ソウゾウ

登玉夜兎

第1話

昔から何の目的もなく、ただダラダラと高校三年生まで生きてきた。運動も勉強も中の下。これといった趣味もない、友達の多くない僕は、体育祭や文化祭でも活躍できない。朝起きて学校へ行き、放課後になると、たまにどこかへ遊びに行く。毎日の同じ繰り返しだ。ただ一つ、こんなつまらない毎日の中で、唯一僕が活躍できる場所がある。そこでなら僕は、学年一位にもなれるし、運動もできる。剣士や魔法使いになって、みんなを助けて英雄にだってなれる。今日は勇者になって魔王を倒して、みんなにチヤホヤされている。ああ、なんて気持ちいんだ。僕がこの快感に浸っていると、どこから声が聞こえてきた。「.....なで、坂井奏!おい!」はっと周りを見渡すと、先生が隣にいた。「まったくお前はまた妄想でもしてたのか、その想像力をちょっとでも集中力に変えてくれたらなぁ」周りの生徒の笑い声が聞こえる。僕はまた無意識に想像してたのか。不貞腐れた顔で小さく、はい、すみませんとだけ返事をしたが、ぼーっとしてることが多いとのことで、放課後に指導をくらってしまった。

授業が終わると二人の男女が僕の元へ駆け寄ってきた。「奏、お前また妄想してたんだな」上野悠真がからかいながら言う。「しっかりしなさい、私たちもう受験生よ」大仙玲奈が呆れながら続けて言った。二人とも幼馴染で僕の数少ない友達の一人だ。「ごめん、癖でぼーっとして想像しちゃうんだ」「奏、その癖直さないとこれから大変だよ」授業ノートを取ってなかった僕に今日の授業のメモを玲奈はくれる。「玲奈は過保護だなぁ」指をさして笑いながら悠真が言っている。僕は、この二人と過ごすこの時間が大好きだ。とても温かい退屈しない時だ。

指導のせいで帰りが遅くなってしまった僕は、悠真と玲奈に先に帰ってもらっていたので、一人で帰ることになった。やけに今日の夕焼けが赤かった。まるで世界の週末みたいだ。僕はいつも帰り道に公園を通っているのだが、その公園の坂を上がったところに街全体を見渡せる丘がある。その丘に女の子がいるのが見えた。綺麗で長い黒髪に、透き通るような白い肌に大きな目の可愛い子だ。ぼーっとして街の方を見ている。僕が想像している時もあんな感じなんだろうか。少し見とれていると、女の子目が合った気がした。なぜか気になった僕はその丘まで行ってみることにした。しかし、丘には赤い燃えるような夕焼けに包まれた街が見えただけで、女の子の姿は見えなかった。

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ソウゾウ 登玉夜兎 @Todamayato

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