65【ようこそガチなデビルダムへ!】



「……行こう。この跳び箱の中に入れば……」


 魔界に繋がっている筈だ。

 いや、でも大丈夫かなコレ。なんかどんよりしてるし、中は息が出来るのか?

 そもそも、人間がここを通って無事で済むのか?


 ま、迷うな僕。ゼムロスさんの繋いでくれた路なんだ。……ゼムロスさん……


 僕は意を決して跳び箱に飛び込んだ。足元がどんよりした闇に触れた瞬間、沼にでも落ちたかのような鈍い感触がした。

 と、同時に僕の身体は一気に吸い込まれ辺り一面闇の世界が眼前に広がった。


 どの方角に行けばいいのだろうか。身体が浮いているみたいに軽い。とりあえず進んでみるか。何とか歩けるみたいだし、空気もある。


 …………


 ……


 どれくらい歩いたか。体感ではかれこれ一時間は歩いている気分だけれど……ん、アレは……?


「光?」


 淡い紫の光が視線の先に見える。あれが出口か?

 僕は出口らしき場所へ向かって走る。正直、この先に魔界があると考えると怖い。怖いけれど……僕は一思いに出口から飛び出した!



 眩しい……思ったより強い光が僕の視界を遮った。目を細め少しすると光に慣れてきたのか視界は回復を始める。ボンヤリとする中、僕の耳に聞き覚えのある声が聞こえきたのだけれど……


「漢路〜!」「ほ、本当に来たのれ」

『いやだから……噛みすぎにゃ』

『グェッへッヘェ、アイツの言ってた事は本当だったようだなぁ〜、お、ココちゅぁん、今日は水玉かぁグェッへ〜!』


 この声は……


「マリアにココ……それと……真黒まぐろと……エロガラス……?」

『クロウだよグェッへ〜』


 いや、知ってるけれどね。しかし、いきなり居なくなってどうしたのかと思えば、魔界に帰っていたのか。何故、皆んなの事を忘れていたのか分からないけれど、思い出せて良かった。


「漢路〜、よく来たな〜、漢路は漢だよ〜!」

「うわ、マリア抱きつくなっ!?」


 拒否反応がっ……あれ、起きない?

 マリアの程よいサイズの胸が僕に密着しているのに、全く反応しないぞ?


「……あれれ?」

『お前とリリィの契約は解呪されているからにゃ。それに、リリィがお前の所謂御先祖にかけた呪いまがいのモノも、別れ際に解除されたのにゃ』

「……そ、そうなのか……だから……とはいえ、マリアは一旦離れてくれる?」


 僕がマリアを両手で引き剥がすと「いやん」と艶やかな声を漏らす。


「もう、漢路は一途だな。ま、だからこそ漢路とリリィを応援したくなるんだけどな」

「そ、それァ間違いないわね。とにかく、ビビらずによく魔界まで来た」

「マリア、ココ……僕はリリィを取り戻したいんだ。無理を承知でお願いする。協力してほしい」


 僕は二人に頭を下げた。二人の足元しか見えないけれど、影で尻尾が揺れたのが分かる。ゆっくり、左右に、尻尾をフリフリしている。

 そんな事を考えていると、僕の頭を小さな手がポンと叩いた。ココのつま先はプルプルしている。

 この手はココの手、か。あたたかい。とても優しく頭を撫でてくれる。涙が……涙が……



『おいおい兄弟、泣くのは早いぜ』



 はっ……この……声はっ……



『良く来たな、兄弟!』


「……ゼムロス……さん……!?」


『はっ、驚いたか。あれくらい言っとけば、お前は来るだろうと踏んだんだぜ。俺様が居なくなってフィルターが解除されたから魔界の住人をカモフラージュ出来なくなった。それでコイツらも強制的に送還された訳だぜ』

「そ、そんな事はどうでもいいよ……ゼムロスさん、生きてて良かった……ほんとうに……」


『そんな簡単に死ぬかってんだぜ。兄弟……

 ——ようこそ、ガチな魔界デビルダムへ!』


 マリア、ココ、使い魔達は人間である僕を歓迎してくれた。皆んな、リリィが好きなんだ。


「皆んな……もう一度言うよ。僕に力を貸してください……お願いしますっ!」


「漢路〜、言うまでもないよ〜!」

「し、仕方ないらね。協力してあげるわ?」

『まずは作戦会議にゃ。それと噛みすぎにゃ』

『盗撮、いや、偵察は任せろ、グェッへ〜!』


『よし、行くぜお前ら。うちの馬鹿主人を救出するんだぜ!』



「「「おーー!!!!」」」



 正直、これ程心強い事はなかった。

 何の考えもなしに魔界へ飛び込んだのはいいけれど、一人じゃ何も出来なかったろうし。


 考えるのは後だ。

 とにかく今は一刻も早くリリィを……!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る