際に友人として、美鈴を得てよかったと思い始めていた。
「ねえ、音楽って何聴くの」
美鈴はいつも話題を用意していた。事前に考えてきているかのようだ。
孝彦がこたえた。
「洋楽が多い。ぼくはビートルズとか、やっぱり好きだな」
「へえ、そうなんだ。あのね、うちの親、ビートルズ好きだから、家にレコードたくさんあるよ。だからけっこう知ってる。ジョン・レノンのも好き。LOVEとか、すごくいいと思う」
「ぼくもジョン・レノンも聴くよ。ぼくはみんなレンタルしてテープにとってある」
「今のは聴かない? 私やっぱりマドンナかなー。かっこいい、あこがれちゃう。……宮本くんは?」
二人が自分のほうを見たので、敏夫はどぎまぎした。
「ぼくは…洋楽あんまり知らないんだ。日本のも…」
「そうなのね。今度私のもってるの、テープに録音してあげる。聴いて気に入らないならいいけど、食わず嫌いはもったいないよ」
そういわれればそういう気がした。
「うん、ありがとう、じゃあ、相田さんが好きなものでいいよ。聴いてみる」
「わあ、やりがいある。気に入ってくれるといいけど、でも音楽って人によって好き嫌いはっきりあるから、気は使わないでね」
美鈴がうきうきしているのをみると、敏夫もうれしくなった。実際、家で音楽を聴くというのも、気晴らしにいいかもしれないと思った。そういうことは、自分では思いつかなかった。
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