35
「久しぶりに、すごく眠いんです。どこかゆっくりとできる場所さえあれば、僕はすぐにでも眠れると思います。眠るのは本当に久しぶりのことなんです。だからそれが、今からとても楽しみなんです」と小唄は言った。小唄の言葉を聞いて睡蓮さんはようやく少し笑ってくれた。
小唄と睡蓮さんの手が、ゆっくりと離れていった。それは小唄から睡蓮さんの手を離したのか、睡蓮さんから小唄の手を離したのか、そのどちらかわからないくらい、とても自然な手の離れかただった。
ぶおーー!! と獣の咆哮のような音がした。機関車の煙突から大量の煙が吐き出された。列車が出発しようとしているのだ。小唄は自分の立っている場所から二、三歩後ろに移動した。
「『さそりの星』って知ってる?」と睡蓮さんが言った。
「……さそりの星?」小唄はその言葉を知らなかった。だけど、なぜかその言葉は自分でもびっくりするくらいに、小唄の心の奥深くに突き刺さった。それはとても不思議な感覚だった。まるでずっと昔に忘れてしまった夢の記憶を、なにかのきっかけで思い出そうとしているかのような感覚だった。
「さそりの星を探しなさい。この暗闇の中には、どこかにその光る星があるはずです。それを探すのです」と睡蓮さんは言った。
……星を、探す? 小唄には睡蓮さんの言っていることが、なにを意味しているのか、よくわからなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます