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小唄はそっと目を閉じた。すると小唄の世界は真っ暗な闇に閉ざされた。それから小唄の心はその闇の中にあるとても深い穴の中に落ちていった。……とても暗く、……とても深い穴の中に、小唄はいつも通り、一人ぼっちで落ちていった。そこには『ただ痛みだけが存在していた』。『痛みだけがその世界を支配していた』。
「小唄くんの気持ちはとてもよく理解できます。私も同じです。私も他人の視線を受けると、人ではなく、一個の意思を持たない物になってしまう人間でした」闇の中に睡蓮さんの声が聞こえてきた。小唄はその声を聞いてゆっくりと両目を開いた。
ちかちか、と天井の明かりが点滅した。
「この場所には小唄くんと私だけがいます。……二人っきりです」と睡蓮さんは言った。
がたんごとん、と列車の走る音が聞こえてきた。
小唄はなぜかとても強い眠気に襲われるようになっていた。よく考えてみれば、小唄はもう随分と長い間、眠っていなかった(前に眠った時のことを、うまく思い出せなくらいだった)。たまりにたまった眠気がここぞとばかりに小唄に戦いを挑んできているようだった。……眠い。このまま睡蓮さんの柔らかい胸の中で眠ってしまいたかった。そうできればどんなに幸せなことだろう。……そんなことを小唄は思った。
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