57【全校生徒動員】


 暗くなった体育館にブザーが鳴り響く。


 早速僕の出番なんだよな。

 てな訳で僕は震える脚を平手で打つと舞台へ出る決心を固める。


 一歩外に出ると、スポットライトが僕を集中攻撃するかのように照らし一瞬視界が奪われた。それもすぐに慣れてきて観客、つまり生徒達の顔がハッキリと見えてきた。駄目だ見るな。とりあえず演技だ、セリフは……よし、憶えている。


 僕は恥ずかしい思いを心の奥に引っ込め、二週間の練習の成果を出す事に専念した。

 途中、リリィや間宮さんとも合流、そこからは何だか楽しく感じてきた。


 こんな風に脚光を浴びるなんて、リリィに出会わなければあり得なかった事だ。

 こんなにもクラスの皆んなと向き合えたのだって、彼女の存在のおかげだ。

 リリィだけじゃない。田中や太田、暁月に小野も、そして間宮さんも、僕の周りにはいつの間にかかけがえのない人達が。


 あわよくばその皆んなが仲良く出来れば。


 そうだ、この劇の最後はハッピーエンド、和解がテーマだ。これを機に二人もきっと。


 そんな事を考えていると、あっという間に第一公演が終わった。会場からは嵐のような拍手。

 その瞬間、僕の胸がキュッと縮むような感覚がした。悪い気分ではない。

 無事第一公演、第二公演を終えた僕達は舞台裏で休憩と洒落込んだ。口々に成功を称え合うクラスの皆んなを見ていると暁月が僕に声をかけてきた。


「ご苦労様、鈴木ング閣下。いや、王子。思った以上の反応だったね」


 そこに小野が飛び込んで来ては忙しなく声を荒げる。


「た、たたた大変だよぉっ!?」


 続いてマリアも制服を着崩した状態で舞台裏に飛び込んで来る。


「チ、チケットが足らないぞーー!?」


 話によると、噂が噂を呼び他校の生徒やうちの先輩後輩が押し寄せてきてるみたいだ。このままだと全校生徒+aが体育館に集まってしまう勢いらしい。


 恐る恐る会場を覗くと、さっきよりも明らかに多い……いや、全校生徒が集まった時より多いんじゃないか……?


「マリアちゃん、チケットはもういいから席の手配を皆んなでやろう!」


 暁月の指示で裏方の皆んなが動き出す。


「劇に出る人は準備をしててくれ。予定は変更、次の公演で全校生徒に公開だぜぃ!」

「お、おう……」


 おいおい、さっき見てた奴らもまだいるじゃないか。やっぱりリリィと間宮さんの人気はすごいんだな……確かに、あんな姿の二人を崇めるのは滅多にない機会だからな。


「かんじ?」「漢路君?」


 うわ、リリィと間宮さんが同時に……


「じ〜っ……」「じーっ……」


 睨んできた!?


 よく分からないけれど、暁月は次の公演で全校生徒動員してしまうつもりみたいだし、次が最後でラストなのかな?

 それはそれで他の出し物を見る時間が増えるからいいか。午前中は何故かココの父親、ココパパとのデートになってしまったし穴埋めしないと。


 開演まではもう少しかかりそうだ。

 外から暁月やマリアの声が聞こえる。会場に集まった人達の声に負けないくらい声を張り上げている。

 だけど何だろうか。何か引っかかる。


 マリア、暁月……田中、小野、肉の太田……ココ……何が引っかかる?




 ————————!!




 開演十分前のブザーだ。

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