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「そろそろ駅に着きます」と睡蓮さんは言った。「駅?」「そう、駅です」駅、と小唄は頭の中で、その言葉を繰り返した。
「選択のときなのです。このまま私と一緒に列車に乗るか、次の駅で列車を降りるのか、それを小唄くんは選択しなければなりません。先ほど私が言ったようにね」そう言うと、睡蓮さんはぎゅっと自分の意思で引き寄せていた小唄の体を、今度は反対の意思の力を使って、自分の体からゆっくりと意識的に引き剥がしていった。ぺったりと張り付いていて一つになっていた小唄たちの体が、元通り二つに分かれていく。それは『自然な行為』なのだけど、小唄は睡蓮さんの体が自分から離れていくことを、少しだけ寂しいと思った。
睡蓮さんは席を立ち、再び小唄の目の前の座席まで移動して、元いた席に座り直した。そうすると小唄と睡蓮さんは再び向かい合うようになった。小唄たちはある一定の時間が巻きもどったかのように、初めて顔を合わしたときのような格好と表情で、お互いにその顔を見つめ合った。
少しの間、沈黙が続いた。
ちかちか、と天井の明かりが点滅した。
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