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 体の感覚はとうの昔にその殆どが使い物にならなくなっていた。だから、痛いとか、寒いとかは、もうあまり感じなくなっていた。それになんだか不思議と満足感もあった。実際に小唄は自分でも、『こんなに遠くまで、よく頑張ったね』、と自分で自分を褒めてあげたいくらいには長い距離を歩いていたはずだった。それほどの努力をした経験は今までの小唄にはなかったことだった。だから、こんな状態で言うのもなんだけど、とても『心がすっきり』としていた。小唄の視界の中には真っ白な色がちらついていた。少しだけ首をひねって横を見ると、そこにはそれなりに厚さのある雪が積もった真っ白な大地が広がっていた。全部が全部、真っ白だった。こんなに大量の雪を見るのは小唄は生まれて初めてだった。……僕の体も、もう直ぐこの雪の下に埋もれてしまうのだろうな。……まあ、それもいいかな? と小唄は思ったりした。

 それから小唄は、……眠ったあと、僕はどうなるのだろう? とそんなことを考えた。

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