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 小唄の意識はこの時点ですでに半分くらいは周囲の闇の中に溶け込んでいた。だから小唄は思考を続けながらも、自分という自意識が曖昧な状態へと変化していく現象を自分自身で観測することに成功していた。本来それはとても怖い体験のはずだった。でもなぜか小唄はそれほど怖いとは感じなかった。それはよく経験したことのあるとても日常的な体験にその体験がよく似ていたからだ。それはもちろん、毎日、眠りにつく前と、そして眠りから寝覚めたあとに感じる昨日の自分と今日の自分が少し違った別人の自分であるように感じる、あの『曖昧模糊とした状態』のことだ。

 覚醒と睡眠の間の状態。

 目覚めている人と、眠っている人の間の状態。

 その時間軸が、過去と未来のどちらの方向に進んでいるのか、ただそれだけが今までの小唄の一時的な眠りと現在の永遠の眠りとの差に過ぎなかった。そんなのほんのちょっとの差でしかないのだ。……なるほどな。……なるほど、なるほど。

 小唄は自分の考察に満足した。そしてその満足と引き換えに自分自身を世界の中に手放した。


小唄はそのまま意識を喪失するはずだった。

 ……でも、そんな小唄に手を差し伸べる人物がいた。


「起きて」

 と小唄の頭の中で、そんな小さな声がした。

 その声を聞いて、誰の声だろう? とそんなことを疑問に思った小唄はそっと、その目を開けて、世界をもう一度、再確認した。

 すると、闇の中で、遠くに光る一つの綺麗な光が見えた。

 それは、とても、とても『綺麗な光』だった。


 人は誰でも、小さな船に乗っている。

 その船が転覆しないように、一生懸命、毎日船を漕いでいる。

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