55【お化け屋敷】




「こ、ここね。B組のお化け屋敷……」

「ま、隣だからな」


 僕とリリィは隣のクラスの教室の前に立っている。B組のお化け屋敷が目的だ。

 どうやらリリィは余裕の表情だけれど、ここで僕はふと思い出す。リリィとゲームセンターに行った時の事を。……大丈夫かな。


「さ、入るわよかんじ?」

「お先にどうぞ?」

「な……アンタが先に」

「レディファーストだよ」

「そ、そういうことなら……」


 おっと、ちょっと睨まれたけれど先に入る決心はついたみたいだな。


「後でおぼえてなさいよね……?」


 やめとけば良かった。




 ……


 中は薄暗くて視界が極めて悪い。正直、もっとクオリティは低いものと思っていたけれども、中々凝っているな。これが教室とは思えないくらいに。

 奥の方からは女子の悲鳴らしきものが聞こえてくる。その度にリリィが尻尾を絡めてくるけど、そこは触れないでおこう。

 それが長生きする秘訣だ。


 構わず奥へ歩いていくとお決まりのお化けが飛び出した。


「はにゃぁっ!?」


 素っ頓狂な声を上げたリリィは飛び出して来たお化けを凄い形相で睨み付けた。当然、玉砕を恐れたお化けはスッと引っ込んでしまった。

 尻尾の締め付けが更に強くなったけど、そこは触れないでおこう。何度も言うけれど、それが長生きの秘訣だから。


 その時だった。奥から聞き覚えのある悲鳴が聞こえてきた。そしてその絶叫にも似た悲鳴はこちらに近付いてくる。


「ちょ、な、なな、何っ!?」

「え、演出にしては大絶叫だな……!?」


 その瞬間、僕達の横を凄い勢いで通り過ぎていく小さな影。あれってもしかして……


「……ココね……」

「なんだ、ココちゃんも遊びに来てたのか。何というか緩いな、この学校」

「ココも情けないわねー、こんなの全然こわくないのに」


「あのー、うちの娘、見ませんでしたかね。いきなり逃げ出してしまって……」ボソ……



 ……え……


 目の前に異様に凝ったお化けの姿が。それにデカい。威圧感に一瞬足がすくむ。こんなデカい奴B組にいたかな……?

 って、アレ、リリィ!?


「いぃ〜やぁぁぁっ、出たぁっ!!!!」


 あー、リリィが逆走で去ってしまった。確かにこのお化けは怖いけど……よく見るとこのお化け……


「あの、貴方はもしかして……」

「あ、はい……」ボソボソ……



 ……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る