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小唄と古代魚は出会ってからまだ本当に短い時間しか経っていなくて、なんの冒険もしていない。そんな短い間に友達になることができた相手と、僕たちが友達であるという認識をお互いに共有できたと思った矢先に、もうお別れなんて、小唄にはそれが耐えられなかった。……別れというものは、いつ、何度経験しても嫌なものなのだ。
「僕が行かないでって言ったら、君はここに留まってはくれないの?」と小唄は言った。すると古代魚は「それはできない。お互いのためにならないよ」と言って小唄に優しく微笑んだ。小唄たちが話しをしている間も、古代魚の体はふわふわと浮き続け、だんだん小唄は顔を上に向けなければ古代魚とお話しができなくなっていった。小唄は白いベンチから立ち上がり、古代魚の姿を見上げた。
どうやら古代魚は自分の意思とは関係なく、水の中から空中に移動した瞬間に、なにか大きな力によって、あの彗星に向かってその体を磁石のように引き寄せられているらしかった。きっとあの群れをなして空を泳いでる魚たちも、こうしてなにか見えない力に引き寄せられるようにして、あの彗星を見つけたに違いなかった。
「さあ、笑って。最後は笑ってさよならをしようよ!」と古代魚は言った。確かにそういう古代魚の顔は笑っていた。小唄は奥歯を食いしばりながら、口の口角をできるだけ意識してあげると、手を上げて、古代魚に笑顔で「さよなら」を言った。
「さよなら」と古代魚は言った。
そして次の瞬間、古代魚の姿は暗い闇の中に溶けるようにして消えていってしまった。小唄は空に浮かぶ白色の彗星に目を向けた。そしてその周囲を泳ぐ無数の魚たちの中から、小唄の知っている古代魚の姿を探し出そうとした。でも小唄はその試みに失敗した。小唄いの目にはどの魚の姿も違いがなくて、小唄の友達である古代魚がどの魚なのか、それを見分ける力を失っていた。
白いベンチの上に小唄は座った。それからベンチの上で、一人ぼっちで小唄は泣いた。
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