第4話
孝彦とはその後友達になった。「人類学」の授業ばかりでなく、お昼も外のベンチで、一緒に食べる仲になった。敏夫からすると、驚きだったが、孝彦はいつも弁当を手作りしていた。敏夫は近くのコンビニで適当に買って食べる。敏夫から見ると、孝彦は真面目に生きていると思った。深夜のバイトもしながら、弁当まで手作りし、食費を切り詰める。敏夫にはまねできないことだった。
だから、孝彦といると、叱咤激励されるようで、敏夫は心地よさを感じていた。
しかも孝彦は、ゆっくりながら、話すことが好きで、敏夫の恐れるような沈黙はない。聞き役の多い敏夫は、そのことにも安堵していた。
これもありがちなことだが、将来の志望ももちろん話題となった。敏夫は、高校生の頃はただ親のようにふつうに就職できればいい、というくらいにしか考えていなかった。だが、孝彦はそこも違った。
「新聞記者になりたい」
この学部ではありふれた夢ではあった。けれど、孝彦が言うと意外な気がした。
「へえ、新聞社は決めてるの?」
「うーん、そこまでは…。でもどこでもいい。海外の取材がしたいんだ」
「そうなんだ!」
弁当の箸をとめて、思わず敏夫は孝彦の顔をまっすぐ見てしまった。新聞記者は激務と聞いているが、孝彦ならやれる気がした。
「いいな。俺なんか、まだなにも考えてない」
「敏夫は、芸能人になればいい!」
「なんだそれ、絶対無理なの分かっていってるだろ」
あはは、と孝彦は笑った。いつもまぶしい笑い方をする。敏夫はふだんあまり笑わない。笑う必要がないからだ。けれど、孝彦といると、自然に笑っていることがある。
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