34 孤独な旅
孤独な旅
さようならは言わないよ。泣いちゃうかもしれないからね。
小唄は睡蓮さんに先導されるようにして、客車のドアのところまで移動した。外は相変わらす真っ暗だった。びゅー、という音がしてとても冷たい風が小唄たちのそばを通り抜けた。小唄はその風の冷たさに思わずその体をぶるっと一度、震わせた。……いつの間にか小唄の世界から春は無くなっていた。……どうやらここは『春よりも冬に近い場所』のようだった。
「寒い?」と睡蓮さんが言った。「大丈夫です」と小唄は睡蓮さんに返事をした。「本当はなにか、マフラーかコートでも貸してあげられたらいいのだけど、私はそれらを持っていないの。……本当にごめんなさい」と睡蓮さんは言った。「いいえ。大丈夫です。寒いのは慣れていますから」と小唄は言った。
小唄は真っ暗な地面の上に慎重に一歩ずつ足を下ろして客車から降りると、それから後ろを振り返った。……そこには睡蓮さんがいた。そして小唄たちの手はまだ繋がったままだった。「あなたは本当に行ってしまうのね」と睡蓮さんが言った。「はい」と小唄は返事をした。「これからどうするつもりなの?」と睡蓮さんが言った。「わかりません。……でも、とりあえず行けるところまで、歩いてみようかと思います」と小唄は言った。「歩く?」と睡蓮さんは言った。「はい。歩いて、どこかでゆっくりと眠れる場所を探そうかと思います」と小唄は言った。「眠れる場所?」と睡蓮さんは言った。それからまた「はい。眠れる場所です」と小唄が言い、「眠れる場所」と睡蓮さんが言った。小唄はそこまで会話をしたところで、心配そうな顔をしている睡蓮さんを安心させるために小さく笑って見せた。
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