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 ぶおーー!! と大きな咆哮のような怪獣の鳴き声が聞こえた。突如として列車の稼働音が大きくなり、その大きな音が小唄と睡蓮さんの間にある小さな声を遮ろうとしていた。

「『約束』してください! さそりの星を見つけるまで、眠らないと私に約束してください!!」睡蓮さんは珍しくとても大きな声でそう言った。睡蓮さんは必死な表情をしていた。その声は、列車の音に負けないくらいに大きかった。

「はい!! わかりました! 『約束』します! 僕はさそりの星を探します! さそりの星を見つけるまで、僕は眠りません!!」と小唄はなるべく大きな声で睡蓮さんにそう叫んで、約束をした。すると小唄の声はちゃんと睡蓮さんにまで届いたようで、睡蓮さんは安心したように、にっこりと笑ってくれた。

 ぷしゅー、という音がして、客車のドアが閉じられた。そのせいで小唄と睡蓮さんの間には壁ができてしまった。そして次の瞬間、ついに列車はゆっくりと動き始めてしまった。睡蓮さんは客車のドアの窓ガラス越しに、やっぱり心配そうな顔をして小唄のことをじっと見ていた。加速度に乗って列車が勢いよく走り出すと、あっという間にそんな睡蓮さんの顔は見えなくなってしまった。そしてあの大きな怪獣みたいな列車自体も、それからすぐに見えなくなった。世界はまた無音になった。気がつくと、小唄は真っ暗闇の中で一人になっていた。

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