63【AA】
こうなったらやるしかないだろ! 相手が悪魔だろうが関係ない……!
とにかく相手にソウルイーターを当てれば勝機はあるかも知れない。確かソウルイーターは対象の魂を吸う筈だ。流石にそれを喰らえばただじゃ済まないだろう。
つまりは、
「先手必勝だぁっ!!」
大きく振りかぶった大鎌の重さに体勢を崩しそうになりながらも何とか踏ん張り地面を強く踏みしめた僕は、渾身の力を込めてAランクサキュバスであるエスペランザに飛びかかる。
その攻撃に一片の迷いも無かった、
しかし、
「あら、そんな大振りじゃぁわたくしを斬る事は出来ないわよ? 可愛い坊や?」
「いつの間に……後ろに!?」
速い!? いや、速いなんてものじゃない! とにかく一度距離をとって仕切り直さないと。
……って、うわぁっ!?
「はぶばっ!!」
「ほらほら〜大好きなおっ○いよ〜? もう一発、更にもう一発っ! ほらほら〜!」
まさかのおっ○いビンタ!? こんな、ぶふっ、ふざけた攻撃でふぉっ、やられてっ、ばふぁっ!
「かんじっ! な、なんて恐ろしい攻撃なの……に、逃げるのよかんじっ!」
逃げたいのは山々なんだけど……厄介な事に尻尾で身体を拘束されて距離が取れないんだよ。くっそ、このままだとおっ○いで窒息してしまうっ、ばふぁっ……!?
「ぶふっ、こ、こんな攻撃っ……リリィにもされた事ないってっ……のにぃっ……ぶふぇっ!」
「……ア、アンタは私に喧嘩売ってんのかしら……?」
やべ、リリィが怒ってる。と、そんな思考に割り込むようにゼムロスさんが声を上げる。
『兄弟、目を逸らせっ!』
「なっ……目をっ……ゔわっ!?」
しまったぁ……魅了の瞳か!? 身体が……身体の自由が……奪われる……!?
「ふふふっ、おしまいね。確かにそこの処女Aカップちゃんじゃぁ、こんな事してあげられないわよね〜?」
く、苦しいっ!! 殺す気かこの女っ!
「は……な、せ……っ」
「あら、中々頑張るのね貴方」
「離せっ……リリィはAカップなんかじゃない……リリィはっ……AAカップだぁっ!!」
「な、何ですってぇっ!?」
よし、拘束が解けた! 今のうちに距離を取る!
と、距離を取ったのはいいのだけれど……
「ブッ殺す……」プルプル
リリィは激おこだ。
って、言ってる場合じゃない。すぐにエスペランザが距離を詰めて来た。彼女は大鎌を構える僕に対して素手とおっ○いだけで対応してくる。
闘い慣れていない現代っ子の僕は、鋼のように硬質化した両腕から繰り出される怒涛の連続攻撃をゼムロスさんのフォローで何とか受け止めるのが精一杯だ。
「下がガラ空きよ?」
「うわっ、足首に尻尾がっ!?」
これじゃ避けられないっ! 受け止めるか? いや、逆に攻撃に出る!
……!!!!
屋上に鈍い金属音が鳴り響き、一瞬の静寂の後、ソウルイーターの砕ける音が聞こえた。ゼムロスさんはリリィの頭の上に落下して伸びてしまっている。
弾かれたんだ。悪くない判断だった筈、しかし相手は……エスペランザはそれさえも先読みして僕から武器を奪った。こんなの……勝てる気がしないぞ。
漫画やアニメみたいに上手くいくなんて事、現実ではあり得ないのか?
僕には何も出来ないのかよっ!! そう思った瞬間、僕の意識が一瞬飛んだ。
「ゔっ!?」
痛い……痛い痛いいたいっ……腹を蹴られたっ
「がはぁっ……ゔっ……ぐ……」
目の前の視界が揺れる。避けないと、次の一撃が来る前に……避け……
「ぐはぁっ……っ……ぐっ、る……っ」
息……が……身体が……浮いて……どうなって……るん……だ? そ、そうか……尻尾が首に巻きついているのか……苦しい……苦しい……息が出来ないっ……
「少しお仕置きが必要みたいね坊や? そうね、このままひん剥いて彼女の前で盛大に果ててみる? きっとあんな処女じゃ満足出来なくなるわ?」
「ぐ……や、め……ろっ……」
「これでも、まだそんな口がきけるかしら?」
魅了……くそ、くそ、くそっ……やめてくれ……
「ほら、坊や? わたくしに堕ちなさいな?」
嫌だ……嫌なのに……身体が……思考がボヤけて……
「楽しみましょう? そして無様にブチまけなさい? どうして欲しいのかしら。胸、お口? それともやっぱり……ここがいいのかしら?」
「か、かんじっ!」
リリィの声が聞こえる……い、意識が……遠のく……リリィ……
「……くっそ……くら、え……ババアがっ……ぼ、くは……ひ、貧乳の方がっ……こ、のみなんだっ……よぉっ!!!!」
「な、何ですってぇっ!?」(二度目)
「……マジでコロス……」プルプル
リリィがブチ切れなのはこの際どうでもいい、負けるわけにはいかないんだ!
「生意気な人間! 殺してやりたい程に生意気! わたくしをババア呼ばわりするなんて許さないんだからっ! 予定通り、半分殺してあげるわ!」
その瞬間、僕の顔面にエスペランザの拳がめり込んだ感覚がした。と、同時に星が見える。空が回る。地面が見える。リリィが、叫んでる?
定まらない。視界が、グルグル回って……そうか、いま、ボコボコに殴られてるんだな。もはや痛みも感じないくらいに、それこそフルボッコにされている。
『ネーサンオコラセタラシマイヤデ〜』
「まぁ、少年の言ったこ〜とは、あながち間違いではないのだけれ〜どね、うん」
「今、何かおっしゃいましたかぁ〜?」
「あ、いや……何にも言ってな〜いよ、エスペランザちゃん……うん」
「そうですか。はぁ、はぁ……これだけダメージを与えればもう抵抗は出来ないわね。……ふふふっ、でも……そうね、眼球の一つくらいは潰しておきましょうか。二度とふざけた事をぬかせないように教育してあげないとね〜?」
何を言ってるんだ? 駄目だ、上手く聞き取れない……近付いて来る。手のひらが……目の前に……どうする気だ……?
「やめてぇぇぇっ!!!!」
……この声は、リリィ?
何でリリィが……オーダーで動けない筈のリリィが……僕の目の前のエスペランザにドロップキックをブチかましてるんだ?
「な、な〜んと、オーダーを打ち破っただ〜と!?」
「あぐっ……あ、あり得ないわ……オーダーを打ち破るなんて……並みのサキュバスじゃ……わたくしですら破れないのに!?」
『コレハエライコッチャ、シジョウフタリメノタンジョウヤデ!?』
……リリィ……また、僕は守られてしまうのか?
「……かんじ……っ……そこのババア! アンタなんかじゃかんじをイかせられないみたいね。尻尾巻いて魔界に帰りなさい!」
「こんの……ガキがぁっ……!」
「アンタもサキュバスなら知ってるわよね。ランクAAの条件を」
「……ぐっ……おのれ……」
「オーダーを打ち破った者だけが到達出来るランクAA。今、私がFランクから昇格したってわけよ。もはやアンタに勝ち目はないわ。お父様だって分かるわよね。ランクAAの強さを……」
リリィが……ランク……AA……?
おっ○いサイズじゃなくて?
「うん、まぁ、そう〜だね。今は亡き、彼女がそうだった訳だし、リリィ、君がその血を受け継いでいてもおかしくはな〜いよね、うん。しかしだね、リリィの身体にはこんな仕掛けがあるんだ〜よね。術式発動」
「……あ……」
ど、どうしたんだ、リリィの動きが止まった?
「家主の絶対権限を行使する。リリィ、今すぐ魔界に帰るの〜よ、うん」
「お、とう、さま……でも……私は……かんじの従者だから……」
「それは心配いらな〜いよ、うん。激レアアイテム、解呪の刻印を買い受けて来たからね。借金したけどね。さ、これでその男にこだわる理由はなくなる」
リリィの額に何か貼った?
「いや、やめてお父様? な、にを?」
お札のような……何か……ボンヤリだけどリリィの身体が光るのが見える。その光が身体から抜け出して……弾けて、消えた。
「お、とう……さま……?」
「リリィ、君は自由だ。その男との契約は破棄された。もうその男のモノを摂取せずともいいのだ〜よ」
「そ、んな……待って……お父様っ!?」
「聞き分けが悪いね〜うん。エスペランザ、その男は用済みだ。殺せ。」
「お父様っ!!」
「悪く思わないでね坊や。生半可な気持ちで悪魔と契約した事が貴方の失敗だったの。……さようなら、せめて一思いに殺してあ、げ、」
「お願いエスペランザ、やめて……分かったから……帰るからっ……その人は……殺さないでっ……お願いっ……」
「その願いを聞く理由なんてないわね」
「お願いします……何でもするから……かんじは許してあげて……よ……おねが、い、します……」
リリィ……何でそんな奴に頭下げて……
「あらあら、何でもするの。なら、わたくしの脚を舐めなさい。そこに這い蹲り、指の一本一本丁寧に、綺麗に出来たら許してあげてもいいわ?」
「……っ……分かった……」
やめろ……リリィ……もういいよ……そんな事までして……何故僕を守ろうとしてくれるんだよ。
無力だ……僕は無力だ。
目の前でリリィが蔑まれているのを見ているしか出来ない弱者だ。
エスペランザがリリィの頭を踏み付けている。それなのに、リリィは抵抗しない。あのリリィが……やめろ、やめろ、やめろ、
「おほん、エスペランザ君。仮にも父親の前だ〜よ。娘を足蹴にするのはそれくらいにしてはど〜うかな、うん」
「……む」
「き、き〜みの気持ちは分かるよ、うん……でもね、オーダーを使わせないでくれるかな、うん」
「……ち、分かりましたわ。帰ったらこの駄目娘を再教育する事をお勧めしますわ」
エスペランザが離れていく……
「うむ、検討しておこう。リリィ、お前の慈悲でそこの男は捨て置いてや〜るよ、うん。だから大人しく魔界へ帰り、嫁ぐ準備を進めるのだ〜よ。そこで伸びている使い魔も忘れずにね」
「……はい、お父様……」
意識が……遠のいていく……
リリィが……僕に背を向けて……
………………行かないで、くれ……
……やっと……好きって言えたのに……
「さよなら、かんじ。いい夢をありがとう。……これからはアンタの自由に生きていいのよ」
……何……言ってんだよ……
「…………っ」
そこで、僕の意識は完全に途切れた。
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