第6話

 いつもの語学授業の前に、クラス委員が黒板の前に立って、全体に呼びかけた。

 「えー、皆さん、遅くなりましたが、今度クラスコンパをやることになりました。紙を回しますので、出欠を書いていってください。場所は、『いなみや』…。」

 言いながら、クラス委員は黒板に場所と日時と費用を書いた。費用は案外安い。孝彦のクラスもおそらく同じくらいだろう。そう思うと、敏夫は胸が痛んだ。

 やがて教授が来て、黒板を見てにっこりし、「なるべくみんな参加してね」といってから、「もういいかな」といって黒板の字を消した。

 授業中なのに、出欠用紙が左前の席から回されていった。左前は女子の指定席のようになっていた。そして、斎藤陸子は今日も女子の隣に座っていた。

 出欠用紙が自分に回ってきたとき、敏夫は真っ先に陸子の欄を見た。丸印がついていた。敏夫も、丸印をつけて、後ろに回した。

 

 大学近くの通りには、マクドナルドとモスバーガーが、ほぼ並んで店舗を構えていた。敏夫は今日は家庭教師のアルバイトだった。小腹がすいたので、何か簡単に食べておきたかった。敏夫は手前にあるマクドナルドに入った。家庭教師の予習をした後、敏夫は店を出た。駅までの短い道すがら、ちらりとモスバーガーの店内に目をやった。彼女はいなかった。休みなのか、まだもっと遅い時間なのか。急に後ろめたい嫌な気分が湧いてきたので、敏夫は一人首を横に振った。

 首を横に振るのは、敏夫の癖である。下らない考えが浮かぶと、そうしてすっかり頭から振り払う。もう無意識になっていて、授業中などついやってしまうときなど、周りから奇異に思われているに違いなかった。

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