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 小唄が歩くたびに、……ぎい、ぎい、と客車の床が音を立てた。……がたんごとん、がたんごとん、という列車の走る音がやけにうるさく聞こえてきた。小唄はその女の人のすぐそばまで移動すると、そこで足を止めた。

「こんにちは」と小唄は言った。すると小唄の言葉に反応して、女の人がくるりとこちらを振り向いた。こちらを振り返った女の人の顔を見て……、小唄は、とても驚いた。その女の人があまりにも『美しくて綺麗な人』だったからだ。それは小唄が今まで出会ってきた女の人の中でも、そして今まで読んできた数々の物語の中に出てくる女の人たちの中でも、とびっきりに一番綺麗な姿をしていた。それにその女の人は綺麗な容姿だけではなくて、なにか不思議な、小唄の心を捕まえて離さないような得体の知れない魅力のようなものを備えていた。

 小唄はそんな女の人に出会うことは今は生まれてはじめてだった。……小唄は言葉を話せなくなってしまった。それだけではなくまるで金縛りにでもあったように体もぴくりとも動かせなくなった。

「こんにちは」と女の人が言った。その声は、とても美しい声だった。

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