52【主役は勿論】
祭りも終わり、二学期が始まった。
その合図で教室内は静まり返る。
「よし、皆んな二学期のイベントと言えば何か。もう想像はついているだろうけど、文化祭だな」
一瞬、教室がざわつきを見せたけれど、すぐに藻部先生の言葉が続いた。
「そこで、二年A組の出し物を決めないといけない訳だけど……何かいい案がある人はいるかな?」
文化祭か。確か二年の出し物は基本的に自由だった筈だ。うちの学校、一年生は教室で出来る範囲、で、三年生は実行委員として裏方に回るようになっている。
つまり主役は二年生ということだ。体育館の舞台なんかも使える訳だから自由度はかなり高い。
クラスの皆んながそれぞれざわつき始めたけれど、中々案が出ない。いきなり言われても良い案が出ないのは仕方ないか。
田中のメイド喫茶は女子に即却下されてしまったし、どうせなら教室内ではなく盛大にやろうと話がまとまり始める。
そんな思考を巡らせていると田中が僕に話を振ってきた。
「鈴木は何かやりたい事あんのか?」
「え、僕は何でもいいんだけど」
「そんな事言うなって。お前は二年になって一気に目立ち始めたし、何より体育祭でも活躍したし、意見を許可するぜ〜?」
「活躍って……僕はリレーで負けただけだろ?」
辺りを見回すとクラスの皆んなの僕を見る目が期待に満ち溢れていた。
どうやら、あの日、体育祭のリレーの時に勝ち負けを顧みないでリリィを保健室に運んだ事が僕の評価を変えたらしい。とはいえ、あまり目立ちたくはないんだけれど。
「鈴木、パッと思い付く事を言ってみろよ?」
田中のやつ、面白がってるだろ絶対。思い付くもの、思い付くもの……よくあるラブコメパターンだと、確か、
「……劇?」
教室中が沈黙に包まれた。
あれ、間違ったかな? そしてなぜ僕はラブコメパターンから検索した?
と、思った矢先、クラスの女子が「いいんじゃない?」と声を漏らす。それに便乗するように数人が賛成の意思を示した。
田中もノリノリで、「こんなのはどうだ? 最小で最強のミニマムデビル伝説とか!」と悪戯に笑いクラスの全員に言った。
何だそのミニマムデビル伝説って!?
「ヒャッホー! つまり主役はリリィってことだね〜、賛成さんせー!」
マリアもブンブン尻尾を振っている。藻部先生は文化祭リーダーの暁月に声をかけた。
「暁月、どうだ? 劇の方向で考えてみるか?」
「ふむふむ、面白そうですな。よし、決まりだ! 文化祭の出し物は劇で決まりだぜぃっ! 主役はリリィ、そんで悪役は……」
その瞬間、全員が委員長、間宮遥香に視線を向けた。
「え!? わたし!?」
全員が、うんうん、と頷く。
既にクラスではリリィと間宮さんの不仲は知れ渡っている。そこで暁月がフォローを入れる。
「悪役って言ったら間宮さんがかわいそうだし、そうだね、ライバルって事にして熾烈な戦いの果てに仲直りするってストーリーはどうだい?」
「ちょ、何勝手に!?」
「この際だからさ、この辺で仲良くなっちゃえばいいんだよ。つまり、ダブル主演ってやつだね!」
「……うぅ……なんでわたしが……」
間宮さんの訴えも虚しく、文化祭の出し物は劇に決まってしまった。脚本制作はマリアが立候補した。で、まんまとマリアに決まってしまった……
……不安しかないぞ!!
準備期間は二週間、僕は裏方でもやらせてもらうとしよう。
後日、マリアが台本を完成させた。
タイトル
『天使と悪魔』
キャスト
・天使役、間宮遥香←中身は悪魔
・悪魔役、リリィ←そのまんま
・王子役、鈴木漢路←いや待て!
「何で僕が王子役なんだよ!? というか王子って何だよ!?」
「そりゃ〜漢路しかいないだろ〜? リリィと遥香が取り合う王子様なんてさっ!」
教室に賛成の声が響き渡った。もう駄目だ。もはや後戻りは出来ない。裏方のつもりが、まさかの主演クラスとか、今年は目立ち過ぎだぞ。
そういえばリリィはこの事に関して文句は言わないようだけど、嫌じゃないのかな?
チラッとリリィの様子を見てみる。
尻尾がカクカクしながら震えている。
やっぱり嫌なんじゃないの??
しかし決まってしまったものは仕方ない。やるしかないのだろう。
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